便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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先生が関わるのなら何かがあるのだろう

『キヴォトスにおける神秘を、私なりに仮定するのであればこの世界の生徒達、或いは子供達にのみ許された可能性ではないかと、数々の物語を読み解き、推察している。

 我々、ゲマトリアや先生は自らの身を代償にするか大人のカードを用いる事で、神秘の再現を前借りの奇跡として起こす事は可能だが、その奇跡を彼女達はごく自然に当たり前に行使が出来るのは、もはやある種の神の領域であると言え、その点だけはベアトリーチェの方法も間違っていないだろう。

 

 では、彼女達は神なのかと考えれば否と結論が出せてしまう。

 奇跡を起こす力を有しているのは、確かだが一人一人その神秘の総量は違っており、優れた神秘を有していたとしても全知全能、願った事全てを叶える様な代物には到底足りていない事は、アビドスで何一つとして自らの神秘だけで解決出来なかった小鳥遊ホシノを例に挙げれば詳しく記載する必要もないだろう。

 

 だが、それ故に私は神秘という概念そのものに、他のゲマトリアでは導き出せない結論を現状は、机上の空論ではあるが導き出す事にした。

 このキヴォトスに満ちる神秘という我々が知る科学とは、一線を画す法則の正体とは、彼女ら生徒達だけが有する』

 

「……全く、こんな時に誰かね?」

 

 着信を告げる携帯を手に取る前に、ここまでの内容を見られる訳にもいかないからな、パスワードを入力してと……よし、あとはフォルダの奥に片付けておけば取り敢えずは良いだろう。

 

「『先生』何かね?便利屋としての仕事ならアル社長に電話をする方がスムーズだが」

 

『“少しだけ調べ物をして欲しくて。今、時間ある?”』

 

「空き時間を個人的な事に使っていただけだが、まぁ、少しばかりの時間であれば」

 

 持論を纏める時間など後で幾らでも取れるが、ここで『先生』の提案を断り、彼が起こすであろう変化を見落とす事は可能であれば避けたい……何せ、今は少しでも考察を深めるための情報が欲しいのだから。

 

『“ありがとう。貴方は廃墟や、G.Bibleって言葉で何か知っている事はある?”』

 

「……連邦生徒会長が立ち入りを禁じている場所かね?」

 

 ただの廃墟を知りたがるとは思えんから、消去法で該当する場所を口に出したが、どうやら反応的に間違っていないらしいな……となると、気になるのは後者のG.Bibleの方だな、少なくとも私がキヴォトスを調べ直している時には出てこなかった情報だ。

 

『“ミレニアムのゲーム開発部の子らと一緒にそこへ行くんだけど、どうやら私が思っていたより過激な場所の様だね”』

 

「少なくとも見張りや、何かはあるだろうな。荒事になるだろうから、その準備はしておくと良い」

 

『“心配してくれてありがとう。それじゃあ、また機会があれば仕事を依頼するね”』

 

「ぜひ、そうしてくれたまえ……ふむ、ミレニアムか」

 

 あの学園が求める様な技術が、いくら連邦生徒会長によって立ち入りが禁止されていた場所とは言え、眠っているとは思えないが『先生』が訪れるとなると、その前提が覆る可能性は高いか。

 

「ちょうど丸一日、オフで使えるから調べてみるとするか。ミレニアム学園」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……一体、何が起きているというの?」

 

 日は落ち、夜の暗闇が辺りを支配した暗闇にモニターから漏れる光だけが彼女の焦燥感に満ちた表情を照らし出していた。

 彼女の名前は、調月リオ、ミレニアムサイエンススクールの生徒会長であり、普段は鉄仮面と呼ぶに相応しい表情を浮かべている彼女なのだが、今はそんな素振りは一切、見受けられずキーボードに指を走らせていた。

 

「未完成故の隙がある事は分かっていた。けれど、私がこうして対応しているのにも関わらず、止められないなんて」

 

 彼女のモニターにはこうしている間にも、徐々に切り取られていく自分の領域が映し出されており、誰がどう見ても彼女の不利は明らかだった。

 初めはリオが極秘裏に管轄している場所を調べている様な、その程度の侵入だったのだが、システムの奥に入り込もうとするのを止めた瞬間、まるで好奇心が刺激された子供の様に彼女の秘密を暴こうとありとあらゆる箇所に向けてハッキングが苛烈になったのだ。

 

「どれか一つに狙いを絞れば止められる……けど、絞った瞬間、まるで私の動きを見透かした様に別の場所のハッキングが行われる……」

 

 リオは一瞬、自らの同胞の顔が脳裏に浮かぶが、彼女が現状、ハッキングを仕掛ける合理的な理由はないし、こちらの反応を伺っている様な──そう、例えるならゲームの様に崩してくる様な動きをする事はないはずだと、結論を導き出しまた一つ、自らの領域が切り取られていくを歯痒く思いながら、より素早く指を頭を動かしていく。

 

「……良いわ。相手がこちらの動きを見透かしているのなら、私の行動、癖は読まれていると割り切って更にその先を読むと同時に、絶対に必要な部分だけを守る」

 

 この際、計画に絶対必要な部分だけを残しそれ以外を捨てる作戦に出たリオの策は、上手く行き彼女にとってどうでも良い部分は、次々とハッキングされていくが、システムの根幹は守り切り逆にそこを足掛かりに自らの領域を広げていく。

 奪っては奪われて、取り返しては取り返され、そんな攻防を一時間続けていると、なんだかリオの心の中にちょっとした楽しさが込み上げてきた頃合いで、彼女のすぐ近くに備え付けられているモニターの電源がハッキングの主によって点けられる。

 

『あー、聞こえているかね?ミレニアムサイエンススクールの生徒会長殿?』

 

「……まさか、其方からコンタクトがあるとは思いませんでしたよ。『先生』のご友人?」

 

『君の話しやすい言葉使いで構わんとも。一つ、提案だが私は君に対するハッキングをここで止めよう、その代わり少しばかり話をしないか?それと、私は別に彼の友人という訳ではないぞ』

 

 モニター越しでも分かる胡散臭い男の言葉を信じて良いものかと、考えるリオだったがこの男の目的を知るためにも提案を受け入れる事を決め、ピタリと手を止めると、示し合わした様に男からのハッキングも停止した。

 

「素直ね」

 

『ククッ、約束も契約も守ってこそだ。あまり、時間もないのでな、早速本題に入らせて貰うが、生徒会長。君は一体、何を考えている?』

 

 主語の抜けた曖昧な質問という受け手次第になる狡い手を男は使うが、リオは何一つ迷う事なくモニターに映る人物を見ながら、自らの正義を語る。

 

「すべてはキヴォトスを救うためよ」

 

 そのために、後輩達には負担をかけたが、同じく後輩が起こした事件を隠れ蓑にミレニアムサイエンススクールの予算を横流しに、自らが予見した破滅を回避するための施設を作り上げようとしていた彼女。

 そんな意趣返しも込めて、具体的な内容に触れない返事をしたリオに気を悪くするどころか、むしろ楽しげな声が漏れている男は一度、何処かに視線を向けるとすぐに彼女を見て、笑みを浮かべる。

 

『君に興味が湧いたよリオ嬢。後日、エリドゥに足を運ぶからそこで直接、話をしようじゃないか』

 

「……貴方を殺すかもしれないわよ」

 

『その時は全ての証拠がキヴォトスにばら撒かれる事になるだけだ。それは君の望むところではない、そうだろう?』

 

「……えぇ、分かったわ。連絡先を教えるから来る時は、事前に連絡をちょうだい。一時的に防衛システムを切っておくから」

 

『では、これで──『誰かと話してるの鷹さん?』──いや、こちらの』

 

 少女の声が入ると共に、ぶつりと消えるモニター。

 完全に動画配信などで、親の声が入って慌てる配信者の様な通信の切り方に思わず、目が丸くなり動かないリオだったが、すぐに意識を切り替え、彼とハッキング合戦を繰り返していた時に見ていたモニターに視線を向け、全ての権限が自分に戻って来ているのを見てそっと息を溢し、安心する。

 

「ヒマリ、ちょっと良いかしら?」

 

 暫く、どうするか考えた彼女は予想外の介入に対策を練ろうと、協力者に連絡を取るのだった。




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