便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア 作:マスターBT
「来いよ」
この場の上位者は自分であると宣言するが如く、肩甲骨の辺りから生える彼女の体すらも覆い隠せてしまえそうな程に大きい黒と白が入り混じった翼を広げながら同じ様に両手を広げ、銃すら構えずに挑発するレイヴン9。
「言われなくても!!」
「はっ!!」
身を屈めて地を疾走するユキノが放つ弾丸は全て、フックショットにより彼女を嘲笑いながら頭上を飛び越えるレイヴン9に当たる事はなく、代わりにすれ違いの瞬間に頭上から弾丸の雨をお見舞いされる。
しかし、レイヴン9の行動を読んでいたのかユキノは素早く横へと飛び退くと地面を背にしながら綺麗な姿勢で空を飛ぶ鴉を仕留めるべく弾丸を放つ。
「ほぅ!!」
飛来する弾丸を前に冷静にフックショットを切り離すと、慣性を維持したまま大きな翼を動かしほんの僅かに自身を上に持ち上げ正確過ぎた弾丸を避けたレイヴン9はそのまま柱に足を着け、元々碌な手入れをされておらずヒビが入っていた柱を砕きながらユキノへと迫り銃に取り付けられたストックを勢い良く顔面に向けて突き放つ。
「ッッ!!」
ナイフを引き抜き、ストックを弾くユキノはそのまま自身の顔に向けて放たれる弾丸をレイヴン9に詰め寄る事で避けタックルで彼女を押し倒そうとするが、そんな彼女の顎下をレイヴン9は左手で掴み上げる。
首が上に伸ばされた事で顕になった腹部を蹴り上げ様とするが、僅かにユキノの方が早く足先を踏みつけた事で阻止され舌打ちと共に彼女を解放すると両者はほぼ同時に銃を相手に向け、引き金を引き絞りながら駆け出す。
「チッ、やっぱ理由を得た奴ってのは強いな」
「負け惜しみか傭兵」
「はっ!!飼い主を得たからって調子乗って尻尾振ってんじゃねぇよ狐!」
五本目の柱をすれ違った瞬間、ユキノの目の前からレイヴン9の姿が消える。
足を止め、急いで振り返ればそこにはレイヴン9の姿がありユキノが彼女へと狙いを定めるより少し早く、投擲された石が彼女の右目へと迫り標準を狂わせる。
キヴォトス人の頑丈さであれば、この程度は大した障害ではないが目という部位を狙われ本能的に避ける事を優先するユキノは、此処で一手レイヴン9に遅れを取った。
「そらよ!!」
「ぐっ!」
速度の乗った鋭い蹴りがユキノの腹部に深々と刺さり、堪える事の出来ない吐き気が彼女を襲い、呼吸が乱れる。
無論、訓練を積んでいるユキノが吐く事はないが彼女が正常な呼吸を取り戻すまでの数秒、思考は鈍り反射神経の伝達が遅れる。
レイヴン9が半歩下がり、銃撃の間合いに入った事を認識しつつも即座に動く事が出来ないユキノの身体を銃弾が襲う。
「ッッ!!」
歯を食い縛り、銃弾のダメージを堪えるユキノは転がる様に遮蔽へと逃げ込むがレイヴン9がそれを素直に許す訳もなく、獣を追い立てる狩人の如き隙の無さで遮蔽物の奥へと回り込む。
「なっ!?」
だが、今度はそこに居るべきユキノの姿がなかった──否、攻撃を続ける為に一点に集中していたレイヴン9の視界は銃口の先に向けられていた為、タイミング良くまるで誰かの様に柱へと跳躍していたユキノを見落としたのだ。
遅れた一手を取り戻す様に今度はレイヴン9から奪われた数秒を取り戻したユキノは、一転攻勢に移り彼女の頭部を両足で挟むと地面に手を置きながら勢い良く投げ飛ばす。
「ぐおっ!?」
「ふっ!!」
格闘戦に派生するとは思っていなかった虚を突かれたレイヴン9が地面に叩きつけられるのと同時に、ユキノは彼女へと迫りながら引き金を引く。
翼を丸め自身を守りながら立ち上がるレイヴン9は、好戦的な笑みを浮かべながら腰に着けていたフラッシュグレネードを掴むと翼を大きく広げ、視線誘導すると共に放り投げ、眩い閃光と甲高い音が響き渡る。
「ッッ!!」
両者共に素直に目を潰される様な鍛錬を積んではおらず、ほぼ同時に相手へと向けられた銃が交差し互いを照準の先からズラすと戦場に静寂が訪れる。
歴戦の傭兵に相応しい犬歯を剥き出しにし、好戦的な笑みを浮かべるレイヴン9と何処までも冷ややかに能面の如き冷たさを放つユキノの視線がぶつかり合う。
「もっと楽しめよ。折角の機会だろ?」
「悪いが戦いに悦を見出す趣味はしていない」
「はっ、そうかよ。身持ちが硬い軍人らしいな」
「お気楽な傭兵に言われたくはない」
「ハハッ!ちげぇねぇ!!」
ガシャンっと音を立てて、弾かれた様に距離を取る二人──戦いの決着はまだつかない。
『──この映像をご覧になっているキヴォトスの皆様方、ご機嫌よう。私は連邦生徒会生徒会長二代目代行の地位を承りました不知火カヤです』
ありふれた平和な一日に突然、キヴォトス中の映像端末が切り替わり黒い連邦生徒会の制服に身を包むカヤが生徒会長の机の前に立っている姿が映し出された。
彼女は口元に小さく笑みを浮かべており、発せられた挨拶の声もとても耳に馴染む良い声である筈なのに今まで白かった制服が黒に染まっているという異質さのせいか、それとも彼女の纏う雰囲気のせいか見ている者達の多くは胸の奥に確かな畏怖の感情があった。
『本来であれば就任の挨拶といきたいところではありますが、本日は急ぎ皆様にお伝えしたい案件がありますのでそちらを優先させていただきます。先ずはこちらをご覧ください』
画面が二分割になり、映し出された映像はユキノとレイヴン9の苛烈な戦いが繰り広げられているシーンで両者の卓越した動きに戦いに関わる者達は真剣に魅入る。
『私の親愛なる部下であり、SRT特殊学園の生徒でもある七度ユキノさんと、傭兵集団レイヴン、その中でも最強と目されるレイヴン9の戦いです。これは現在、とある場所が行われている戦いでもあります』
画面の先ではフックショットを用いて三次元的な挙動で襲いかかるレイヴン9に対し、何処までも冷静に戦闘を繰り広げるユキノの姿が映っておりカヤは一度、其方を見ると一度目を閉じ開くと同時にカメラへと視線を戻す。
『さてこの様な映像を皆様にお見せしましたのは一つ、私が掲げる政策に反した場合どうなるかと理解していただく為です』
「え?」
所謂、見せしめであるとカヤは宣言したのだ。
『明日よりキヴォトスで携帯できる武器は拳銃のみとします。これはここ最近、増加している暴動及び犯罪率の低下を目的としたものであり潜在的な脅威の排除を最終的な目標と定めています』
キヴォトスに生きる者達は銃で撃たれても痛いで済むどころか、携帯できる規模の爆弾を受けても煤汚れるだけで死なない脅威の耐久性を誇るが、そのせいで一度争いが起きるとただの喧嘩であっても規模が大きく、周辺の建物やインフラに影響を及ぼしてしまう。
その度に連邦生徒会やヴァルキューレに出動要請がかかり費用が嵩んでいくのをカヤは憂いたのだろう。
『皆様の自由を奪う政策である事は重々自覚しております。しかし、我々は些かその手に握られた物の破壊力を見誤っているとは思いませんか?ただの喧嘩で建物一つが潰れるのを良しとするのはあまりにも愚かしいとは思いませんか?』
それが常識であったのだから今更何をとこの放送を聴いている者達は思った。
戦う事を生業としている者達は何をふざけた事を抜かしていると怒りを抱いた。
「……そうだ。あの銃撃戦がなければ俺は……大事な商談に遅れてクビになる事はなかった!!」
「やっと開いた店だったんだ!!それをそれを!!」
けれど、真の弱者である者達にはカヤの言葉は正しく救いでもあった。
『私はこのキヴォトスに蔓延している争いの火種を断ちます。だからどうか善良なる皆様は私に協力してください』
画面の向こう側でカヤが頭を下げる。
そして数秒ののちに上げられた彼女の表情は何処までも無であった。
『──それでも私に歯向かうと言うのであればこの光景が貴方の現実となる事でしょう』
何度目かの激突の果てに、ユキノはレイヴン9を降し倒れる彼女に銃口を突き付けた。
『貴方が武器を取るのなら私も武器を取り、これを排除します──それでは皆様、平和なキヴォトスをお過ごしください』
ゾッとする様な笑顔を最後に放送は終わるのであった。
感想やここ好き待ってるぜ!!