便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア 作:マスターBT
カヤの放送が乱れて、三十分が経過していた。
「……なんだったんだ?」
「さぁ?」
「へっ、どうだっていいだろ。どうせ、倒さなきゃいけない相手だ」
「そうだな。さっさと連中を倒して──」
戦いの最中にある者達の全てを呑み込んでいたあの異様な気迫に満ちたカヤの言葉が絶たれたことで、再びの武力衝突が始まろうとしていたが、放送の再開を告げるノイズが走った。
それは時を同じくして、地下の牢屋から解放され外へと飛び出したレイヴン達がFOX小隊の面々と三度目の再戦を始めようとしている時に起きる。
『──相も変わらず、無駄に争っているところかな諸君。実に細やかな努力を積み重ねるもので関心すら覚えるよ』
この場に集まっている全ての人間を馬鹿にする言葉が紡がれた。
すぐにどんな人物が喋っているのかと、モニターに視線を向けた者達はカヤではなく、デスマスクを連想させる無機質な仮面を身に付け、壊れている右頬の辺りから生きた人間の肌を露出させた青い髪の黒いゴスロリドレスを纏う女子生徒を見る。
「へぇ?」
レイヴン9は楽しげな笑みを浮かべ、視線をモニターの中の人物へと向け、もはや彼女の目にはFOX小隊の一人も映っていなかった──仕える主が戻って来たのだから。
『諸君らの奮戦は良い演劇であったよ。私が裏から手引きしただけに過ぎない小娘の奸計にこうもあっさりと乗っかり、共食いを繰り広げてくれるのだからねぇ。本当であれば、私がこうして諸君らの前に姿を現す事はなかったのだが──』
そこでカメラが動き、地面に倒れ伏し動かなくなっているカヤを映し出す。
『都合の良い操り人形でいれば栄光も地位も全て思うがままにいられただろうに、何処で勘付いたのか自分が潰れる事も厭わず私を白日の元に曝け出した。ククッ……見込んだ以上に優秀な駒であったな』
仮面の真実を知る者、やり方をよく知っている者、彼女と関わりの深い者達はモニターに映っている者の正体が誰か──『萬屋 セラ』である事を理解し、悪辣な言葉を続ける彼女に対し安堵と呆れのため息を溢す。
そんないつも通りの扱いをされいる事など梅雨知らず、セラは演説を続ける。
『無論、ただ黙っていればこの娘は自らが集めた悪意と反転した善意によって倒れていただろうが、その様な自殺行為に巻き込まれるのは御免でね。最優先事項は達成出来なくとも、次点の目標を達成させて貰う事にしたのだよ。さぁ、来たまえ』
“ッッ……”
その瞬間、呆れ返っていた者達も含めてキヴォトスの全ての人達が驚きを隠せなかった。
ある者はいつも通りの山の様に積み重なった書類をぐちゃぐちゃに握り締め、またある者は完璧な計算式を意味のない線の羅列に変え、またある者は優雅のカケラもなく飲んでいた紅茶を吹き出し、向かいに座っていた者の怒りを買い、またある者は外に停めている自転車へと勢いよく跨った。
それも仕方のない事だろう、彼女らの視線の先には紐でぐるぐる巻きにされた『先生』の姿があったのだから。
『実に優しい事だ。彼女を止めようとのこのこ現れたところをこうして捕まえさせて貰った。諸君らも知っての通り、今のキヴォトスにおいてこの者がどれ程重要であるかは改めて語る必要はないだろう。私の此処に至るまでの労力は『先生』をもって報酬とさせて貰うとも』
セラはその言葉と共に僅かに仮面をズラすと、口元を露出させゆっくりと『先生』の自分の方へ引き寄せると画面の向こう、この映像を観ている全ての者達に煽る様に──『先生』の首筋をペロリと舐めた。
“んっ……”
『良い声を出すじゃないか。ククッ、これはこれは楽しめそうじゃないかね?』
表情の殆どは伺えないが、セラの声は愉悦に染まっておりまるで晴れた日の朝にスキップをして、遊びに出かける様な子供の弾みを連想させるものであった。
『──だがしかし、そうだな。私一人で遊ぶというのも些か芸が無いと言えるか。ふむ……あぁ、一つ良い案を思いついたぞ。諸君らの中には『先生』に対して並々ならぬ想いを抱く者達も居るだろう。そうではなくとも、諸君らの矜持を良いように扱われ傷ついたという取るに足らない連中も居るだろう。そう言った者達に最後のチャンスをくれてやろう』
『先生』を腕に抱き抱えたまま、セラは移動していき窓際に立つと器用にソードオフショットガンで窓を破壊すると報道機関に混ざっていた一機のヘリが飛んできて扉を開く。
風切音が鳴り響く中、不思議とかき消えない声で彼女はこれから始まる茶番劇の開始を宣誓する。
『これより、日没までの間に私を捕らえた者にはその者の願いを叶えてやろう。なんでも良いぞ。私が気に食わないと言うのなら報復を!!巨万の富を稼ぎたければ金を!!そして──『先生』が欲しければ持ち得る全てを使って私を追いかけると良い!!』
“ちょ!?セムグッぅ!?!?”
『先生』をお姫様抱っこで抱きかかえ、サラッと本名を呼ぼうとした間抜けな口を閉じさせセラはヘリへと飛び乗るのだった。
『あぁ──勿論、私の味方は配置しているとも。万の代行者に空を飛び回る自由な鴉達よ』
“私が報酬になるとか聞いてないんだけど!?”
「ククッ、貴方はちょうど良い目眩しになるからな──ケイ、ハッキングとヘリの手配感謝しよう」
役目を終えたプレゼンを床に置き、防音と安全用のヘルメットを身に付け用意された席に座れば操縦桿を握るケイの呆れた視線が向けられた。
人使いが荒いと言いたげだが、君をよく使うのは今まで通りの事だろう?
「……で、今度は何を企んでこんな騒動を起こしたんですか?」
「無論、頑張り過ぎたカヤを休ませる為だとも。何処で学んだのか、キヴォトスに渦巻く悪意を自らに集め自身が去る事で、全ての勢力を話し合いというテーブルに座らせるなどという自己犠牲をしようとした娘をね」
細かい経緯はキヴォトスを離れていた私には分からないが、あれ程までにキヴォトスの悪と正義をぶつけ合わせるとは随分と策士に育った様で何よりだ。
未来視で見た悪戯に盤面を掻き乱し、物語を破綻させようと企んだ同一人物とは思えない程だに。
「先ず、カヤに良くも悪くも集まった悪意の矛先を逸らす必要があった。故に私は裏で手を引いていた真の悪役……ゲームで例えるなら大魔王と役回りを演じる事にしたわけだ。それもカヤは裏に潜む私を誘い出す為の一手を打ったように演出する事でカヤが単なる操り人形ではなかったと刷り込むために」
“まぁ、確かにセラは大魔王が似合うタイプだよね”
「裏から手を出していたというのもあながち、嘘では無いのが本当にタチの悪い」
言いたい放題だな二人とも?
まぁ、全て嘘偽りで塗り固めるよりも真実を混ぜた方が人を騙せるからな。
「だがそんな大魔王の私にノコノコと釣られるのは同じ悪党が関の山。そこで『先生』という報酬が必要だった訳だ。キヴォトスは学園によって運用・管理される群れだ。正義は当然、学園にありその学園の者達の多くは『先生』に入れ込んでいる。私という大魔王に興味はなくとも、『先生』というお姫様には飛び付かずにはいられない訳だ」
「ヒロイン属性高いですからね『先生』」
“そうかなぁ?”
「カメラ役を頼んだミヤコ嬢が途中から凄い視線をしていた事に気がついていない辺り、適正が高いとも」
“???”
そこで子猫のような表情を浮かべるから適正が高いと言っているのだが……まぁ、言ったところで治るわけでは無いなこのお人好しは。
「本題に戻すが、人は存外に単純な生き物でな。どれだけ大きな出来事があろうともそれを上回る自分にとって関心が強い出来事が起きればあっさりと前者を忘れ去る。この騒動が収まれば冷静な者ほど、カヤが起こした騒動に気を戻すがその時点では既に都合の良いカバーストーリーが構築されているだろう。以前ならともかく、今のカヤを損切り出来るほど連邦生徒会は人が多くないからな」
故に私は少々、キヴォトス全域が盛り上がる演目を用意すれば良かった。
カヤはある程度の責任を負い、代行の地位に座り続けるのは難しいだろうがそれを今の彼女は望んでいないだろうし、リン嬢が戻れる算段はきっと用意している筈だ。
「──まぁ、その代わり」
『見つけた。『先生』を返して』
『ちょっとアレ!!ウチのヘリじゃないの!!』
『『先生』〜助けに来たよ〜☆』
キヴォトス三大校が揃い踏みとは……いやはや、大変だな。
「日没までの大悪党を演じなければならないがな。頼んだぞケイ」
「ほぼ弾幕ゲームなんですが」
「モモイ嬢のゲームよりはマシだろう?」
「確かに」
四方八方から飛び交う弾幕の雨をケイが操縦するヘリが切り抜ける。
ヘリの暴風など全く涼しい顔で、身を乗り出し弾幕展開するヒナ嬢にドローン兵器を駆使し弾幕の密度を上げるユウカ嬢、もはやヘリとか関係ない隕石を呼び寄せるミカ嬢……最後だけ何かおかしくないかね?
「とは言え……キヴォトスでも有数の強者から逃れ続けるのはッッ!!」
『追いついた』
“ヒナぁ!!”
ふむ……操縦手がアコ嬢な辺り、ゲヘナ風紀委員会総出と考えて良いだろうな。
「ククッ、ケイ。ヘリの高度を上げたまえ。そうだな……その辺りのビルより高所へと」
「正気ですか?敵の射線も数多く通りますよ」
「構わん。その程度で堕ちる君ではあるまい」
返事はなかったが、流れる身体にかかるGと景色が下に流れていく為、ケイは指示通りに上昇してくれているようだな。
チラリとレーダーを見れば、我々の機体を追いかけるようにヒナ風紀委員長も素直に追いかけてくれている様で安心するよ……やはり極上の餌だな『先生』は。
「くっ……流石に弾幕が濃いですね……ですが、これで良いんですね!?」
「あぁ。これだ、この高度が──」
『──此方、万の代行者よ。そのままで居てそこが──』
「『最も気持ち良く狙撃を行える場所だから』」
窓から視線を向ければ何処までも青く、そして広がる文明の色の中に一際輝く『赤』が存在を主張していた。
君ならあの放送を聞き届けた時点で、自分に出来る精一杯の為に配置についてくれると未来視をするまでもなく信じていたぞ──アル社長。
『ッッなに!?』
『委員長狙撃です!!そ、そのプロペラが……プロペラが一片も残さず吹き飛ばされました!?』
『……陸八魔アルね』
爆音と共にプロペラを失った風紀委員会のヘリが飛ぶ力を失い堕ちていく。
あの辺りであれば、ちょうど良い空き地があった筈だから被害は最小限に留める事が出来るだろう。
まぁ、後日菓子折りの一つでも届ける必要はあるかもしれんがね。
「全く……詳しい説明をしてくれるわよね?セラ」
「ククッ!!ビルから飛び移ってくるとは君も中々だなアル社長」
「中々だな……じゃないわよ!?全然帰って来ないんだから、皆、大変な事になってるのよ!?あとでボコボコにされても助けてあげないからね!!」
「む。それは困るな」
「今、この場は手助けするけどちゃんと謝ること。良いわね?」
私の無茶振りにも慌てこそすれ、便利屋68を預かるトップとして毅然と落ち着いた対応を示す……成長したものだなアル。
アビドス砂漠での一件で、君が握るべき引き金を代替わりしなくて良かったと今なら心の底から思えるよ。
「あぁ。謝るとも。勿論、君にもねアル。随分と遅くなりすまなかったな」
「……ふっ、本当よ全く。おかえりセラ」
「ではちょうど良い狼煙も上げられた事だ。始めようか、キヴォトス『先生』危機一髪を!!』
“こうなったらヤケだ!!よーし、とことん付き合うぞー!!”
ナンダァコレェ
感想やここすき待ってるぜ!!