便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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圧倒的、タイトルバレ


犯罪コンサルタント

「……ほむ。拙い部分は多い。けれどしっかりと目的が達成される様にゲームメイクされている。まさかあの不知火カヤに此処までの実力があったのは計算外ではありましたね」

 

 ゴシック調に整えられた事務室で自分用の大きな机の上に白と黒のチェス盤と、現在反連邦生徒会を掲げる裏社会の者達の詳細なデーターが記録された書類をばら撒き、安楽椅子に腰掛けつつ白のクイーンを掴み上げ、プラプラとさせる少女が呟く。

 

「おや、君でもそんな事があるんだねぇ」

 

「別に私は完璧を気取っている訳ではありませんよカイさん。それと調度品に薬がかかると嫌ですから、実験は部屋でやってください?」

 

「山海経に戻るまでは大規模な実験はしないさ。しかし、新たな代行殿は面白い事を考えるなぁ。銃規制をして反発が起きない訳がないだろうに」

 

「それが狙いなんですよ」

 

 持っていたクイーンを盤上に戻す少女。

 その薄緑色の瞳は確かな知性を携えたまま、ゆっくりと細められており現状を楽しんでいる余裕さが感じられる。

 

「不在となった者がいつか帰ってくるなどという幻想に甘えず、己の領分を超えて自身の力を拡大させていたのが以前の不知火カヤという人物です。根が臆病なのか自信過剰なのかは知り得ませんでしたが、少なくとも表に出ない程度には自分の行動の結果をケア出来ていました」

 

「ふぅん」

 

 そんな彼女とは対照的に薬品を弄る少女は、何処までも退屈そうにかつ興味がない適当な返事だ。

 だが、気を悪くする素振りなどは見せずに安楽椅子の少女は続ける。

 

「そんな彼女が今回の様なわかりやすい政策の保険を掛けていない。これは二つの事が考えられます。一つは権力を得て増長している線。これは今までの彼女の言動、特に超人と拘っていた辺りから推測するに最も単純な答えだとは思いますが、ほむ。私は違うと考えています」

 

 今度は黒のクイーンを手に取り、プラプラと動かし盤上ではなく散らばった書類の中にある()()() ()()()の上へと置く。

 

「もう一つの線は敢えて暴動が起きる形に整えたという線です」 

 

「ククッ、自分の支持基盤を自ら揺らすとはもの好きだねぇ」

 

「その通りです。キヴォトスでは武力で稼ぎを得ている方々が多い……当然、此処を突けば相応の反応があるから政治家という者は思うところがあっても制限をしませんでした。まぁ、日常に溶け込んでいるので規制する必要がなかったとも言えますが」

 

 少しの間、クスクスと笑う少女は何故かタブレットを持っている白のキングをひと撫でしてから、黒のキングいや、よく見ればそれはちょうど半分で色が変わっている黒と白のキングを手に取り、盤上の中央に置く。

 

「後者であった場合、私の予想が正しければ不知火カヤは本気でキヴォトスから争いの目を無くそうとしています。この規制は徐々にその縛りが大きくなっていき、最後には武器の一つすら携帯出来なくなる事でしょう。所持を許されるのは警察組織などの治安組織に限られ、目に分かる戦力差から犯罪者達は一掃されていく……そんな筋書きでしょうか」

 

「そんなに上手くいくものか。現に不知火の行動は余計な反発を招いているじゃないか」

 

()()()()()()()()()。ある程度、未来を予想出来る過激派な方々は今回の政策を受けて自分達の稼ぎが悪くなるのを理解し、呼び掛けを始めました。これに呼応する方々も我慢出来ない者達もいるでしょうが、同じくある程度の未来を予想出来る人達です。きっと、応じないのは穏健派や既に不知火カヤと何かしらの契約を交わしている者達でしょうね」

 

 白の駒を動かし、黒の駒を次々と倒していく少女。

 その音で漸く、薬品を弄る手を辞めて彼女の方を見る少女は浮かべられてた小さな微笑みに少しだけ引いた──楽しんでいるなと。

 

「そうして集まった者達を潰せば、より規制が厳しくなった時に反抗して来る者達は以前よりも弱くなる。なにせ、この程度の未来も見えなかった日和見主義者ですからね」

 

「……なるほどねぇ。敵の方から勝手に弱っていく訳だ」

 

「その通りです。ただ……」

 

 此処まで流暢に会話していた少女の口が止まる。

 その先を話そうとし、少女は自身の知る不知火カヤと今の不知火カヤのあまりに大きすぎる差に思考が引っ張られ、話す余裕が無くなったのだ。

 

「(自由を規制した先にある平和の実現……そんな事をすれば今の彼女の支持基盤は間違いなく完全に崩壊します。人は当たり前が制限されるのを嫌うものですからね。そうなれば、待つのは彼女の退陣。ここ迄のゲームメイクが出来る人がこんな単純な事を見落としているとは思えません。ならば何故?あれ程焦がれた権力を手放す理由は?)」

 

 良くも悪くも不知火カヤという少女は、よくある権力に取り憑かれた野心家だと少女は思っていた。

 だからこそ、駒が揃えば代行の地位に立つであろう事も予想していたのだが蓋を開けてみれば黒い制服を身に纏い、野心に焼かれていた瞳は遥か先を見る夢想家のものに変わっていた。

 その事実に少女は驚き、誰が彼女を変えたのかと調べ──萬屋 セラという存在に辿り着いた。

 

「(経歴の殆どが『先生』の用意したものという不審点に加え、この方と関わりが深い便利屋68も以前は単なるごっこ遊びでしたのに、今では反連邦生徒会の会議に呼ばれる程の存在になった……これを単なる偶然だと片付ける訳にはいきませんね)」

 

 在り方が変わった不知火カヤと組織としての力が急拡大した便利屋68。

 この両者に関係がある萬屋 セラが何か関係していると疑っている少女は、今回の騒動の黒幕がセラなのではないかと予想しもしもそうなら、是非とも知恵比べがしたいと微笑む。

 

「(『先生』を抱き込み、便利屋68を育て上げ、不知火カヤを変えた。そんな興味深い人が居るのなら是非とも、一度話をしてみたいものですね)……ほむ?」

 

「ほむ?じゃないよ。気になるところで言葉を切っておいて、目の前の私にすら気付かないとは随分と考えに耽っていたんだねぇ。ククッ、そろそろ時間じゃないか?」

 

 そう言われて少女は机の上に置かれた時計を見て、自分が三十分ほど思考の海に沈んでいたことに驚きつつモニターを起動させる。

 

『あぁ。ちょうど良いタイミングだ。自己紹介を頼む』

 

 ──モニターに表示される錚々たる面々は皆、裏社会で名を馳せる者達で今回の『反連邦生徒会』の参加者達である。

 ()()()()()()()()()()髭が似合うロボット市民に促され、少女はいつも通りの自信満々の笑みを浮かべた。

 

「初めまして。犯罪コンサルタントの『ニヤニヤ教授』です。あなた方の望みが叶うよう、手伝って差し上げましょう」

 

 そう、少女──ニヤニヤ教授は画面に映る陸八魔 アルを見ながら自己紹介するのであった。




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