便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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 カヤちゃんが色々と頑張り、便利屋の湿度が大変な事になってる中のセラさんの一コマです。


並行世界旅行

「ふむ。帰り道が分からんな」

 

 彼方の私と格好良く別れたのは良いものの、やはり世界線を超えて目当ての世界軸に辿り着くなどという芸当は色彩かアトラ・ハシースの方舟でなければ容易ではないみたいだ。

 

「彼方の私がくれた力のお陰で一時的に色彩の力を使い、世界線を越えることが出来るとはいえこうも多くキヴォトスという世界が分岐していると一筋縄ではいかん」

 

 かと言って過剰に能力を行使すれば、ホルスの義眼によって脳が壊れるか色彩の力によって存在が反転するかどちらにしろ碌な結末を迎えん以上、しっかりと休息を取りながら世界を旅するしかあるまい。

 現状、訪れた中で一番意味が分からなかったのは私がレッドウィンターでゲマトリアとしての職務も傍観者としての在り方も放棄している癖に、男の姿のままクーデターに参加していた世界線だったな……あれは頭が別の意味で壊れるかと思ったぞ。

 

「確かに甘味は好きだがプリン一個の為にクーデターを起こし、何故か一日だけレッドウィンターの会長に座すとか意味が分からん。その後、雑にチェリノと書かれた看板を私の名前に上から書き換えただけの労働者達によるクーデターで、またチェリノ会長に戻るとか……うむ、あの世界の事は忘れよう」

 

 その点、今回辿り着いた世界線の私は実に傍観者らしく、急な来訪者である筈だが一先ずは放置してくれている。

 

「……誰あれ?というかどこの学園の制服?」

 

「さぁ?色合い的にはゲヘナ?でも、ただのドレスっぽいよね」

 

「なんにしても『山海経』に何のようだろうか」

 

 まぁ、この排他的な空気感がそうさせるのかもしれないがね。

 プレナパテス襲来時も山海経だけがレイヴン達の手助けを拒否していて、排他的な場所だとは知っていたがただ食事をしているだけでここまで視線とヒソヒソ話が耳に届くとはあの時、此処を担当していたレイヴン達には戻った時に特別手当を出すとしよう。

 

「失礼、相席をしても?」

 

「ん?……あぁ、構わんよ。どうぞ」

 

「えぇ。それでは『キキ』君から先に座ると良い」

 

「はーい!」

 

 私の対面にキキと呼ばれた一見すると、明るく純粋無垢な笑顔を浮かべる少女が座りその隣に動き辛そうな全体的に四角いシルエットのロボット風市民が座る。

 そんな私の目から見れば明らかに正体を隠している二人組は相席を求めたのにも関わらず、何かを注文する訳でもなくジッと私の両目を見つめてくる……此方から話せと言うことか。

 

「監視だけかと思ったが、まさか直接出向かれるとはな」

 

「……なんじゃ気がついておったのか。やはり此奴と同じなだけはあるのぅ。その姿も変装か?」

 

 周囲には聞こえない様な声量で元々の尊大な話し方をする『キキ』嬢……いや、正しくはこの山海経の黒き門主『竜華 キサキ』嬢と呼ぶべきかな。

 

「生憎とゲマトリアとは袂を分かっていてね。今は『先生』より名付けられた大切な名『萬屋 セラ』と名乗っている」

 

「ほぅ。其方の『先生』はやり手じゃな。此奴にも再三、要請しているのだが契約と言って聞く耳を持たん。斯様な契約が必要なら妾が結んでやると言っておるのに」

 

「門主殿直々に契約を持ち出すとは。余程、私を買ってくれている様で何より」

 

「なんとも扱い辛いがの。あの手この手で山海経の内を暴いたかと思えば、外から毒を持ち込んでみたりと節操がない。結果的に山海経の為になっているから見逃されておるが、そのせいで此奴は妾以外からの信頼が地の底じゃ」

 

 ふむ、傍観者としての私が自ら騒ぎを起こすと言う事は余程暇なのか、キサキ嬢に何かを期待しているかのどちらかだと思うが態々彼女と一緒にこの場に来たと言う事は後者だろうな。

 その証拠に私が視線を向ければニッコリマークを浮かべている電光掲示板に一本指を添えて、話すなとアピールしている。

 まぁ、キサキ嬢もそれに気がついた上で何も言わないと言う事は全て分かった上で敢えて口に出す様な浅い信頼関係という訳ではなさそうだ。

 

「ククッ、なるほど実に私らしい。それで?急な来訪者に何かご用でも?」

 

「そうじゃの。一つはお主が山海経に厄介事を持ち込んだのか確認したかったのじゃが、どうやらその線はなさそうだの。故に問うが何の為に山海経にやって来た?世界を超えてまで来る必要を教えて貰おうかのぅ?」

 

 なるほど、確かに世界線を超えてまでやって来た存在の目的は気になるところか。

 態々、門主が足を運んだ理由に納得がいった私はどうしてこの場にいるのかを詳しく彼女らに話した。

 キヴォトスの空が赤く染まった事に驚きの表情を見せた為、どうやらこの世界線はまだプレナパテスが訪れていない事が分かり大凡の時系列を把握する事が出来たのがこちら側の収穫だな。

 

「……ふむ。元の世界に戻る方法か。何か心当たりはあるかえ?」

 

「色彩の力を利用するなど正気かと言いたいところではあるが、そうだな。セラ嬢よ元の世界に戻るための縁はしっかりとあるのだな?」

 

「無論だ。彼方の世界で絆を結んだ者達、そんな彼女達との思い出の品々、更に萬屋セラが存在していたという確かな実績に加えて『先生』から名付けられた名もある」

 

「もしも私にとって離れたくない者がいるのであれば、セラ嬢の様に準備をするだろう。その上で戻れないのであれば……向こう側かセラ嬢自身に原因があるのだろうな」

 

「その視点はなかったな」

 

 元々、ゲマトリアであったこの身はキヴォトスの外から入って来た謂わば外国人の様なものだ。

 キヴォトスの内側で『先生』の力を借り、奇跡でもってその身を生徒へと変えたが外に出てしまった事で、異物と再認識されてしまい弾かれている可能性があり得ると。

 

「ふむ。じゃが、その線ならどうして妾達の前におる?」

 

「それは分からんな。生憎とキサキ門主と組んでいる私は現実的な手段には詳しいが、オカルトの領域には理解が及ばん。異世界や夢幻の類に詳しい人物に聞くしかないだろう」

 

 夢……ならば、セイアとの伝手が使えれば良いだが、生憎と私の世界のセイアの能力は私が簒奪してしまった以上、嘗て起きた混線を頼るのは難しいか。

 

「ふむ。ならば一つ心当たりがあるの。と言ってもほぼ噂話や御伽話の次元じゃが」

 

「ほぅ?良ければ聞かせてほしいな。無論、情報に見合う対価は払うと約束しよう」

 

「良い。既に対価なら貰っておるのぅ?」

 

「ククッ」

 

 なるほど、此方の私も同じく仕事が出来るようでなりより。

 今はこの好意に甘える他ないな。

 

「百鬼夜行連合学院は知っておるの。彼処がまだ内戦に明け暮れ、一つの連合となる前の人物じゃ。其奴の名は『クズノハ』、伝説と謳われる程の大予言者じゃ」

 

「各学園を一度調べた際に見た覚えはあるな」

 

「であれば話は早い。伝説などその殆どは実態のない幻や嘘、勘違いじゃが火のないところに煙は立たぬと言うしな。お主の様に奇妙な状況に置かれている者が頼る者として彼女ほど最適な者もおらんじゃろうて」

 

 キヴォトスにおいて、特定個人が名を残すと言うのは珍しいし解決策の一つとしてはアリと言える。

 まぁ、元よりどうすべきか分からない流浪の身だ、此処は一つ運試しと行こうか。

 

「ふむ。私としては色彩に関して教えて欲しいところだが、門主様が対価なしとしてしまえば要求は出来んな。セラ嬢、君の物語が面白さで溢れている事を祈るよ」

 

「ククッ、祈られずとも私の人生は面白いとも。今、君がそうである様にね」

 

 最後の胡麻団子を放り込み、右目に意識を集中させ私は楽しげに笑みを浮かべている二人の見送りを受け、山海経から去るのだった。

 

 

 

 

 

「さてとキサキ門主。動けるかね?」

 

「……」

 

「はぁ……だから私だけで話を聞きに行くと言ったのに。まぁ、良い。今の姿の貴女なら私が背負ったところで違和感はないだろう」

 

「わーい!キキ、パパに抱っこして貰えて嬉しい!!」

 

「ククッ、甘えん坊だなキキは」




「ふむ──その力は色彩の一端か。嗚呼──なるほどなるほど、其方にはやはり運命を手繰り寄せる力があるみたいじゃな。妾の出番を一つほど奪っただけの事はある」

「……黄昏の空、記憶にない景色。ククッ、漸く辿り着いたかクズノハ嬢」
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