便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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命を賭けた戦いではないのなら、個人の嗜好を優先しても仕方あるまい?

『少しばかり演出を入れようか』

 

 配置された放送機器からバイステンダーの声が聞こえると同時に、廊下は暗闇に閉ざされた。アリスは不安そうな表情を浮かべて『先生』を見るが、彼が真剣な表情で頷くと恐れを追い出し、光の剣をギュッと握り締める。

 

「はぁ……おい」

 

 ネルの呆れた溜息が溢れると同時に、アリスとネルの背後の電気がつけられ、まるでカウントダウンのように少しずつ明かりが灯っていく。

 彼の性質を知る『先生』は苦笑を溢し、まるでゲームのボス戦演出のような展開にアリスは目を輝かせ、肝心の味方であるネルは完全に呆れ切った表情を浮かべながら、今か今かと中央の電灯が灯るのを見上げていた。

 その場にいる全員が固唾を飲んで見守る中、ついに中央の電灯が灯り──

 

「光よ!!」

 

──事前に溜めていたアリスの一撃が、ほぼ同時に放たれる。

 レールガンから放たれる彼女の攻撃は、一直線に空気を焼き尽くしながらブレる事なくネルの元へと向かっていき、彼女が犬歯を剥き出しにした好戦的な笑みと共に避けると、背後に着弾し爆発と振動を起こす。

 

“アリス、距離取って!!”

 

「はいっ!」

 

『再チャージの予測時間は、五秒だ。気をつけたまえリーダー』

 

「私からすりゃ、十分な時間だ!」

 

 巨大なレールガンを担ぎながら後方へ下がるアリスだが、いくら彼女が並外れた怪力であろうと元々戦艦に搭載する予定だった砲身は重く、身軽なネルとの距離がどんどん詰まっていく。

 身を屈め、あまりの摩擦に履いている靴のラバーが焦げていくほどの速度で走るネルは、アリスを自らの射程に捉えた瞬間、なんと足を止めることなく、両手に持つSMGを放つ。

 

「くぅ!」

 

「ほらほらどうしたぁ!!」

 

 レールガンという発射機構の都合上連続した攻撃は不可能であり、相手との距離を空けなければならないアリスに対し、閉所での戦闘にも適したSMGと持ち前の機動力で近距離という自らの得意レンジに持ち込むネル。

 いくら頑丈なレールガンを盾にしているとはいえ、このままではアリスがジリ貧となり追い込まれてしまうが、『先生』は落ち着き払った態度で戦場全体を見渡し、シッテムの箱、そのAIであるアロナに話しかける。

 

“アロナ。アリスから、60m先の柱、調べられる?”

 

『はい!……スキャン完了!!一部、亀裂があります!』

 

“ありがとうアロナ……アリス!!真っ直ぐに突っ込んで、柱を思いっきり蹴り飛ばして!!”

 

「はいっ!!アリス、行きますっ!!」

 

「うなっ!?」

 

 押されるばかりだったアリスが、『先生』の指示に従いグッと足を曲げて両手を付かないクラウチングスタートの様な体勢になると、まるで重機の様な勢いでSMGの弾幕の中を突っ込んでいく。さすがのネルもその勢いを受け止める事はできず、激突する直前で大きく右に飛び出して避け、追撃しようと振り返る。

 

『リーダー!!後方へ下がり追撃に備えるんだ!!』

 

「あぁ!?なんで、アタシがそんな逃げるような真似を……チッ、そういうことか!!」

 

「やぁぁぁ!!」

 

 『先生』の指示で、可愛らしい掛け声と共に亀裂が入っていた柱が蹴り飛ばされ、彼女の怪力を受けた破片はショットガンの如く、瓦礫となってネルへと向かっていく。

 バイステンダーの指示を受け、ほぼ反射的に体勢を作っていたネルは、小さな体を活かして後方へと飛び退きながら瓦礫の隙間を掻い潜るが、その視線の先で青い光が充填されていた。

 

“宙に浮いた瞬間を狙って”

 

 トンっとネルの身体が瓦礫を避ける為に浮かび上がった瞬間、アリスのレールガンは放たれ、その暴力的な推進力でネルに向かって真っ直ぐと飛んでいく。

 

『君はそのまま攻撃に移りたまえ』

 

 被弾を覚悟した瞬間、胡散臭い声が届くと共に室内に雨が降る。

 それは火事に備えて配備されたスプリンクラーによるものであり、リオから此処一帯のシステム権限を受け持っている彼だからこそ作動させる事が出来た代物だ。

 

 レールガンはそのシステムの都合上、発射された物体はかなりの高熱となる。

 それほどまでに高温な物質が降り注ぐ水と接触したらどうなるか?

 

「──はっ、褒めてやるよコールサイン05」

 

「そんな!?」

 

“……気体になる事で大きく膨れ上がった体積でレールガンの弾丸を逸らしたのか”

 

 水は固体、液体、気体と状態変化していく中で、最も体積や密度の変化が大きい物質であり、反応に必要な温度も極めて常識的な範疇だ。

 弾丸という重力と空気の抵抗をモロに受けるものが、その変化の煽りを受ければ当然、狙ったところに着弾する事はなく、アリスの放ったレールガンは、ネルの左横10mほど離れたところに着弾し、爆ぜる。

 

「戦場で動きを止めるんじゃねえよ!」

 

「きゃあ!?」

 

 ネルが足を止めていれば爆風で身動きが取れなかったかもしれないが、彼女は通信と共に走り出していた。必中だと信じたレールガンが当たらなかった事で動きを止めてしまったアリスにネルは再び接近しており、呆けた彼女の横腹に数発のSMGが当たる。

 衝撃を受けてふらつきながらも、レールガンを今度は盾にするのではなく鈍器として降り下ろすアリスだが当然ネルに当たる訳もなく、更に追加で、鳩尾あたりに弾丸が叩き込まれる。

 

「くぅぅ……」

 

「こんなもんか?」

 

“──アリス。レールガンのエネルギーを溜めるんだ、撃てなくても良い限界一杯まで溜めて”

 

 アリスが少しずつ傷ついていくが、それでも『先生』に焦りはなく、スプリンクラーによって濡れた前髪を掻き上げ、露わになった鋭い瞳でネルを、その向こうにいるバイステンダーを睨みつける──余談だが、この時の『先生』の表情を見て、心臓の高鳴りが抑えられなくなったセミナー会計がいるとかいないとか──そんな『先生』を初めからずっと信じているアリスは指示通り、レールガンのエネルギーを溜めていく。

 

『……まさか、それが狙いか?だとすれば、リーダー!!早く、アリス嬢の意識を奪うんだ!!』

 

「そうは言ってもな!!コイツ、馬鹿みたいに頑丈だぞ!!並の生徒ならもう意識トンでるぐらいには当ててる!!」

 

 『先生』の狙いを見抜き、自らの失策を悟ったバイステンダーが焦りながら指示を飛ばすが、既にその指示の内容はネルも実行済み。SMGの弾丸を受け続け、傷が出来始めているにも関わらず未だに瞳に強い光を宿したままのアリスに驚愕と、面白さを見出すネル。

 恐らくは、負けず嫌いな彼女の性質によるものなのだろうが、ネルは攻撃を耐えながらエネルギーを溜めているアリスに、飛び掛からんという勢いでSMGを放っていく。

 

『リーダー、撤退を進言する!!』

 

「断る!!これはアタシと、コイツの意地の闘いだ。先輩として、後輩より早く逃げたら格好悪いだろうが!!」

 

『ッッ、まったく……好きにしたまえリーダー。君の覚悟を私は見届けよう』

 

 通信機は耳に当てたままだが、バイステンダーは戦場を眺めていたモニターから大きく背を逸らし、椅子に体重を預ける。もはや、自分が関与する必要も意味もなくなったただ二人の意地のぶつかり合いを薄い笑みと共に見つめ──その時は訪れた。

 

“アリス、エネルギーを解放して。多分、痺れると思うけど許してね”

 

「ふぅぅ……光よ!!」

 

「来い!!」

 

 辺り一帯に眩い、青白い閃光が走る。シッテムの箱による守りがある『先生』とこの展開を予想していたバイステンダーを除く、この場にいる全ての者達の視界が一時的に使い物にならなくなり、数秒後、彼女達が視界を取り戻したその先で、驚きと喜びというどちらを応援していたかによって感想の分かれる光景が広がっていた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「あー……身体が痺れて動かねぇ……」

 

 レールガンを杖のようにし、荒い息を溢し、今にも気絶しそうなアリスと、地面に倒れてはいるものの何処か楽しげな笑みを浮かべているネルという、C&Cやユウカからすれば信じられない嘘みたいな光景、ゲーム開発部からすればアリスが勝利したという喜ばしい光景だった。

 

『……私が散布した水を利用し、レールガンから発せられる強力な電気の媒介とするとは。やれやれ、アレしか手がなかったとは言え、失策だったな』

 

“本当は柱を壊したレールガンで終わらせるつもりだったのに、まさかこんな方法で防がれるとは思わなかった。君はあの時、打てる最善手を打ったよバイステンダー”

 

『それはどうだか……貴方ならもっと違う、敵に利用されないような手を打っていたのではないかね?っと、個人的な反省をしている場面では無かったな。約束通り、先に進み望みの品を手に入れると良い──既に我々は目的を達成したからな』

 

“ッッ!?それはどういう意味だバイステンダー!!”

 

 目的は達成したという、『鏡』の防衛が目的ならば適していない言葉を残したバイステンダーの言葉に疑問を投げかける『先生』だったが、返事が返ってくる事はなく、戦い終わったアリスをおんぶし、ゲーム開発部の面々と共に『鏡』を手に入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……王女の身体に何かがあったらどう責任を取るのですか』

 

「生憎とそれは私の管轄外だ。鍵の神官よ、そんな事より君の目に『先生』はどのように映った?」

 

 我々ゲマトリアではなく、純粋にキヴォトスに滅びを齎す為に生み出された彼女が『先生』に対してどの様な感想を抱くのか、休憩という僅かな時間を潰すのに適していると思い投げかけたのだが、すぐに返事はなく、少しの間、鍵の神官は私を見つめてから言葉を発した。

 

『脅威だと感じました。まるで、AIの様に素早く戦術を組み上げ、迷いなく運用する姿は確かに、貴方が懸念する様に私達の計画を阻止する可能性を孕んでいると思います。ですが……それは貴方も同じですバイステンダー』

 

「ほぅ?」

 

『私に自由にアクセスするほどのスキルに加え、『先生』に匹敵する指揮能力は極めて厄介であり、何より貴方は王女の情報を既に得ています』

 

 なるほど、確かに道理だな。

 計画を最優先する彼女からすれば、私も立派な妨害者になり得る……得もあったが、私自身の安全を脅かすのであれば彼女との関係を続けるのは愚策か?

 

『……しかし、此処で貴方へ明確に敵対を宣言すれば、彼と貴方の二人を相手しなければならない。それは、極めて非効率的だと断じます』

 

 おや?何やら風向きが変わったか?

 

『バイステンダー。貴方が真に傍観者であるのならば、静観を約束してください。貴方の共犯者、『先生』、王女と私。この戦いにおいて、どの陣営にも与せず、ただそこに居るだけの存在として──「断る」……何故ですか?貴方にとっても魅力的な提案のはずです』

 

 鍵の神官が保有する戦力に個人的に狙われなくなるというのは、確かに身を守る術に乏しい私にとって明確な利点だと言えるだろう。

 だがな、そんな危険は分かりきった上で私はこのキヴォトスに降り立っているのだよ鍵の神官。

 

「鍵の神官よ。私は脆く、弱い。君が保有戦力の一割でも差し向ければ、容易く瓦礫に沈む血の花となるだろう」

 

『ですから提案を』

 

「例え、そうであったとしても私は刺激を求めてキヴォトスに来た。物語の分岐点、或いは結末に参加出来る権利を手放す筈が無かろう?」

 

 そう私が返すとモニターの中で、鍵の神官は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた……ククッ、なんだ仏頂面以外にも出来るではないか。

 

『何処までも理解不能な男です……!』

 

「私を知りたいのかね?そうだな……では、少しばかり教えてやろう」

 

『は?』

 

 そこから私は、ポカンっとする鍵の神官を尻目に好きな食べ物や、趣味、把握している限りの私の性格、このキヴォトスで面白かった事、『先生』や便利屋68、リオ嬢に対してどの様に考えているかなど、ざっくばらんに話し続けた。

 理由?特に意味はないが、強いて言うならアレほどまでに感情豊かになったアリス嬢と同じ様な変化が、彼女にも起きるのではないかと暇つぶし程度に考えた為だ。

 

『……なんなんですか本当に貴方は』

 

 結果はまぁ、あまり良くなさそうだな……やはり、私に『先生』の真似事は不可能か。




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