便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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こんな展開、私が見逃すと思うかね?

「うぐっ……ぐぐ……」

 

「あっはは!見事に筋肉痛だねぇ!!鷹さん、おじさんみたーい」

 

「事実、君達に比べればおじさんだとも……ッッ……」

 

「はいはい動かないの。とりあえず、湿布は貼ってあるから安静にしてな」

 

 ククッ、全くもって情けない事だが、事務所のソファで突っ伏しておく事しか出来そうにない私は、カヨコ課長の言葉通り、大人しくしているしかない様だな……まさか、久しぶりの全力疾走だけで足がピクリとも動かせないほどの筋肉痛になるとは……

 

「ただいま戻りました。あ、バイステンダーさん、これ、爆弾を仕掛けるついでに、痛み止め買ってきましたので、ど、どうぞ」

 

「おぉ……ありがとうハルカさん、今ばかりは君が救世主に見えるよ」

 

「きゅ、救世主だなんてそんな!?」

 

 いやいや、この痛みを和らげる事が出来るのなら藁にでも縋りたい気分だとも。

 ふむ、内容物的にもキヴォトス外の人間である私が使用しても、特に問題はない様だな、実際に使われているのかは知らないが、余程の事が無ければ怪我することもない彼女らに合わせて、モルヒネなど使われていればそのまま死亡という笑えない流れもあるかもしれん。

 

「……はぁ」

 

「アル社長、悩みもそこまでに皆と共に、柴関のラーメンでも食べに行くと良い。私は適当に事務所にある非常食でも、摘んでいるから」

 

 朝からずっとため息を溢しているアル社長の悩みは大方、予想が出来るがアビドスの生徒達(ソレ)も含めて、自らの責任で背負うと決めたのは彼女だ、私に介入する気はさらさら無い。

 

「……そうね、バイステンダーには悪いけど、まずは腹拵えといきましょうか。行くわよ、みんな」

 

「ククッ、私は暇つぶしに調べ物でもして時間を潰しているとしよう。何かあれば、連絡をくれ、必ず迎えにいこう」

 

 浮かれない顔で出ていくアル社長と、そんな彼女を心配する他の皆を見送る……やれやれ、本当にアウトローには向いていない善性だなアル社長。

 まぁ、面白いから構わないが、さてと調べ物をするとしよう。

 

「……ぐっ、机の上に移動させたノートパソコンに触れるのすら一苦労だな全く!」

 

 どれだけ身体を鍛えたところで、彼女らの足元にも及ばないがこうならん程度には、鍛えないといずれ泣きをみそうだ。

 

「ふむ、数十年前から頻発している砂嵐による砂漠化……それに伴う復興資金の確保として、膨大に膨れ上がった借金……そもそも、そんな規模で何故、砂嵐が起こった?」

 

 数十分ほど、調べ上げた情報によれば、確かにアビドスの旧自治区には『アビドス砂漠』という砂漠地域はあり、雨が降らない──つまり、乾燥状態が長引けば、天候次第によっては大きく砂が巻き上げられ、数日間、街を覆うほどの砂嵐になりはするだろう。

 だが、それほどの乾燥地域であれば、行われなくなって久しい様だが『アビドス砂祭り』が、開催される事はないだろう……環境の悪化か?

 

「いや、記録されている限り、キヴォトス全域で大きく変わった環境データはない。火山の噴火などはあるが、さすがにアビドスとは無関係と考えて良いだろう」

 

 アビドスだけ環境が変化する……黒服が一枚噛んでいると仮定しても、そんな回りくどい事をするぐらいなら、アビドスでテロ行為でも誘発し、治安維持の為の契約を迫るだろうから、この仮定は成り立たん。

 今でこそ、アビドスを切り取ろうとしているカイザーも、アビドス側から金の無心があったらこそしているだけであって、わざわざ環境を変えるほどの無茶な開発という事前投資をするとは思えん。

 

「……ん?なんだ、砂漠化とほぼ同時期にやたらと建物の改修工事が頻発しているな。戦車や戦闘機を動員したとしても、破壊の規模がやたらと広いな」

 

 金のある組織であれば、戦車や戦闘機を動かしてまで自治区内で暴れる事もあるだろうが、精々、一日でアビドスの一区画を焼け野原にすれば良い方だろう。

 だが、記録にある範囲は一区間どころか時にアビドスの半分であったり、そうする理由に検討が付かない縦一直線に少なくとも二区画以上に渡って、建物の破壊が行われた形跡がある……あり得ん、これはもはや他の学園と戦争でもしたのかと云うレベルだ。

 

「異常とも言える砂漠化、広域すぎる破壊行為、黒服、カイザーPMC……そうか、あの滅びを齎した存在……貴様が眠っているのか」

 

 見飽きたバッドエンドも時には役に立つ様だな、しっかりと見た訳ではないが、確かにあの景色は広大な砂漠と、ヘイローを浮かばせる機械仕掛けの巨大な蛇が、生徒達の骸を砂に飲み込みながら、何処かの学園を飲み干していた……アレがアビドスだったのか。

 

「砂漠地域は総じて、地盤が弱い。そんな地盤を巨躯が破壊して回っていたとすれば、砂嵐の頻発にも納得がいく、いや、寧ろ、奴自身が砂嵐を起こしていたのかもしれないな。なるほど、黒服が小鳥遊ホシノに執着する理由は、神秘と片付ければ良いだけだったが、何故、そこにカイザーまで関わっているのかが謎であったが、この兵器を欲したか」

 

 ……あぁ、全く、分かってしまえば実に下らない、見飽きた凡百の理由だな。

 

「あぁ……物に当たるのは良くなかったな。これは便利屋68の備品でもあるのだから」

 

 苛立ちと共に乱雑に閉じようとしてどうにか踏み止まり、ソファに全身を預ける。

 

「ッッ……とりあえず、ハルカさんが買ってきた痛み止めでも飲むとしよう」

 

 水と共に薬を飲めば少しは気分も落ち着くだろうと、事務所を非常にゆっくりと動き水を汲み、痛み止めを飲みこみ、再び、ソファに身を預けたが、今度は全くと良いほど何かをする気が起きず、ただボーッと時を刻む時計を眺めていた。

 

 そんな時間が永遠と続くと思われたが、暫くして遠方から爆発音が聞こえてきて、意識が現実に戻って来る事となる。

 

「……ん?この爆発音、そうか戦闘を……む?」

 

 爆発音が一回限りとは妙だな?

 確か、作戦ではアビドス生徒達を所定の位置に誘き出し、複数回の爆撃を行う筈だったが……何か手違いでもあったかね?うむ、アル社長のせいでこの説が濃厚だな。

 

「いつでも出られる様に着替えておくとしよう」

 

 少しずつ痛みが鈍くなってきた身体を動かし、着ていたジャージから黒スーツと白衣に着替えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“まさかゲヘナの風紀委員会が出てくるとはね”

 

 ラーメン屋柴関が爆破されたという報告を受けたアビドス一同が向かった先には、下手人と思われる便利屋68の面々がおり、彼女らとの交戦を開始。

 しかし、決着がつくより早く、外部からの砲撃により戦闘が中断されると、そこに現れたのはキヴォトスでも屈指の問題児達を取り締まるゲヘナ風紀委員会であった。

 彼女らの目的は、便利屋68の逮捕の様だが、同じ場所にいる『先生』やアビドスの生徒達を避難させるつもりはない様で、不幸な事に彼女らも便利屋68に対する包囲網に囲まれてしまっていたのだ。

 

“……便利屋68の子達が、砲撃で伸びてるのに包囲網を解く気配はない……私も狙いの一つに含まれているのかな?”

 

『……先程も申し上げた通り、我々は業務の一環として来ただけですよ?』

 

“そっか。それにしては随分と、大軍なんだね。たった四名の便利屋の為だけにこんな数を用意するなんて”

 

 ピクリと投影された風紀委員会副委員長、アコの偽りの笑顔を浮かべる口端が動き、それに対して『先生』はニコリと微笑みかける。

 

『ンンッ、兎に角!私達は業務の一環で来ただけですので、どうかご協力を頂けませんか?』

 

「このまま大人しく引き渡すつもりはない」

 

「そうですね、彼女達の背後にいる正体もまだ分かっていませんし。先にお話を聞かせて貰いませんと」

 

『そういう訳で、交渉は決裂です!ゲヘナ風紀委員会、あなた方に退去を要求します!!』

 

“らしいよ。もちろん、私も彼女達に協力すると宣言している以上、ここで退くつもりはない”

 

『うーん……本当は穏便に済ませたかったのですが、これはヤるしかなさそうですね?』

 

 この場で最も高い命令権を持つアコの言葉によって、風紀委員会の下がっていた銃口が持ち上げられ、アビドス対策委員会に向けられる。

 援軍も含めてかなりの数になっている風紀委員会に対し、ホシノを欠いているアビドス対策委員会では、戦う前から勝ち目が分かっている様な物で全員に冷や汗が溢れる、そのタイミングで──ショットガンの銃声が風紀委員会側から鳴り響く。

 

「許せない……」

 

 単身で風紀委員会側に潜り込んでいたハルカの半狂乱と共に放たれる銃弾は、一気に風紀委員会側の陣形を突き崩し、場を混乱させると、その勢いそのままに現場指揮官であったイオリを見事に打ち倒す。

 

「嘘つかないでアコ。他の自治区まで出しゃばる様な非効率な運用、あの風紀委員長がする訳ないでしょ」

 

 包囲網を崩しながら、昏倒していた思われていた便利屋68の面々が姿を現す。

 

『……面白いことを言いますねカヨコさん』

 

「私達を相手するには多すぎる数は、他の戦力との衝突を予期していたから。アビドスの人数を考えれば、それは彼女達ではなく、ここに居る『先生』……違う?」

 

『……はぁ、流石はカヨコさんですね。『先生』だけであれば、どうにか誤魔化すつもりでしたが、こうも推理されてしまっては誤魔化すのも無理でしょう。でも、そうですね、あくまで最悪の想定だったとは言っておきましょう』

 

 そうしてアコは、自らの行動理由を説明していく。

 きっかけはゲヘナと長年、敵対関係にあるトリニティ総合学園の生徒会『ティーパーティー』がシャーレに関する報告書を手にしているという話が、情報部から上がり、これから結ばれるトリニティとの条約にどの様な影響を及ぼすか分からないため、風紀委員会の庇護下に『先生』を置く為の行動であり、便利屋68に関してはついでだったと。

 

“わぁ、私ってば人気者だね……その申し出は嬉しいけど、アコ。私はアビドスの皆を助けるまで、此処を離れるつもりはないよ”

 

『そうですか……残念です』

 

 アビドス対策委員会と、風紀委員会の間に一触即発の空気が流れ出すが、その空気が、ついでと言われた事に腹を立てる一人の『社長』の怒れる心に油を注いでしまった。

 

「……ふふっ……ふふふふっ……」

 

「社長?」

 

「……ねぇ、カヨコ、あなたはもうとっくに私の性格、分かってるんじゃなくて?」

 

 その言葉に首を傾げるカヨコを他所に便利屋68社長、アルは一歩ずつ前に歩み出していく。

 

「こんな状況で、こんな扱いされておいて……背中を向けて逃げる?そんな三流の悪党みたいなこと、私たち便利屋がするわけないじゃない!!!」

 

 アウトローを志す彼女の熱意が、プライドがまるで取るに足らない存在だと、扱われている今に対して高らかに遺憾の意を吼える。

 相手はゲヘナ最強の風紀委員会?そんなものは関係ない。

 

 ダンっと溢れ出る闘志を纏った彼女の足が、アビドスの大地に叩きつけられ、誰の目にも映っていなかったその気高き姿へと視線を向けさせ、多くの視線が集まる中、彼女はアウトローを目指す者として、胸の内に沸る熱意をぶち撒ける。

 

「あの生意気な風紀委員会に一発食らわせてやらないと気が済まないわ!」

 

 そして、そんな面白い状況で大人しくしていられるほど、この男も大人ではなかった。

 

「よくぞ言ったアル社長!!」

 

 響くエンジン音と共に、風紀委員会の者達を荒々しい運転で轢き飛ばす黒のCTS-Vが、颯爽とアル社長達を庇う様に止められ、そこから近しい者にしか分からないが湿布の匂いを漂わせる黒スーツ白衣の男が降りる。

 

「ククッ、カヨコ課長からの連絡を見て来てみれば、なんとも面白い状況ではないか。アル社長、君のアウトローとしての生き様、私の胸の奥に響いたとも。是非、その輝きを間近で見させて貰いたいのだが、良いかね?」

 

「……こんな危ないところに来て。何かあっても知らないわよ?」

 

「ククッ、覚悟の上だとも」

 

「そう。じゃあ、存分に私の勇姿をその目に焼き付けなさい!!」

 

「……はぁ」

 

 二人の高らかな笑いに掻き消されるように、カヨコの小さなため息が溢れたが、『先生』以外その事に気がつく者はいなかった。




このシーンのアル社長、大好きというか私が彼女に惚れ込んだシーンなので、どうしても彼も絡ませたくなった結果、イカれたドライビングテクを持っている事になったけど、後悔も反省もしていない!!

感想やここすき待ってるぜ!!
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