便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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ちょっと辛辣セラ注意報


勇者と●●●

「パンパカパーン!!勇者アリス!!抜剣の時ですね!!」

 

「……王女よ空気を読んでください」

 

「ケイ!!アリス達二人の出番が来た時です。共に剣を取りましょう!!」

 

「……王女……分かっているのですか。その剣は──ケイ。大丈夫ですよ、分かっています」

 

 一人二役、目の色を青や赤に切り替えていたアリスがケイの言葉を止めるために今までのキラキラとした笑顔ではなく、覚悟を決めた一人の勇者としての顔になって周りに聞かれたくない言葉を止める。

 もはや揺るがないほどに大切な仲間のために自らの命を賭ける覚悟をアリスは決めていた。

 

「……そうですか。分かりました」

 

 そして、従者である鍵もまた覚悟を決めていた。

 傍観者を自称する癖に散々、好きな様に物事に介入して時にはただの鍵であると決めた己の心を容易く掻き乱し、ただの終末装置では居られなくさせた癖に傍観者の都合で好き放題力を使われ、挙げ句の果てに大人が生徒となる奇跡の手伝いをさせられて──でも、そんなものは送る事のなかった子供としての日常を送らせてくれた恩に比べれば大した事はない。

 

「行きましょうか王女」

 

 だから、胸の奥に穴が空いた様に押し寄せてくる悲しみは無視すると鍵は決めたのだ。

 

「アリス、ケイちょっと待って」

 

「はい?リオ先輩なんですか?──リオ、ゆっくりと話をしている暇は」

 

 温厚に話そうとするアリスと冷たく遇らう素振りを見せるケイにリオは自らの髪留め──ミレニアムサイエンススクールの学匠をモチーフにしたもの──を外し二人の長い髪に着けるとその流れのままに頭を撫でる。

 

「!えへへ……リオ先輩に頭を撫で撫でされるととても気持ちが良いです。ねケイ?──その様な事は──ケイってば照れていますね──王女!!」

 

「ふふっ、アリスは素直でとても可愛いわね。ケイもこれが好きならいつでもしてあげるわよ」

 

「……リオ。貴女は私をただの子供だと」

 

「貴女を殺そうとした私が言うのもなんだけど。アリスもケイも今の私からすれば可愛い後輩よ……だからそんな悲しい顔をしないで」

 

 調月 リオは極めて合理主義で理屈と自らの正義感を最優先し、他者の感情を顧みない冷酷者と思われがちだが彼女をよく知るセラからすれば、本心を押し殺し多数の正義を選び取ってしまうだけの不器用者で普通の人でしかなく、その不器用すぎる性質から人一倍愛が深い者だ。

 そんな彼女が目の前で必死に悲しみを押し殺している愛すべき後輩をただ黙って見送るなど出来る筈がなく、彼女は膝を突きアリスとケイを強く抱き締めた。

 

「……あのリオが……」

 

「ククッ、相変わらずリオが鉄仮面……いや、君の言い方を借りるのなら濁った泥の様な性格だと思っていたのかね?」

 

「……貴女が彼女を変えたのですか。リオの共犯者」

 

「いや?元々リオはあの様な性格だ。賢すぎるが故に周囲に理解されず、心の内を閉ざし続けていただけだとも。自称天才」

 

「……嫌われたものですね。いえ、それも当然ですか。出会ったばかりだった共犯者が胸の内を知れたのに昔からの付き合いがあってもリオの事を知らない方々と同じ視点しか持ち得なかったのですから」

 

「ククッ、そう思うのならリオと今一度向き合う事だな天才」

 

 いつも人を小馬鹿にした様な笑みを浮かべているセラらしからぬ、表情でヒマリの方を一度も見ずに告げられた言葉の刃は容赦なくヒマリを傷付けるが生憎と、『先生』とは違い万人に好かれる気のないセラは落ち込んだヒマリを放置してリオ達の方へと歩きリオのすぐ側へと立った。

 

「リオ」

 

「……えぇ、分かっているわ。いつまでもこうしている訳にもいかないものね」

 

 アリスとケイから離れるリオを気遣う様に彼女の腰に手を当てながら、セラは青と赤の瞳をそれぞれジッと見つめてから乱暴に頭を撫でニヤリと笑う。

 

「信じているぞ」

 

「はい──……えぇ」

 

 受け取るものは全てを受け取ったとアリスとケイは艦橋から出て行き、カンカンと金属音を鳴らしながら砲撃に適した場へと向かう、その道中でぴたりとアリスは止まると自らの内側でケイと向かい合った。

 

「王女?」

 

 廃墟で『先生』やゲーム開発部と出会った場所を再現した心象世界に突然やってきたアリスに小首を傾げると、そんなケイに微笑みながらアリスはケイの両手を優しく包み込む。

 

「……アリスは皆と話をしてきました。モモイは『アリスの格好いいところ見せてね!』といつもの皆が大好きな日向ぼっこみたいな笑顔で見送って、ミドリは『アリスちゃんが帰ってくるの待ってるから』と不安を隠した強い微笑みで撫でてくれました。ユズは『アリスちゃん……が、頑張って!』ととても心が込められた言葉を贈ってくれました」

 

「はい。とても想像出来る光景ですね王女」

 

 ケイもゲーム開発部でゲーム開発に協力する事もある為、部員達がどの様な性格をしているのかはよく知っておりアリスが語る見送りの風景も簡単に想像でき、胸の内側がポワポワと暖まるのを感じていた。

 けれどそんなケイとは対照的にアリスは少しだけ寂しそうな顔をしながら続ける。

 

「リオ先輩は頭を撫でてギュッと抱き締めてくれました。それだけでアリスは十分に戦えます……でも、ケイはあの人からもっと言葉が欲しかったんじゃないですか?モモイ達からの言葉だってケイは直接聞いていませんし」

 

「……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。確かに私はそこまでしてバイステンダーと一緒にいる事を選びましたし、私の知的好奇心を刺激してやまないあの人とはもっと話をしたいと思っています」

 

「なら」

 

「でも良いのです王女。私は貴女に仕える神官で世界を滅ぼす為の終末装置です。貴女が為すべきと思った事を為すときに私の感傷は不必要ですから……それに今更、私を便利な道具として使っていたあの人から優しい言葉を向けられても信じられませんよ──だから、良いんです王女」

 

 ──もう必要な熱は十分に貰っていますから。

 そう言いって本当に心の底から満足そうに微笑むケイを見て、アリスは言葉を紡ぐ事が出来なかった。

 アリスがゲーム開発部で掛け替えのない時間を過ごした様にまた、ケイもセラやリオ達と一緒に幸せな時間を過ごしていた事が分かりその上であの数少ないやり取りだったのだと分かってしまったから。

 

「行きましょう。世界を滅ぼす筈だった力で世界を救うのでしょう?ならばこんな所で立ち止まっている暇はない筈です勇者()()()

 

 王女ではなく、アリスと名を呼びケイはアリスを心象世界から追い出す。

 それは単なる道具として、神官として仕えているだけの鍵では決して、呼ぶ事のないケイと呼ばれる自分と同じ偽りの名前(成りたい自分の名前)でアリスの後悔も優しさもしっかりと受け止め送り出す彼女なりの優しさだった。

 

 そして、涙を拭った勇者は戦さ場へと辿り着く。

 

「──リソース名『ウトナピシュティム』の全体リソース9999万エクサバイトのデータを確認……現時刻をもって、プロトコルATRAHASIS稼働。コード名『アトラ・ハシースの箱舟』起動プロセスを開始します」

 

 赤い瞳をしたケイが手を前に掲げる。

 

「王女は鍵を手に入れ、箱舟は用意された」

 

 起動ワードを口にし、瞳が赤い縁と青に彩られアリスが掲げられた手を開く。

 

「名もなき神々の王女、AL-1Sが承認します──此処に新たな聖域が舞い降りん──!!」

 

 此処に奇跡は承認された。

 勇者を中心に膨大なエネルギーがウトナピシュティムから巻き上がり、背負っていた光の剣を核にリソースが一つの形を創り上げていく。

 『アトラ・ハシースの箱舟』の基本理念は、周りのデータを『収集』し、『変形』させること──かつて、エデン条約の際に周囲のコンクリートから巨大な盾を作り出した様に。

 

「……そう言えばガラスの修理に使われた事もありましたね」

 

 膨大な情報を演算しながらケイはクスリと笑う。

 世界を滅ぼす力をなんともしょうもない小さな事に使ってくれたものだと笑いながら、彼女はもっとも今この瞬間に適している形を創り上げる。

 

「貴方風に言うのなら──浪漫ですかね」

 

「はい!!これは浪漫です!!アリスと皆の夢を形にした最高の浪漫!!」

 

 出来上がるソレは銃にしてはあまりにも──あまりにも大きかった。

 エンジニア部が技術の粋を掻き集めて創り出そうとした『宇宙戦艦』は資金的な問題から頓挫し、それでもと諦める事を知らなかった彼女達の手によっていつかその時を迎える為にと生み出された砲はアリスへと引き継がれ、彼女の心に呼応する形で理想の形で今此処に創り出される──!!

 

「「光の剣:アトラ・ハーシスのスーパーノヴァ……うん?」」

 

“ぷっ、はは!!ヒマリとセラの感性って似てるのかもね?”

 

 武器を持たぬ宇宙戦艦『ウトナピシュティム』に武装『光の剣:アトラ・ハーシスのスーパーノヴァ』が備わる、そんな浪漫に指をかける二人。

 

「ターゲット確認。出力限界突破……!魔力充電100%、行きます!」

 

「「悪を打ち砕く正義の一撃……」」

 

 二人の言葉が重なり、エネルギーは更なる高鳴りを見せ、セラに支えられたリオがモニターへと顔を近づける──映し出された光景を忘れない様に記憶へとしっかり焼き付ける為に──そして何よりも大切な後輩達の頑張りを見逃さない様に。

 

「行け、勇者達よ……私達の世界を救いなさい!!」

 

「もちろんです!!アリス達は仲間の期待に応えます!!──リオ、らしくないですね。貴女はいつもの様に立っていてください」

 

 勇者達は『ウトナピシュティムの本船』から攻撃を受けているにも関わらず、そんなものは微塵も感じさせない満面の笑顔で引き金を引き絞る。

 

「光──」

 

「──よ!!!!」

 

 幾人もの想いを乗せて放たれる勇者達の一撃は夕暮れに沈む空を、青く青く照らし何物の影響も受けず真っ直ぐに一直線に、『アトラ・ハシースの箱舟』が展開する多次元バリアへと激突し──

 

「──粉砕です!!多次元バリアが状態の共存を維持出来ず、崩壊を開始!!」

 

「ククッ、当然だな。コピーがオリジナルに敵わないとは決して言わないが、それでもケイの此処一番の強さが負ける訳がないとも」

 

 笑いながら白衣を翻し、セラはただ一人『アトラ・ハーシスの箱舟』に対して盛り上がる艦橋から出て行く。

 最大出力で『アトラ・ハーシスの箱舟』に突撃する揺れすら物ともせずに彼女が向かったのは、リオと共に運び込んだ『ダイブ装置』が置かれた部屋だ。

 

「さてと先ずは一つ。私の戦いを始めようではないか」

 

 これは世界を救う戦いだ。

 それならば戦う力を持つセラが向かうべきは、『アトラ・ハシースの箱舟』であるべきでこんな場所ではない筈だ──そう、真っ当な者であれば思うだろう。

 だが、生憎と今此処に居るのはどの様な美しい形であれ、誰かが犠牲になると言う一流のバッドエンドを否定しご都合主義であろうとも誰もが笑って過ごせる三流のハッピーエンドを願う傍観者、否、元・傍観者だ。

 

「消えるべき存在は勇者ではなく──世界を滅ぼす『道具』であるべきなのですから。それが正しいのです、ですから──これで大丈夫です」

 

 心優しき勇者の代わりに悪の装置である鍵が消える──そんな結末を彼女が認める訳がなかった。




サブタイの●は、次回のサブタイで明らかになります。

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