便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア 作:マスターBT
「バイステンダー。仕掛けるわよ」
「ほぅ、漸く動くのかね」
鍵の神官とのやり取りから数日後。何度目かになるエリドゥへの来訪の際、リオ嬢が徐に発した言葉に手を止めて、彼女を見るといつも通りの覚悟を決めた彼女の顔がそこにあり、安心する。
あまりに動きがないから平和に暮らすアリス嬢を見て、覚悟が鈍ったのかと思っていたぞ。
「動きが遅くなったのは認めるから、そう責めるような視線はやめて頂戴……王女が居るゲーム開発部は、最高のゲームを作る為にどうしても解析したいものがあるらしく、それを利用する為に解析に最も適したヒマリの『鏡』をセミナーで押収したわ。廃部に追い詰められた彼女達なら、必ず強硬策に出る筈よ」
「ふむ……しかし、その『鏡』とやらを知らせる役目を誰にさせるつもりだ?分野違いの者でも知っている代物なのか?」
「──それなら問題ありません。私の可愛い後輩達がやってくれますから♪」
ほぅ、視線の主自ら会いに来てくれるとは手間が省けたな。
病的と表現するのが正しい白い肌と、白髪、そして何よりも目を引くのは彼女は自らの足では無く、電動で動く車椅子に乗っている事だろう……なるほど、これほど特徴的な容姿の者であればデータを見直さずとも誰か分かる。
「初めまして、超天才清楚系病弱美少女ハッカー明星ヒマリです。便利屋68のアルバイト、バイステンダーさん?」
「これはこれは私の事を調べてくれているとは、随分と暇人いえ、疑い深いようだなヒマリ嬢」
「うふふ」
「ククッ」
理解したぞヒマリ嬢、君は随分とイイ性格をしているようだな。ともすれば私と似ているある種のロクデナシ……彼女と長く話すとボロを出してしまいそうな気がしてきたな、とっとと話を進めるとしよう。
「……それで?首尾よく行ったとして私の役割は何かね、リオ嬢」
「えぇ。貴方は確か、アビドス砂漠で起きた戦闘で生徒達を指揮していたわよね?」
「していたな」
「その経験を活かして、セミナー直属のC&Cの指揮を執って欲しいの。向こうには『先生』がいる以上、生半可な攻めで王女の真意を探るのは不可能だと考えたわ」
「そこまで警戒しなくてもいいと思うのですけどねぇ……可愛いですし」
……ここに居るという事はリオ嬢の説明も受けている筈、その上でその判断かヒマリ嬢。
「良かろう。私は君の共犯者、君が望むのならそれに応えるまでさ」
その日の夜、開発や研究に明け暮れるミレニアムサイエンススクールの光が失われた。
暗闇になった時間は、ごく僅かであったが、最新鋭の設備によってあらゆる対策が為されているこの学園において、一瞬の停電というのは本来、発生するはずのないイレギュラーであり、事の対処にあたっている者達からすれば到底、信じられない出来事であった。
「電力の遮断……
メイド服に身を包み、特技が暗殺という物騒な爆弾魔もとい、少女──室笠 アカネは驚きの表情を浮かべつつ、支給された特別製の通信機を起動させる。
「こちらコールサイン03。そちらの状況は?」
『
「分かりました。では、私もその様に」
パーティに参加した淑女の様に、スカートを広げて摘んだアカネ──そこから零れ落ちる無数の爆弾は地面にぶつかると共に炸裂する。あたりに振動と爆煙を巻き起こし、彼女を足止めしようとしていたエンジニア部のコトリと、ヴェリタスのマキの視界を遮り、アカネはスムーズにその場から逃げ出すのであった。
この一連の騒動は、リオの計画通り追い詰められたゲーム開発部が、なんとしても面白いゲームを作るために、G.Bibleを解析する『鏡』を手に入れるために起こしたものであり、騒ぎを鎮圧するために派遣されたミレニアム屈指の武闘派部活との激突に端を発していた。
そして、『先生』を味方にしているゲーム開発部陣営は作戦通り、妨害を掻い潜り、目的地である生徒会の差押品保管所へと辿り着こうとしていたが、当然、そこにも妨害の手は及んでいる。
「遅かったねぇー、だいぶ待ったよー!!」
直感だけで、待機していたC&Cコールサイン01、一ノ瀬 アスナはまるで犬の様な愛らしい笑顔を浮かべ、ここまで無事にやってきたモモイとミドリ、そして『先生』と会話に花を咲かせようとして、ハッと思い出した顔になると、懐から通信機を取り出した。
「やっほー、みんな聞こえるー!!
“待って。もしかして、私達の作戦ってバレてる?”
「んー?えっと、なんだっけ?陽動と囮をぱっと見逆にしたんでしょ?」
“すごいふわっとだけど、バレてるねこれ……まさか、見抜いた状態で付き合ってくれるなんて意地の悪いことをしてくるとは”
『先生』は少しだけ困った様に笑いながらも、懐にあるシッテムの箱へと手を伸ばしていく。
C&Cの生徒達の行動の中に混ざる違和感と悪意に勘付いた『先生』だったが、彼がシッテムの箱を取り出し、作戦指揮を開始するより早く仲間のピンチを憂いた勇者がその姿を現す。
「光よ!!!!!」
“待ってアリス!!”
勇者──アリスの放った一撃は一直線にアスナの元へと向かっていくが、途中で柱が爆発し倒れる事でアリスの攻撃の勢いを削ぎ──そして、アスナの目の前に小さな誰かが降り立つ。
ミレニアムサイエンススクールは三大学園に数えられてはいるものの、彼女達が掲げる方向性の為か、トリニティやゲヘナに比べ単純な戦闘力は低くなり易いとされている。しかしそれは単なる総合値であり、少数あるいは個人で見れば他の学園に引けを取らない強者も勿論、在籍している。
「たくっ……派手な登場をしろって、ヒーローショーじゃねぇんだぞ!!」
苛立ちと共に手に持つ二丁のSMGを盾にする様に、勢いが弱まったアリスの攻撃を受け止めると、ガラの悪い声と共に上へと弾き飛ばし、上階への大きな穴が作られた。
その身を包むメイド服は、C&Cの証でありその上に噛み合うはずのないヤンキーが着る様なスカジャンを羽織り、万物全てを目付きだけで殺せそうな程の刺々しい目つきの女子生徒……美甘 ネル、ミレニアムが誇る最強の暴力装置が現れた。
「これで威力軽減されてんのか……まともに受けたら私でも危ねぇな」
「わぁ、リーダー格好イイ!!」
「こんなのではしゃぐな!……まぁ、少しは認めてやるよ
耳に装着された小型通信機を押さえるネル。
どうやら、『先生』とヴェリタスの作戦を読み切った誰かがいる様だと理解した『先生』は、アリス達ゲーム開発部を庇う様に一歩前に出る。
「『先生』がアタシの相手をしてくれるのか?」
“私なんかじゃ一瞬で負けさ。確か、美甘ネルだったよね?”
「よく調べてんじゃねぇか」
“生徒の名前を覚えるのは先生として当たり前だからね。それで質問なんだけど、君達は誰の指示で動いていたの?”
「……わかった。ほらよ、『先生』ウチらの新人が直接、話をするってよ」
自身の耳に装着していた通信機を外して、『先生』に投げつけるネル。
身体能力の劣る『先生』でも、簡単にキャッチ出来るようにふわりと投げられたものを受け取り、自身の耳に装着する『先生』は何処か確信めいた表情で口を開いた。
“君は誰かな?”
『──コールサイン05。期間限定のC&Cの新人さ。主に今回の騒動を担当するためのね』
ハスキーな声で告げられる内容を頷きながら、受け取った『先生』はすぐに呆れ顔に変わった。
“バイステンダーだよね?何してるの?”
『……ククッ、さすがは先生だな。しかし、姿も見せず声すらボイスチェンジャーで変えているというのに何故、わかった?』
“こっちの作戦を読み切ってる癖に、詰みにはしない性格の悪さに加えて、ネルの登場の仕方が浪漫すぎる。それと──”
一度、言葉を区切った『先生』は恐らく此処を見るために使っているのであろう監視カメラを見つめながら、今までよりも力強く言葉を発した。
“──私の作戦を全て理解する相手なんて、君以外に思いつかない”
『なるほど……それは盲点だったな』
合流したアカネ、ユウカによってゲーム開発部の面々は逃げ場を失うが、『先生』に焦りはなくシッテムの箱を携え、バイステンダーとの会話を続ける。
“それでこのまま捕まえて終わり。なんて、つまらない結果にするつもりはないんだろ?”
『ククッ、そうだとも。私からの提案はただ一つ、そこにいるリーダー、コールサイン00美甘 ネルと天童 アリスを戦わせる事だ』
“私が助力しても良いんだね?”
『構わないとも。私もそうするからな。では、通信機をリーダーに返したまえ』
バイステンダーがそう告げると、『先生』は耳から通信機を外し、少しズレたフォームでネルへと通信機を投げ返し、シッテムの箱を起動させ、アリスのヘイローとリンクさせる。
「……『先生』」
“大丈夫。私を信じて”
『必要最低限のバックアップで構わないな?』
「はっ、私を誰だと思ってやがる。信じろコールサイン05」
『鏡』を巡る騒動は、いつの間にか天童アリス対美甘ネルの戦いへと変化するのだった。
次回、アリス対ネル!!
擬似的に、先生とバイステンダーの戦いとも言える。
感想やここすき待ってるぜ!!!