便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア 作:マスターBT
数メートル先すら見通せないほどの砂嵐が巻き上がるにも関わらず、巨体は砂嵐の中に浮かび上がる影として、『先生』や他の子達から視認されていた。
「な、なんなのあれ!?」
「アレは……おい、貴様ら!!とっとと私をここから出せ!!眠っていた兵器を叩き起こすなど、何を考えているゲマトリアの連中……!!」
アルの叫びに続く様に、彼女らに首元まで砂漠に埋められていたカイザーPMCがヒステリックに叫ぶ。
『別の兵器』を発掘しようとしていた彼らだが、途中で別の兵器を発見しており、アビドスという地域を調べていた彼らが、利用するのではなく触らぬ事を選んだ兵器、それが今目の前で砂嵐を起こし続けている大蛇の兵器であった。
“アロナ”
『はい!』
砂塵に浮かび上がる影を見上げている『先生』から、笑みが消え普段より僅かに低い声と共に、シッテムの箱に呼びかけると、準備は万端ですと言わんばかりにドヤ顔で、アロナが姿を現し人差し指を『先生』へと向ける。
“みんな、私が指揮をする。あの兵器は此処で、押し留める”
バイステンダーとの商談のおり、彼が調べていたアビドスの歴史に目を通していた『先生』は目の前の兵器の脅威を、この場の誰よりもいち早く理解しており、指示を出すと同時にアロナと人差し指を合わせ、シッテムの箱から青い光が放たれると共に、小鳥遊ホシノを含めるアビドス対策委員会の面々と、合流した便利屋68、そしてこの脅威にいち早く駆けつけたゲヘナ風紀委員長、空崎ヒナの視界に砂塵の影響を無視した大蛇の兵器の全容が映し出される。
「これは……」
“シッテムの箱によるサポートで、君達にはアレがしっかりと見える筈だ……私は君達を信じている。だから、君達も私の指揮を信じてくれ”
「ん。わざわざ言うまでもないよ」
「そうね……『先生』の力がなければ、ホシノ先輩を取り戻すことなんて無理だったし!」
「ふふっ、『先生』の事は初めて見た時から信じていますよぉ〜」
「……うへ、助けて貰って文句を言うほどおじさんは無礼者じゃないかなぁ」
今この場にいる誰よりも、『先生』の力を知っているアビドス対策委員会の面々は、この状況に対する不安など一切なく、皆一様に笑顔を浮かべて各々の武器を構える。
「私なんかが『先生』への文句なんて大それた事……」
「『先生』の指揮は何度か見てるしね」
「くふふっ、楽しくなりそうだねぇアルちゃん!」
「えぇ、そうね……バイステンダーも一枚噛んでるのでしょうし、此処は『先生』に任せるわ!」
他の者達より、一足早く大人を信じるという事に慣れている便利屋68の面々は、アルバイトの大人が信じて託した相手なのであれば、信じられるとそして何より、大切な仲間達が共にいるのならと不敵な笑みを浮かべ、大蛇の兵器を見上げる。
「『先生』の力、見定めさせて貰うわ」
そして、唯一、今回が『先生』の指揮の初体験になるヒナは、他の者達の様に完全に『先生』を信じる事は出来ないが、ゲヘナの情報部から上がってくる報告と、こんな自分にすら優しく微笑む彼を信じて背中を預けた。
“ありがとうみんな。必ず、みんなで帰ろう!!”
士気は極めて高く、『先生』の言葉にも各自の言葉で辺りに響き渡るほどの大きな返事が返ってくる。
そんな青天井に高い士気をへし折る様に、大蛇の兵器は二対四つの瞳で生徒達を睨みつけると自身の背中から、無数のミサイルを放つ。
“ヒナ、撃ち落として”
ミサイルを携帯できる火器で撃ち落とせなどという命令は、普通であれば荒唐無稽であり仮に実行できるほどの実力を持ち合わせていたとしても、一つのミスで部隊全員に被害が出る可能性が高い指示だ。
彼女であればそれが出来ると強い信頼がなければ、出せない指示を『先生』はあっさりと、口に出しその声には一抹の不安すら滲んでいなかった。
「……そう。分かったわ」
そこまでの信頼を受けて、裏切る訳にはいかないとヒナは、愛銃を構え迫りくるミサイルに向けて、込められている弾丸を撃ち切るつもりで弾を的確にミサイルに向けて放つ。
『ミサイル全て迎撃されました!!』
“爆炎を利用して、接近戦が得意な子達は対象の近くにある遮蔽物まで移動。遠距離が得意な子達は、ヒナのリロード時間を稼ぐ為に一斉攻撃”
「爆炎が目隠しになるなら、こんなのはどうかしら?」
視界が十分に確保された今であれば、彼女の狙撃スキルが輝く時だ。
片手で構えられた愛銃から、放たれる弾丸は見事に大蛇の兵器の目一つにぶつかり、直後、込められた神秘が爆発し立ち上る爆炎が、更なる目隠しとして機能するが、残された目がギロリと下手人であるアルを睨みつける。
「え?ちょっと、なんで私だけ!?ヒナだって、同じ様なことしたじゃない!?」
「私はミサイルを撃っただけよ」
「アハハっ!さすがアルちゃん!!兵器にも好かれちゃうんだね……でも、その視線はちょっとつまらないかな?」
丸い小さなパイナップル──手榴弾を見事なフォームで放り投げ、自ら空中でそれを撃ち抜き爆発させるムツキによって、大蛇の蛇は一時的にアルを見失うが、嫌がらせの様に砂嵐を強め、自らの近くを漂う爆煙を吹き飛ばし再度、彼女らを睨みつけ、自らの眼下に複数の生徒が展開している事に気がつく。
“シロコ、セリカ”
「ん」
「えぇ!」
銃を撃ちながら、ドローンを操作するという器用な攻撃を見せるシロコと、苛立ちにより威力を増したセリカの弾丸が大蛇の兵器の腹部へ当たり、小規模な爆発を起こしていく。
『ッッ、敵の口元に大きなエネルギーです。なにかしてきそうです先生!』
“狙いを口元に。アレを撃たせないで”
リロードを済ましたヒナも含めて、全員の攻撃が口元に集約し、さすがに大口を開いたままでは居られないと判断したのか、溜められていたエネルギーは、霧散し代わりに、巨体による突進と同時にミサイルが周囲にばら撒かれ、小規模な被害を齎す。
“(今のところは優勢だけど……敵の動き次第では、いつ崩れてもおかしくないか)”
予断は許さないが、それでもシャーレ優勢のまま戦場は推移していく。
そんな光景を眺めながらならまた、自らも戦闘指揮を行う男が一人、旧アビドス本校舎屋上に居た。
「ほぅ、光線を防ぎにいくかその判断は正しいぞ『先生』」
「ふっ、は!!我々の方も手伝ってくれると嬉しいのだが!!」
「む?ああ、すまないレッド。相手は、ゲリラ戦の戦い方を非常に得意としている、常に周囲に気を配れ……ブラック、それ以上前に出るな、グレネードが転がってくるぞ」
「おおっと!!」
ほとんど、観戦に意識を回しているバイステンダーであったが、それでも戦いが成立しているのはカイテンジャーが伊達に指名手配されるだけあって強い事と、敵である錠前サオリがゲリラ戦で応戦している為に、自らの安全が確保されている為だ。
「馬鹿にするなよバイステンダー!!」
だが、その態度はただでさえ、バイステンダーの事を憎んでいる彼女の怒りに火を注ぐだけであり、グレネードを避けたブラックの横を抜け、接近戦をするには不向きな、イエローとピンクを走り込んできた勢いそのまま、イエローの腹部に一発銃弾を、ピンクの腹部に蹴りを放ち、カイテンジャーの包囲網を抜け、バイステンダーへと迫る。
「レッド」
「分かっているとも!!さぁ、私が相手だ!!」
「邪魔だ!!」
ヒーローの様な空中前転を見せ、無駄に格好いい着地をし、サオリの進路を塞ぐレッドに拳銃ではなく、使い慣れたアサルトライフルの弾丸を放つ彼女だったが、同じ武器種を使うレッドにとってその反撃は想像に容易く、剣と剣をぶつけ合わす様に自らのアサルトライフルを突き出し、サオリの弾丸を空へと向けつつ、上段回し蹴りを放つ。
「チッ!」
右腕を盾に蹴りは受け止められ、反撃にと腹部を蹴られ距離を取られるレッドだが、衝撃を逃した彼女は守られねばならないバイステンダーの前に、自らの身を盾にする様に立ち塞がり、戻ってきた他の者達が背後からサオリに襲いかかる。
「これ、追加料金は出るんですよね」
「追加とかの前に彼がやられたら、報酬出ないんだから真面目にやる!」
「相変わらず真面目だねぇピンクは」
「ロボの為に資金源になれ敵め!!」
「……私が言うのもアレだが、緊張感のカケラもないな君達」
どこまでも自分の欲求に素直なカイテンジャー達に、思わずと言った感じで感想が溢れるバイステンダーという何処までもふざけている空気は、彼女にとって居心地が悪く、ピキピキと青筋が立つと背後から襲ってきたグリーン、ピンク、イエロー、ブラックの四人の連携攻撃を、潜り抜けるサオリは、懐から大量の手榴弾を放り投げながら、旧アビドス本校舎屋上の縁から、トンっと身を空中に放り投げた。
「手榴弾の着弾地点から、全員、離れろ!!」
「「「「「了解!!」」」」」
一斉に飛び退くカイテンジャー達の目の前で、手榴弾の炸裂に老朽化していた屋上の床は、豪快な音を立ててその殆どが崩落していき、バイステンダーが立っていた角以外のほとんどの場所は床が完全に消滅してしまっていた。
「床を破壊する事で、人数の多いこちらの動きを制限し、自らは対極の地点から飛び降りる事で追撃される事なく、安全に逃げ出すと……ベアトリーチェの道具だけあって、よく躾けられている事だ」
引き際に爆煙を利用して、自らに放り投げられたナイフを懐にしまいながら、バイステンダーが視線を『先生』達の方へ向けると、大蛇の兵器がちょうど砂漠の中に身を隠す瞬間だった。
「ふむ……カイテンジャー諸君、例のものは?」
「試作品だが持ってきている。まさか、使うのか!?」
「実戦データは必要だろう?」
“砂に潜った?アロナのお陰で大まかな位置は追えるけど……”
ダメージの蓄積?いや、確かに私達が優勢に動いていたとはいえ、敵の装甲は厚く、まだまだ余裕があった様に感じられた。
機械だけど、強い意志がある様に見えたあの目は、明らかに自分の邪魔をしてくれたヒナや、アルを敵視していたし、そう簡単に逃げるとは思えない……ならどうして、わざと砂の中に……
“……ッッ、もしかして!!みんな、奴が姿を現したらすぐにその場から離れて!!恐らく、奴の狙いは──”
ドバンッ!!
“遅かった!!アル、逃げて!!”
「ッッ!?」
「アルちゃん!!」
「アル様!?」
「アル!!」
彼女達の仲が良い事は分かっていたけど、みんなでアルのところに行くのは危険だ!!──大人のカードを……いや、間に合わない。
アレは既に発射限界まで、エネルギーを蓄えている以上、残された猶予は数秒程度……カードを取り出して、奇跡を願う間に放たれてしまう……クソッ、彼から彼女達を任されたのに私は……!!
「視てるんでしょバイステンダー!!なんとかしなさい!!!!!!!!」
『──全く、無茶振りをしてくれるな社長』
天高く飛ぶは、巨大な寿司──寿司?
マグロ、アナゴ、カリフォルニアロール、タマゴ、エビの五つが、空中でバラバラになると一瞬の間にロボットに……
“なんだあれ格好良い!!”
『ククッ、私の資金提供と技術提供で完成した試作型ロボット』
『『『『『KAITEN FX MK.0(試作型)!!』』』』』
左腕に取り付けられたシールドがバリアを展開し、敵の兵器が放ったレーザーを受け止める光景は、まさしく日曜のヒーロー物さながらの光景であり、無意識に私は握り拳を作り、目の前の光景を熱く見守ってしまう。
『……ふむ。さすがは試作品だな、エネルギー限界だ。では、私は失礼』
『『『『『──え?』』』』』
ロボットの背中が開き、そこからバイステンダーが綺麗な着地を見せると同時に、限界を迎えたロボットは爆発し、ギャグ漫画の様にカイテンジャーのみんなが天高く飛んで行った……バイステンダー、もしかして君、自分だけ脱出装置つけてた?
「ふぅ……ただいまと言うべきか。便利屋68諸君」
左手を腰に当て、右手で自分の体についた砂を払いながら、にこやかに挨拶するバイステンダーは、さっきの爆発と飛んでいったカイテンジャーの事なんて、すっかり忘れているのかと思うぐらい自然体だった。
「バイステンダーッッ!」
「む?そんなに泣きそうな顔で、私が居ないのがそんなに寂しく頸椎がへし折れるから、見事な手際でヘッドロックを決めるのは止めたまえアル社長!!」
「止めたまえじゃないわよ全く!!こっちは色々と言いたい事があるってのに、颯爽とロボットで現れるなんてアウトローな登場して、格好つけてるんじゃないの!!」
「怒るとこそこなのかね!?まだ、敵は健在なのだから兎に角今は──「アルちゃん、鷹さん、上見た方がいいよー」……む?」
「え?」
あ、ミサイルが彼らのところに降り注いで。
「うぉぉぉ!?」
「わぁぁぁ!!」
アルがバイステンダーを抱き抱えて、どうにかミサイルの雨を避けていく……一体、何をやっているんだろうあの二人は。
「はぁ……はぁ……バイステンダー」
「あぁ……口論は一先ず置いておこう」
アルがバイステンダーを下ろし、他の便利屋68の子達も近くに集まる。
うん、やっぱりあの五人が揃ってる光景がしっくりくるね。
「さぁ、全員が揃った事だし格好良くアウトローに決めるわよ便利屋68!!」
「「「「おぉー!!」」」」
屋上で『先生』達の戦いを見てる時は、某ギーツなライダーに出てくるケケラさんみたいな感じを想像していただけると分かりやすいと思います。
Q:大人のカードが間に合わないのに合体は間に合うの?
A:浪漫です
感想など待ってます!!