便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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ある世界の終わり。楽園はすぐ隣に

 全ての神秘が死に絶え、遍く奇跡は捩れ歪んだ世界に佇む『色彩』に向かって伸びていたであろう半壊した塔の天辺で安楽椅子に腰掛けている男が一人。

 彼は右目を閉ざし、半身を構成していた無数の解読不明な文字で全身を覆いまるで図書館司書の様な装いで本を読む事もなく『色彩』を見上げている。

 

『……待ち侘びたぞ私よ』

 

「長い旅をしたものだな互いに」

 

 カツン、カツンと男の虚無を再現する様に歩く音が響き渡り現れたのは青空の様な長い髪を無造作に伸ばし、両手に使い慣れたショットガンを持つ黒いゴスロリドレスに身を包んだセラであった。

 幾重にも自分が引き伸ばされ、何者であったのか忘れそうになる中手放さないと誓った輝かしい思い出と共にやってきた彼女は色彩の影響を受け半ば、反転していた。

 

『どの様な手段で来るかと思っていたが、ホルスの義眼を用いて世界の逆探知。先生の力を借り、色彩の神秘を利用して無理やり世界の壁に穴を開けるとはな』

 

「『私』の様にプレナパテスの正式な協力者ではないのでね。方舟の力を使うには少々、ズルをする必要があっただけさ」

 

『ククッ、ここで全てを見させて貰ったがなるほど。生徒化するだけはあるな……私と違って奇跡を引き寄せる運がある』

 

 安楽椅子からゆっくりと立ち上がった男はセラの方へと振り返り、開いている左目の濁った青い瞳で彼女を見つめると悪役らしく邪悪に笑い仰々しく頭を下げる。

 

『実体では初めましてだな私……いや、セラ嬢よ』

 

「ククッ、そう来るなら私も倣うとしよう。初めましてバイステンダー、会えて嬉しいよ」

 

 異なる世界の同一存在である筈の二人が、それぞれの容姿で言葉を交わす。

 始まりが同じであった筈の二人は、もはや決して交わる事が不可能なレベルでそれぞれの道を歩んでいた──否、一人は既に止まりかかっているが。

 

『セラ嬢。君はこの世界を見てどう思う?』

 

「ふむ。『色彩』の恐ろしさを再認識するよ。此処がキヴォトスであるとは信じたくないレベルだ」

 

 灰と死に愛されているこのキヴォトスと、セラがよく知る青空と奇跡が満ちているキヴォトスが同じであると誰が思えるだろうか。

 そんなセラの言葉を聞いて、バイステンダーは自嘲する様に笑った。

 

『あぁ──その通りだ。この世界は君達の世界とは違って、上手くいくはずだった歯車が何処かで狂い捩れた結果が、世界そのものを塗り替え……ベアトリーチェが最後の引き金を引いた事で『色彩』によって滅ぼれた世界だ。ククッ、もはやこの世界には一欠片の可能性も残ってはあるまい』

 

 生徒という無限の可能性を信じているセラを否定する様に、バイステンダーは言葉に悪意を込めて語り聞かせる。

 

『私は最後まで傍観者であり続け、舞台に登る事はなく先生は下らぬ作家の操り人形と化した。彼はそれでも最後に生徒を託す為に抗った様だが、そんなものは結局のところ無意味だ。『色彩』によって反転したシロコ嬢は戻る事なく、よく知る他人しか居ない世界で異物のまま空虚に生き続ける地獄を送る……無駄なのだ。彼が抗ったところで終わりを迎えた我々に物語を続ける価値などないのだから』

 

 ダラリと下ろした手の様にバイステンダーの言葉には、明確な諦観が宿っている。

 世界は終わりを迎え、救世主は死に絶え、残されたのは反転した死の神と唯の傍観者……希望を語るには遅く、救いを願う意味は失われ、何も残す事が出来ない者達だけが遺された。

 

『全ては無意味で無価値で間違いだ。この世界で紡がれた物語も読む者が、書き続ける者が居なくなってしまえば塵でしかない。全て──終わりを迎えた世界だ。君達の世界を見てよく理解したよ。正しいのは其方だと』

 

 もうバイステンダーは疲れ切っているのであろう、生きる事、失う事に。

 バッドエンドの物語が飽きたからキヴォトスに直接降り立ったというのに、結局キヴォトスはバッドエンドを迎えて滅びてしまったのだからキヴォトスも自分も無価値であると正解の世界を観測する事で証明されてしまったのだから。

 

『──さぁ、セラ嬢よ。その手に持つ銃で私を殺すが良い。それでこの世界からの脅威は完全に消え失せる』

 

 両手を広げ無抵抗を示すバイステンダーにセラがショットガンを向ける。

 漸く終われるのだとバイステンダーは目を閉じて──いつまでもその時がくる事はなかった。

 

「では何故、お前は今なお生きてプレナパテスに協力したのだ?この世界が間違っているという確証などわざわざ、労力を割いてコチラに干渉しなくても『私』であれば分かりきっていた筈だろうに」

 

 ──代わりに問いかけられるはセラの言葉だった。

 ゆっくりとバイステンダーが目を開いた先で、セラはいつもの様に不遜に胡散臭く笑みを浮かべている。

 

「私という悪党は読み終わった物語になど一欠片も関心を持たず、積み重ねて無価値と断じて次の本に手を伸ばす。なぁ、バイステンダーよ。お前にもあったのだろう?こうなってもなお、捨てられない執着が」

 

 懐から『栞』を取り出して、バイステンダーへと放り投げるセラ。

 投げられた物がなんであるか即座に理解したバイステンダーは、慌てた様にその『栞』が地面に落ちるより早く駆け寄り、割れ物を扱う様な優しい手つきで受け止める──その矛盾こそがなによりの答えであった。

 

「お前はこの世界が間違いであったとしても、我々という正しい世界を観測してもなお思ったのだろう?……認められないと」

 

『ッッ』

 

 演じ偽り目を逸らし続けた本心へとセラの無慈悲な言葉の刃深々と突き刺さったのか、バイステンダーの表情が諦観から一転、目を大きく見開いた焦りの表情へと変わる。

 まるでこれからセラが告げる言葉が分かるように、その先を言わないでくれと欲する様に。

 他ならぬ自分に言われてしまえばもう、必死に目を逸らす事すら出来なくなると怯え──無慈悲に言葉は紡がれる。

 

「この世界の全てが無価値であるのならバイステンダーよ。今、お前が大切に持っている栞はなんだ?塵か?」

 

 故に煽る。

 目の前の男が同一人物であるのならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()その内に宿っている篝火に風を起こす。

 その結果は──もはや分かりきっていた。

 

『塵であるものか!!!!!これは何も持ちえなかったアツコが、漸く一人で育て上げた大切な花だ!!彼女にとって宝物である物を塵であるなど認められるか!!!!!』

 

 諦観も絶望もそして、折れかけた心を辛うじて支えていた悪役という役割すらもバイステンダーは胸の内に沸る火によって燃え盛り、常に隠し通してきた本心を喉が張り裂けんばかりに叫ぶ。

 

「ククッ」

 

 セラの笑みが深くなる。

 今此処に悪役のベールは剥がされ、この世界のバイステンダー、傍観者である筈の彼の嘘偽り無き真実の言葉が引き出されたと。

 

『あぁそうだとも!!私は理解した上でこの世界が間違いだと認めたくなかった……何故なら、この世界でも日々を懸命に必死に生きた者が居て漸く過去のしがらみから解放され明るい未来を歩む筈だったアツコが報われないなど……そんなふざけた話があるものか!!!!!!!!』

 

 触れ合う筈のなかったアツコという少女の無垢さが、バイステンダーをここまで弱く、強くさせたのだ。

 

『……だが、私は遅すぎた。全てが終わり始めアツコを失ってから漸く気がついた。私はただあの子の幸福が見たかったのだと』

 

 セラが無事に舞台に上がる事が出来た役者であるのなら、バイステンダーは幕が降りきり片付けが始まった頃に漸く自分がその劇に関わりたかったと気が付いた観客なのだろう。

 どれだけ魅せられた劇の結末に文句を叩きつけたところで、役者どころかその劇に微塵も関わっていないのだから変える権利もなくただ、目の前の出来事に納得するしかない観客。

 

「故に自らを納得させ、脚本そのものが間違っているという確証を欲した。そうすれば諦められると思ったから」

 

『あぁそうだとも。だからこそ私は生徒を託そうとする先生とは違い、積極的に君達の敵になった。なにせ、私が使用する力は間違えたこの世界のもの。その悉くが君達に踏破されれば、正しさの証明になる』

 

「全く我ながら酷い矛盾だな。間違いだと証明したいのに間違っていないと思いたいとは」

 

 だがこれで漸くセラは納得した。

 キヴォトスを滅ぼすつもりなのであれば、もっと苛烈になる筈の己が妙に手緩い動きをしていた事に。

 

『ククッ、あぁそうだな。酷い矛盾だと今なら思うよ』

 

「ククッ、ではどうする?私の介錯を受け入れるか?」

 

 再びショットガンを構えるセラ──今度はバイステンダーも諦める事をせず、無謀にも拳を構えた。

 

「ほぅ?」

 

『受け入れんよ。私も友に倣い精一杯足掻くと今し方決めたからな!』

 

 その瞬間、彼の闘志に応じる様に『栞』が光り輝く。

 光はバイステンダーの影が使っていた本の様に昏いものではあったが、禍々しさの様なものは微塵も感じず寧ろバイステンダーにはとても暖かく、居心地の良いものに感じられる光だ。

 

『──』

 

『ッッ!?アツコ!!』

 

 バイステンダーにそっと優しく微笑むアツコの姿が見え、反射的に手を伸ばした彼の手にガチャリとアリウスの校章が描かれたSMG──アツコの使用するスコルピウスが握られる。

 本来、此処にある筈がない武器が現れた。

 それは『栞』がバイステンダーの影の核として機能していた為に、彼が行使していたバベルの図書館の力が部分的に発動したのかもしれない。

 しかし、例えそうであったとしても力の使い手である彼は拳だけでセラに戦いを挑もうとしていたので力を使っておらず、また本来のバベルの図書館であれば形成されるのはアツコ自身で武器ではない。

 

──否、奇跡を前に理屈を語るのは無粋であろう──

 

『……ずっと側に居てくれたのだな』

 

 もうアツコの姿は見えない。

 けれど、バイステンダーは失われたあの日の様に自らの隣に寄り添い、無遠慮に体重をかけてくる彼女の気配を思い出していた。

 

「ふむ。どうやら厄介な事になった様だな」

 

 セラは知っている。

 大切なモノの為に戦う存在の強さを──けれど、言葉とは裏腹に楽しげな笑みを浮かべていた。

 

『付き合って貰おうかセラ嬢。滅びを受け入れられぬ、愚か者の叫びに』

 

「慰めは期待しないでくれたまえ。バイステンダー」

 

『ククッ、不必要だ──さぁ、もっとも無意味で無価値な戦いを始めようか!!』

 

 バイステンダーが勝ったところでこのキヴォトスが救われるわけではない。

 

 セラが負けたところで彼女のキヴォトスが滅びるわけではない。

 

 だがそれでも既にエンドロールを迎え、幕が降りきった世界で一人、観客席に座り続けていた男が舞台へと登ったのだからそれに応じてやるのが、同じ傍観者であった者の務めだろう。

 

「エンドロールのその先を始めようか!!」

 

 互いの武器は揃って接近戦向きの武器だ。

 よって二人の動きは決まったもので、弾かれた様に相手に向かって走り出し先ずはキヴォトス人として身体能力の優れているセラが先に相手を射程に捉えショットガンを発砲する。

 

『ククッ!!』

 

 しかし、それよりも早く身体的リーチに勝るバイステンダーの長い足がセラの腕を蹴り上げ、放った弾丸は『色彩』が浮かぶ虚空へと飲み込まれ返しの刃として突き出されたスコルピウスの弾幕がセラを襲う。

 

「ぐっ!」

 

 セラを襲う衝撃は『色彩』の影響を受けている為か重く、苦悶の声を漏らすがすぐにもう一丁のショットガンで複数のコインを打ち出すと、バイステンダーは驚いた様に飛び退くが数発が身体を掠め、司書風の服が破れる。

 

『コインとは我ながら浪漫装備だな!』

 

「ククッ、良い趣味だろう?私の共犯者リオの至高の一品だ」

 

『ほぅ……あのリオ嬢がね』

 

 一度、ショットガンの間合いの外へと退きながらバイステンダーはリロードを行いそれを見たセラは大きく一歩を踏み出し、逃がさないと言わんばかりに距離を詰める。

 

『世界は移ろい塗り変わる』

 

「ククッ……やはり使えるか!!」

 

 空中に文字が集まると突如として、鋭く尖った岩が現れ詰め寄ったセラはあわや串刺しにとなるところでコインの散弾がソレらを全て粉々に撃ち砕く。

 側から見れば理解不能な現象が起きたが、同一人物であるセラにとってはその正体など分かりきっていた事で、稼がれた時間を利用しリロードが完了したスコルピウスの弾幕を神秘を用いて強化した足力で振り切る。

 

「未来視を辞める事で使える現実改変能力……バベルの図書館で蒐集した神秘もあるとは言え、我ながら無法だな!」

 

『そう都合良くは使えんがね。なにせこの身も色彩に侵され、そう長くはないのだから』

 

 バイステンダーの身体が文字に包まれ消えると、セラの瞬きの間に自身の進路の先へと彼が現れスコルピウスの弾幕が放たれる。

 無数の弾が迫る中、セラは手早くマガジンを外し放り投げ爆煙に身を隠すと完全に彼女を見失っている彼に対し、速度の乗った体当たりで吹き飛ばし両者は煙幕の外へと飛び出す。

 

『くっ!』

 

 初めて焦りの表情を浮かべるバイステンダーに対し、セラは何処までも楽しそうな笑みを浮かべてソードオフショットガンを突き出す。

 放たれるコインの弾丸を防ぐ為に、世界を塗り替えようとする彼の視界の先でたっぷりと殺気が込められたソードオフショットガンが彼女の手を離れて空中を舞い、地面と落ちていく一瞬を見てしまう。

 

「迷惑料を顔面への一発で済ますのだから感謝したまえよ『私』」

 

 真っ直ぐな左ストレートがバイステンダーの頬を叩き、そのまま顔面を古ぼけた図書館の床へと捩じ伏せるのだった。

 

『……神秘がある君の一撃は私の十倍以上のダメージになるとは思わんかね?』

 

「さぁ?生憎と頑丈な身体を得たのでな」

 

『ククッ……あー……羨ましいなぁ……』

 

 スコルピウスを大切そうに抱き抱え、頬を腫らしたバイステンダーは何処か憎々しげにけれど何処か晴れやかな表情で曇天の空を見上げる。

 セラも彼の隣に片膝を立てて座り、同じく空を見上げる。

 

『どうして私という男はこんなにも気がつくの遅いのだろうか。失って初めて何よりも愛していたなど滑稽にも程がある』

 

「他者依存をし過ぎたな。傍観者としては正しかったがね」

 

『……そういう意味ではセラ嬢には良い出会いがあったのだな』

 

「あぁあったとも。アルとの出会いは正に運命であった」

 

 それから二人は互いの時間を話し合った。

 セラはアルと出会い、便利屋68で過ごした日々とそれから多くの事件に『先生』と一緒に関わり、時に敵対し味方をし自分の命を賭けた『必死になって生きた時間』を。

 バイステンダーは初めに黒服の伝手を使い、多くの事件で傍観者としてその場にいた事、そして出会ったアツコとの『宝の様に輝く思い出』を。

 

 そのどちらも素晴らしく、自分にとって大切な時間であった事が二人の共通した認識になるのはそう時間のかからない事で二人は楽しそうに笑顔を浮かべてお互いの時間を褒め称えた。

 

『……あぁ……私が生きた物語は無駄ではなかったのだな』

 

「他の誰かが無駄と蔑もうとも私は肯定するとも。君が紡いだ物語は輝いていたと。ただ、結末が望んだものではなかったというだけさ」

 

『そうだな。あぁ、全く儘ならぬ人生であった』

 

 己の弱さにしっかりと向き合ったバイステンダーの表情にはもう、影はなく憑き物が落ちた様な清々しい表情で自ら閉した右目へと手を伸ばしそこから青白い炎の様なものを取り出すとセラへと差し出す。

 

『私の物語は此処で終わるが生きた証としてこれを受け取って欲しい。紛いなりにも色彩と見え、得た力の一端だ。今の君を蝕もうとする色彩の力を押さえ込むのに役に立つだろう』

 

「……私が本来の意味での生徒ではないからこの程度で済んでいるが助かるよ。斯くも色彩が煩わしいとはな」

 

 受け取った炎を右目に翳せば吸い込まれ、元来の青空の様な青い瞳に暗い夜空の深い藍色が加わり炎の様な微かな揺らめきを放つがセラは然程、気にする素振りを見せずに立ち上がるとバイステンダーに背を向けた。

 

「では私はこれで失礼するとしよう。あまり長居して此処の土地に染まる訳にはいかないからな」

 

『異なる時間を歩んだ私よ。どうか間違えてくれるなよ?バッドエンドに満ちた終焉などこの世界だけで十分だからな』

 

「無論だ……あぁ、それとこれは言うまでもないかもしれないが自らの人生を生きる瞬間にいつも目の前にあるぞ」

 

 そう言い残し、セラは崩れた塔──バベルの図書館から去るのだった。

 

 

 ──此処から先は、私が引き継ごう──

 

『プレナパテス……いや、先生よ。貴方風に言うのなら希望を託したとなるのかな』

 

 再現体の私を通して、知ったつもりにはなっていたが実際に話をしてみて改めて理解したよ。

 セラとなった私とこの私はやはり別人であるとな。

 これから先、どの様な選択をするのか見届けたいところではあるがこんな私にも一つ、成し遂げてみたい事が出来てしまった以上彼女の歩みを見るのは不可能だ。

 

『この程度の抵抗が色彩に通るとも思えんが、我が者顔でこの世界の者達を散々利用したのだからな。取るにたらない愚か者の一撃くらいは受けて貰おうか』

 

 パチッ、パチッと何かに火がつき小さく爆ぜる音が聞こえ始めやがてソレはこの図書館を薪として燃え上がる一つの火柱へと成長していく。

 

『バベルの図書館よ、私ごと取り込んだ神秘を禁書に天高く燃えよ!!紡がれるべきであった数多の物語を悉く燃やし尽くす愚行をもって、我、色彩を破らん!!』

 

 図書館が燃え、貯蔵された神秘が燃えながら天に佇む色彩へと、燃える槍となり突き刺さり痛みでも感じたのか色彩が胎動するのを見つめながら、私の身体も同じく燃え始めた。

 足りない神秘を少しでも底上げする為に私が選んだのだ……異なる私を見たことで私は私の中に複数の可能性を見出した為に。

 

『……アツコよ。すまなかったな……君が死ぬかもしれない未来を私は見ておきながら、それをいつもの事だと捨て置いてしまった。許してくれとは言わん。代わりにこの火が君を楽園へと導く送り火になる事を願うよ』

 

「楽園ならあったよ。少なくとも私にとってのね」

 

 燃え盛る私の手にそっと優しく触れる手の温もりが懐かしくて、もう一度それを感じる事が出来たこの喜びだけでも私は生きた甲斐があったというものだ。

 

『ククッ……ハハハハハ!!狡いぞ『私』よ!!お前はこれ程までに、生きていたとはな!!だが、この瞬間、この熱だけは他ならぬ私だけのものだ!!この熱だけは決して、譲らんぞ『私』よ!!ククッ、ハハハハハ!!!!!』

 

 ──冷めきった男は、最期に自らの身すら燃やし灰となって、それはもう満足そうに消えていくのだった──

 

「……見事な生き様ですねバイステンダー」

 

 何処までも晴れ渡る青空を見上げながら、傷ついた身体を引き摺り黒服は友の旅立ちを見送り彼もまた消えた。

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