便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア 作:マスターBT
便利屋68への好感度が足りなかったのか、選択を間違えたのか。
「事務所の引越しは待って欲しい?珍しいね、鷹さんなら真っ先に提案しそうな事なのに」
「確かに依頼は失敗続きに加え、アビドスの者達と共闘した事で心根的にも再び、敵対は難しいだろう主にアル社長が」
「べ、別に私は……はぁ……」
「……んんっ、ともすれば、依頼失敗の報復を恐れながら此処、アビドスに居続ける理由はないだろう」
便利屋68は相次ぐ依頼の失敗によって、アビドスからの撤退を行う判断を下そうとしていたのだが、私がそこに待ったをかけた。
彼女達と共にあれば何処であれ、退屈とは程遠い時間を過ごせるであろうが、私はどうしてもアビドスの結末を見届けたいと思っている……シャーレの『先生』やすれ違った小鳥遊ホシノがどの様な選択を取るのか、それによってどの様な結末が訪れるのか好奇心が抑えられない。
「しかし、『先生』やカイザーPMC、抵抗を続けるアビドス……そしてアル社長は知っているが、黒服の存在。今、此処は下手すればゲヘナ以上の混沌が蠢く渦中だ。その様な場所であれば、デメリットよりもメリットが勝る……そう、上手く立ち回れば今後、キヴォトスの中心たり得る『先生』に我々、便利屋68が貸しを作る事だって出来るかもしれない」
「なるほどねぇ……一理あるかもね。カヨコちゃんはどう思う?」
「そうだね。今後のコネを強くするって意味なら、バイステンダーが言っている事は正しいよ」
「ならば「でも」……ふむ?」
「それが全てじゃない。違う?仲間にすら嘘を吐くのなら、今までの関係をちょっと考えなくちゃいけなくなる」
「あはは!さっすが、カヨコちゃん。私じゃ言えない事をズバッと言ってくれるぅー」
私の性格をよく理解していると捉えるべきか、未だに信用されていないと取るべきか……いや、ムツキ室長の笑顔やカヨコ課長の呆れ顔を見る限り、こんな事を考える必要すら無いか。
「やれやれ完敗だ……そうだな、そろそろ私がどの様な者であるか話す時だろう」
普段、私が仕事で使っている椅子を引っ張り、彼女達と対面になる様に置き、そこへ足を組んで座り、便利屋68のアルバイトであるバイステンダーではなく、ゲマトリアのバイステンダーとして小さく笑みを浮かべる。
「雰囲気が……変わった?」
「さて、先ずはアル社長にも話した通り、私は本来、ゲマトリアという組織に席を置いている人間だ」
「ゲマトリア?」
「端的に言えば、君達を君達足らしめている神秘の探求及び、研究を行う者達の集まりだと思ってくれれば構わない」
ある者は神秘を研究し、ある者は神秘を通して芸術を見出し、ある者は神秘を記号とテクスチャで捉え、ある者は自らの位相を高める単なる道具として……そして私は神秘を一つの物語として捉え、傍観する者であり、それぞれの手段はバラバラだが総じてこのキヴォトスに混乱を齎すであろう者達であると説明する。
「……わざわざ、それを話すって事は今回の裏にそのゲマトリアが関わっているって事?」
「その通りだカヨコ嬢。彼の名は『黒服』その名の通り、全身を黒一色で統一している男だ。私と視野が似通っているのもあって、ゲマトリアの中では最も交流があった者だ。まぁ、私の自室にフラフラと訪れているだけだが」
観察者と傍観者……立ち位置こそ似ているが、私は今に至るまでアレの様に変数を生み出そうと介入する事はしなかった故に、似ているだけで違う視点を持つと断言できる。
「私は興味があるのだよ。黒服の思惑が勝つのか、『先生』を擁するアビドスの夢が勝るのか。だからこそ、このアビドスを離れたくない、これが嘘偽りの無い私の本心だ……何か質問はあるかね?」
「はいはい!私から良いー?」
少しは沈黙が流れるかと思ったが、ムツキ室長らしいか。
「何かね?ムツキ嬢」
「鷹さんが悪〜い人達の一人ってのは分かったけど、ならどうして私達を守ってくれたの?聞いている限り、その必要は何処にもなかったと思うんだけど」
これはまた予想外な質問が来たな……しかし、他の者達もムツキ室長と同じ様に気になっているのが、表情から分かる。
ふむ……理由、理由か……便利屋68以外にアテがなかったからというのが答えだが、それで納得させるのは難しいだろう、彼女達にとっては『なぜ、自分達を選んだ』のかが気掛かりなのだろうし。
「そうだな、その質問に答えるのであれば一つは間違いなく私の怠惰だ。運良くアル嬢と出会い、彼女以外の選択肢を考えるのが面倒であったから」
「え!?私のアウトローの精神に惹かれた訳じゃなかったの!?」
「面白いと思ったのは事実だとも」
そして、と言葉を区切り、私は胸の内を彼女らに語る。
「君達を好ましいと思ったからだ。何をしていても見ていて面白く、ハプニングが付いて回りながらも、笑顔が絶えず互いを想い合う君達、便利屋68が……あぁ、そうか、これを貴方は言っていたのだな『先生』」
“一つだけ聞かせて欲しい。貴方にとって、便利屋68は単なる道具?”
認めよう、単なる道具には抱かない感情を私は彼女らに抱いていると。
こうして、悩んでいたにも関わらずスラっと口に出てしまえば、何も否定する要素が見つからん……それに何より、他ならぬ私自身が納得してしまっているのだから。
「……初めこそ、君達を足掛かりにキヴォトスへと根を下ろそうとしていた。故に、どうすれば君達に殺されなくて済むだろうかと考え、行動していた。しかし、ある時から純粋に君達を気遣って行動していた……やれやれ、少々、君達という物語を読み過ぎた様だな」
好きな登場人物が悲しい場面に遭遇すれば、それを読んでいる者も悲しみに包まれる……だからこそ、傍観者である私はその悲しみを避けようと動いていたのだろう。
全く、自分の事は案外、分からないものだな。
「えっと……つまり、そのバイステンダーさんは」
「君達を好きになってしまったから、君達を守ろうとしたという訳だ」
「……恥ずかしげもなくよく言えるねそんな言葉」
「事実を偽っても仕方あるまい?」
「あーもぅ……」
カヨコ課長が何を言いたいのかイマイチ分からないが、皆一様に驚きと羞恥心によって顔が赤くなってしまったな。
「これで納得してもらえたかねムツキ嬢」
「う、うん」
「……バイステンダー。私は便利屋68の社長として聞かなくてはならない事があるわ」
「……何かね」
いつにないほど真剣な表情になるアル社長に引き摺られ、背が伸びる。
この様な表情をしている時の彼女は、何かを誤魔化している時か本気の時……今回は後者だな、返事を間違えれば首が飛ぶ事だろう。
「貴方はこれから先、
「──完全な否定は難しいな。ゲマトリアとして探求を辞める事は、私にとって死を意味する事柄だ。よって、私が辿り着いた手段が君達を利用するものであれば、私は崇高へ辿り着く為に利用するかもしれない」
キヴォトスへ介入する為に結んだ『契約』の破棄は、この身体の放棄と同じ意味を持つ。
本来の肉体など契約の対価として、支払っている以上、私がこの肉体を失えば生命として死を迎える事になる、そうなれば崇高へと辿り着く為にその時の私は彼女らを利用するかもしれない。
─いや、間違いなくするだろう、その様な悪役だからこそゲマトリア足り得ているのだから─
「潜在的な敵という意味では、今、此処で君が私の脳天を撃ち抜こうとも正しい行為と言える。君はいずれ、キヴォトスに滅びを齎すかもしれない敵に先手を打っただけ、何も負い目を感じる必要はない」
「ッッ……どうして、そんな涼しい顔をして言えるの?」
「ククッ、大人だからな。こうして口に出した時点で、撃たれる覚悟など決めている」
向けられた銃口に微笑みと共に言葉を投げかけてやれば、ガチャリとアル社長の震えが伝わり銃がブレる。
未来視をしていない状態で果たして、彼女らの攻撃を避けられるのかは分からないが、こうして出口に最も近い場所を選んだのも敵対となった時に逃げる為のものだしな。
「だが、それでも私の我儘を許してくれるのなら、アル社長。私はその時が来るまで君達と共に在りたいと思っている」
全く、我ながら汚い大人だな……銃を持つ手が震え、今にも泣き出しそうなアル社長の顔を見ている癖に、我儘を言うとは。
「……分かった。バイステンダー、貴方の在籍を認めるわ。でも、一つ約束してちょうだい。もしも、私達を裏切る時が来たのなら、その時は貴方も容赦なく私達を殺すつもりで来なさい」
「は?」
「アウトローとして、この陸八魔アル、そして便利屋68は逃げも隠れもしないわ。いざ戦うって時に、手心を加えられたなんてなったら、そんなつまらない幕引き無いもの。譲れないものを賭けるのなら、それ相応の覚悟でぶつかり合うのがアウトローってものでしょ」
アル社長に続く様に他の面々も、ニヤリとした表情で彼女の横に並ぶ……君達は馬鹿なのか?……私があの手この手を使い、君達に勘付かれる事なく、君達を利用し死地に向かわせるかもしれないというのに、アウトローとしての信念一つで全てを受け入れると?
「ハッ、ハハハ……ククッ!良いだろう!私が君達に敵対する時は、必ず先に宣言するとしよう!!真正面から君達を打ち倒し、私が掲げる理想を貫くとしようか!!」
恐らく、そんな信念一つでこうして笑えてしまう私が一番の馬鹿なのだろうな。
そして、こんなやり取りから僅か、二日後に黒服から、小鳥遊ホシノを手に入れたと連絡を受けるのだった。
それでも傍観者で在り続けた男は、自らの視点を間違えた。
それに気がついたのは、小鳥遊ホシノが利用され、アビドスの大地が全て砂漠に沈み、気付かぬ内に愛していた、大切だと思っていた者達が全て、砂の海に沈んでからというどうしようもなくなってからだった。
黒服の提案に乗り、先生の言葉を否定した一人の傍観者は、ただ静かに全てが砂に沈んだ大地を歩き続ける──もう二度と、埋まる事のない心の穴を埋める者を探し……ただ一人でずっと。
バッドエンド『愚かな傍観者』
PVみたいなスチルにするなら、月が昇るアビドス砂漠でフラフラと歩いてるバイステンダーの姿とかかな。
こういう平行世界の結末みたいなのも、ブルアカの魅力の一つな気がするのでちょっとだけ書いてみました!
感想など待ってるぜ!!