便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア 作:マスターBT
「折角苦労して助けたのですからもっとお話をなさっては?」
「らしくないな黒服よ。ケイに情でも湧いたのかね?」
此奴に限ってそんな事は100%あり得ないと分かりきっているが、身体の緊張を解くには良い機会だから雑談の一つぐらいは興じてやるとしよう。
キヴォトスを賭けた戦いなど本来であれば、参戦する義理もない黒服を連れ出しているのは此方だしな。
「無名の司祭が遺したオーパーツという点では興味はありますよ。しかし、彼女のボディに都合よく準備があったものですね。あくまで貴女が行ったのはケイというデータを守りきっただけで本来の役割から外れた道具は自壊するものだと思っていましたが」
「今は『先生』との契約と魂を用いたこの身体となっているが、もう一つの計画として『義体計画』があったのさ。アリス嬢の身体を分析した事で得たデータを基に人と遜色ないアンドロイドの身体を得るね。だが、この計画はケイとリオが私の予想を遥かに超えてくれたお陰で実行されなかった」
「なるほど……元の王女にはよく似ていましたが髪に貴女と同じ色のメッシュがあったのはその為と」
「あぁ。似合うと思ってな」
前髪と後ろ髪に少しだけ混ぜた私の同じ色のメッシュは、ケイの艶やかな黒髪と良く馴染んでいた会心の出来だと自負しよう。
可能な限りアリス嬢に似せたつもりだったが、やはりアリス嬢の様な表情を浮かべないからか少しばかりクールな印象の仕上がりになっているがそれはそれでケイという個性が確立されているのだから喜ぶべきだな……っと、なんだ黒服?珍しく呆れた様な雰囲気を放っているが。
「……貴女が人誑し足る所以が分かりましたよ」
「お前もそれを言うのか……」
そんなつもりは一切ないのだがねぇ……まぁ、嫌われるよりはマシというものだな。
「それにしても改めて貴方がキヴォトスに馴染んだのだと分かりましたよ。ゲマトリアで活動していた時とは比べ物にならない程に笑顔を浮かべ……笑顔の中で過ごしている。これが貴方の戦う理由ですか?」
言葉だけ聞けば此方を思い遣っている風にも聞こえるが、長い付き合いだ。
その声には何故?という強い疑問が宿っている事ぐらい察してやるとしよう……しかしまぁ、黒服はどこまでいっても黒服だな。
「そうだとも。私は彼女らの物語が幸せで満たされている事を願っている。それと同時に私自身も笑って過ごせる事を祈っている……だからこそ、ゲマトリアの悪い大人としての肉体を捨て、生徒としての肉体を得たのさ。今更、お前に答えるものではないと思うがね」
「えぇ。貴方が舞台を愛してしまった事は知っていますとも。ですが他ならぬ貴方の答えを知りたかったのですよ……この戦いの為にね」
ここまでずっと敵性存在と遭遇する事はなかったが、やはり我々は招かれていた様だ。
プシュっと気の抜ける自動ドアの先にはそれなりに広々とした空間が広がっており、我々と正反対となる位置に奴らは立っていた。
更ながらゲームのボスキャラだな。
『……来るとは思っていたがまさか黒服を連れて来るとはね』
「えぇまぁ、私も彼女から契約を持ちかけられなければ来るつもりなどありませんでしたよ『バイステンダーさん』」
「黒服……アナタもバイステンダーにミカタをスルとイうの?」
「随分とつまらないところまで堕ちましたねマダム。少なくとも貴女を味方するよりはマシですよ。この様な興味深い品もくれましたしね」
ほぅ、もう出すのか。
まぁ、確かに戦いが始まってから出すには遅いから別に構わんがてっきり、彼方の私とも雑談の一つぐらいはすると思っていたがね。
『タブレット端末……ッッ!?いや、まさかそれは!?』
「クックックッ、やはり同一存在の貴方なら目敏く気がつきますか。これが私と彼女の契約の証にして、私が今この場に足を運んでいる意味そのもの──『擬似シッテムの箱』ですよ」
時は少しだけ遡り、私が黒服へと契約を持ちかけた場面まで遡る。
「黒服」
「これはタブレット?『先生』が持っている物とよく似ていますね」
「それはケイとリオと共に開発した擬似シッテムの箱だ。求めるスペックには全く足りていないがな」
私が今の私へと至る際にケイがシッテムの箱をハッキングしていたと聞き、その時のログから引き出したデータで再現したシッテムの箱だが、やはりと言うべきか完全な模倣には至っていない。
当然と言えば当然だがあれ以降ケイがシッテムの箱をハッキングする事は出来ていないので現状以上の完成度にはならなかった代物だ。
「『先生』が持つ物の様に支援AIは搭載されておらず、理外の防御力もない。無論、戦場全体をスキャンする事も複数の生徒の状態も確認は出来ない」
「なるほど、劣化と呼ぶべきありようですがこれを私に渡したという事に意味があるのですね?」
「話が早いな黒服。私の再誕で契約を用いた為か、唯一本来の性能に勝るとも劣らない再現が出来た機能がある。その擬似シッテムの箱は一人の生徒限定で繋がりを作り出しその力を増幅させる事が可能なのだよ」
我々、ゲマトリアの中でも契約という手段にもっとも優れているのは黒服だ。
小鳥遊ホシノを拘束することが出来る契約を生み出した黒服であれば、この擬似シッテムの箱を使えると確信しこの取引を行うと決めた。
「クックックッ……本来生徒ではない貴方と擬似シッテムの箱を使って私に『先生』の役割を演じさせると。清々しいほどに節操がないですね」
「『先生』にあのベアトリーチェと戦わせる訳にはいかないからな。あれは我々、ゲマトリアの不始末から生まれた物だ。大人として責任を取るべきは我々だとも」
それに獣に堕ちたアレは時として救世主足り得る可能性を秘めている『先生』との相性が悪い……であるのならば、何もかもが偽りだらけである我々の方が都合が良い。
「貴方の優しさは理解しますが、それを私が引き受けるメリットは?」
当然の反応だな。
私と違って生徒という神秘に固執していない黒服にとって自分の身を危険に晒す理由はない。
「擬似シッテムの箱、その使用権が手に入るメリットを理解出来ないお前ではないはずだ」
「貴方の都合では?」
「話を引き延ばしたいのかね?私は私自身をそのシッテムの箱の使用者にする事も可能だ。無論、想定よりも出力は落ちるがそれでも問題はない。それに極論だが擬似シッテムの箱の所有者としてその場に居てくれればそれで良い」
「……ふぅ、やはり貴方との交渉は疲れますね。良いでしょう、擬似的に『先生』の立場になる事を受け入れましょうか」
そして時は今に戻る。
黒服が擬似シッテムの箱を起動させた事により、私のヘイローは光が増し知覚できる神秘の出力も以前ベアトリーチェと戦った時よりも上がっている。
「ククッ、見事にゲマトリアに関する者達ばかり……これならば容赦なく殺し合えるというものだなベアトリーチェ」
「ソレはコチラのセリフでスよバイステンダー。あぁ……タノしみデスねアナタのイマイマしきチをススるトキが!!」
『獣性を解き放つと良いベアトリーチェ。美しき名とは真逆の凄惨たる獣に成り果ててこそ、貴女の願いは成就する』
「クックックッ……では始めましょうか。此処からは大人の時間ですよ」
幕引きの時間だベアトリーチェ、これより先にお前が演じるべき役柄などない。
感想やここすき待ってるぜ!