便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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ちゃんと見ているとも

 不知火カヤは兵士ではない。

 銃火器を当たり前に所持し、自らの感情に従って発砲するキヴォトスであるが故に必要最低限の腕前は持っていたが、彼女の本領は戦う前に勝利する──即ち、肉体ではなく、頭脳を用いた策謀であり言ってしまえば今の様に真正面からセラと銃を構えているのは負けに等しいものだ。

 

──だからなんです? 本分が戦う事ではないから降参しろと……冗談を。

 

 セラと出会い前の彼女であれば、持ち前のプライドの高さからくる譲歩にすらならない上から目線で無様にも慌てふためき、許しを乞うだろうがそんな情けない自分はとうに捨て去っている。

 

「ッッ!!」

 

 開始の合図などなく、カヤは引き金を引きながらセラへと駆け寄る。

 スムーズな指切りで打ち出される三発の弾丸は、駆け寄る為に揺れ動いているとは思えない程、正確にセラへと向かって飛んでいくが彼女は楽しげな笑みを浮かべたまま、ソードオフショットガンの引き金を引きコインの散弾を打ち出すとカヤの弾丸を撃ち落とし、間合いを詰めた事が不利へと繋がってしまった。

 

「ほぅ」

 

 しかし、セラの対応を読んでいたカヤは走る速度そのままに放送の為に余計な物がない部屋を、スライディングし射線上から逃れると彼女を見下ろす愉悦極まった表情に向けて一発、弾丸を放つ。

 

「ククッ!!」

 

「くっ!!」

 

 上体を逸らし、弾丸を避けると右足を軸に身体を捻り鋭い回し蹴りをしゃがんだままのカヤに向けて放ち、彼女は腕を盾に防御するが神秘を込めて強化された一撃は彼女に苦悶の表情を浮かべさせ、吹き飛ばす。

 

「そんなものかね?」

 

 中折れ式のソードオフショットガンにコインを器用に片手で詰め直しながら、セラはフルオートショットガンを容赦無くカヤが吹き飛び崩してしまった長机に向けて放つ。

 咄嗟に机を盾に隠れるカヤであったが、防弾使用ではない机ではそう長く時間を稼げず穴がどんどん広がっていく。

 

「いいえ、まだですよ!!」

 

 そんな机の破片を拾い上げ、彼女は山なりに放り投げる。

 反射的に机の破片へと視線を向けるセラだが、自分に直撃するコースではない事を判断するとソレに興味を無くす──刹那、一発の銃声が響くと空中で破片が向きを変え鋭い刃の様にセラへと向かって落ちる。

 

「!!」

 

「──そっちで防ぎましたね?」

 

 咄嗟にソードオフショットガンで自身に向かってくる破片をはたき落としたセラに向けて、フルオートショットガンの射線から勢い良く飛び退く事で逃れたカヤは自身の身体が横倒れという不安定な姿勢のまま、銃弾を二発放ち一発は避けられてしまうが二発目がセラの頬を撫でる様に掠めていく。

 

「ククッ!!考えたなカヤ」

 

「えぇまぁ。あの小鳥遊ホシノさんと真正面からやり合う貴女を打ち倒すには、曲芸の一個や二個身に付けておく必要がありますからね」

 

「……その名を出すな。興が削がれる」

 

「喧嘩するほど仲が良いとも言いますけどッッ!!」

 

 冗談とは言え、ホシノと仲が良いと言われた事に鳥肌を立てるセラはこれ以上、変な事を言われないうちにとフルオートショットガンのマガジンをカヤに向けて放り投げ、彼女を黙らせると共に取り回しに優れたソードオフショットガンで撃ち抜き広範囲にばら撒かれる弾薬とコインの雨を作り出す。

 

「くぅぅ!!」

 

 この戦いを見越して特殊な繊維で作った連邦生徒会の制服を盾に、身を守るカヤだが衝撃そのものを打ち消す事は出来ず、全身をバットで殴打される様な衝撃に苦悶の声を漏らす。

 幸運だったのはセラが二つあるショットガンのどちらも弾を撃ち尽くしていた為、カヤの明確な隙を攻撃ではなくリロードに使ってくれた事だろう。

 しかし、その身を守った代償に特注の制服はボロボロとなりこれ以上、着続けるのはむしろ邪魔と呼べるものに成り果てた。

 

「……いつつ、これ結構、気に入ってたんですけどね。格好いいですし、貴女の色を背負えますから」

 

「君一人に背負われるほど、私はまだ耄碌してないつもりだよ」

 

「でしょうね。仮に貴女がおばあちゃんになっても、その辺の子供と一緒に走り回ってそうですよ」

 

「ククッ、そういう君は縁側で茶でも飲んでいそうだな」

 

「まぁ、貴女に比べれば活発的ではないでしょうけど──これでも結構、動けるんですよ」

 

 ボロボロになった連邦生徒会の制服を片手で脱ぎ捨てると、その下から身体のラインにピッチリと沿ったライダースーツを纏っており、カヤは腰からもう一丁の拳銃を引き抜くと両手をクロスさせる戦隊ヒーローの様な構えを見せる。

 

「ちなみにコレも特注品です。カイザーの技術を接収して、部下に造らせました」

 

「ほぅ。随分と格好良いな」

 

「身体能力向上に加えて、ある程度の衝撃の無効化および緩和、緊急時にはこのスーツ自体がAEDなどの代用を自動的に行ってくれる優れ物です。セラ、貴女が私に降ってくれると言うのなら差し上げますよ?」

 

 カイテンジャーに協力し、カイテンコマンダーを名乗った様にセラがこういうヒーローチックな格好に関心があるのを知っている彼女は軽く揺さぶってみるが、セラは楽しげに笑うだけで首を横に振った。

 

「そんなつまらない決着は互いに望んでいないだろう?」

 

「えぇ──そうですね!」

 

 両腕をクロスしたまま、拳銃の引き金を引くカヤ。

 当然、狙いは大きくセラから逸れる為、彼女は避けるまでもなく銃弾はあらぬ方向へと飛んでいく。

 

「ふむ?」

 

「──私ではどれだけ逆立ちしても、貴女を真正面から撃ち倒すのは無理です」

 

「……」

 

「天性の才能の差、努力をしたところで埋め切る事は出来ないものが私と貴女にはあります。ですので──」

 

 キィン!!と甲高い音が響き渡る。

 

「ぐっ!?」

 

 その音から少し遅れて、セラは背中に衝撃を感じ体勢を僅かに前のめりに崩す。

 

「──()()という曲芸を身に付けさせて貰いましたよ」

 

 セラを通り過ぎた弾丸。

 何事もなければ壁にめり込み、止まる筈だった弾丸はカヤが弾道を計算した上で放った事で跳弾し背後からの弾丸へと変わったのだ。

 

「戦場の全てを見渡し、卓越した指揮を見せるだけではなく特級戦力とも真正面から戦える貴女でも、見える筈のない一撃は当たる様ですね」

 

 FOX小隊と共に積み重ねてきた努力が通じる事に気を良くしつつ、カヤは追撃の為に次々と引き金を引く。

 狭い室内という戦場は、本来であれば室内戦にも適しているソードオフショットガンを持ち、逃げ場のない散弾を放てるセラが有利に立ち回れるのだが、カヤが跳弾を扱えるという事は条件が変わってくる。

 

「ククッ!!」

 

──彼女が引き金を引く度に私は、強制的に二択を強いられる訳だ。素直に私を狙うか、跳ね返り飛んでくるか。

 

「どう選んでも思考にノイズが走る。鬱陶しいですよね、思考が得意な人間にとってコレは」

 

 キィンって跳弾する音が聞こえる度に、セラはそれが自分に飛んできているのかどうか考える必要があり、先ほどの様にコインの散弾で撃ち落とすという選択が即座に取るのは難しくなる。

 しかも、得意の未来視を用いても跳弾の中に()()()()()()()()()()()()()()()が混ざる為に、確率を観測するセラの未来視との相性が悪く避けたと思った筈の攻撃がセラを撃ち抜く。

 

「よく考えたものだ……確かにコレは私殺しと言える」

 

 ここに至るまでカヤが成長し続けた事を嬉しく思うセラは、銃弾を浴びながらも笑みを深めていく。

 そのセラの表情を見て、このまま自分が有利な立場にあり続ける事は不可能だと断じたカヤは何かセラが動き出すより早くに、決定打を与えようと跳弾の中に真っ直ぐに飛んでいく攻撃を織り交ぜる。

 

「だが、このまま負けて君が全ての悪意を引き受けるなどという退屈な結末を迎えるつもりはないとも!」

 

「ッッ、誘われた!!」

 

 銃弾の勢いが衰える跳弾ではなく、決め手を求めたが故にセラを閉じ込めていた跳弾の檻が崩れその隙間をセラは自分に直撃の銃弾が迫るのを気にも止めずに駆け抜け、カヤとの距離を詰める。

 

「このっ!!」

 

 後ろに飛び退きながら、込めてある銃弾全てを撃ち尽くす勢いで引き金を引き続けるカヤ。

 だが、セラは──青空を思わせる色彩は止まらない。

 

「──よく、頑張ったなカヤ」

 

「ッッ!!」

 

──あぁ、もぅ狡いですよ。そうやって、一番欲しい言葉をあっさりくれるんですから。

 

 カヤの腹部にソードオフショットガンが突き付けられ、引き金が引かれる。

 容赦がない鬼畜と言われても何一つ否定が出来ない衝撃が、特注のライダースーツの上からでも放たれたカヤのヘイローは一瞬で明滅を繰り返し彼女の両手から二丁の拳銃がこぼれ落ちた。

 

「っと」

 

 地面へと倒れ伏せるカヤの腰を抱き留め、自らへと寄せるセラは、ぐったりとしているカヤの表情をよく見るために手を引っ張り自らの方へと近づける。

 

“カヤ!!凄い銃声……だけ……ど……えぇぇ!?!?セラ!?!?”

 

「……えっとこれは……」

 

 慌てて駆け込んできた『先生』とミヤコの視線の先では、ぐったりとしているカヤを抱き留め今にもキスでもするんじゃないかという距離感にセラがいるのだから状況が理解出来ず、混乱しても仕方がないというものだ。

 

「……む?ちょうど良い所に来たな『先生』少し、協力して貰おうか」

 

“その前に状況を説明して欲しいんだけど……あーうん、やっぱり良いや。する気ないもんね君”

 

「ククッ、私の事をよくわかっている様で何よりだ。なに、これから始まる茶番劇にちょうど君が適役というだけさ」

 

 そう言ってニヤリと、セラは悪い笑顔を浮かべた。




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