便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア 作:マスターBT
「おい、お前ら!!まだまだやれんなぁ!!」
「全身痛いけど、まだまだ立てるよ!」
「ふふっ……部長が戦えと命じるのなら寝てる訳にはいきませんね」
「……皆よりは余裕がある。やれるぞ」
「……」
『アビ・エシュフ』の真髄は、エリドゥのシステムと接続した事で得られる未来予測にあり、その精度はC&Cが全力で戦ってもなお、目立った傷のないトキを見れば明らかである。
それでも、傷つきながら笑っているのはネル達であり、トキは無言のまま無表情でガトリングを構え、一つの感情を抱く。
『羨ましい』と。
彼女はずっと一人だった、リオの専属ボディガードをしてはいたが、それは依頼主と雇われ傭兵の様な関係性であり、目の前の彼女達の様に互いを支え合う様な美しい関係ではない。
「……」
自分が心の奥底では欲していた関係を前にしてもなお、トキの表情にソレが浮かび上がる事はなく、彼女の冷たく冷え切った心を具現する様にガトリングは、容赦なくC&Cの面々に向けて無数の弾丸を放つ。
しかし、そんな彼女の決意を笑う様に、高度な演算の上をいく天性の勘の持ち主であるアスナが、すべての弾道を見切っていなければ不可能な動きで、縦横無尽に駆け回り切り抜けるとその手に持つアサルトライフルが火を吹き、トキは回避を強制される。
「そこですね」
「!?」
飛び上がる形で避けたトキが、着地すると同時に仕掛けられた爆弾が爆発し、『アビ・エシュフ』にダメージはないものの黒く立ち込める煙幕に包み込まれ、チャフでも仕込まれていたのかレーダーが仕事をせず、煙幕の中から脱出しようとした瞬間、それはさせないと言わんばかりに進路方向にカリンの狙撃が突き刺さり、動きを止める。
「そこだなぁ!」
「そうくると思っていました」
右手のガトリングと煙幕へと飛び込んだネルの持つSMGが互いの標的へと向けられ──身軽なネルが、砲身を蹴り飛ばし着地、即座に左手のガトリングがネルに向けて放たれるが、トキの周りをグルグルと回る様に走り出したネルの速度に追いつくことはなく、その間に二丁のSMGに撃たれ放題となるが、『アビ・エシュフ』による演算が間に合い、トキへと正確な回避ルートが送られ、こちらもまたトキを捉える事なく、ただ悪戯に互いの弾丸と時間だけが過ぎ、煙幕が晴れてしまう。
「チッ!」
「逃しません」
距離を取ろうと飛び退く、ネルへと加速して突っ込むトキ。
そのまま、ガトリングによる攻撃が行われるとC&Cの全員が、思ったが彼女はその勢いのままネルへと体当たりを行い、軽い彼女を吹き飛ばすと他のメンバーを足止めする様に、狙いの甘いガトリングを放つ。
「っっ!?待って、地面が揺れて!?」
「エリドゥは、要塞都市です。ありとあらゆる戦闘を想定して建てられています……当然、大軍を分断する作りも」
強すぎる揺れは彼女達に立ち上がることを許さず、C&Cの面々が見ている先で移動して来た巨大なビルが壁の様に彼女らを遮り、ネルとトキだけが同じ戦場に立っていた。
「本当は皆さん全員を惹きつけ倒すことでバイステンダーさんの所に行かせない予定でしたが、先輩方はとても強く難しいと判断しました」
「んで、まずはアタシからってか?はんっ!舐められたもんだな!」
「先輩方が協力しても、私を倒せず傷だらけになりました。それでも勝てると?」
「コールサイン05から何も聞いてないのか?アタシはな……諦めが悪いんだよ!!」
戦力差は歴然だというのに全く諦める気配を見せず、寧ろ楽しげに笑うネルに困惑しながらも、トキはガトリングを構える──ネルの気力が尽きるか『アビ・エシュフ』の弾丸が尽きるか、気合いと根性が試される中──
(私はこのままで良いのでしょうか?)
──飛鳥馬トキは悩んでいた。
本来であれば、リオの為、心を殺し命じられたままに振る舞える彼女がこんなにも悩んでいる理由、それはまたしてもあの男に原因があった。
時は遡り、リオの命令で共に足止めに向かおうとした場面まで戻る。作戦地域へと向かおうとする彼女へ徐に、今まで私的な会話をしてこなかった男が投げかけた。
「トキ嬢。君は何故、リオ嬢の味方をする?」
「不思議な事を聞きますね。私がリオ様の部下だからです」
「そうか。では、君は間接的にアリス嬢を殺す事に何も疑問はないのだな?リオ嬢が、正しいと断言するのなら、意思なくそれに従うだけの人形であると」
男は淡々とリオに向けていた優しさが、完全に消えた冷たさでトキへと言葉を投げかける。
「心を殺し、自我を殺し、与えられた命令にただ従う。それはとても良い兵の資質だ。私が運用するのであれば、危険な任務に放り込み使い捨てるだろう。なにせ、何も文句なく従ってくれるのだからな、これほど都合の良い存在はいない」
褒めておきながら、その数倍は貶すという悪意ある行為を男は続けながら、込められた悪意とは裏腹に何処までも無機質な瞳でトキを見つめる。
ともすれば、これから大事な戦に向かうというのに戦意を削ぐ様な発言だ。トキは目の前の男がスパイか何かなのではないかと疑いつつも、男が紡ぐ言葉を無視する事はできなかった。
「リオ嬢は自らに降り掛かる悪意を全て、受け止める覚悟でキヴォトスを救おうとしている。飛鳥馬トキ、君は彼女が救った世界で変わらずに生きるつもりか?何一つとして、責任を背負うつもりもなく、自らの引き金が軽いまま『先生』達の希望を潰すのかね?」
トキの柔らかく純粋な心に、男の悪意が深々と突き刺さり、彼女は視線を男から逸らし下を見ながら、左右に視線が落ち着きなく動く……明確な答えが返せない事に彼女は焦っていた。
「……意思なき空虚な人形よ。リオ嬢の掲げる正義、その重さと残酷さを考えるべきだ。その上で、自らの結論を出せなければ、人形は自己矛盾を抱え、果てに自壊するだろう。私が知った事ではないがね、リオ嬢が少なからず気を許している相手が、彼女自身の行いで壊れたなどあれば……全ての悪意を背負った対価としてあまりにも報われんのでな」
一方的に話すだけ話し、満足したのか男は視線をトキから逸らし、無駄話もこの辺にしておこうと普段の調子で発すると、自らが乗り込むアバンギャルド君へと向かっていってしまった。
「……」
投げかけられた言葉全てに、自分は何一つ答えを出せなかった……故にトキは迷いの中にある。
初めはそれでもと、揺るがずに戦えていた彼女だが、傷つきながらも決して諦める事なく、自らの正義を掲げるC&Cを見た事で、揺らいだ心へ遅効毒の様に男の言葉はトキを蝕み始めていた。
「考え事とは余裕だなぁ!後輩!!」
「っっ!!」
『アビ・エシュフ』の装甲が火花を散らす。
回避ルートも迎撃方法も提示されていたのに、思考の海に気付かずに沈んでいたトキは全てを見落とし、結果としてネルの攻撃が当たったのだ。
「私は……私は……」
「あぁ?なんだ、お前、戦いの中で悩んでんのか?んだよ、つまんねぇ!」
『アビ・エシュフ』の装甲を蹴り飛ばし、距離を取るとネルはその場に胡座をかいて座り込んだ。
「え?」
「心ここに在らずなんて、状況で勝っても何も嬉しくねえ。お前、何を悩んでる?言ってみろ、先輩として話を聞いてやるよ」
「……敵に塩を送るんですか」
「はっ、今にも吐き出しそうな面した奴が生意気言ってんじゃねぇ。ほら、言えよ」
乱雑にそれでいて優しくネルを見て、トキはガトリングを力なく下ろし彼女を見つめ、一頻り迷った後に口を開く。
「C&Cはミレニアムのエージェントです……それは即ち、リオ様に従うべき立場の筈です。なのに何故、『先生』に協力をしているのですか?」
絞り出した質問に、ネルは『は?そんな事かよ』と言い、何処か呆れつつも続きを話す。
「仲間の為にアタシ相手に、全力で歯向かって勝利した奴が、リオの奴が言ってる様な悪人に見えねぇとか、そもそもリオが出す依頼が気に入らないとか色々と理由はあるが……シンプルに言えば、納得してないからだ」
「……納得」
「そうだ。リオにも考えがあるってのは分かってる。けどな、あんなチビ一人殺して解決ってやり方に、納得出来るわけないだろ」
「……ネル先輩もあまり、人の事を言えないと思いますが」
「あぁ?ぶっ殺されてぇか!!」
チビと馬鹿にされたネルがキレる中、トキは薄く笑みを浮かべる──どうやら、迷いは消えた様だ。
「先輩」
「なんだ?」
「─────」
迷いのなくなったトキが、口にした内容をネルは少し驚きながらも、受け止め笑う。
「良いぜ、付き合ってやるよ」
「ありがとうございますネル先輩」
負傷したネルを抱き抱え、トキは飛翔する。
もう一つの戦場、『先生』とバイステンダーが戦いを繰り広げている場所へ、自らが導き出した答えを叩きつける為に。
何をやってるんですかねこの男は……
感想やここ好き待ってるぜ!!