便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア 作:マスターBT
アルちゃんは大切な幼馴染で何をするにも面白くて、兎に角一緒にいて退屈しない子!眼鏡が凄く似合っていたのに、アウトローを目指すって言ってコンタクトにしたのだけは今でも無いなーと思ってたりするけど、まぁアルちゃんが好きな事を好きな様にやっているのが一番、面白いから許してあげる事にした。
カヨコちゃんは私達の中で一番年上なだけあってとても頼りになるお姉ちゃんって感じかな?初めて出会った時は距離感が難しい子だったけど、今では同じ便利屋の仲間としてとっても大切!猫ちゃんを可愛がってる時の姿をもっと普段から見せてくれれば、顔が怖いって離れる人が減ると思うんだよね。
ハルカちゃんはアルちゃんにすっごい心酔してて、時折予想もしていない事をやらかしちゃう子なんだけど、アルちゃんだけじゃなくて私達の事も大切な人達だって思ってくれてて暴走しがちだけどすっごい良い子なんだよね!自己評価が低くて自分を犠牲にしがちだから、今度余裕がある時に皆んなと一緒に労ってあげたいな。
便利屋はこれで完璧だと思っていた。
自分で言うのもアレだけど、私達は個性が強くて互いが互いの短所を補う様な関係性だから新たに誰かが入ってくるのはこのバランスが崩れるかもしれないし、入ってきた子が上手くやれるのかって言う心配もあったんだ……まぁ、アルちゃんの事だからあり得るかもなーとは思ったけど、この輪の中に入ってきたのは一人の大人だった。
「私はバイステンダーという、呼び辛ければ好きな様に呼んでくれて構わない。所詮、名前とは記号に過ぎないからな」
キヴォトスの大人というだけで信用出来ないのに、顔の半分をヒビ割れた鷹の仮面で覆った黒いスーツに白衣を羽織っているという見るからに不審者なバイステンダーを堂々と連れて来たアルちゃんには流石に呆れちゃったなぁ。
あの時、カヨコちゃんも警戒していたけどそれも当然だと思うよ。
鷹さんはその格好と雰囲気に相応しい胡散臭い笑みを浮かべていたし、綺麗な青い瞳は何処か私達を値踏みしていたから。
「……え?」
今でも覚えている。
私に当たる筈だった銃弾をその身で受けて、血を流す鷹さんの苦痛に歪んだ表情でありながら成し遂げたという満足感のある表情を。
それからずっと、私達便利屋の為にお金をやり繰りして何処からか仕事を持って来て気がつけば鷹さんはあれほど完璧だと思っていた私達便利屋の輪の中にすんなりと入ってきて、皆の大切な人になっていたんだよね。
アルちゃんはアウトローという自分の夢を笑わずに、手伝ってくれる鷹さんにとても気を許しているし私達の中で一番、鷹さんを信頼して彼の性質を理解した上で敢えて何も言わない選択を取っている。
あの無茶したがりな鷹さんを前にしてそれを貫き通せるんだから、アルちゃんはやっぱり格好良いよね!
ハルカちゃんはアルちゃんほどじゃないけど、鷹さんに気を許しているし何か目指すべき在り方を示してくれたのか今まで以上に張り切って身を切るやり方は変わらないけど、無茶が前提の自己犠牲じゃなくて勝算のある自己犠牲を選ぶ様になった。
それで……一番はカヨコちゃんだよね。
一見すると皆と対応が同じだけど、言葉や態度の節々に気を許していますってのが漏れてるし二人とも賢いから難しい話をよく二人だけでしてるしアルちゃんとも鷹さんは時折、二人だけの話をしてるけどカヨコちゃんとの感じはまた違うというか……距離感が妙に近いんだよねぇ。
「ん、ムツキ室長?何やら回されている腕に力が入ったがどうかしたのかね?」
頭の上からかけられた声に反応する為に柔らかくて暖かい胸から、顔を離して見上げるとキョトンとした鷹さんの顔が映る……うーん、元男ってのが信じられないくらいには美人さん!!
「んー?改めて鷹さんって罪作りな人だなーって」
「事務仕事の途中で急に抱き着いてスヤスヤとしていると思ったら急にどうしたムツキ室長」
「えへへ!鷹さんの思ったよりしっかりあるお胸まくらとても気持ち良かったよ」
「おじさんか君は……いや、アレが頭を過ったから無しだ」
ほんとアビドスの子嫌いだね鷹さん……でも、案外お互いに気の置けない相手だと思ってるんじゃないのぉ?
顔を合わせば喧嘩してるけど、毎回毎回飽きる事なくしてるって事は要するに喧嘩するほど仲がいいってやつで。
「ムツキ室長。それ以上、アレに関して考えるのはやめると良い」
「えー、何も言ってないのに?」
「言ってないからこそだ。アレとの関係性を憶測の域が出ないとはいえ、万が一にでも親密と思われたと想像するだけで鳥肌が立つ」
無関心な事柄にはとことん無関心な鷹さんが、こうも感情を露わにする時点で色々と察するところなんだけどこれ言ったら、本気でトイレに駆け込んで吐きそうだから言わないどこ……というか小鳥遊ちゃんは本当に何したんだろうねぇ。
「はーい」
「うむ良い返事だって、また眠るのかね?」
「んー?邪魔ぁ?」
「いや構わんよ。ムツキ室長の体温は高くて心地よいしな」
ふわりと優しく撫でてくれる鷹さんの手が心地良くて頭を擦り付ければ、トクントクンっと心臓の音が聞こえて来て安心出来る……あぁ、鷹さんはちゃんと生きてるって。
自分でも危ないところに踏み込んでる自覚はあるんだけど、鷹さんの心臓の音を聞くと凄く安心出来るんだよねぇ。
確かに今ここに、私の手が届くところに居てくれるっていうのが分かるからってのもあるんだけど、私だけ他の皆と違って鷹さんに護って貰った経験があるから怖いんだと思う。
「……ねぇ、鷹さん。いなく、ならないよね」
「居なくならないとも。私はまだまだ君達と一緒に青春の物語を味わいたいからな」
染み渡る様な優しい声だった。
頭を撫でている手の熱からも伝わる鷹さんが、私を気遣ってくれているというのがよく分かる優しさ……だけど、それが少しだけ辛いのはムツキちゃんの我儘かな。
あの時と同じ……ゲヘナの図書館で私に弱さを見せてくれなかった鷹さんの笑顔が重なるから。
「でもさ……鷹さんはすぐ無茶をするから」
トクントクンと聞こえる心臓の音がいつかきっと聞こえなくなる……それがどうしようもなく怖い。
帰ってくる算段があったとしても、この人はすぐに自分の命を賭ける選択を取っちゃうから。
「ふむ。ムツキ室長」
「ん?なに?」
顔を上げた瞬間、すぐ近くに寄ってくる鷹さんの顔に驚いているとパシャという音が聞こえて混乱してる頭のまま視線を追えば、スマホが握られていて多分、写真を撮られたんだと思った。
「もしも私がすぐに戻って来なければこの写真を大切に持っていてくれ。私がムツキ室長を想う気持ちと、ムツキ室長が私を想う気持ちが必ず戻る道標になってくる」
ピコンという音共に私のスマホに写真が送られてくる……うわぁ、私驚いてるから全然可愛くない映り方してるよぉ。
鷹さんがキメ顔な分、私の驚き顔がすっごい間抜けなんだけど。
「……絶対に不安な気持ちにはさせないって約束はしてくれないんだね」
「それは無理だな。万策を尽くしたとしてもイレギュラーが起きる確率をゼロには出来ないし、相手によっては危険な橋を敢えて渡る必要がある……以前からムツキ室長には不安をかけて申し訳ないとは思っているが、こればかりは私の性分なのだ」
「知ってるよ。鷹さんは私達の事が大好きだもんね!……でも、同じくらい私達も鷹さんの事が大好きなんだよ。だから……だから……」
こんなのいつもの明るいムツキちゃんらしくないとは思うんだけど、不安な気持ちが溢れて溢れて止まらなくて言葉に詰まってしまう。
こんな風に鷹さんを困らせたい訳じゃないのに……うぅ……
「ムツキ」
「……え?名前……」
額に柔らかな感覚が触れる。
髪を上げられ、少しだけ濡れた柔らかな感覚の正体に一瞬、気が付かなかったけど鷹さんの透き通る青い瞳が何処までも優しく私を慈しんでいる事が分かって思い至った──キスをされたんだと。
「額への意味は『祝福』だ。そして同時に私にとっては誓いとなる。私の幸福は今ここにあるのだとね。信じてくれムツキ、私は必ず君達と共にあると」
狡いなぁ……鷹さんの言ってる事はいつも通り、信じて欲しいって事だけなのにあれほど不安だった気持ちが何処かに消えて無くなっちゃった。
普段は何があってもアルバイトという立場の意地なのか、役職を付けて呼ぶのにしれっと名前で呼ぶのも狡い!!ちゃんと私と正面から向き合ってくれてるんだって分かっちゃうじゃん。
「……くふふっ、やっぱり鷹さんってキザだよね。人誑しのすけこまし!唐変木!!ベンリヤヒトノキモチワカラナイ!!」
「なんだその最後の学名の様な何かは……」
「ふーんだ!可愛い可愛いムツキちゃんを泣かした罰として今日は離れないからね!」
「ククッ、それで気が済むのならいつでも構わんよムツキ室長」
「もぅ、そういうところだよ!」
でもまぁ、許してあげるよ。
額にキスもされたし、暖かな鷹さんの体温をしっかりと感じられるのはとても安心出来るし。
「……不安はあるけどちゃんと待ってるからね鷹さん」
だから帰って来たらまたギュッとさせてね……今度はムツキちゃんの方からキスしてあげるから。
10月だしハロウィンとか思ってるけど、本編が全然そういう雰囲気ではない件について。
感想やここ好き待ってるぜ。