便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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後半からは、例のアル社長の顔が似合うBGMを聴きながら読むと楽しいかもしれない。


日頃から運動をしようと決意するのだった

「具体的には何を聞きたいのかね『先生』、今なら、大人の話をするチャンスだが」

 

 銀行強盗の打ち合わせが終わり、一発の銃弾が命取りとなる私と先生は現場から少し離れた場所で待機する事となったため、これ幸いと気になっている事を投げかけてみた。

 

“別に深い理由がある訳じゃないよ。『先生』として、生徒が関わっている大人は気になるでしょ?”

 

 そう語る『先生』の笑みはどこまでも優しいもので、一々疑うのが馬鹿らしくなるほどであった。

 しかし、会っていないであろう便利屋68の面々にまで気を配るとは……『先生』という役割は何処までお人好し向けなのだろうか、少なくとも傍観者である私には到底、全うできぬ責務であろうな。

 

「私が彼女らを食い物にしていると案じたのかね。ククッ、まぁ、見ての通りの風貌だ、怪しまれるのは仕方ないな」

 

“そのヒビ割れた鷹の仮面とか私は格好いいと思うよ。黒いスーツに白衣も良く似合ってるし”

 

「……『先生』、私は男であるから気にせんが、生徒にまでその様な軽口を言っている訳ではなかろうな?」

 

“え?なんか、私、変なこと言った!?”

 

「なるほど、無自覚と……ククッ、信頼する生徒に刺されない様にする事だな」

 

 外見や服装を褒めることなど、相手に対して印象を良くしようという打算に塗れて、よく発せられる言葉だがそうではなくこうも、純粋な気持ちで発せられる事があり得るとはな……さすがの私も一瞬、面を食らってしまったぞ。

 私の言葉を受けて、えぇ……という感じで首を傾げている『先生』を見ていると身構えている自分が、アホの様に思えてくるから不思議だ。

 

「私は貴方と同じ、このキヴォトスの外から来た者だ。同じ時間軸、世界線かどうかは知らぬが、貴方が今こうして此処に居る様に、私にも私の目的があって此処に居る。てっきり、それを聞きたがるものだと思ったのだが」

 

 ゲマトリアを知らない者であっても、ここキヴォトスでは銃弾一発で死に至るという共通の脆弱性を有している時点で、何かしらの目的があって此処に居るという事は予想出来る。

 ましてや、あれだけ素晴らしい指揮を行える『先生』がそんな事に考えが至らない無能とも思えん。

 

“聞いたら教えてくれるの?”

 

「先に貴方の目的を教えてくれるのなら、という条件で良ければ」

 

“そっか”

 

 まぁ、そう簡単に教えられるのであれば苦労はしないだろう。

 そもそも、こうして腹の探り合いをしている意味も──

 

“生徒達の平和と笑顔の為かな。それが大人の責任だから”

 

「──は?」

 

 あっさりと、言われてしまい思わず自分の耳を疑うが、『先生』がいつもの笑顔ではなく、狐の様な細目を開いているのを見て、今し方放たれた言葉は嘘偽りのない真実だと理解する。

 ……キヴォトスに満ちる神秘を利用する訳でもなく、私の様に物語を眺める訳でもなく、ただこの地に生きる子供達の為に、銃弾一発で死に至る脆弱性のまま降り立ったと?

 

「……それで貴方になんの得がある?わざわざ、死ぬ危険を背負う価値がある事なのか?」

 

“得とかじゃないよ。目の前で困っている人が居れば、手を差し伸べて助ける。それと同じだよ”

 

 あぁ……本気でそう考え、本心から口に出しているのが分かってしまう──少なくとも私は、ここまで澄んだ大人の瞳を見た記憶はない。

 

「理解した、それが『先生』なのだな。であれば、私の目的も話さねば、約束を違える事になる──私、バイステンダーの目的はキヴォトスで紡がれる物語を、この身で体験し異なる視点を得る事で、神秘を解剖し私の思い描く崇高へと辿り着く事だ」

 

 ゲマトリアとして、私は色彩に対抗する手段を得る必要がある。

 今はまだ、神秘を理解していない為に退屈な私では到底、辿り着けない地点へ至る為に物語へと参加しているが、いずれ私はこの世界の……いや、子供達の敵となり、こうして話している『先生』とも対立する日が来るのだろうな。

 

“一つだけ聞かせて欲しい。貴方にとって、便利屋68は単なる道具?”

 

「それは……」

 

 私という異物を、キヴォトスの物語に混ぜ合わせる為には便利屋68が必要だ。

 だから、『先生』の問い掛けに対する回答など決まっているというのに、私の口は動かずその先を紡ぐ事が出来なくなった……黒服と話している時から感じていたが、どうにも私は彼女らの事になると、私自身でも名称の分からない衝動に駆られている。

 道具だ、道具である筈なのに……何故、その回答を私は口に出せない?一体、何が私の妨げになっている?

 

「……私にとって、彼女らは……」

 

『先生、配置に着きました!』

 

“どうやらお喋りはここまでみたいだねバイステンダー”

 

「……あぁ、その様だな」

 

 思考を断ち切る様に入ってきたアヤネ嬢の通信に感謝しつつ、私も状況を見る為に『目』を生み出し、銀行へと視線を向け、すぐに閉じた。

 

「全く……やはり融資に時間をかけていたか。『先生』、私はこれで失礼する。差し控えた回答は、また別の機会に返すとしよう」

 

“分かった。きっと良い解答が返ってくると私は信じているよ”

 

 そうだと良いがな……私がゲマトリアである限り、貴方は必ず私の敵となるだろう『先生』、その時は私の持ち得る物全てを使って、貴方を踏破しよう……そういう意味では良い会談だったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……いつ先生が襲われるか冷や冷やしました!』

 

“ありがとうアロナ、でも彼はそこまで警戒しなくて良いと思う”

 

 完全に味方……とは言い切れない危うさが確かにあるけど、ラーメン屋柴関ではしゃぐ便利屋68の子達を見ている彼の視線や、単なる雑談程度で彼女達の名前を出す時の彼の声は無自覚なんだろうけど、とても優しかった。

 

“最後に投げた質問の時、ずっと苦しそうにしていたし……いつか、敵意も警戒もなく話が出来ると嬉しいな”

 

 仮面と身体にびっしりと書かれた謎の文字で、凄く表情は分かりづらいけど、彼は彼自身が思っているより、感情が表情に出ている。

 声や笑顔が胡散臭くても、大切な事にはしっかりと意味が宿っている彼だからこそ、私もアビドスの皆んなも、そして便利屋68の子らもきっと、知らず知らずのうちに彼に心を許せるんだろうね。

 

『むぅ……あ、アビドスの皆さんが戻ってくるそうですよ!先生、運動の時間ですね!』

 

“うへぇ……頑張らないとなぁ”

 

 無事に目的を達成した皆んなと一緒に、銀行の追手から逃げ、日頃の運動不足が祟った私はアビドスに来た時と同様に、途中からシロコに背負って貰う形で無事に、ブラックマーケットの外まで逃げ出す事に成功する。

 

“はぁはぁ……疲れた”

 

「大丈夫先生?私の匂い嗅いで、元気出す?」

 

“それは良い提案だね。じゃあ、失礼して……スゥゥ……”

 

 シロコの少し酸っぱいけど、良い香りを吸うと元気が出てくる……って、あの姿は……!

 

「先生?」

 

“ちょっと私を隠しててシロコ”

 

 シロコの後ろにしゃがんで隠れるのとほぼ、同時くらいに軽快に走る音と、半ば引き摺られている様な音を立てながら便利屋68のアルと、バイステンダーがその姿を現した。

 アルの右手とバイステンダーの右手がガッツリ繋がれてる辺り、興奮そのままに連行されたんだろうね。

 

「はぁ、ふぅ、待って!」

 

「……ま、待つのは……君だ……アル社長……ウッ……」

 

「!!」

 

「お、落ち着いて。私は敵じゃないから……」

 

「……ククッ……私など眼中になしか……ククッ……」

 

 なんだろう、アルが目をキラキラさせてるのもあって、ヒーローショーで大興奮した子供に振り回されて、疲労困憊になった父親にしかバイステンダーが見えなくなってきたね。

 

「銀行の襲撃見させて貰ったわ……ブラックマーケットの銀行をものの五分で攻略して、見事に撤収……あなた達、稀に見るアウトローっぷりだったわ」

 

 怒涛の勢いでアルによるお褒めの言葉が続いていき、その間ずっと、その場に座り込み空を仰いでいたバイステンダーが、呼吸を整えながら小さく私に手を振ってきたので、同じくアルに気づかれない様に振り返す。

 

「名前を教えて!私が今日の勇姿を心に刻んでおく為に!!」

 

「……以前もそうだが、本当に気づかないな君は」

 

 そこがアルの可愛いところだと思うよバイステンダー。

 

「私達は覆面水着団!」

 

「や、ヤバい……超クール!!カッコ良すぎるわ!!」

 

「そうかね?」

 

 ふふっ、皆が楽しそうで良い光景だね。

 盛大な勘違いがあるとはいえ、敵として撃ち合った者達が顔を合わせているとは到底思えない景色に、少しだけ目を細めて見つめる。

 

「うへ。目には目を、歯には歯を。無慈悲に孤高に、我が道の如く魔境を行く、これが私たちのモットーだよ」

 

「な、なんですってー!」

 

 ……それにしてもどんどん設定が濃くなっていくね覆面水着団。

 最後にホシノの『行こう!夕日に向かって!』という言葉で締めくくり、アル達の前から去るのだった。

 

「ククッ……膝が笑っているな……」

 

「わぁー!ごめん!!大丈夫バイステンダー!?」

 

 ……また、楽しくお話し出来るのを楽しみに待ってるねバイステンダー。

 取り敢えず、筋肉痛になるであろう彼に黙祷を捧げておく私だった。




ここ好きしてくれると、読んでる人達の好みが分かって楽しいね。

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