便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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ざっくり戦闘回ですよー


反省はしているとも、先生の力量が知りたかったのだ

 さて、そんな訳で持ち前の善性に苦しめられるアル社長を連れ、我々、便利屋68と金で雇った傭兵アルバイト、そしてご丁寧にカイザーの社章を塗りつぶしたⅢ号突撃戦車一両と、攻撃ドローン10機というちょっとした軍隊は、アビドス高等学校近くへと足を運んでいた。

 

「ククッ、実に悪党らしい絵面じゃないかアル社長」

 

「うぐぐ……本当にやるの……?」

 

「それが仕事というものだアル社長。なに、泣きそうになるほど辛いのであれば現場指揮担当の私の責任にすれば良い。君の引き金は、私が引いたのだと思えば些か、気も楽になるだろう?」

 

 一種の責任転嫁ではあるが、善性の者にとってはとても魅力的な提案だろう。

 なにせ、自らの葛藤に答えを出さなくても、勝手に責任を背負ってくれる者が居るのだから、これほど非情な判断をしなければならない時に楽な思考回路はないだろうに、私がこんな事を考えている間にアル社長は、今までの迷いが嘘の様に強い意思が感じられる瞳で私を射抜く。

 

「……それは駄目よ。私は便利屋68の社長なの、自分の意思決定を他人に委ねてしまう様な無責任は出来ないわ。ありがとう、バイステンダー。お陰で覚悟が決まったわ」

 

 その笑みは僅かに引き攣っていて、不安を押し殺したものだとはっきり分かるのだが、それが私には堪らなく美しく見えた。

 晴天に輝く太陽、夜空を彩る満天の星々、夕闇を照らす満月……そんなものよりも光り輝く、眩しくて尊いものだと。

 

「──ククッ、私程度の言葉が役に立ったのなら光栄だとも」

 

「謙遜しないの!貴方の優しさははっきりと受け取ったわ。ありがとうね」

 

「……ククッ」

 

 優しいか……私は自らの打算を口にしただけに過ぎんよアル社長──だが、悪くない気分だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

“まさか彼女達が敵だったなんてね。凄く良い子達そうだったのに”

 

「ほんとよ!せっかく、ラーメン特盛にしてあげたのに!!」

 

「まぁまぁ〜落ち着いてセリカちゃん。恩を仇で返されたお礼は、キッチリここですれば良いんだから」

 

 視界に広がる多くの傭兵達と、空を飛び回る十数機のドローン、そして戦車を目にしてもアビドスの面々に恐れはなく、それぞれの武器を手に取り構えるのと同時に、『先生』も自らの懐からただのタブレット端末にしか見えない『シッテムの箱』を取り出し、AIであるアロナと指を触れ合わせる。

 その瞬間、青白い光が放たれ、アビドスの者達のヘイローが『先生』の肉眼と、『シッテムの箱』画面上で視認出来るようになる。

 

“恩知らずには少しだけ痛い目を見てもらおう”

 

 『先生』は自信満々に言葉を発すると同時に、和やかな瞳が薄く開き、『シッテムの箱』に表示される戦場の情報を素早く読み取り、既に激しく開戦した戦場を、冷ややかに見下ろしながら慣れた声色で指示を出す。

 

“ホシノ、一気に突っ込んで。ノノミは、ホシノが下がったのを確認してから五秒後に一斉掃射。シロコとセリカは、遮蔽物に隠れた相手を炙り出して”

 

「前は私に任せて」

 

 大軍であるが故に、軍隊規模でのスムーズな移動が出来ない傭兵達に向けて、頑丈なシールドを盾にしたホシノのショットガンが襲いかかる。

 

「ぐぉ!?」

 

「落ち着け、盾があるとはいえ、突出した敵だ!」

 

「駄目だ硬い!!弾丸が弾かれている!!」

 

「……確かに神秘が濃いな。一先ず、敵に連携を取らせないようにしよう、カヨコ課長、傭兵達を盾に攻撃を」

 

「はいよ……これで戦況が変わると良いんだけど」

 

 ホシノがリロードの為に下がり、ノノミが顔を出す刹那、バイステンダーの指示によりカヨコが拳銃を上に向けて放つと、彼女に込められた神秘の力により、紫の波動が戦場に走り、それに触れてしまったホシノ以外の面々の動きが一瞬停止する。

 

「アル社長、リロードの隙を晒している者を狙い撃ってくれ」

 

“シロコ、動けるようになったらドローンの展開を”

 

 バイステンダーの駆るⅢ号突撃戦車の車体に乗りながら、ホシノを狙い狙撃を放ったアルの弾丸は、シロコが取り出したドローンにぶつかり、内部に装填された小型ミサイルごと爆散する。

 

「……傭兵部隊前へ。ドローンによる支援射撃を行う、臆せず突っ込め」

 

 ドローン二機が動き、上空からの支援射撃を行うが既に発射体勢を整えたノノミの動きを止める事はできず、前に出た多くの傭兵達が悲鳴をあげて倒れていく。

 

「ムツキ室長」

 

「おっけー!花火を始めよっかな?」

 

 いつも常備してるバッグをアビドスの生徒達の方へ放り投げると、同時に彼女に向けてセリカが怒った表情を浮かべ、物凄く早い手つきでリロードを終わらせると銃を放つ。

 

「おっとと!?」

 

「覚悟しなさい!!」

 

“セリカ、無理は……ッッ、下がって!!ホシノ無理をさせるけどお願い!!”

 

「おじさんに任せて!」

 

 『シッテムの箱』から送られてきた情報は、戦車による砲撃であり、『先生』が指示を出した直後、砲撃がアビドスの生徒達を襲う。

 

「……ムツキ室長の爆弾も込みだったが、防ぐか」

 

「ケホッ……凄い爆発……でも、ちょっとばかし火力が足りないかなぁ〜」

 

 煙幕が晴れた先には、土埃や煤汚れはあるものの無傷のまま笑うホシノと、驚きに顔を染めているセリカが居た。

 黒服が欲するほどの神秘を持っているホシノにとって、戦車の砲撃など容易く受け止められる攻撃であったのだと、バイステンダーはキヴォトスに生きる者達の耐久力に内心で呆れてしまう。

 

“アヤネ、お願い”

 

「はい!支援開始します!」

 

「お、ありがたいねぇ〜」

 

 僅かに与えたであろうダメージも、回復キットを積んだドローンによって全快されてしまう。

 

「……ふむ、頭痛も酷いし此処は少し賭けに出るとしよう。アル社長、一度戦車を降りてくれ」

 

「え?別に良いけど、何をするの?」

 

 質問には答えず、素直にアルが降りていくのを確認してからバイステンダーは、車と同じ感覚で動かせるように改造された車内で、ハンドルとアクセルにそれぞれ手と足を置く。

 能力の酷使で溢れ始めていた血を拭い、大胆不敵な笑みを浮かべるとバイステンダーは一気に、Ⅲ号突撃戦車をアビドスの面々いや、彼女らの後方で指揮を執っている『先生』目掛けて、急発進させる。

 

「ちょっとぉ!?」

 

「ハハハ!!突貫というやつだ!!」

 

“分かるよそういう浪漫……でも、私がターゲットなら話は変わるかな!?”

 

 突然の行動に白目を剥くアルに、高笑いを浮かべるバイステンダー、さすがに驚きを隠せない『先生』と一気に戦場の空気が緩むが、戦車という大質量が『先生』に向かっている事に変わりはなく、アビドスの生徒達は出来うる限りの迎撃を行うが、それを必死に便利屋68の面々が妨害する。

 

「ちょっと邪魔しないで!!」

 

「勝手に突っ込んだのはバイステンダーだけど……死なれるのは嫌なの」

 

「うへ……なんか凄い事になってるねぇ〜」

 

「ん、ホシノ先輩も急いで戦車を壊すべき」

 

「だ、駄目です!バイステンダーさんが死んじゃいます!」

 

 お互いに大切な人を死なせない為に銃火が激しくなっていく中、先生は『シッテムの箱』を二回叩くと、それを合図にアロナが彼の声を戦場全体に届くほどに拡声させる。

 

“私に任せて。悪い結果にはしないから”

 

 不思議と説得力のあるその言葉に、アビドスの面々だけではなく便利屋の面々も攻撃の手を止める。

 

「ほぅ」

 

 その不可思議な光景に好奇心を唆られながらも、『先生』がどの様にして攻撃を防ぐのか気になって仕方がないバイステンダーが、より深くアクセルを踏み込み、いよいよ戦車が『先生』の目の前まで来た瞬間、『シッテムの箱』から青白い光が放たれ、全ての機械がショートし『先生』を避ける様に進路が逸れ、バイステンダーの乗る戦車はプスプスと煙幕を吐きながら動きを停止した。

 

「……敗北というやつだな」

 

“君が彼女達を守る様に傭兵達を使わなきゃ、結果は分からなかったよ”

 

「どうかな?私には勝ち筋など見えなかったよ『先生』……しかし、どうやら引き分けには出来る様だ」

 

“……それはどういう

 

 『先生』が言い切るより早く、バイステンダーは戦車から飛び降りると、自らの身体に残っていたドローンから射出されたワイヤーをくくり付け、懐から取り出したリモコンのスイッチを押し──戦車に取り付けたハルカお手製爆弾を自爆させた。

 

「さぁ、逃げるぞ!!」

 

 傭兵達の終業を知らせるチャイムも鳴り響き、戦車の爆発に乗じて、バイステンダーと便利屋68の面々はこの場から逃げ出す事に成功するのだった。

 

 

 

「良い?特攻なんて無茶しないの。貴方、一番、脆いんだから」

 

「ハハハ」

 

「……バイステンダー?」

 

「ククッ……反省してるともカヨコ課長」

 

「ちょっと、なんでカヨコの言葉にはしっかり反省するのよ!?」

 

 事務所に戻った彼は、暫く冷たい床に正座させられるのだった。




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