便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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遅くなりました。ちょっと難産だった……『バイステンダー』の性質が面倒なんすわ


黒服よ……どうやらお前の言葉は少々、的確すぎた様だぞ

 『バイステンダー』という男は恐らく、私がアルと出会う事なくキヴォトスを生きた事で人生に色を得る事がなかった時間軸から来た存在なのだろうとこれまでの行動から予測してはいるが、ただ一点気になる事がある。

 私という存在は色を得る事がなければもっと空虚でバベルの図書館を使うに至る事はないだろうからだ。

 アレは物語という形でキヴォトスの神秘を保存し、蒐集する事で更なる次元即ち、崇高へと至るための最終手段かつもっとも面白味のないベアトリーチェ的な手段で余程の理由がなければ使うつもりがなかったものだ……つまり、『バイステンダー』にはその忌避感を超えてでも使うに至った空虚を埋める理由があるのだろう。

 行動の節々に現れている矛盾、その正体に辿り着く事が出来れば自ずと彼の真意に辿り着くと思うのだが。

 

「先に聞くが質問に嘘偽りなく答える気はあるかね?」

 

『ククッ、私の言葉が真実か偽りか如何に嘗ては同じ存在であったとしても辿った道が違う君に分かるのかね?』

 

「まぁ、そう答えるだろうな」

 

 仮にここで偽りなく答えようと『バイステンダー』が言ったところで、その言葉が真実である保証など何処にもなく、私という存在はこの様な言葉遊びの一つや二つは涼しい顔でやるだろう……契約で縛るにしても目の前の彼が命に執着しているとは思えん。

 

「ふむ」

 

「セラさん、問い掛けるべき言葉に悩んでいるのなら私が代わりましょうか?」

 

「何か聞きたいことがあるのかね黒服よ」

 

 珍しいな、既に契約は果たしたのだから一人で帰るか沈黙を貫くと思っていたのだが黒服も向こうの『私』には何か思うところがあるのだろうか。

 横目で視線を向ければニヤリといつもの笑みを浮かべたので、一歩下り場を黒服へと譲り腕を組む……さて、『私』相手にどう立ち回るのか見学させて貰うとしようか。

 

「クックックッ、自らの事は自らが一番分からないという訳ですかね。私から見れば『バイステンダー』さんらしくない異質さがはっきりと出ているというのに」

 

『……私と随分、仲が良いのだな黒服よ』

 

「えぇ。これでも一緒に百夜堂のケーキを買いに行くぐらいには仲良しかと」

 

 ……なんだろうな、別に黒服の事だから深い意味など全くない言葉通りの意味の筈なのだが妙にゾワゾワするこの感覚は私が生徒になった事で女性的な感覚を得たせいだろうか?

 ときめいたという訳ではないし、生理的に気色悪い訳でもないがなんとなくくすぐったいな。

 

『いつからゲマトリアは仲良し組織になったんだ?』

 

「さほど本質は変わっていませんよ。まぁ、良くも悪くも『先生』とセラさんの影響は受けてはいますがね」

 

『……』

 

「っと、本題が逸れましたね。私が貴方に問いたいのは一つ、何をそこまで生き急いでいるのですか?」

 

『なに?』

 

「貴方がセラさんへと至っているのなら此度の侵略に関する一連の動きにも一定の理解が出来ます。漸く、恋焦がれた舞台に登った直後に会場そのものが消えてしまったのなら八つ当たりの一つや二つするのがセラさんでしょう」

 

 私をなんだと思っていると突っ込みたいが、困ったな……なにも否定は出来ない。

 リオの計画に賛同し、望む結果が得られなかったが故に彼女と一緒に好き放題暴れたという事実がある以上、ここで反論したところで黒服に黙らせられるのは自明の理……よし黙って聞いておこう。

 

「私が知るバイステンダーという男は誰よりも未来を見るが故に、今を見ようとせず唯一見ている未来すらも変えようとしない。滅びが訪れると言うのなら安楽椅子に座したまま全てを諦めた表情で受け入れるほど空虚な男です。他人の定義に依存し、己というものを持たず世界を眺め嘲笑う傍観者に相応しい実に悪い大人です」

 

 やれやれ全く、酷い男だな私は。

 だが、黒服よ何故お前はそんなに楽しげに私を語るのかね?

 

「──そんなバイステンダーの友人であった私が今一度問いましょう。貴方は何故、そんなにも生き急いでいるのですか『バイステンダー』?そうまでして貴方は誰に報いようとしているのですか」

 

 『私』が大きく目を見開く……どうやら黒服の問い掛けは『私』の心を揺さぶった様だ。

 これは確かに私自身では問い掛ける事が出来なかったものだ。

 今の私はアル達との出会いで十分すぎるほどに中身が満たされている為に、かつての空虚さを思い出せないしそもそもとして自身が空虚であった自覚すら薄い以上、『私』との差を正しく捉える事は出来ない。

 

『わた、しは……』

 

 そしてこれは私にも分かる事だが、他人の定義に沿って動く私がらしくない行動を取る様になるまで影響を受けてしまえば例え認めない事が正解だと分かっていてもソレを否定する言葉だけは紡げない。

 

『……死者に報いる方法などない。言葉なき者に償いを求めたところで聞き届けられる事も言葉が返ってくる事もない。いいや違う、そもそもとして何もしてこなかったしようともしなかった愚か者がそんなものを求める事自体が間違いなのだ。だから私は証明するしかない』

 

 『私』を形作っている影が感情に呼応する様に荒ぶりを増していく。

 どうやら黒服の問い掛けが余程的確であった様で、もはや形すらろくに保てなくなっているみたいだな。

 

「黒服」

 

「……えぇ、分かっていますよセラさん」

 

 擬似シッテムの箱の電源を再び入れ、下がる黒服の表情は何か同情する様な意味合いが込められていたが私は私のするべき事をするだけだ。

 

『プレナパテスよ、この私の旅はここまでだ。どうか貴方の目的が果たされる事を祈っている』

 

 『私』の手に黒い本が現れたのを見て、ショットガンを構える。

 

『──我々の世界は間違えた。誰もが報われる事なく、悲劇的な結末を迎えたくだらない世界。全ては虚しいと呪うしかなく、物語は完結する事なく焼き消える。あぁ──だがそれでもと!!下らぬ世界に抗おうとした者よ!!汝が最後の慟哭を今一度、再演しようではないか!!』

 

 見届けた結末がどうしようもないほどにバッドエンドで、間違いでしかないと『私』は理解しているだろうに血反吐を吐くように叫ぶ言葉には認めたくないという確かな熱が込められていた。

 その熱に応える様に本から溢れんばかりの神秘が暴れ出し、今まで以上に視覚化出来る黒い神秘が人の形を取り戻し私達の前に立ち塞がる。

 

『Vanitas vanitatum et omnia vanitas……例え全てが虚しいものだとしても……例え全て終わった物語だとしても』

 

 ……今更、何かをしたところで結末が変わる訳ではないと理解した上で『私』は動いているのだな。

 

『抗わない理由にはならないと君は言っていたな!!ならば、その強さを証明して貰おうか──白洲 アズサ!!』

 

 恐らく『私』が有する生徒の中でも切り札的存在なのだろうな……現れた瞬間から発せられる神秘の圧と存在感そして何よりも──

 

「……分かった。最善を尽くすと約束しよう」

 

──今までの感情なき生徒達とは違う強い意志の宿った瞳が言葉と共に私達を射抜いた。




断章

「……白洲アズサ。これで分かっただろう?君が幾ら足掻いたところでこの物語は終わりを迎えた。私が残った神秘を集めたところで結末は変わらんのだよ」

 私を止めると挑んできた彼女との無駄な戦いは私が回収した生徒の三割を削られる事になったが、私の勝利で幕を閉じ今は地に倒れた彼女を見下ろしている……当然だが勝利に対する快感など微塵もない。

「すまないアツコ……私ではやはり力不足だった様だ。サオリが生きていればな……」

「……それが立ち向かった理由かね?」

 息も絶え絶えでもう間も無く死が訪れるというのに白洲アズサは、そんな気配を微塵も感じさせない美しい笑みを浮かべて私を見る。

「例え世界が終わろうとも……全てが間違いだったとしても……それが最善を尽くさない理由にはならない……貴方だって分かる筈だ。未だにソレを手放していない貴方なら」

「……なんの事だが分からないな。私はただゲマトリアとして少しでも多く研究材料を集めているに過ぎんよ」

 彼女が視線を向ける先、そこには私がアツコから貰った物がある。
 何度もこの世界と共に捨てようと思ったが、捨てる事が出来ずに未練がましく持ち歩いている物だ──そうだ、だから何も意味などない。

「そう、か……大切な想い出を胸の奥に押し込み忘れた風に振る舞う事で心を守っているんだな……私も似た経験がある」

「静かにしたまえ。既に消耗しているとは言え、せめてもの成果だ君の神秘を貰うぞ」

「……あぁ好きにすると良い。悔しいが私に出来る事は全部したさ」

 全てを受け入れる様に目を閉じた白洲アズサの顔に触れ、彼女の神秘を本として蒐集する。
 既にボロボロな外装だが、この世界でここまで生きているだけの事はあるな十分な神秘を有している。

「……最善か。もっと早くその考えに辿り着いていればな」
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