便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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……ッスゥー、遅くなりましたぁぁ!!


胸に抱くは正義と自由意志

 外の喧騒など知らずと部屋に響き渡るのは、部屋の主人がキーボードを叩く音だけ。

 この騒動が起きる丁度、一時間ほど前に部屋の主人である『先生』はシャーレがあるビルからこの連邦生徒会本部があるサンクトゥムタワーへと護送されていた。

 カヤによって業務停止が決定された隙を突き、無防備となった『先生』を狙う輩から護るための選択であったのだがそれが今は逆に『先生』を騒動の中心に連れて来てしまうという裏目を引いていたのだ。

 

“……んー、はぁ、私って一応業務停止の筈だよねぇ?”

 

「はい。表向きには、ですが」

 

()()()()()私、ゲームがしたい!”

 

「……貴方が期日通りに仕事を進めていればこの山の幾つかは無くなっている筈なんですよ?」

 

“あっははは”

 

 朗らかな笑顔を浮かべて追求から逃れようとするなんとも駄目な大人ムーブを取る『先生』に、現在、職を追われて暇になっているリンは大きな溜息を溢す。

 なんの因果かカヤによって職を失った者同士が同じ部屋で、しなくて良い筈の書類仕事に従事していた。

 

「……言っても聞かないのでしょうね。なんのゲームをしますか?幸い、カヤさんが幾つかのゲームを置いて行っているので選べますが」

 

“え、良いの?結構、駄目元で言ってみただけだったんだけど”

 

「今の私達は表向きには無責任で居られる立場ですから。『先生』が業務を放棄して遊んでも良いのと同じ様に今の私は貴方を咎める権利などないんですよ」

 

 ガチャガチャと音を立てながら、幾つかのゲームソフトを手に取っては眼鏡の奥でしかめ面を作るリン。

 どうやら真面目な彼女はゲームとは縁遠い生活を送っていた様で、手に取るゲームがどんなゲームなのか、そもそも面白いのか判別がつかない様だ。

 

“そうだねぇ……今の私達、揃って無職だもんね!!どうしようか?このままカヤのヒモに揃ってなる?”

 

「……一つ、伺っても良いですか『先生』?」

 

“うん?良いよ。ちなみに今、リンちゃんが手に持ってるゲームは結構、クソゲーだからやるなら覚悟してね”

 

「誰がリンちゃんですか……その、どうしてカヤさんの提案を大人しく受けたんですか?貴方にとって『先生』という役職はとても大切な筈です」

 

 初めこそリンの胸中を占めていたのは強い不安感だった。

 連邦生徒会長が選んだとは言え、相手はなんの実績もない大人でヘイローを持たず争い事を解決出来る様な強さとは縁遠い存在……そんな人が混乱の一途を辿るキヴォトスの助けになるのかと。

 

 しかし、蓋を開けてみれば不安感は良い意味で裏切られた。

 『先生』は戦えなくとも、限られた戦力を纏め上げ卓越した指揮で状況を覆すと武力ではなく対話で問題を解決していき、瞬く間に数多くの信頼を勝ち取り積み重ねてきた信頼の力でキヴォトスの問題を解決した。

 

 そんなリンからすれば奇跡にも等しい行為を最も助けていたのは、連邦生徒会長から与えられた『先生という職務』だった筈。

 『先生』が権力に固執するタイプには見えないとしても、理想を叶える為に必要な立場でもあった『先生』の役割を放棄するとは到底思えなかったのだろう。

 

“んー、そうだねぇ……”

 

 そんなリンの言葉に『先生』は少しだけ悩むとなんてことのない──晴れた日に散歩に行く様な気楽な声で返した。

 

“カヤはきっと悪い子じゃないし。何よりも信じてるからかな、友を”

 

 そう言って微笑む『先生』の顔はとても優しげで、色々と疑問があった筈のリンの心中を解していく。

 やがてリンはゆっくりと、呼吸を整えると悩みのなくなった表情で一本のゲームソフトを手に取り『先生』とゲームを楽しむ事に──

 

 したかったのに『先生』の背後、この部屋に通じる扉が爆発と共に吹き飛んだ。

 

“わっ!?”

 

「『先生』!?」

 

 『先生』に駆け寄り、自らの身を盾にする様に立ち塞がるリン。

 視線の先では未だにもくもくと白い煙が立ち込めており、彼女は不慣れた拳銃を手に取り構える。

 

「少し火薬が多すぎましたかね……『先生』ご無事ですか?こちら、Rabbit1 救出に来ました」

 

“……え?ミヤコ?”

 

「あぁ。良かったご無事でしたね。『先生』も事態は把握しているでしょう件でお話があります」

 

 リンの事をチラリと見てからミヤコは、『先生』の方へと近づいていくと素早い動作で敬礼を示す。

 

「私達、Rabbit小隊はこの騒ぎをカヤ代行が意図的に引き起こしているのではないかと考え、『先生』に協力を要請したく伺いました」

 

“……知っていると思うけど私はシャーレの権限を剥奪されていて「はい。ですが、『先生』は立場一つで行動を変える様なお人ではないかと」……ッッ!!”

 

 ミヤコの真剣な瞳が『先生』を射抜く。

 Rabbit小隊として、そしてSRTに所属する一人の生徒として思い描く正義に殉じるミヤコは『先生』という大人を強く信頼していた。

 

「カヤ代行との間でどの様な取引が行われたのかは知りません。ですが、もし代行が意図的に今回の騒動を引き起こしたのであればそれはSRTの正義に、そして『先生』が信じる正義に反する筈です。直接的な関与が難しいのであれば作戦を共に考えてくれるだけでも構いません……駄目ですか?『先生』」

 

 ──カヤの選択を止める事はしなかった。彼女の胸の内にある覚悟を汲み取ったから──

 

 ──自分ではなく、友を信じると決めた。カヤを唯一、立ち止まらせる事が出来るのはきっと彼女だけだから──

 

 だから、一度決めた事を貫き通すのならきっとミヤコの提案を断るのが正しい事なんだと思う。

 そう考えて──『先生』は傍観者で居続ける難しさを理解し、呆れると共に自分の頬をパチンと叩いた。

 

「『せ、先生』?」

 

“生徒のやりたい事を手助けする……それが私だもんね”

 

 カヤは『先生』の手助けを必要としなかった。

 リンは自分の状況を理解し、大人しくする事を選んだ。

 

 そして、今目の前に立っているミヤコは自分の正義を信じ、貫く為に『先生』(自分)が必要だと手を伸ばしている。

 なら、その手を掴むのが『先生』という責任を背負う大人が取るべき答えだろう。

 

“よしっ、カヤに怒られる覚悟は出来たから行こうかミヤコ!”

 

「はい!!」

 

“という訳で行ってくるね!!リンちゃん!!”

 

「あっ」

 

 リンがその背に何か言葉を投げかけるより早く、『先生』はミヤコと共に部屋を出て行く。

 開きかけた口は言葉を紡ぐ事が出来ない。

 

『リン、安心してください。すぐに綺麗な椅子を差し上げますから』

 

 ──代行という地位を譲った時、耳元で告げられた言葉が彼女を何よりも重い枷で縛り付けていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っと、これで最後かな?」

 

 ミヤコによる『先生』救出作戦が行われている少し前、サンクトゥムタワーの地下にある牢屋にアルを除く便利屋68の面々の姿があった。

 ムツキの軽い声と共に牢屋の鍵が開け放たれると拘束されていた囚人達がゆっくりと彼女達の元へとやってくる。

 

「捕まるなんてらしくないね」

 

「はっ、旦那と関わった奴の成長っぷりはよく知ってるだろ?まっ、次は負けねぇよ姉さん達」

 

 FOX小隊に捕まっていたレイヴンの面々、中でもリーダーであるレイヴン9が凝り固まった肩をほぐしながら好戦的な笑みを浮かべる。

 

「その顔を見るにまだ旦那は帰ってきてねぇみたいだな……」

 

「そうだね。何処で何をしてるのか……っと、今はその話を置いておく。状況は──」

 

 拘束されていて外の状況を知らないであろうレイヴンへカヨコが説明しようとするが、レイヴン9はそれを手で制すと両手を拘束していた枷を力づくで破壊し、歩き始める。

 

「ちょっと」

 

「──戦えば良いんだろ?傭兵に正義だと悪だのそういう細かい事は知ったことじゃねぇんだわ」

 

 自分に求められている事をよく理解しているレイヴン達は、先を歩き出した彼女に続く様に笑いながら歩き出しムツキから渡された鍵で拘束を解除していく。

 

「それに私らが従うのはただ一つ、旦那の命令だけ。助けてくれた事には感謝するがこっちはこっちで好きにさせて貰うぜ」

 

 解き放たれた鴉の群れが、地上へと羽ばたく。

 正義と悪、理想と現実が入り混じる戦場にただ一つの自由意志を貫く為に。




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