便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア 作:マスターBT
「名も無き神々の王女……それがどの様な形をしているのかは知らないが、私の見た未来に一つ、少女と今の科学では到底考えられない空飛ぶ船があったが、何か心当たりは?」
「船……そうね、船なら恐らく『アトラ・ハシースの箱舟』だと思うわ。どの様な性能かは、限られた情報から推察するしかないけど……それをするにはあまりにも時間が足りない」
「ふむ。では、そちらは私が担当しよう。貸したまえ」
……うん?なにを不思議そうな顔をして止まっているリオ嬢、私は別にふざけて左手を向けた訳ではないのだぞ。
まさか、私の行動を理解してないと言うわけじゃないだろうな?
「その手は……」
「はぁ……まさかの方が当たってしまうとはな。君はどれだけ他人との協力が苦手なんだ?……無言で目を逸らしても何も変わらないぞリオ嬢」
「……今、持ってくるわ」
筋金入りだなアレは……会話能力には問題ないが、他者を頼る選択肢を持ち合わせていないといったところか。
この手合いは、昔から才能があり他者を見下しているか、突出し過ぎるが故に周囲から疎まれているタイプが多く、総じて友人が少なく視野狭窄に陥りやすいのが特徴的だ。
「持ってきたわ」
「ありがとう……ところでこれはちょっとした雑談なのだが、リオ嬢。学園での暮らしは上手くやれているのかね?」
「どうしてそんな話を」
「いやなに、君は何もかも全て一人で背負い込もうとする癖がある。私を警戒しているのなら別に構わないが、君のソレは筋金入りだ。私にしている事を他者にもしているのだとすれば、さぞ生き辛いだろうなと」
アトラ・ハシースの箱舟に関する文献はこれか……これだけではかなり大きい事と、何かしらの特殊な兵装がある事しか分からんな。
それにどうやらこれに対抗する船もある様だが、これも所在地は不明か。
かつて、存在したとされる超古代文明の名残を探るというのは、一筋縄ではいかない様だな、黒服なら何か知ってるかもしれないがアビドスの一件からあまり時間が経過していないから、得策ではないだろう。
「……肩書きに見合うだけの仕事はしているわ」
黒服のラボに侵入するのもアリだが、確実に面倒ごとに発展するだろうな……ゲマトリアにとって自分の研究を他人に土足で荒らされるのは、部屋にゴキブリが出てきたのと同じくらい、鬱陶しいものだ。
「私も自分に協調性が無く、自己責任で生きていると自覚しているからなにも偉そうに言えないが、組織に居るのなら賢しく利用すると良い。合わせなくても構わない、自分にとって都合が良いように周りを動かす柔軟さを身に付けると、諸々が楽になるぞ」
推定される質量は、アビドス砂漠で見たビナーすら凌駕しているこの船、これだけの巨大さでありながら外敵を排除する装備が見当たらんな……この大きさで単なる旅客機という訳でもあるまい……衛星?いや、それにしては観測機能はない……なんなのだこの船は?
「周りを動かす……考えた事もなかったわ」
「ククッ、だろうな」
「でも……私が説明をしたところで、誰も信じないわ。彼女だって……」
『王女』に関して情報が手に入れば、もう少し解析も進むかもれないが……すぐに分かるものでもないか。
「私は君を信じたぞリオ嬢」
「それは貴方が未来を知っているからであって……私が特別何かをした訳じゃないわ」
「君の話を信じると決めたのは、君が何よりも真剣であったからだ。キヴォトスを救おうとたった一人でも、足掻こうと貫くその姿勢が私を信じさせ、共犯者として手を貸したくなったのだよ。言葉は足りなくても、人とはそれ以外から汲み取り動いてくれる善性な者達も多いぞ。まぁ、私は善ではないが」
私はただ見届けたいだけだ。
この独善的で、他者を信じることの出来ない娘が、どの様な道を進み滅びに抗うのかを……その果てで『彼』がどの様な選択を取るのか。
「……貴方が悪かどうかを語る気はないわ。けど、私を信じ共犯者を語ったのなら、共犯者としての貴方を私は信じるから」
端末から顔を上げてみれば、リオ嬢の強い信念が宿った赤い瞳が私に嘘偽りは許さないと射抜く……やはり、彼女は私が期待した通りの人物だ。
「ククッ、ならばこれが共犯者としての初の仕事だ。受け取りたまえ」
会話しながらまとめたアトラ・ハシースの概要と、想定性能、並びに対抗策をリオ嬢の端末に送りながら懐から小切手を取り出し、取り敢えず即座に動かせる八桁の数字を書き込み、リオ嬢が読み終わったタイミングで差し出す。
「これは……」
「何かと入り用だろう?そこに書かれている金額なら、一先ず動かせるものだ。湯水の様に使われると息切れをするが、そこは君の常識に任せよう」
そろそろ、便利屋に戻らなければ不審に思われ……いや、心配されるだろう。
私もリオ嬢も、パソコン一つあれば互いの仕事を全う出来るタイプゆえ、直接会うのは今回だけかつ、話し合いも短時間で済むと思っていたが、どうにも私を監視する様な視線の持ち主からの信頼もある程度得なければならないとなると、今後も顔を出せる様に日程を調整すべきだな。
「今後の日程は」
「君の好きな時に連絡したまえ。私もそうする、それが共犯者というものだ」
「そういうものなのね……分かったわ」
こうして私はエリドゥを去り、来た時と同じ手段で便利屋の面々が待つホテルへと戻ったのだが……
「さてと、バイステンダー?何をしに行ったのか、何を企んでいるのか教えて貰ってもいい?」
「……全て話そう。だから、背中に突きつけられた銃は是非とも、下げて欲しいのだが」
Dr.ワンめ……大方、私の行動が怪しいと思ったカヨコ課長辺りに問い詰められてあっさりとゲロったな……その後何があって、アル社長の椅子代わりをしているかは不明だが、そんな事に思考を回しているとゴリゴリと押し付けられる拳銃で穴が空けられそうだ。
「悪巧みかもしれないし、油断はしないよ」
「アル様の邪魔をするならゆ、許しません」
「あはは!早く話さないとハルカちゃんが、トリガー引いちゃいそうだよぉ?」
「せめて、話終わるまで発砲しない様に見張っていてくれたまえ……」
項垂れるように、リオ嬢との話を可能な限り、端的に分かりやすく説明していき、今後便利屋68の仕事を抜けて、彼女との会談や個人的な仕事が増えるであろう事と、一部個人的な資金を動かす事が話し終わると、全員が見事な呆れ顔を披露し、押し付けられていた銃をしまう。
ふむ……キヴォトスの危機とはざっくり話したが、てっきり嘘だのなんだのと笑われるかと思ったが、呆れ顔の中にある安心した表情とは少々、予想外であったな。
「そう……なら、今度からは社長である私に話を通してからね。はぁ、本格的に悪事を始めたのかと心配して損した」
「なんだ、私が君達の敵になると思ったのかね?」
「突然姿を消したし、変な依頼も持ってきてたからね。可能性の一つとしてはあり得るかもって、私が予想して社長に」
「ククッ、私がまるで悪人みたいな言い方で悲しいな?」
微塵も悲しくなどはないが、ここは一つ揶揄うつもりで嘘泣きする演技でも入れてみようか。
「この私の社員なのだから、アウトローなのは当たり前よっ!って、さすがに嘘泣きだって丸わかりの演技はやめなさいよ」
「アル社長すら騙せないとは私もまだまだだな……」
「ちょ!?それどういう意味!?」
そこで予想外に驚いてますって顔に出すからだなアル社長。
しかし、そうか、ここに居る者達はリオ嬢の話を笑わないのだな……少なくとも、私の勝手を許す材料になるくらいには真剣に受け取ってくれている。
「しかし、君達も酔狂だな。キヴォトスが滅びるなどという突拍子もない話を信じるとは」
私がそう言うと、あれほど醜態を晒していたアル社長すらも含め、皆がキョトンとした表情を浮かべて、私を見てくる。
何か、不思議な事を私は言っただろうか?
「そりゃあ、
何を疑問に思われているのかさっぱり分からないと言った表情で首を傾げるアル社長。
「まぁ、バイステンダーだし」
「は、はい。バイステンダーさんですから」
「くふふっ、鷹さんなら明日、空からお金が降り注ぎますって言い出してもおかしくないしねぇ」
そんな彼女に続くように、なんだか散々な事を言い放つ面々に思わず、私は返す言葉を失い、口元に浮かんだ笑みを隠すように手を動かしながら、綺麗な衣装に引けを取らないほどに美しい彼女達を見つめ、小さく言葉を溢した。
「──全く、眩しいな君達は」
「え?何か言った?」
「何も?さて、そろそろ帰ろうか──む?」
ポケットから鳴る通知音は、モモトークが届いた音であり、確認してみれば『先生』から一枚の画像が送られてきていた。
『“彼女に見覚えあったりする?”』
「ククッ」
送られてきた画像に写っていた生徒は、地面につくほどの長い黒髪が特徴的で、何処か人間離れした雰囲気を醸し出す……そう、私が此処ではない何処かで視たキヴォトスに滅びを齎す存在『名も無き神々の王女』であった。
感想とかここ好きとか待ってるぜ!