便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア 作:マスターBT
その日はいつもより静かだと感じた。
普段であれば、私がなんの作業をしていようとも声をかけてくるか、画面の端に現れては邪魔をしてきたりなど、ここ数日で鍵の神官からの妨害にも慣れてきていたのだが、この日ばかりは何もなく至って順調に仕事を消化でき、私は完全に気を抜いていたのだろう。
──ドカンッ!!──
「ッッ!?今の爆音は……」
『ゲーム開発部からです。バイステンダー』
「鍵の神官……そうか、いよいよ動いたと云う訳かね」
なにがキッカケになったのか不明なのに一抹の不安を覚えるが、事始まってしまえばこの騒ぎに乗じてリオ嬢も動き出す事だろう……暴動を起こした生徒を捕縛する、それも立派な生徒会業務の一つだ。
だが、派手に動き出した後にわざわざ、私にこうしてコンタクトを取る理由はなんだ?
『……私は貴方から学びました。目的を達成する為に必要な、賢い悪意の使い方というものを』
「なんだと?」
直後、この部屋にあるありとあらゆる電子機器がアラームをけたたましく鳴らすと共に、解析のためにコードを繋いでいたDivi:Sionが起動し、こちらを睨みつける。
『貴方の王女へのアクセス権限を解除します。さぁ、ゲマトリアのバイステンダーよ。選ぶのです、貴方の共犯者か王女へのアクセス権限か、自らの命か』
「ククッ、なるほど。相手にとって譲れず、しかし確実に優先順位があるものを選択肢とする事で、己の目的を確実に達成出来る様にすると……鍵の神官よ、私は君が成長を見せるとは微塵も思っていなかった。それだけでも価値はあるとも」
自らの不足を自ら考え、周囲からそれを取り込み実践可能まで落とし込む……この過程をたった一人で行えるほどのAI……興味深い、これもまたその身に有する神秘の賜物か?
っと、今は優れた結果に考察を走らせている場合ではないな。
おそらく、鍵の神官が最も達成したい事柄は、アリス嬢へのアクセス権限を削除する事……これは私にとって確かに有用ではあるが、最も優先するべきものではない為、どう足掻いても彼女は第一目標をクリア出来る。
「……致し方ないな」
ホルスの義眼を生み出し、未来視を行いながらただのペイントボールをDivi:Sionのモノアイ目掛けて、放り投げる。
『自身の命を選びましたか。予想通りです』
「ほぅ。では、これは予想出来たかな?」
『なにを──!?無名の守護者からのハッキング!?いつの間にそんなものを!!』
「今の君であれば、数秒もあれば無効化出来るだろう。その間に私は逃げさせて貰う!」
念の為、解析中に仕込んだバックドアからのハッキングを予想していなかった鍵の神官の隙を突き、部屋を飛び出しこのタイミングで、部屋の目の前を通ると視た掃除用ロボットの上に乗り、この場から離れた。
『……やはり、そう簡単に排除させてくれませんかバイステンダー』
「大人しくして貰いましょうか……どうやら怪我人も出ているみたいね」
私や彼の監視を掻い潜って、ゲーム部の部室を襲うとは思っていなかったけれど、概ね予想通りというべきかしらね。
怪我人は……確か才羽 モモイという生徒ね、気絶しているからヘイローは消えているけど呼吸はしている以上、放置していても問題はないのだけど、此処で戦いになって万が一でも死なれれば、私がこの選択を取った意味がないわ。
『早かったですね。リオ、さすがは生徒を危険因子と見ているだけはあります』
「……アリスは兎も角、貴女は生徒ですらないわ」
『そうですね。ですから、この様な手段を取る事も出来ます』
彼女が私の方へ手のひらを向けると、従えてきたドローンの一部が銃口を私に向ける……えぇ、その怪訝な表情、なぜ一部しか?と思っているのでしょうね。
『……本当に忌々しい男ですね』
「そう。彼のところに居たのね、次会った時に聞かなければならない事が増えたわ」
逐一報告しろとは言わないけれど、彼女の様な計画に関わる存在を回収していたのなら一言ぐらい欲しいわ、共犯者なのだから。
“君は一体……”
「これは本来であれば貴方がやらなければならない役割よ『先生』、今回は私が代行するけど」
『この状況で貴女になにか出来るとでも?』
「えぇ。出来るわ──カリン」
瞬間、中央を撃ち抜かれ、崩れ落ちる無名の守護者に、彼女が驚きの表情を浮かべる。
「ミレニアムサイエンススクール、セミナー会長を舐めないで」
続いて、私に銃口を向けていたドローンがSMGとアサルトライフルの圧倒的な弾幕で、破壊され、そこで漸く落ち着きを取り戻した彼女は近くに控えさせている無名の守護者を動かす……残念だけど、そんな短絡的な行動を許すほどこちらの兵は甘くないわ。
ドローンや無名の守護者が破壊されて立ち上る煙の向こう側から、爆弾が投擲され動き出そうとしていた者達をガラクタへと変える。
「たくっ、休みだってのに呼び出されて来てみればどうなってんだ一体全体、説明してくれんだろうなぁ?」
「……元々、私達が危険視していた存在が動き出したのよ。怪我人がいる以上、戦闘を長引かせるわけにはいかないわ」
「ほぅ?なるほどねぇ……まぁ、一理ある。お前ら!!速攻でいくぞ!!」
詳しい話をしなきゃ、手は貸さないと言うと思っていたのだけど……こっちのお願いを素直に聞いてくれる時もあるのねネル。
戦闘を始めた彼女と、C&Cを尻目に私は『先生』へと近づき、彼の特徴的な糸目と視線を合わせる。
「初めまして『先生』。本当は、もっとしっかりとした場で挨拶をしたかったけれど、こうなっては仕方ないわね。セミナー会長の調月 リオよ」
“初めまして。いきなりで悪いんだけど、一体、君は……ううん、君達はなにを企んでいるの?”
……なるほど、彼がヒントを与えていたとはいえ、私との繋がりをすぐに看破する辺り、噂に違わぬ人物の様ね。
「人聞きが悪い言い方ね。見ての通り、ウチの生徒に手を出した存在を捕縛しにきたのよ」
“アリスは悪い子じゃない”
「残念だけど部室が壊され、生徒まで怪我をした……この状況で見逃すことなんて出来ないわ」
そう、貴方も彼女を擁護するのね……結局、私は──
『私は君を信じたぞリオ嬢』
──まだ、諦めるのは早いのかもしれないと彼の言葉を思い出した。
「……『先生』、これは不確定な未来の話だけど、いつか起きる話よ」
徐々に追い詰められていく彼女を見つつ、私は『先生』と視線を合わさずに共犯者やヒマリに話したものと同じ内容を可能な限り、砕いて伝える。
天童アリスという少女の正体、彼女によって齎されるキヴォトスの滅び、それを回避するために彼女を殺すことを出来うる限り、言葉を選んで伝えた。あの人が期待する大人なのだからきっと、信じてくれると願って。
「以上よ。私は
“……決まっている。私は先生だからね、生徒は誰一人見捨てないよ”
……甘い、何処までも甘い子供の様な
「チラッと会話が聞こえたが……コイツを処分するとか正気か?」
「お疲れ様ネル、貴女達も。天童アリスを此方に引き渡して」
「……もう話をする気すらないってか。んじゃあ、こうされても文句は──「リオ様に手は出させません先輩」なっ!?」
此方に銃口を向けようとしたネルを隠れていたトキが即座に組み伏せるのを確認し、私はドローンを操作し他のC&Cメンバーを取り押さえ、気絶している天童アリスを二体のドローンで担ぎ上げる。
「ッッ、テメェ!!」
「なっ!」
……さすがねネル、トキの拘束を無理やり破って私に攻撃するなんて。
しかも、私と天童アリスを担いでいるドローンの必ずどちらかに当たる様にするなんて、私一人じゃどうしようもなかったわ。
「やれやれ……やはりこうなったか」
“……バイステンダー”
私を守る様に防弾性に優れるドローンでネルの攻撃を防いでくれた共犯者に感謝しつつ、私はゲーム開発部から出ていく。
「此度の私は貴方の敵だ、『先生』。貴方の選択、特等席で観させて頂こう」
後ろでバイステンダーがそう話し、何かを転がすとゲーム開発部全体が真っ白な煙に包まれ、私達は誰に追われることもなくエリドゥへと帰還し、天童アリスのヘイロー破壊の準備を始めた……このまま、引き下がってくれるなんて都合の良い夢物語にはならないと確信しつつ。
感想やここすき待ってるぜ!!