便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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後日談的な何か


ロビンフッドという英雄を知っているかね?

「……ふむ」

 

「あ、あの、なにか飲みます?」

 

「む?そういう役目は一番下っ端の私に任せてくれハルカさん。気が回らずにすまないな」

 

「い、いえ!むしろ、私なんかの為に気を使わせてしまってすみません……」

 

「構わんよ。なにせ、今日は私と君の二人だけで留守番なのだから」

 

 アビドスでの騒動がひと段落して、一週間ほどが過ぎた今日は珍しいことに依頼主が名指しで指定が入り、暇な者が戦闘能力皆無の私とアル社長が居てギリギリ手綱を握れるハルカさんという、便利屋68でも癖のある二人が留守番となったのだ。

 彼女は甘めのコーヒーの方が好ましい筈だったな……む、インスタントしかないか仕方ない。

 

「飲みたまえ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 ちょうど調べ物もひと段落したところだし、私もソファで一休みをするか。

 ……少しばかり目が疲れたな、目の前に座っているハルカさんの顔が少しばかりボヤけて見える。

 

「そ、そう言えばバイステンダーさん。アビドスの皆様へのお礼は、と、届いたんですか?」

 

「あぁ。小鳥遊ホシノが私を嫌がると思ったから、『先生』を間に挟んだが、恐らくもう届いている頃だろう」

 

 好き放題言った結果だと思われるが、あの後、小鳥遊ホシノと何か言葉を交わす事はなく、むしろ、視界に入れたくないと言わんばかりの態度で避けられるというのは些か、新鮮さを感じられる体験であったな。

 

「ハルカさんは知らないが、あのブラックマーケット付近のたい焼き屋は、非常に美味だった。機会があれば皆を連れて行くとしようか。無論、大人である私の財布から支払うから安心したまえ」

 

 あの時はアル社長の無茶な契約のせいで、私のポケットマネーすら不足して、ノノミ嬢の奢りとなってしまったが、例の物が『先生』によって届けられていればあの時のお礼には十分足りるだろう……少々、色はつけたが美味なたい焼きを教えてくれた礼と迷惑料を合わせれば、ちょうど良いだろう。

 

「む?話をすればなんとやらだな。『先生』からの電話だ、出ても構わんかね?」

 

「ど、どうぞ」

 

「では、失礼して……“あ、バイス『先生貸して!!ちょっと、何よあれ!?お礼ってなに!?!?』……その声は、セリカ嬢か。淑女はもう少し、落ち着きとお淑やかさを身につけた方が得だぞ」

 

 電話越しから漏れた大声で、ハルカさんが怯えた小動物みたいになっているぞセリカ嬢……実際、反射的に耳元から離してしまうほどの声量だ、まともに聞いていたら鼓膜の一つでも逝っていただろうな。

 

『そういうの良いから!!何か怪しいお金を押し付けたんじゃないでしょうね……!』

 

「君もあの時一緒にいただろう?ソレはたい焼きのお礼だ。ノノミ嬢にも改めて伝えておいて欲しい」

 

『はぁ!?たい焼きのお礼って……精々、数百円のお礼がどうして札束の山に変わるのよ!!』

 

「合計で百万ほどある。借金の返済にでも充てるが良い、株で成功すればこれくらいの金額を稼ぐのは簡単だ。何も君が案ずる必要はないとも」

 

 おや、電話の向こうから空気音しか返って来なくなったぞ……なんだこれは新手の嫌がらせか?

 砂糖とミルクたっぷりの珈琲は美味しいかね?……そうか、それは良かった……む?でもいつもより香りがないと?ククッ、それはインスタントで私が一から豆を挽いたものではないからな、しっかりと味覚に刻まれている様で嬉しく思うよ。

 

『おじさんが代わるね〜……いやぁ、ごめんねぇ?あまりの金額でうちの可愛い後輩がフリーズしちゃって』

 

「構わんよ。同僚との楽しいお喋りも出来たからね、その金は好きに使うと良い。お前への迷惑料も兼ねてあるものだ。精々、ゆっくりと身体を休めるなり心を休めるなり好きにすると良い」

 

『それはどうもありがとうねぇ〜……私は多分きっと、お前の事を好きにはなれないけど、その、理由はなんであれアビドスの為に戦ってくれた事、些細な約束も覚えて、きっちり果たしてくれた事は感謝してる。だから──』

 

「ありがとう、かね?ククッ、その言葉は今、お前の前に居る者達にしっかりと伝えるが良い。所詮、私は自らの利益になると『先生』と商談をし、彼との間に結ばれた契約に従ったまでのことだ……ではな、何か仕事があれば便利屋68にご連絡を」

 

 何かを続けようとしていた小鳥遊ホシノの言葉を遮り、通話を切りコーヒーを飲む……やはり、インスタントはあまり好みではないな。

 

「無事に届いたんですね……で、でも、良かったんですか?相手のお礼の言葉をしっかり受け取らなくて」

 

「先に施しをしたのは向こう、その礼を私がしたのに更に礼を受け取ってはイタチごっこだとは思わんかね?」

 

 それに小鳥遊ホシノからのお礼を、彼女が苦しんだ要因の一つでもある私が受け取るのは、少々、何かが違う気がするしな……その上で礼がしたいとあれば、何処かで彼女の方から動きがあるだろう。

 

「そういうものですか……」

 

「そういうものだよ。そう言えば、話は全く変わるがどうしてハルカさんは便利屋68に?君の雰囲気からして、アウトローに憧れてという訳でもなかろう?」

 

 目を合わす事はあるが、基本的に落ち着きがなく纏っている雰囲気も、自分に自信がないという感じの彼女が、ゲヘナ生徒なのも割と驚きだがその中でも、長い物に巻かれるわけでもなく、アル社長と行動を共にしている理由は以前から少し興味があった……話を逸らすのにもちょうど良い。

 

「え、えっと……わ、私、昔からこんな感じなので、その、よく虐められていたんですけど……アル様が助けてくれたんです」

 

「ほぅ?」

 

「ゲヘナなので、陰湿さは無かったんですけど、その代わり暴力が凄くてですね……その日も、道端に生えている雑草を集めていた時に、絡まれてしまいまして……必死に雑草を守ろうとして身を丸めていた時に、アル様が颯爽と現れて、私の事を虐めていた人達を一喝してくれたんです!あの時の事は今でも覚えているんですが、『貴女達何やってるの!!一人を寄ってたかって虐めて!!そんなに、戦いたいならこのキヴォトス一のアウトロー、陸八魔アルが相手になるわよ!!』って、実際に私の目の前で何人かの子達を返り討ちにした姿が、最高に格好良かったんです!!」

 

 目をキラキラと輝かせ、声に熱量を込めて語る姿は正しく、ヒーローを語る姿そのものだな。

 なるほど、恐らくアル社長の事だから本心で放って置けなくて、首を突っ込んだのだろうが盛大に大きく出たせいで引っ込みがつかなくなり、そのまま格好付けていたら、生来の強さも相まって勝てたという感じだろうな。

 

「それで、私が守っていた雑草を見て『雑草が好きなの貴女?……ふぅん、普段、意識して見る事はないけど改めて見ると結構、可愛い形をしているのね』って笑顔で仰ってくれて……この命をアル様に捧げようと思ったんです!!」

 

「返しきれぬほどの恩があるから、アル社長に付き従うか。あぁ、良い関係だな君達は」

 

 少なくとも利害関係ばかりで、成立している我々ゲマトリアにはない信頼関係だ。

 

「はい!アル様は凄い人です……わ、私なんかがなんの役に立てるかは分かりませんが、それでもあの背中に付いて行きたいんです」

 

「確かにアル社長には、人を惹きつける謂わば、カリスマのようなものが備わっているが、君も十分、凄いと思うぞ」

 

 キヴォトス人の頑丈さは兎も角として、便利屋68という少数精鋭の中で足を引っ張る事なく、戦場を生き抜く事ができ、暴走気味の気質はあるものの私や、他の者が指示した内容にしっかりと従い、成果を挙げている……少なくとも、同じゲヘナの一般風紀委員より役に立っているのは贔屓目抜きで判断して良いと思うがね。

 

「わ、私なんてアル様に比べたら……」

 

「ふむ。君はロビンフッドを知っているかね?」

 

「ロビンフッド……」

 

 キョトンとした顔を見る限り、名前くらいは覚えがあるが詳しくはという感じか。

 

「簡単に言えば、支配階級に抗ったとある森を根城にした英雄だな。興味があれば、調べて見ると良い。さて、そんな彼だが実のところ、そのような人物が居たのかは定かではないんだ」

 

「え?話が残っているのにですか?」

 

「そうだ。ロビンフッドという人物は、物語を詩として世に広める吟遊詩人の間で、詩われた存在で彼らによって生み出された創作上の人物であるという説もあるくらいにな。だが、私が伝えたいのはそこではない」

 

 私の答えを待つようにウロウロと動いていた瞳がピタリと止まり、私をじっと見つめてくる。

 

「例え無名であろうとも英雄に、ヒーローになり得るという事だ。このままアル社長がアウトローとして大きく成長していけば便利屋68の名を知らぬ者達は居なくなり、彼女の名は大きな畏怖と尊敬を集め後世に語り継がれるかもしれない……ハルカさんは彼女の背について行きたいと言ったな」

 

「は、はい」

 

「有名な者の部下というのは案外、名が残らぬ者だが、君がもしも最後まで彼女に付き従えていれば、キヴォトス一のアウトローを支えたロビンフッドとして名を残す事が出来るかもしれない……そう考えれば自分を卑下する必要はないだろう? 君の好きな雑草と同じく、名は残らないかもしれない、けれど君がアル社長に憧れたのと同じようにロビンフッドとなった君に憧れる者が現れるかもしれないのだからな」

 

 まぁ、もしもアル社長がそこまで面白おかしく出世するのであれば他ならぬこの私が、本にでも仕上げるだろうから名が語られないという事はないだろうが、その本も確実に後世まで残るとは限らん。

 

「……私がロビンフッド……アル様みたいなヒーローに……えへ、えへへ」

 

「気に入っていただけたようで何よりだ」

 

 カンカンっと階段を登る足音が事務所の外から聞こえ始める……ふむ、今日は本当に噂をすればなんとやらの日だな。

 

「ふぅ、ただいま戻ったわよー」

 

「アル様ぁぁぁぁ!!」

 

「ちょっ!?ハルカ!?」

 

 おー、まるで闘牛のように突っ込んでいき、その勢いのままアル社長が押し倒されたな。

 ゴチンっと嫌な音が聞こえた気がするが、まぁ、彼女なら持ち前の痩せ我慢でどうにかするだろうから、後で氷嚢でも渡しておけば良かろう。

 

「アル様アル様アル様!!私、頑張りますから!!少しでもお役に立てる様に頑張ります!!」

 

「そ、それは有り難い事なんだけど、急にどうしたのハルカ?ちょっと、バイステンダー、優雅にコーヒー飲んでないでちょっと助けて!!」

 

「さてと、調べ物に戻るとするか」

 

「バイステンダーぁぁぁ!?」

 

「アル様ぁぁぁ!!!」

 

 やれやれ、今日も変わらず賑やかな職場だな。




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