便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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はじまりの物語

「ふむ。白衣か、久しぶりに袖を通したな」

 

“ふっふっ、バイステンダーと言えばスーツに白衣だったからね。ロングコートって手もあったんだけどそっちは艦長のリンちゃんが着るからね!”

 

「誰がリンちゃんですか」

 

「リオと一緒に機材を運んでいたから話を聞いていなかったが……うむ、統一された服装というのは改めて見ると壮観だな」

 

 ウトナピシュティムの本船を動かし、突入のための多次元解釈を計算・構築するためのオペレーターとして、ハナコ嬢、アコ嬢、アヤネ嬢、ユウカ嬢、カヨコ嬢、ヒマリ嬢、モモカ嬢、アユム嬢、リン行政官、そして彼女らのサポートとして私とリオ嬢が選ばれ全員『先生』考案のオペレーター衣装に身を包んでいる光景はとても絵になるな。

 私やリオは別の目的がある為、それまではオペレーターを担当するがあくまで彼女らのサポートとしてだ。

 

「ウトナピシュティムの本船発進後、地上で航空管制および技術支援を行うのはヴェリタスとエンジニア部が。アトラ・ハシースの箱舟での占領戦の際、襲撃に備えて戦闘を担当するのはアビドス対策委員会と本艦唯一の武装であるレールガンを所持するアリス、彼女の護衛のために集まったゲーム開発部が担当します」

 

「ククッ、シロコ嬢のためならば小鳥遊ホシノも間違える事はないだろうから安心だな」

 

『一言余計だっての。というかお前こそアレ、信頼していいの?』

 

「安心したまえ。その為の契約が私と黒服の間には結ばれている。今回に限っては味方だ」

 

「えぇ。セラさんとの契約がなければ私はこんなにもリラックスして乗船していませんよ暁のホルス」

 

『ストレス源が増えてイライラしてきたよ……』

 

 いやはや、互いに嫌われたものだな黒服よ。

 まぁ、黒服は黒服でこの状況を楽しんでいる様だし良しとするか。

 

「そして皆さんの食事の為に美食研究会と愛清フウカが同行しますね」

 

“極々自然にフウカを連れてくるから今の今まで気がつかなかったよね”

 

『先生!?私だけなんか流れがおかしくないですか!?』

 

 強く生きてくれたまえ、フウカ嬢。

 まぁ、一部問題はあるがこれでアトラ・ハシースの箱舟に突入するメンバーは揃ったというわけだ……しかし、カヨコ課長がこの各学園を代表する才女の中に入っているのは便利屋68として誇らしい限りだ。何か、猫のキーホルダーでも買うべきだったかね。

 

「『先生』この船を起動するには『先生』が持つシッテムの箱の力が必要です」

 

“うん。任せて”

 

 『先生』が目を閉じてシッテムの箱に触れる──本来であればサンクトゥムタワーを用いて起動するこの船を、ケイの力ですら解析が及ばないとは言えタブレット端末程度の大きさしかないシッテムの箱で起動させるには相応の負荷がかかり、その一部は『先生』を襲う。

 更に言えばアリス嬢を守る為にも『先生』はその身を犠牲にしなければならないというのに、やはり彼は何処までも後悔なんて感じさせない表情を浮かべていた。

 

「……よろしいのですか?この世界の道理を知らない貴女ではない筈です」

 

「黒服よ。お前のことだから既に警告はしたのだろう?この船を動かす事に対して」

 

「えぇ。ですが『先生』は考えを変える事はありませんでしたよ……貴女なら『先生』の行動理由が分かるのですかね?」

 

 既に『先生』の選択を知っているだろうにわざわざ聞いてくるという事は、黒服の中では未だ納得は出来ていないのだろうな。

 まぁ、当然か……黒服は『先生』と違い生徒を利用する事に何一つして躊躇いのない男だ、逆立ちしたとしても同じ選択を取る事は出来ないだろうよ。

 

「ククッ、そうだな。きっと『先生』ならばこう答えただろう──”大人の責任、先生の義務を果たすためだよ。例えどんな犠牲を払おうとも”──と」

 

 自分で口に出しておいて不思議だが、この答えがしっくりとくる。

 『先生』がそんな人間だからこそ私はそんな貴方を通して己を知り、自らの命を賭けたのだからな。

 

「クックックッ!!なるほどなるほど……やはり貴女と『先生』はよく理解しあっている」

 

 黒服が楽しそうに笑うのと同時にウトナピシュティムの本船に息が吹き込まれた様に各種機械に光が灯っていく。

 

「メインパワー起動を確認しました!」

 

「メインコントロールシステムの稼働、完了……!!」

 

「各エリアの通信システム、演算システムのチェック、オールクリア……ここまではマニュアル通り、ばっちりだね」

 

「エンジンシステム、クリア」

 

「多次元解釈システムのチェック、クリア。オールクリアです!」

 

「管制システムのチェック、オールクリア……よし全部使えるわよ!」

 

「……ふぅ、セラとヒマリの協力を得たから大丈夫だとは思っていたけれど結果が出ると安心するわね」

 

 それは同意しようリオ。

 私も各種オペレーター達の報告を聞いて安堵していたところだ。

 

「さて……発進準備は完了だな」

 

「『先生』、発進の号令をお願いします……!!」

 

“宇宙戦艦『ウトナピシュティム』、発進!!”

 

 『先生』の号令と共にウトナピシュティムは飛び立ち、頭上の岩盤を容易く砕きアビドス砂漠へと姿を現すと、そのまま一気に高度を上げていく。

 それと同時に懐に入れてあるスマホが熱を持ったので取り出してみれば、予想通りというべきかケイを守る為の防護プログラムが起動していた。

 

「無事かね?」

 

『……はい。私が本格的に力を行使していない事と貴女が防護プログラムを展開してくれたお陰で存在の消滅は避ける事が出来ています。僅かに肌がチクチクとしますがこの程度なら大丈夫です。ですが……』

 

「……ふむ」

 

“ッッ……”

 

 起動の負担とアリス嬢を守る負担でかなり顔色が悪くなっているな『先生』……船はこれより先、最大出力でアトラ・ハシースの箱舟へと突撃する。

 つまり、現状以上の負荷が『先生』を襲う事になり、最悪その命は消費されきる事になるだろう。

 

「……私は貴方を信じているぞ」

 

 ウトナピシュティムが最大速度に至った瞬間、この場の誰もが気がついていなかったが『先生』は静かに意識を失った。

 私には彼に対して何かを出来る事はない……故にただ信じるだけだ。

 

 共に時間を過ごし、信じ合えると思えた『先生』という一人の人間を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトンと列車の音と心地よい揺れで目を醒ます。

 此処は……なんだかとても懐かしい感じがする……でも、確か私はウトナピシュティムの本船に乗っていた筈……

 

「……私のミスでした」

 

 聞き慣れたでも、何処か私が知っている声とは違う声が聞こえてそっちに意識を向けてみれば血を流した生徒が座っていた。

 助けなきゃと思ったけど、私の身体は動かなくて彼女の言葉を聞くだけとなってしまう。

 

「私の選択、そしてそれによって招かれてしまったこの全ての状況。結局、この結果に辿り着いて初めて、あなたの方が正しかった事を悟るだなんて……」

 

 何かを酷く後悔している様な彼女の言葉は不思議と私の心の中に染み渡ってきて、君の責任じゃない、そう告げたいのに口は動いてくれなかった。

 

「……今更、図々しいですがお願いします。『先生』きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません。何も思い出せなくても、おそらくあなたは同じ状況で同じ選択をするでしょうから……。ですから、大事なのは経験ではなく、選択。あなたにしか出来ない選択の数々」

 

 選択と聞いてふと、昨日の夜にセラが言っていたことを思い出す。

 

『──我々は今できる最善を選び続けるしかないのさ』

 

「責任を負う者について話した事がありましたね。あの時の私には分かりませんでしたが……今なら理解出来ます。大人としての、責任と義務。そして、その延長線上にあった、あなたの選択。それが意味する心延えも」

 

 瞬間、彼女の言葉と共に幾つもの景色が頭の中に浮かび上がっては消え、続いていく。

 その中には私の守るべき生徒達がとても……とても悲しい事になっている景色もあったけれどまるでそれを否定する様に私のよく知る平和な彼女達が次々と切り替わっていく。

 

「……ですから『先生』私が信じられる大人であるあなたになら、この捩れて歪んだ先の終着点とはまた別の結果を……そこへ繋がる選択肢はきっと見つかる筈です──あの大人、いえ今は生徒でしたね。いるはずのなかった生徒も力を貸してくれます」

 

 ──背中の暖かさと重さを思い出す。

 なんだかほんの少しだけ目の前の少女が不機嫌になった様な気もするけど、そんな気配は一瞬で消え、私はいつの間にか空の雲を鏡の様に写すほどに綺麗な海に立っていた。

 

「だから『先生』どうか……この、絆を──私達との思い出……過ごしてきたそのすべての日々を……どうか……」

 

 そう言って彼女は見惚れる様な何処か寂しさを浮かべる笑顔で私を見る。

 

“──”

 

 私が漸く彼女に向けて返事をしようと口が動いたその瞬間、とても強い揺れが私を襲い気が付けばウトナピシュティムへと意識は戻って来ていた。

 

「ん?起きたか『先生』どうやら状況は芳しくない様だぞ」

 

“……セラ”

 

 夢……を見ていたのだろう。

 現実の私はどうやらセラに支えられていた様で、もう殆ど思い出せないけど似た様な髪色の生徒と会っていた気がする事だけは覚えている。

 

“何があったの?”

 

「どうやらアトラ・ハシースは展開している多次元解釈を私達が計算したものよりも更に上の領域に伸ばした様だ……このままでは我々は空の藻屑となるな」

 

“そっか……じゃあ、教えて?セラ。この状況をどうにかする考え、あるんでしょ?”

 

 そう告げると私を抱き支えていたセラは驚いた様に目を丸くして私を見た後に、愉快そうに喉を鳴らす──ほら、やっぱり策があるんだね。

 

「アレがアトラ・ハシースであるのなら、同一の存在をぶつけ合わせれば解決する……ケイ」

 

『……はい。覚悟は出来ていますバイステンダー』

 

「ククッ、其方で呼ぶか」

 

 二人のやり取りとほぼ同時に艦橋に来る為の扉が開き──アリスが現れる。

 

「パンパカパーン!!勇者アリス!!抜剣の時ですね!!」

 

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