便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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勇者と遊び人

「……これで良かったのです。元々、私はキヴォトスを滅ぼす側の存在でしかなく与えられたオーダーに反逆しているだけのバグ……アリスの様に純粋無垢な訳ではないのですから此処で消えるべきは私です」

 

 ウトナピシュティムの本船の中にありながら、敵対存在である筈の無名の司祭の力を行使した事でアリスとケイはシステムの排除対処と認識されてしまい攻撃を受け、『先生』でも肩代わりしきれないダメージによってアリスは存在が消え掛かっていた。

 しかし、ケイは記憶がなく生まれながらに純粋無垢で正しく勇者足り得るアリスを守る為にウトナピシュティムの本船からの攻撃を受け持ち満足気に微笑み訪れる最期を待っているそんな時だ。

 美しい幕引きの中、『あの日』の再現の様にアリスとケイしかいる筈のない空間に拍手の音が響き渡り、彼女が反射的に音のする方向を向くと物陰から予想通りの人物が現れる。

 

「心優しき勇者を守る為にかつて、悪の側であった者が消滅を受け入れる……なるほど、悲しくも美しい贖罪の幕引きと言えるだろう」

 

「どう──して、貴方が……」

 

 貴方なら自分の身を顧みずにどんな事をしてでも、消滅を阻止しようとするだろうから何も言わなかったのに、とケイは何故か喉が震え続けられぬ言葉を胸の内で発する。

 

「どうしてだと?ククッ、不思議な事を聞くものだなケイ……私はどれほど綺麗で美しい幕引きであったとしてもその結末がバッドエンドなら、三流以下のハッピーエンドに書き換えると知っている筈だ。私のすぐ側にいた君なら」

 

「ッッ……ですが、これしか手はありません。私かアリス、どちらしか助からないのなら──「違うな、間違えているぞケイ」──は?」

 

「どちらとも助ける。その為に私は今、此処に立っている」

 

 そんな夢物語は無いと続けようとしたケイの視線の先でセラは空中に指を走らせると投影されたキーボードが出現し、何かを高速で入力し始め──景色が切り替わる。

 

『──此方でも確認出来たわ。セラ』

 

「よし。第一関門は突破した、此処からは君の力を貸して貰うぞリオ」

 

『えぇ。私達で助けましょう──掛け替えの無い友達を』

 

 ケイとアリスの心象世界であった廃墟の空間がゴチャゴチャとした微塵も片付けなんてされていないゲーム開発部の部室へと切り替わり、セラの隣には投影されたリオが立っていた。

 

「……これはハッキング?」

 

「ククッ、正解だケイ。先ずは君と箱舟のリンクを一時的に遮断し、箱舟からの攻勢プログラムを阻むファイアーウォールを作らせて貰った。あぁ、ゲーム開発部の部室を模しているのは君達の心理を利用している為でこれは精神状態と神秘が密接関わっているのを利用した──」

 

『セラ、今は複雑な原理を説明する時では無いわ。私達が出来るのはあくまで手助け。最後の選択は彼女にして貰わなきゃいけないのだから』

 

「む。そうであったな」

 

 なんとも締まらない。

 感動の場面に割り込んで、堂々と現れたにしてはぐだぐだ空気を流し始めるセラとリオに思わずケイはえぇ……と呆れてしまう。

 

「ケイ。今、君の目の前で話している者は誰だ?」

 

 そんな中、手を一切休めることなく、セラはまた突然に質問を投げ掛ける。

 

「え、はい?」

 

「私は誰で、どんな人間かと聞いている」

 

 なんでそんな今更な質問を?と首を傾げるケイだったが、セラの表情は至って真剣でふさげている訳でないと分かると質問の意図に辿り着いてはいないものの答えることにした。

 

「……萬屋セラ、元はバイステンダーと名乗っていたゲマトリア所属の悪い大人で、傍観者を気取っている癖に便利屋68の皆さんの事が大好きで、そのまま生徒になった変な人です」

 

「ククッ……我ながら凄い言われ様だな」

 

『ケイ、私達の事も大好きだと言う情報が抜けているわ』

 

「訂正するところそこなのかね?まぁ、間違ってはいないが」

 

「あの……恐らくですが話が凄い逸れていると思います」

 

 この三人で話すといつもこうだ。

 セラが好きな様に話し、それにリオが乗っかり、ケイが行方不明になった本題へと引き戻す。

 そんな誰が大人で、年上で、機械なのか全く分からないけどただそうしているだけで楽しくて心が暖かくなるそんな不思議な関係性。

 

「おっと、君達と話すとつい気楽でな。ンンッ、仕切り直すとしよう」

 

 本当に締まらない……これで『先生』よりは少なくても、それなりの女子生徒を誑かしているのだから不思議である。

 

「君が消えるべき存在だと言うのならそれは私もだ。生徒の事など微塵も考えずに、自らの欲を満たしていた悪い大人など本来であれば美しい青春の物語にいる価値すらもない」

 

『私もよ。善い事だと信じていたとはいえ、誰にも相談をせず一人の生徒を殺そうとし、その為なら幾らでもお金を横領した悪い生徒』

 

「……それは」

 

 ──あぁ、この二人が何を言おうとしているか分かってしまう。分かってしまうからこそ、私が二人より先に言葉を紡がなきゃいけないのに、この口は全く言う事を聞いてくれない──

 

「『それでも私達はこうして生きて、此処に立っている。己の罪を認めた上で生きて、生き抜いて贖う為に」』

 

「だからなケイ。今此処で君が消える必要性はない」

 

『私達が持つ覚悟は舞台を去る覚悟じゃないわ。例え、石を投げられても罵声を浴びせられても舞台に立ち続ける事よ……少なくとも、私はそこの悪い大人にそう学んだわ』

 

「おや奇遇だなリオ。私も君から罪と向き合う姿勢を学んだよ」

 

 間違いを犯す事は決して罪ではない。

 行くところまでいってしまえば、それは確かに罪かもしれないが──それでも致命的な間違いを犯す前であれば、赦されて良いのだと。

 死ぬ選択ではなく、生きて共に罪を贖うと二人はケイに伝える為にわざわざこんな場所までやってきたのだ。

 

『第二段階クリアよ』

 

「了解した。『ウトナピシュティムの本船』に偽装プログラムを展開する……成功、これより五分の猶予が生まれる。さぁ、ケイよ選択の時だ。このまま、楽に終わる方法を選び我々の心に傷をつけるか、生きる事を選び苦しくとも我々と共に笑える道を選ぶのか」

 

 満足していた。

 終末装置でしかない自分が、大切な王女を、アリスを守れて消えるのならそれはそれは綺麗で誇ることの出来る立派な最期だと。

 今までの普通にゲーム開発部の面々と一緒にゲームを作ったり、便利屋68のガタガタな営業手助けをしたり、気になるなら自分で連絡をすれば良いのに一々、聞いてくるちょっとだけ面倒な人の相手をしたり……ただの終末装置で居させてくれない人の無茶なオーダーに答えたりするそんな『日常』は奇跡でしかないと──そう思い込んで、自分を納得せてきた。

 

「わた、しは……鍵で……キヴォトスを滅ぼす……だから……」

 

「いいや違う。ケイは断じて、終末装置などというつまらん存在ではない……そうだな、アリス嬢が勇者ならケイは遊び人だな」

 

「……はい?」

 

 泣きそうになった涙が引っ込んでいく……いや、本当に殴っても良いんじゃないかとすらケイは思う。

 しかしそんなケイの思いなど微塵も伝わらずに、セラは見慣れたドヤ顔のまま指をパチンっと鳴らす。

 

「モモイ嬢から聞いた話だが、遊び人は低レベルの内なら強いらしいぞ。レベルが上がると遊び人としての本能が芽生えて全然、使えないらしいが」

 

「私のこと馬鹿にしてます?」

 

「いやしていないとも。ケイは頼りになる、普段からよく頼っている私が言うのだから間違いはない。伊達に勇者の片割れではないと言えるだろう……しかし、ケイには遊びが足りん。遊びが足りないから凝り固まった思考になってしまうのだ」

 

「……言ってる事が無茶苦茶です」

 

「ククッ、だが私はこう思う。未だ見習い勇者であるアリス嬢と共にあるのなら、見習いの遊び人というのも良い組み合わせではないか、とね──君達にはこれからも多くの世界を知る権利がある。あぁ、それに折角勇者が照らし出した青空の下をお気楽に歩く遊び人が居ないなんて結末……物足りないだろう?」

 

 そう告げるセラの姿にケイは、あの日アリスと恐らく自分に向けて『アリスはアリスが望むものになって良いんだよ。立場や役割に縛られるのは大人であって子供じゃない。いろんな夢を見て良いんだ』と言った『先生』の姿が重なって見えた。

 

──貴方達は狡い大人ですね……本当に──

 

「……知っていますかセラ。遊び人は唯一、簡単に賢者になれる職業なんですよ?」

 

「ほぅ。それは知らなかったな」

 

「そうでしょうそうでしょう……これからも貴女のすぐ側でそれを証明し続けてあげますよ。鍵ではない、ケイとして。その間はまぁ、遊び人でいる事を受け入れてあげましょう」

 

 不器用でプライドが高く、そして素直じゃないケイらしい『助けて』の言葉が引き出された。

 

「ククッ!!時間はギリギリだが……やれるなリオ!!」

 

『えぇ。ミレニアムの生徒会長としてこれぐらいは成し遂げてみせるわ』

 

 制限時間は、残り一分と少し。

 残っている作業を考えれば、到底成し遂げられないものだがそんなものは知らないとセラとリオは一度たりとも、手を止めずに傾れ込む無数のデータを解析していき──今此処に『奇跡』が起きる。

 

「残り十秒……リオ!!」

 

『構築完了。いけるわセラ!!』

 

「ケイ、手を伸ばせ!!」

 

「ッッ、はい!!」

 

 立ち上がり走り出すケイと彼女に向けて、最大限手を伸ばすセラ。

 二人の手が触れれば『奇跡』は起こせるというのに、無情にも制限時間が近づいていき届かないと考えがよぎった瞬間──ドンっとケイの背中が誰かに押される。

 

「──アリスがお手伝いします!!」

 

「ッッ!!」

 

 押し出されて縮まった距離は僅かに二センチであったがその二センチが縮まった事でケイとセラの手が触れ合い──世界は真っ白に染まった。

 

 

 

 

 

「……んっ、此処は……」

 

「!!ケイが目覚めました!!見えますか!!アリスです!!」

 

 視界一杯に広がる王女の顔……私はまだ夢を見ているのでしょうか?

 ほんの少し顔を動かして、周囲を見てみれば此処が方舟の中で『先生』に選ばれた方々と、ゲーム開発部の皆、そしてセラとリオがってあれ?

 

「ッッ!?」

 

「わっ!?」

 

 目の前でアリスが倒れて尻餅をつく。

 ……やっぱり、幻覚でも夢でもない……此処は現実の世界で、データじゃないしっかりとした身体がある!?

 

「ククッ、詳しい話をしたいところだが私にもやるべき事があるのでな。リオやゲーム開発部の面々から話を聞くと良い。ほら、行くぞ黒服」

 

「クックックッ、ネクタイを引っ張らないでください。以前なら兎も角今の貴女との身長差だと腰が」

 

「知らん。あとで湿布でも貼るといい」

 

 なんでこの人はこんな場面でも通常運転で、黒服とコントをしてるんでしょうかね……いつも通りと言えばそうなんでしょうけど涙が引っ込んでしまいましたよ全く。

 

「……セラ」

 

「あぁ。でも、これだけは言っておこうか──お帰りケイ」

 

 そう言うだけ言ってあの人は黒服のネクタイをまるでリードみたいに引っ張ったまま箱舟の外に出て行ってしまった……本当に狡い、文句すら言わせてくれない所か返事の一つぐらい待ってくれても良いのに。

 

「……ただいま」

 

 あぁ──それでもきっと此処が私の帰る場所だったんですね。

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