便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア 作:マスターBT
「まさか昨日の今日で『先生』に呼び出される事になるとはな……ククッ、やはり彼の居る所に事件がある」
「貴方の役割を忘れないでちょうだいね。バイステンダー」
「あぁ。今は動けぬ君の代わりに王女を調べるのだろう?分かっているとも、その為にわざわざコレまで用意して貰ったのだから」
生徒会長とコネクションがあるというのは、権力が通用する範囲で行動する限りとても楽で良い。
最新鋭の設備でありとあらゆる場所が守られているミレニアムで、自由に動き回る為の職員証をリオ嬢が正式に作ってくれた事で、偽造がバレる心配がなく、自由に動き回れるのだからな。
「一応、貴方のネクタイに付けた盗聴器で話は聴いているけど、指示を出すつもりはないわ」
「了解した」
妨害しようとすれば簡単に出来るが……この信頼関係を崩してまで上回るメリットは何もないな。
それにしてもさすがはキヴォトスでも屈指の科学力のある学園だな、自由に空を飛び回るドローンは監視カメラに警備か?それに一面ガラス張りの校舎に、涼しげな噴水は大学らしさすら感じる。
「機会があれば、最新技術の研究開発を行っている部活動でも見てみたいものだが、今は『先生』の元へと向かうとしよう。ではな、リオ嬢。君は君の業務に励みたまえ」
「えぇ。その、一応、気をつけて」
「ククッ、これでも荒事は慣れているとも」
そう言い残し、私は周囲の景色を楽しみながら目的地であるゲーム開発部の部室へと向かって行った。
「……ウチは色々と、濃いけど平気かしら。まぁ、彼も十分同類でしょうから適応するでしょう」
リオ嬢の発した杞憂は、見事に十分後の私に的中することとになる。
私もいけないのだが、『先生』を待たせているのは自覚しているが、それでも機械工学に携わる者として此処、ミレニアムは興味深いものが多くあり、ふらふらと色んな場所に足が向かい、気がつけば『エンジニア部』という釣り看板がある部室の前まで来ていた。
「ほぅ。エンジニア部か……!?」
半ば、ただの直感に突き動かされ、扉の前から飛び退くと凄まじい破壊音と共に青白い光線が扉を粉砕し、私の身体スレスレの所を通過していき、数秒も経たないうちに光線は見えなくなり、無事に私は衝撃波で吹き飛ばされ、何が起きたのか全く分からず気が付けば青空を眺めていた。
「……一体何が……」
“わぁ!?バイステンダー!?!?!?しっかりして!!目を閉じたら死んじゃう!?”
……この声は『先生』か……あぁ、なんの因果か私の最期を見送るのが貴方とは……不思議な事もあるものだな……
“安らかな顔をしないで!?起きて!!”
「ふっ……我が生涯に一片の……いや、悔いありまくりだな、死ねんぞこんなところで」
“わっ……急に元気になった。大丈夫?”
「多少の痛みはあるが、衝撃波だけなら見ての通りだ。というか、アレはなんだ?明らかに携帯武器が出せる様な代物ではなかったが」
“あぁ……それはね”
『先生』が何かを説明するより早く、見事に吹き飛んだエンジニア部の扉の方からワラワラと生徒達が姿を現し、その中の一人を見て理解した……なるほど、さすがは王女と言ったところか。
あの大きさ、そして形状と威力から推察するにレールガンの類か?アレほどのものを搭載するような戦艦や戦車は此処には無いはずだが。
「彼女自ら生み出したのであれば、こんなにも和やかな空気が流れている筈はない……であれば、エンジニア部がその大砲を造ったのかね」
「ほぅ、よく気が付いたね、察するにアレの用途が本来何だったのかも推察できているね?」
「無論。古の時代から男の、そして科学に携わる者達の心を強く掴み離さない永久の浪漫……果てのない宇宙を旅する大いなる箱舟、『宇宙戦艦』に搭載する代物だろう?」
兵器がありふれたキヴォトスでわざわざ、レールガンという膨大な電力とクールダウンに時間がかかるものを使用するメリットは限りなく薄い。
であれば、言葉を聞いただけで心が躍ってくる宇宙戦艦の砲として開発した方が利益を生み出す事にも繋がるし、何より空気抵抗のない宇宙空間で発射されたレールガンは、その圧倒的な暴力性を保持したまま、何にも遮られる事なく敵へと衝突する……この威力を考えただけでも心が躍るというものだよ。
「──正解だ。まさか、一度見ただけで私達と同じ考えに至る人物がまだミレニアムに居た事に驚きだよ」
先程から話している薄紫色の髪の少女が私に近づき、握手を求めてくる……何か言いたげなその瞳、良いだろう私も君に合わせようじゃないか。
「「ビーム砲はロマンだな」」
「「うんうん」」
「頭の良いバカが増えた!!」
頭の良いバカとは心外だな、ただ他の者よりもロマンを優先し効率や結果を放り投げているだけだというのに。
「私の名前はウタハだ。今度、じっくりロマンについて話をしようじゃないか」
「それ、私も混ざりたい……」
「私も私も!」
「勿論、君達もだよ。あぁ、こっちがヒビキで、こっちがコトリだ。私と同じエンジニア部の部員さ」
ふむ、無口そうな割に派手な格好の彼女がヒビキ嬢、着崩れているでは少し説明出来ない着崩れをしているのがコトリ嬢、そして私の手を取り今もなお好意的な、いや知的好奇心に満ちた表情で見つめているのがウタハ嬢と……濃いメンツだな。
「私はバイステンダーという。後で、『先生』から私の連絡先を聞くと良い、都合が合えば幾らでも君達の話に付き合おう」
スルリとウタハ嬢の手から逃れ、『先生』と一度視線を合わせ、彼が頷いたのを確認し目的の人物である王女──即ち、アリスと名付けられた少女の前へと移動し、彼女を見下ろすと何か警戒されたのか後退りをされてしまった。
「私が怖いかね?」
「……不可解。反射的に後退りをしました。貴方は……悪者ですか?」
私の胸の中にある滅びに対する悪意を拾ったか?なんにしろ、私を少しばかり泣き出しそうな表情で見ているこの状況はあまり宜しくないな……本来、目覚めるべき時ではないからなのか、王女というよりはただの見た目相応、いやそれより僅かに下の子供にしか思えん。
「ククッ、確かにこの顔と風貌のせいで怖いかもしれないが、私は『先生』から正式に依頼された医者だ。君の身体に何か問題がないか、チェックしに来ただけさ。ほら、これを食べて少しは警戒心を解くと良い」
マジックの要領で、何も持っていない筈の右手に飴玉を出現させれば、予想通り先ほどの警戒心はどこ吹く風となったアリスが、手を伸ばし飴玉を口に放り込む。
「美味いかね?」
「肯定」
「それは良かった。では、少しばかり付き合ってくれると嬉しいのだが……」
「待って!今日の午後にユウカが来る筈だから、出来ればその後にしてくれると嬉しいかも!」
「午後……あと、二時間ほどか。分かった、それまでの間、簡易的な検査をするだけにしておこう。何処に彼女を送れば良いかね?」
賑やかな彼女……後にモモイと自己紹介された彼女からゲーム開発部の部室を教わり、私はアリスを約束の時間までには届けると約束し、リオ嬢から借り受けている検査室へと手を繋ぎながら、向かいつつ対話による情報取得を試みる事にした。
「アリス嬢、君は何処から来たのかね?」
「アリスは廃墟でモモイ達のパーティに加わりました!」
「なるほど……その様な場所で何を?」
「不明。アリスも知りたいです」
「ふむ……君は自分が何者か分かっているのかね?」
「?アリスはアリスです!」
やはり、今の彼女に王女としての自覚はなく、ただの子供そのものだな。
だが、それならば何故、私に対する恐怖心を発露させたのか……私の風貌が不気味だったとしても、ただの子供であれば泣きじゃくるか信頼できる者の側へと逃げる筈、ただ後ずさっただけというのは私の動きを警戒した?こんな子供が?
「……さて、此処だ。痛い事はしないから安心すると良い」
「はい!」
本当は採血をしたり、耐久テストもしたいが時間制限がある以上、それは不可能だな。
MRIや粘膜採取、王女に関する質疑応答、簡易的な身体検査等で兎に角、今は情報を集めるしかなさそうだな。
天童アリス調査記録
『外見的情報にキヴォトス人との差異は見られないものの、身長152cmの細腕とは思えないほどの筋力を有しており、100kg以上はあるレールガンを容易く携帯し、リンゴなどはえいっ!という軽い一言でジュースとなるほどだ。また、精神性は幼い。とは言えゲーム知識ではあるが、事の善悪を認識している。彼女の倫理観において悪と思われる行為は、勇者を自称しているのもあり、自発的に行われる事は現状、限りなく僅かな確率だろう。但し、悪い大人が入れ知恵をすれば、この限りではない。
また、彼女の粘液からはナノマシンが検出された。検査はまだ行なっていないが、恐らく医療用途だろうと推測。MRIなどの検査により、彼女の肉体は外見こそキヴォトス人だがその中身はアンドロイドと表現する方が正しく、殺害にはかなりの労力が必要だろう。
最後に、心理学を用いて彼女の深層心理を暴こうとした際、彼女の様子が変化。一瞬であったが、彼女の中に居るもう一つの存在は、他者を害する事に何一つ抵抗がない存在だろう。気をつけると良い、我が共犯者よ』
この後、アリスちゃんはちゃんとバイステンダーと手を繋ぎながら、ゲーム開発部に戻りました。可愛いね、隣の男を見なければ。
感想やここすき待ってるぜ!!