便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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鳴潮とかいう沼に沈んでました……あと、腰が痛かったり寝不足だったりもあったけど私は元気です(?)


狂犬は未来を微笑む

「どう誑し込んだのかは知らないが、見逃されたのだから大人しくしていれば良かったものを!!」

 

 ヴァルキューレ警察学校、公安局局長の肩書を持つ『尾刃 カンナ』は背負う看板と二つ名に恥じぬ弛まぬ鍛錬を感じさせる脚力を以て、地面を強く蹴り上げると鋭い犬歯を剥き出しにし小さく構えた『第17号ヴァルキューレ制式拳銃』の引き金を絞る。

 かつて良い様にあしらわれた屈辱を晴らす為と、自身の鈍くされどもう二度と目を背けぬと誓った輝く正義の心に報いる為に。

 

「生憎と大人しく首輪をされる程、躾がなっていないのよ私達は!!」

 

 屋上という限られた空間で決して取り回しの良くない愛銃『ワインレッド・アドマイヤー』を鈍器の様に構えながら、迫り来る弾丸を以前よりも見える様になった動体視力で見切るアルは、肉薄してきたカンナに対して顎を狙った見事な振り上げを見せる。

 

「ッッ!!」

 

 だがしかし、彼女の狙い通りに顎を砕く事はなく驚異的な反射神経で仰け反られ避けられブンっと虚しく空を割く音のみが残される。

 走り込んだ速度を殺される形になったものの更に間合いを詰める事に成功したカンナは、上体を起こし切るよりも直前に記憶したアルの足がある場所へ向けてそのままの姿勢で銃弾を放つ。

 回避と同時に反撃に出る事で、相手の攻勢を削ぎ自分の有利を確実にする事を狙ったカンナの攻撃──確かにそれは、相手が『普通』のキヴォトス人であれば通用した事だろう。

 

「な!?」

 

 上体を逸らしたままの視界に真紅のコートが目に映った。

 見間違いだと一瞬、現実から逃げそうになるカンナであったが彼女の精神力はそれを許さず、即座に現実を飲み込むと太陽を背負い向けられる銃口から急いで飛び退く。

 

「我らはアウトロー!!何者にも縛られぬ者なんだから!!」

 

 カンナの反撃よりも僅かに早く飛び上がっていたアルの宣言と共に放たれる弾丸は、しっかりと彼女の神秘が色濃く纏われており咄嗟に飛び退いたカンナは放たれたその弾丸を中心に周囲の景色が蜃気楼の様に歪んでいくのが見え、元より防御姿勢を取っていた身体を更に丸めさせる。

 銃弾が屋上の床に到達した瞬間、凄まじい爆発が巻き起こり一瞬にしてビルはただの瓦礫の山へと変貌していく。

 

「……勢いよく壊しちゃったけど、これ修理費とか大丈夫よね?」

 

 周囲の瓦礫と共に自由落下しながら、自身があっさりと壊したビルの費用に対して顔色を青くするアル。

 幾つもの修羅場を越え、組織の長として成長してもなお失われぬ彼女の純粋さにきっとこの場にセラが居れば楽しげに笑ったのだろうが、生憎と今この場にいるのは公安局が誇る『狂犬』である。

 

「そういう心配は獄中でして貰うぞ!!」

 

「貴女も大概、タフね!!」

 

 自由落下していくアルに対し、崩れ落ちていく瓦礫を足場に飛び上がり彼女へと掴み掛かろうとするカンナ。

 両者はアルの愛銃である『ワインレッド・アドマイヤー』を挟み込む形で競り合った。

 

「日々をただ平穏に過ごす方々の為にも私はお前たちの様な輩を見逃せん!!」

 

「あら、それが汚職に加担していた警察の言うことかしら?」

 

「そうだ……どうする事も出来ない現実に私はただ腐っていたばかりだった。一度は目を背けた正義……だが、もう一度目指すと決めたんだ」

 

「そう。きっとカヤも貴女みたいな顔をしているのでしょうね」

 

 そう言って優しく微笑むアルを見て、カンナは驚き言葉に詰まった。

 犯罪者であり、秩序を乱す側である筈の相手が自分よりも変わった上司に対して深い理解と敬愛を示している為だ。

 

「秩序の為、譲れぬ正義の為に己の身を鑑みない在り方というのはとても尊い事だと私は思うわ」

 

 優しく微笑んだままアルは続け、二人は組み合ったまま近づく地面へと着地する。

 頭上から無数の瓦礫の雨が降り注ぐが、不思議と瓦礫の雨は二人を避ける様に降り注ぎ会話を邪魔する事はない。

 

「──でもね、それを見逃せるかどうかは別問題なのよ。局長さん」

 

「何をッッ!?」

 

 今までずっと拮抗していた力が嘘の様に一気にアルへと傾くと、カンナは自身の体勢が大きく崩されるより前に『ワインレッド・アドマイヤー』から手を離し下がった。

 

「このまま彼女の計画が上手くいけばその先の未来にカヤの席はないわ。あ、どうしてとかは聞かないでね。私もなんとなくそう思ってるってだけだから」

 

「……それが秩序を破る理由か?」

 

 聞くなと言われたからカンナは尋ねなかったが、彼女もまた確信した。

 目の前に立っているアルという少女は、犯罪者の立場でありながら取り締まる立場にあるカヤの為にこの戦場に立っているのだと。

 

「一緒におでんを食べた仲だもの。あっ、今度は貴女もどうかしら?局長さん」

 

 無垢な少女の様な美しい微笑みを浮かべるのと同時に、轟音が響き渡ると空に向かって放たれた彼女の弾丸が瓦礫の一つとぶつかり激しい爆発を起こすと共に周囲を真っ黒な煙が包み込む。

 少しして崩れたビルと大きな爆発を聞き、カンナの身を心配した公安局の副長がヘリで戻って来ると黒煙はあっさりと晴れ渡り青空と書類仕事を考えると頭痛がして来る瓦礫の山が明らかになる。

 

「生きてるっすかーー!!姉御!!」

 

「……あぁ。見ての通り煤汚れは酷いが無事だ」

 

 煙が晴れた先、当たり前だがアルの姿はなかったがその代わりなのか、ビルが崩れた際に何処かへ落としていた『第17式ヴァルキューレ制式拳銃』がすぐ足元に置かれていた。

 

「全く……食事に誘うなら返事くらい待って欲しいものだな」

 

 自分とは違って煤汚れがない愛銃を拾い上げると、カンナは呆れた様な小さな笑みを浮かべて自分を迎えに来た副長の元へと歩き出すのであった。

 

「次は名前を教えて貰うからな」

 

 少し先の未来を楽しみにしながら。




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