便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア 作:マスターBT
「ンンッ、ではこれから便利屋68のクリスマスパーティーを始めるわよ!!カンパーイ!!」
「「「「かんぱーい!!」」」」
カツンっと高い音を立てて、グラスがぶつかり合う祝音が鳴り響く本日の便利屋68はこの日の為に用意した料理達と様々な飾り付けがカラフルな彩りを放つ正に祝祭に相応しい有り様である。
本来ならアルバイトという立場の私がゼロから用意をしなければならなかったのだが、真っ先にムツキ室長に見つかりそこからカヨコ課長、ハルカさんと連鎖的に参加していき、『先生』の元を訪ねていたアル社長が戻って来る頃にはほぼ全ての飾り付けが終わっていたのだ……ククッ、部屋に入ってきた時のポカンっと間抜け顔を晒していたアル社長は大変、面白かったな。
「全くもう!皆んなして、準備してるなんて……私にも教えて欲しかったわ」
「くふふっ!アルちゃん、混ざりたかったのぉ?」
「も、申し訳ありませんアル様!!責任持って私が全てを!!」
「落ち着いてハルカ。社長は『先生』のところに行ってただけだから」
「ククッ、聖夜だと言うのに全く変わらないな君達は」
賑やかなクリスマスパーティーが一瞬で爆発の危機に晒されるのは此処くらいじゃないだろうか?
「だって……準備中も楽しくしてたんでしょ?それなら私だけ除け者みたいじゃない……」
「言われてるよー?一人で準備しようとしてたトナカイさん?」
「この服?服でいいんだろうか?まぁ良い。クリスマスツリーを持ってきただけの私にコレを着させたのは君だろう?ムツキサンタ」
今の私は頭の先からつま先まで綺麗にトナカイの着ぐるみみたいな服を着せされており、サンタクロースのコスプレをしている彼女らに囲まれている。
ちなみにムツキ室長はかなりスカートが短めなもので、カヨコ課長は帽子だけを被され、ハルカさんは白髭まで蓄えた本格的なサンタクロースの格好をしているので普段のままのアル社長はかなり浮いてしまっている。
「だがまぁ、君の意見も分かるよアル社長。少しばかり早いがトナカイさんからのプレゼントといこう」
アル社長の髪色と同じ赤色の箱を彼女に手渡し、そのまま皆へとイメージカラー通りの箱を次々と手渡して行く。
「メリークリスマス。私の様な悪人を受け入れてくれた君達へのプレゼントだ」
「わぁ……これって巷で有名になってるマフラーじゃない!!私と同じ色でとってもクールね!!」
「どれどれトナカイさんはサンタさんに何をくれたのかなぁ?……わぁお、有名ブランドの新作ブーツじゃん!?」
「これは重低音に特化したイヤホン。ふふっ、前にカタログ見てたの覚えてたんだ」
「ううっ……私なんかが良いんでしょうかこんな可愛い服を貰って……」
「最近は単身で突撃する事も増えたが、スナイパーとして動きの少ないアル社長には普段使いも十分に出来るマフラーを。ムツキ室長はこの前の仕事でブーツを壊していただろう?良ければ使ってくれ。カヨコ課長は一番悩まなかったな、日常の些細な行動を記憶するのは得意なのでね。無論、使ってくれたまえ。暗色の地味目でありながら細部の飾り付け、特にボタンはエーデルワイスという花をモチーフにしているのが個人的なお気に入りだ」
あぁ、皆が笑顔でプレゼントを受け取ってくれたこの光景を見れただけで十分に幸せだな。
どれも安い買い物ではないが、この煌びやかに輝く宝石達を見れるのであればお釣りが返ってくるというものだ。
「ククッ、ではパーティーを再開しようか。折角のチキンが冷めてしまっては勿体無い」
「ちょっと待って!!」
「うん?どうかしたかね?アル社長」
ケーキを切り分ける包丁を持ってき忘れていたのに気がついたから取りに行きたいのだが……おや?皆一様に散らばって何かを持って来たな。
「はぁ……セラ、その顔を見れば分かるよ。貴女、自分にプレゼントが用意されてると思ってなかったでしょ」
カヨコ課長から渡されたプレゼントの中身はちょうど買い替えようと思っていた手帳で、夜空の様な色合いに輝く小さな星々が散りばめられたもので不思議と手によく馴染む一品だ。
「くふふっ!相変わらずだねぇ鷹さんは。プレゼントを乗せたソリを運ぶトナカイさんにもご褒美はあっても良いでしょう?」
ムツキ室長にグイッと押し付ける様に渡されたのは事務仕事用のメガネで、赤いフレームにワンポイントでムツキ室長のリボンの様な花が描かれており、とても使い易そうだ。
「み、皆さんと一緒に選びましたのできっと喜んで頂けると思います」
恥ずかしそうに視線を彷徨わせながら渡されたのは、紫色が特徴的な腕時計で私の記憶が確かならアビドスに誘致した時計屋の新作モデルだった筈なので使い勝手に関しては申し分ないだろう。
「そういう訳よ。いつも自分を後回しにするわる〜いアルバイトへの私達社員一同がじっくり選んだプレゼントよ。全く、貴女はいつになったら自分が大切にされていると気がつけるのかしらねぇ」
私、呆れているわよと聞こえて来そうな仕草と共に笑顔で渡されたのは、私が便利屋68の交渉やレイヴン達を動かす時によく着る黒いスーツに合う真紅のネクタイと薔薇をモチーフにしたネクタイピンで、手触りからして高級品である事が分かる。
「……皆、決して安くないだろうに。全く、愛されているな私は」
私が皆のプレゼントを買いに行ってる時に買いに行ってたのだろうか?記憶している限り、彼女らが揃って便利屋を留守にしている時はなかった筈だ。
つまり、休日や仕事終わりなどにわざわざ時間を割いて買ってくれたのだろうな……私の為に。
「あぁ……敵わないな君達には。ありがとう、大切に使わせて貰うとしよう」
「ふふっ。そうしてくれると選んだ甲斐があるわ」
「まぁ、嬉しくて仕方がないって顔を見れば十分だけどね!」
「……セラってほんと直球だよね」
「あれ?カヨコちゃん、頬ちょっと赤くなーい?」
「赤くない。これは……ただ、暖かいだけ」
「あぁ。分かるよカヨコ課長、私も胸の奥がとても暖かい」
「えへへ……よ、喜んで頂けた様で何よりです……」
鏡などないがきっと私は笑顔になっているのだろうとこんなにも分かってしまう胸の暖かさと心地よさは早々ないだろうな。
「っと、プレゼントも良いが早く食べるとしよう。ケーキを切る包丁を忘れたから私は取ってくる」
きっとこの後のクリスマスパーティーも彼女達と一緒なら自然と笑みが溢れる様な楽しくて仕方のないパーティーになるのだろうと思えば、私の足取りは自然と軽くなり受け取ったプレゼントを汚れない場所に大切に置いてから、キッチンへとスキップしそうな足取りで向かうのだった。
“クーリスマスも仕事だ、ヤーになるね♪”
シャーレの部屋に響く疲れ切った歌声の出本は死んだ魚の様な目で、パソコンに向かい合っている『先生』からだった。
生徒達を最優先したいつものやり方のせいで、聖夜だというのに『先生』はお仕事に勤しんでおり、しかもイヴである昨日と今日で色んな学園を訪れ生徒達とのクリスマスパーティーを行なっているのだからその疲労感は凄まじいものだろう。
そんな『先生』の元にピコンっとモモトークの通知が鳴る。
手に取ってスマホを見てみればどうやらそれは、気の置けない友人からのものだった様で開いて見てみると『先生』の口元には自然と笑みが浮かび上がった。
“便利屋の皆と楽しそうに過ごせたんだねセラ”
送られて来た一枚の写真には、楽しげに笑うムツキに悪戯されたのであろうほぼ白目を剥きながら大きなクラッカーを手に持つアルと両手にチキンを持って状況の理解に追いついていないハルカとこの光景を撮っているセラの方へ恐らくクラッカーから放たれたであろうたっぷりクリームの乗ったパイが迫り、反射的に手を伸ばしているカヨコというなんとも情報量の多い光景が映っていた。
『メリークリスマス先生!!これもあげるね!!』
アカウントはセラのままだが、文面的にムツキと分かる文の後に送られて来た写真はなんと、クリームで真っ白になったセラを思いっきりアルが押し倒しているというもので『先生』は吹き出してしまった。
“焦ったアルがクリーム直撃して、状況把握出来なくなったセラを押し倒しちゃったか……”
この後、より慌てるアルをセラが宥めてるんだろうなぁと思うと、微笑ましさにニコニコと笑みが溢れる『先生』なのであった。