便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア 作:マスターBT
“君は何処まで今回の件を読んでいたんだい?”
「ん?もちろん、全てをなどと言えれば格好もついたものだが私は単に信じただけに過ぎんよ」
未来視の力を有していても、決して全能ではない。
ましてや私の未来視は確率であって、見えた景色に辿り着かない可能性も孕んでいるのだから……そう、言葉にしてしまえば実に単純な信頼であった。
「一から全てを描くのは大変だが、元となる下地があるのなら多少好きな色に染め上げるぐらいは簡単だろう?」
“相変わらず裏方が上手いというかなんというか……”
「ククッ、これでも元ゲマトリアなのでな。裏工作の一つや二つ得意だとも」
そもそも、前線に立つ者ではない探究者の集まりがゲマトリアなのだから本領とすら言える。
あのベアトリーチェですら出来るのだから私に出来ない道理はないさ。
「さて『先生』この扉を開ければ幕開けはすぐそこだ。ヒロインの役割は理解しているな?」
“分かってるよ。君こそ途中で趣味に走らないでね?”
「それは彼女達次第というやつだろう」
カンっと揃った足音を立てて上がってきた二人を見てニヤリと笑う。
「演じきってみせましょう」
「ククッ、では感動のフィナーレを始めようか!!」
ラスボスの演出というやつは派手に行うのが礼儀、足に神秘を集め鉄扉を蹴り破ると共に用意していた手榴弾を前方へ放り投げ爆発が起きると共に『先生』を引っ張り外へ飛び出した。
シャーレの屋上が爆発したのを
『おおっと、見えますでしょうか!!『先生』を拉致し、報酬とする事でキヴォトスを大混乱に導いた大悪党があの!!シャーレの屋上に現れました!!『先生』の首を締め上げ盾としながら逃げていく背中を追うのは……おおっと!?!?連邦生徒会の七神 リンと不知火 カヤです!!』
“ちょっ……だから首絞まってるって!?”
「景品を運んでいるだけ褒めて欲しいものだな」
“うぐぐ……ふ、二人とも助けてー!!”
若干の棒読みではあったが、声量は間違いなく出ていた『先生』の言葉はセラの目論見通りクロノススクールのマイクに拾われ彼女達特有の誇張放送がなされる。
『なんと悪辣な事でしょうか!!自らが逃げるために『先生』の首を締め上げ、二人へこれ以上近づけばどうなるかと見せつけています!!』
そんな事実はない。
生徒の身体になった事で『先生』の手を引くだけでは、スムーズに動かせないため本能的に足を動かせるように首根っこを締め上げているだけだ……一部、趣味が含まれているのは否定できないが。
「せ、『先生』を離してください」
「リン……棒読み過ぎですよ。劇とか苦手なタイプですか?」
「うぐっ」
「はぁ……見ててください。こうやるんですよ──無駄な足掻きはやめなさい!!私の策で表に引き摺り出された時点で、お前は詰んでるんですよ!!」
「ククッ!!筋金の入った道化よ!!相変わらず口だけは達者だな!!この私を止めると語るのならそのボロボロな身体で撃ってみる事だ。無論、『先生』に当たる可能性もあるがな!!」
『先生』を盾にするように移動させるセラを見て、カヤは下唇を噛みながら銃を構えるが震えているその手からは力無く銃が落下していく。
「ふっ、どうやら気合いで誤魔化すのも限界のようだな。貴様は一人では何も成し遂げられない……哀れな道化よ」
「ぐっ……やはり今の私では碌に銃を使えませんか……リン代行!!貴女があの悪魔から『先生』を救ってください!!」
ノリノリである。
演じる事が得意な二人、特にカヤにとっては今までずっと上から見下ろされ続け漸く認められたかと思えば何処かに消え、颯爽と自分の危機に現れて救ってくれた憧れの相手との共演──楽しくて仕方がないのも当然と言えるだろう。
「……『先生』ここだ。ヒロインらしく頼むよ」
“ええっ!?えっと……んんっ、リンちゃん!!私の事はいいからコイツを倒して!!”
『先生』としてはよく見るアニメの展開になぞって自分ごとやるんだ!!と言ったつもりだったのだが、この言葉と同時にリンの目がどんどんと据わっていき、先ほどの棒読みがなんだったのかと思う程の圧を放ち始める。
“あれ?”
「ふむ。どうやら現在進行形で大切な人を失っているリン行政官にとって、君の言葉はクリティカルを叩き出したようだぞ。おめでとう」
“リ、リンちゃ──”
「誰がリンちゃんですか!!こっちの気もしらないで!!」
滑らかな動きで腰から引き抜かれた拳銃は、SRTでも十分に通用する綺麗な構えと共に銃弾を放ち彼女の怒りを込めた弾丸は真っ直ぐに綺麗な軌道を通り、『先生』を盾のように使うために首の前に移動したセラの左腕を見事に撃ち抜いた。
「ぐあっ!?」
“わっ!?”
キヴォトス人にとって拳銃の一発など対したダメージにはならないのだが、セラは大きくそれこそ『先生』を二人の方へ突き飛ばす様に大振りでダメージを負った演技を行うと何度か後ろに仰け反りながら、屋上の境目に立つ。
ヘリを着陸させるために余計なフェンスなどがないシャーレの屋上の縁に立つという事は、何かの拍子があれば地面へと落下する危険を孕んだ危険な行動だ。
「……最後の景品すら手に入らんとはな。リン代行!!君を甘く見ていたよ!!そして、不知火カヤ!!貴様もな!!」
「これで終わりです。黒幕」
『先生』を抱き留めるリンを背後に、落とした拳銃を拾い上げたカヤの一発がセラの腹に当たり彼女は屋上から落下していった。
『決着です!!皆さん、ご覧頂けたでしょうか!?混迷を極め、全ての責任を問われていた連邦生徒会のお二人が見事、キヴォトスを大混乱に貶めた犯罪者から『先生』を救い出しました!!どこか演劇っぽかった気もしますが……これで連邦生徒会の疑いは晴れたと思っていいでしょう!!』
こうしてキヴォトス全土を巻き込んで行われたお祭り騒ぎの大乱闘は無事に、連邦生徒会所属のリン代行とカヤ防衛室長の手によって収束を迎えるのであった。
少しばかり彼女達のその後を描いていこう。
「──では、全員一致で次の生徒会長代行をリン行政官とします」
「はい」
カヤによって政変が起きた連邦生徒会であったが、騒ぎを収束させた代表者としてリンが再び、連邦生徒会会長代行の任を担うことになった。
これには一部、反対意見も懸念されたが彼女の政敵はカヤがある程度事前に間引いていたため、反対票は集まり切らなかった様だ。
「はぁ、この椅子ともおさらば出来ると思ったんですがね」
そして、色々と問題を起こしたカヤは功罪打ち消しという事で一週間ほどの謹慎処分という名の休暇を優雅に過ごし彼女もまた、防衛室長の席に座ってコーヒーを飲んでいる。
すると、そこへ彼女と同じ
「失礼する。カヤ臨時生徒会長」
「……分かっていってますよね?確かに今は再建を目指してSRTの生徒会長も兼任してますけど、将来的には貴女が引き継ぐんですからねユキノさん」
「私としてはカヤが続けても良いと思うんだが」
「嫌ですよ。大体、リンが押し付けてきた連邦生徒会の監査役の仕事もあるんです。これ以上、書類の山に沈むのはごめんです」
「ふむ。あの人との時間が取れなくなるものな」
「うなっ!?」
超人の空白に絶望し、何もかもを全て一人でやり遂げようとしていた凡人の姿はそこにはなく、立派に人を率いる器へと成長し誰の背を追う者でもない自分だけの道を歩み始めたのだろう。
追い詰められた表情ではなく、少女らしい赤面と微笑みを浮かべていた。
そして、好き放題キヴォトスを掻き回した一人の悪役はというと──
「ムツキ室長、カヨコ課長、ハルカさん。こうもくっつかれると身動き一つ、難しいのだが……」
「やっ。だって、鷹さん、すぐにどっか行っちゃうもん」
「ムツキに同じく……今は静かにしてて」
「ご、ごめんなさい。気がつくとその寄ってしまって……」
足の間に座り、セラの胸に正面から頭を預けてマーキングする様に頭を擦り続けるムツキと左腕を絡め取り、確かな圧と共にドクン、ドクンと動くセラの心臓の音に耳を澄ますカヨコ、注意されれば一度は離れるがすぐにまた右手を掴んでにぎにぎと存在を確認しては小さく微笑むハルカの三人に見事に拘束され、動けないでいた。
「アル社長」
「無理よ?というかその程度で済んでるだけマシよ。貴女が居ない間、凄かったんだから」
「……そんなにか?」
「えぇ。そんなに。あ、これ食べる?」
「いただこう」
対面のソファに腰掛けるアルの手からお茶請けの饅頭が、放り投げられるとセラがそれを上手く口だけでキャッチしモグモグと食べる──もう、慣れてないかしら?この状況にとアルは思った。
「あ、そうだ。セラ、今度の休みは空いてるかしら?」
「ふむ?特に用事は入れていなかったが、何かあるのかね?」
「そりゃもちろん埋め合わせよ。貴女の事だから帰ってくると信じてはいたけど──別に寂しくなかったなんて言ってないもの。ちょうど、私一人で片付けた依頼の報酬が
──アル、その誘いは嬉しいがこの状況でソレを言うのは随分と地雷な気がするんだが──とセラは口に出せず、流れる勢いのままアルとは追加で三件のデートが予約される事となった。
「(これは休日は当分先だな)」
他にもデートの誘いが来ている事を思い出しながら、セラは賑やかな喧騒に微笑みを浮かべ静かにけれど、この場に全員に届く様に言った。
「ただいま」
「「「「おかえり!!セラ」」」」
さて……この世界線、アビドス三章と鋼鉄大陸編が原作崩壊も良いところなんですが、どうしましょうね。ホシノのメンタルは揺らぎがほぼ無いし、ケイちゃんはかなりここたま!してるし……
あ、多分、百花繚乱編はやらない気がします。理由はセラのやり口が怪談特効というか……どう足掻いてもシュロが口でボコボコにされる光景しか見えぬ見えぬ。