便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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私は見届けるとしようか

「さてこれで貴女との契約も無事に果たせた事ですし、私は一足先に帰るとしましょうか」

 

「大人しく船に乗った事が疑問だったがお前、自分で帰る手段用意していたのか」

 

「クックックッ、私にはヘイローの護りがありませんからねぇ。一度でも戦場を共にすれば契約は果たした事にして私自身の命が危うければいつでも逃げるつもりでしたよ」

 

 心底楽しそうにロクデナシ満載の言葉を放つんじゃない黒服よ。

 まぁ、お前がそういう男だと分かりきった上で抜け道のある契約を持ちかけたのは私だが。

 

「しかしまぁ、お前が興味を持つであろう事柄で契約を持ちかけたとは言えここまで付き合ってくれるとはな。少々、予想外でもあったよ。これも先ほど黒服が言っていた私の影響というやつかね?」

 

「クックックッ!!ハハハハハ!!!」

 

 ふむ?そんなに腹を抱えて高らかに笑うほど変な質問をしたつもりはないのだが、何やらツボに入った様だしちょうどいい少しの間だけでも休憩として休むとしよう。

 なにせ、いまだに完治していない身でアズサ嬢の一撃をモロに受けたのでな……腹の骨が何本が新たに折れていてもおかしくはあるまい。

 無事に帰ったらまたアルやカヤ防衛室長に怒られる事になりそうだ。

 

「ふぅ……全く貴女という人は本当に鈍い。確かにゲマトリアとしての私は貴女が提供してくれた擬似シッテムの箱に有用性を導き出したので力を貸しました。ですが、それが全てだと今の今まで本気で思っていたのなら心外ですね」

 

 そう言いながら手早く帰還用の装置を起動させ、何もない空間に黒い穴を作り出した黒服は僅かに口角を上げた奴によく似合うニヒルな笑みで私の目をじっと見つめながら口を開いた。

 

「今の私はただバイステンダーの友人として力を貸したに過ぎませんよ。あぁ、今度百鬼の方で祭りがあるそうですから都合が合えば一緒に行きましょうかセラさん」

 

「……ククッ、良い大人がJKをナンパとはヴァルキューレに逮捕されても知らんぞ?」

 

「クックックッ……その時は是非、弁護をお願いしますね。それではセラさん、良き旅を」

 

 好き放題言い残し、黒服が入った黒い穴は閉じて消える。

 やはり私がこれから何をするか勘付いている様だな黒服め……それにしてもそうか、私は黒服にとって窮地に駆け付けても良い友人だと思われていたのだな。

 

「……ふむ。やはり自分に向けられる他者の評価は難しいな」

 

 まぁ、何にせよ今は少しばかり疲れた……『先生』達の決着が着くのももう少し後だろうから今は休むとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……バイステンダーの反応途絶。どうやら一足早く彼方は決着が着いた様です』

 

 プレナパテスの端末を操作する手が一瞬止まる。

 それが何を示すのか、彼がどんな感情を抱いているのか『先生』には想像も出来ない事だったが常に自分を凌駕する指揮を見せていた相手の明確な隙が生まれたのは事実であった。

 

“今だよ皆、畳み掛けて!!”

 

 その言葉と共にシロコと大人のカードを用いて呼び出していた生徒達が息を合わせて動きを止めてしまった別の時間軸のシロコにトドメを刺した……立っているのは『先生』の時間軸のシロコであり、勝利したのは自分達である筈なのに『先生』は微塵も勝てたとは思えなかった。

 それ程までに彼方の自分の指揮は卓越していたし、『シロコ』もそれにしっかりと応じられる程の腕前であり何か一つ──そう、『先生』の脳裏に浮かぶ常に胡散臭い笑みを浮かべる存在が分岐点であった。

 

 プレナパテスは彼が傍観者であった為に常に一人で難題を乗り越え、『先生』は彼が味方であった為に難題を二人で乗り越えた。

 

 その経験の差が苦戦を生み出し、そして本来であれば生じるはずのない隙を作り出していたのだ。

 

“……はあー……恨むべきか感謝するべきか悩むねセラ”

 

 本人に仮に文句を言ったところで、楽しげに笑うだけの返事が容易に予想出来る為、『先生』は呆れながらも倒れたままの『シロコ』へと歩み寄り、別の時間軸で起きた真実を尋ね、駆け付けてきたアビドス対策委員会の面々と一緒に知る事になる。別の時間軸で起きたキヴォトスの終焉を。

 

 ──始まりはトリニティ自治区にある旧アリウス分校から極彩色の輝きが確認された事だった。

 彼が『愚かな女の置き土産だ』と後に語った極彩色の輝きは、本来であれば撃退され遠ざかる筈であって色彩がなんの因果か素早くキヴォトスを認識してしまった事で発生した現象でその輝きが徐々に広がる度に、キヴォトスでは不可解な現象が相次ぎ先生率いるシャーレは各地の異変を鎮静化させる為に尽力した。

 

 けれど始まってしまった崩壊を留める事は出来ず、発生源だと特定された極彩色の輝きはより一層強まり連邦生徒会との共同で解決に乗り出そうと動き出した直後、シャーレが原因不明の爆発事故を起こし先生は意識不明の重体に陥ってしまった……そこから先は酷かった……疑心暗鬼に駆られた生徒達が纏って動くなんて事が出来ず、活発化していくキヴォトスの異変にまた一人また一人と各学園の戦力が削がれていった。

 

 それでもなんとか生き残っていた者達は身を寄せ合い、事態の解決に向けて動いていたけど先生が意識不明になって75日目、突如として生徒達の行方不明事件が起き、かつてシャーレがあった場所に大きな塔の様な図書館が出来上がりそこで司書風の格好になった彼が宣言した。

 

 ──『遍く、キヴォトスの神秘を私が蒐集しよう』と。

 

 どうしてそのタイミングで彼が動き出したのかは今も分からないけど、残された生徒達が次々と行方不明となり最後に戦える力として残っていたトリニティの生徒が帰ってこなかった事で全てを諦めてしまった。

 だって、ちょうど先生が意識不明の重体になってから100日が経ち──これ以上の生命維持は無駄と結論が出てしまったから。

 そこからは全てがあっという間で、私は色彩と接触し先生を殺そうとして……

 

「……出来なかった。私が間違ったせいで……わたしが、いきて、いるから……色彩は先生を……ごめんなさい……ごめん……」

 

“シロコ……”

 

 泣き崩れてもはや立ち上がる気力すらない程に絶望したシロコへと手を伸ばそうとする『先生』であったが、アトラ・ハーシスの箱舟が大きく揺れバランスを整えている内に彼女にとっての先生が目の前に立ち塞がった。

 

“プレナパテス”

 

 アトラ・ハーシスの箱舟に残された全てのエネルギーを自身へと集めるプレナパテスは、仮面の奥底に隠した真意を一欠片も見せる事もなく『先生』やアビドス対策委員会の面々へと敵意を向けるが、彼とそして『シロコ』に同情的になってしまった彼女達の動きは鈍く咄嗟に武器を構えるもののそこには迷いがあった。

 

「──さぁ、此処が分岐点だ『先生』!!敵は望まぬ未来を迎えてしまった我々自身。なるほど、その結末には心を傾けずにはいられないがその絶望を糧とするかはたまた、空の藻屑とし更なる絶望を彼等に与えるかは別の問題だ!!」

 

 その空気を裂いたのは、休憩からこの場に辿り着き静かに聞き耳を立てていたセラの真剣な声であった。

 彼女はいつも浮かべている胡散臭い笑みではなく、絶望に抗いキヴォトスに生きることを決めた一人の人間としての決意に満ちた強い表情で声を張る──自らの声で傷が開く事も厭わずに。

 

「選ぶが良い!!絶望に屈し、滅びる事を受け入れるか未だ見えぬ未来にそれでもと己が銃口を突き付けるか!!如何なる結末を選ぼうとも安心するが良い。この傍観者である私が君達の物語を語り継ぐのだから!!」

 

 確かな信頼を宿した言葉に一番最初に答えたのは小鳥遊ホシノだ。

 おっとりとしたオッドアイの瞳に強い意志を宿した彼女はセラの方を一度も見る事なく、しっかりと盾とショットガンを構えプレナパテスへと狙いを定める。

 

「はぁ、相変わらず馬鹿みたいなハッピーエンド厨なんだから」

 

 その馬鹿に背中を叩き押された事に若干の苛立ちを感じつつも、アビドス対策委員会の精神的支柱が結論を下した事で他の面々もホシノに続く様に銃口をプレナパテスへと覚悟を持って向ける。

 そんな彼女達の勇ましい背にセラは楽しげな笑みを浮かべて、仰々しく両手を広げた。

 

「聞こえていたな。では、諸君らの答えを聞くとしようか!!」

 

「アリスは皆と一緒に笑える明日が欲しいです!!ねぇ、ケイ!!」

 

「アリス……はい、そうですね。折角、こうして身体を得たのに明日が無いのはつまらないです」

 

 手を繋いだアリスとケイがセラを追い越し、続く様にゲーム開発部の面々が戦列に加わりそのすぐ後にセラの頭上を飛び越えるゲヘナ給食部の車が現れ、優雅な足取りで美食研究会が降りる。

 

「当然ですわね。全ては美食に始まり続いていくのですからこの世の全ての美食を口にするまで、私達は皆止まりませんわ」

 

 キヴォトスの総意は今此処に決まった。

 彼女達は誰一人として諦めてはいない。

 例え、いつか来る未来が絶望で満ち溢れているとしても手を取り合える友達が居て、信頼出来る大人が一歩先を歩んでくれるのならどんな絶望を前にしても『それでも』を叩きつけると。

 

「ククッ、さぁ決着の時だ『先生』!!我々の覚悟を示し、バトンを受け取るが良い!!」

 

“──うん。任せてセラ、行くよ皆!!”

 

 最後の煽りを終え、滅びてもなお二人の生徒の為に物語を紡ごうとする愛しき愚か者(プレナパテス)に最大の敬意と畏怖を込めいつもの様に太々しく、かつての様に胡散臭い笑みを浮かべてボウ・アンド・スクレープにて場を二人の先生に譲るセラであった。




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