便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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これも全てセラが悪いんだ


就任、不知火カヤ連邦生徒会長代行

「え、なにあれ……」

 

「防衛室だよねあそこの席……なんか服装が違うんだけど」

 

 連日連夜、働き詰めである連邦生徒会にも定期報告会という名の会議は存在しておりD.U.を始めとした各地区の復興がある程度進んだ今日、開かれる事となったのだが集まった生徒達は一つの異常な光景に困惑の声を漏らしていた。

 幾つもの好奇な視線が向けられているのは、不知火カヤ率いる防衛室であり彼女が従える者達全てが連邦生徒会指定の制服ではなく、カイザーコーポレーションに攻め入った時の黒い服装を着ていた。

 

「……鬱陶しい視線ですねぇ」

 

 当然、その視線と話し声に気がついているカヤは顔を顰めるのだが、普段から浮かべている薄い笑みが崩れただけで予想外だったのか更に困惑が連邦生徒会の面々に走っていき、流石に見ていられないと判断した一人の生徒がカヤに話しかける。

 

「いい加減教えてくれるかしら?制服を着崩している理由を」

 

「アオイ財務室長もしつこいですね。その内分かりますよ」

 

「その内って……ただでさえ、纏まりに欠けているのだから規律はしっかり守ってちょうだい」

 

「ふふっ」

 

 アオイの小言などどこ吹く風という態度で微笑むカヤに青筋が浮かぶ彼女はタイミングよく扉が開かれリンとアユム、モモカの三人が入って来た事で一旦口を閉ざすと自分の席へと戻って行くその背中越しに、連邦生徒会長代行の席へと向かうリンと薄く開かれたカヤの視線が交差し一瞬の火花が散った事に彼女は気がつけなかった。

 

「……皆さん、お集まりのようですね。それでは本日の会議を始めましょうか。初めの議題ですが──」

 

「先に私の方から一件、宜しいでしょうか?リン行政官」

 

 いつも通り、退屈な会議が始まると思った矢先ピンっと伸びた手と共にカヤの声が決して大きく無いはずなのに部屋全体に響き渡り、全員の視線が彼女へと集まる。

 不意を突かれた為か、彼女がリンの事を代行と呼ばなかった事にリン以外は気がつけなかった。

 

「えぇ。どうぞカヤ防衛室長」

 

「ありがとうございます」

 

 席から立ち上がった彼女は服装を除き、全てがいつも通りである筈なのに普段と違う雰囲気に誰もが呑まれたのか一歩、一歩リンの方へと向かって歩く彼女から視線を逸らす事が出来ず連邦生徒会の役員達は自分達がこれから行われるであろう『政争』に参加する資格すらない事に、無意識下で刷り込まれされるのだった。

 

「さて私は以前より、リン行政官にキヴォトスの治安悪化を憂いていると進言してきました。ですが、改善が見られる事はなく『シャーレ』などというぽっと出の組織が我々に代わり治安維持を行うという始末。えぇ、キヴォトスの空が赤く染まったあの日、確かに『シャーレ』の助力無くしては解決出来なかった事は認めましょう。ですが──」

 

 ニコリとリンに向かって微笑んだ後、カヤは自らを見ている連邦生徒会の役員達へと振り返りその笑みを消し目を開いた。

 ただそれだけで、室温が下がった様な錯覚を覚える彼女達にカヤは失望しきった目のまま続ける。

 

「元はと言えば()()()()()()()()()()()()()日々の業務すらままならない我々が招いた甘さですよ。何故、それを良しとしているんですか貴女達は。事件が解決すればそれで良いと?はっ、笑わせてくれますねぇ。会長を失った次は『先生』という大人に依存し、あの人の特権で集まる各学園の実力者達に仕事を任せると。はて?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 正道から外れ、癒着に賄賂更には闇討ちにまで手を染めていた嘗てのカヤであったがそれでも彼女は『シャーレ』に全てを任せる事を良しとせず、己の裁量で動こうと足掻いていた。

 だからこそ、伸ばしてもなお足りない手を届かせる為に『大人』の手を借りた一人の子供として、誇りを失った者達へと刃を突きつける。

 

「会長は確かにあらゆる全てを解決する力を持った超人でした。『先生』は万能には程遠くとも、私達では持ち得ない視野を持つ立派な大人です」

 

 そうしてカヤは今一度、振り返りリンを見る──否、もはや彼女にはリンなど見えておらず自らの進む覇道の先に待っているであろう青空の瞳を持つ彼女を見ていた。

 

「──二人に届き得るなどとは言いません。ですが、辿り着いてみせると足掻く覚悟はとうの昔に決めました。リン行政官、本日をもって貴女のその地位を私に譲渡して貰いましょうか」

 

「……カヤ防衛室長。貴女を今の彼女達が認めると思うのですか?」

 

「ふふっ、認めるしかありませんよ。ユキノ」

 

「あぁ」

 

 防衛室の役員達が座っていた席から立ち上がった元SRT特殊学園のユキノは、その手に沢山の紙の山を持ってリン行政官の前に立ち、呆気に取られている彼女を他所に紙の山を置くとカヤの3歩後ろに立つ。

 

「これは」

 

「主にD.U.地区からのものですが私を連邦生徒会長代行にして欲しいという嘆願書です。D.U.地区を筆頭に防衛室の方で避難誘導や配給などを私の用意できる範囲で行っていたのですが、それが彼らに響いた様でしてね。これでも私、結構人気なのですよ?」

 

 連邦生徒会とは各学園から選ばれた者達が集い、組織された行政機関であるため各学園の生徒会が彼女らの後ろ盾となっているのだが、その生徒会を支えているのは数多くのキヴォトスに生きる者達だ。

 カヤはその多くの者達を味方につける事で、もしも自分が代行の地位に就けないのであれば貴女達の後ろ盾である各学園の生徒会に不利益な行動を起こせるぞと暗に脅す事が可能になっていた。

 

「……なるほど。あの日、防衛室がよく動いていたと報告は受けていましたが全てはこの為だったと。カヤ、キヴォトスの危機をなんだと思っていたんですか?」

 

「あの人が自信満々に動いたのですから何も憂いはありませんでしたよ」

 

「……そうですか。やはり変わりましたねカヤ」

 

「変えられたと言うのが正しい気がしますよ。まぁ、悪い気はしないのですがね」

 

 自分にだけ見える様に恥ずかしそうに頬を掻くカヤを見て、リンはそっと目を閉じる。

 連邦生徒会長を失ってからずっと、自分に出来る事は精一杯やってきたつもりだったがその実、消えてしまった彼女の背中を探し続けていた自分と失ってなお進み続け、ついには彼女の背を追いかける事をやめた目の前のカヤのどちらが次期連邦生徒会長に相応しいのか考え、その答えを出した。

 

「不知火カヤを連邦生徒会長代行へと認める者は拍手を」

 

 その言葉と共にリンは手を鳴らし、少し困惑した様子でモモカとアユムが続くと次第に大きくなっていく拍手の音。

 反対を貫き通す者も少数いたが、新たな代行を祝福する拍手の音は部屋全体へと響き渡るほどに大きなものとなり──此処に不知火カヤ『代行』の着任は決まった。

 

「これをどうぞ」

 

「えぇ、ありがとうございます。リン──」

 

「え?」

 

 代行の証を受け取る際、カヤはリンにだけ聞こえる様に耳元で呟くと目を丸くしている彼女を他所に腕章を身に付け席に座った。

 

「就任の挨拶は必要ないでしょう。私に良い感情を抱いている人の方が少ないでしょうし。では、そんな私が提案する最初の議題ですが『シャーレの業務停止』というのは如何でしょう?」

 

 この後に及んで更に敵を作る様な提案を投げかけるカヤ代行に息を呑む役員達であったが、反論も全てカヤの浮かべる小さな微笑みのもとに沈んでいく事となり、代行就任初回の議題は承認されるのだった。




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