便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア 作:マスターBT
『ククッ、偶には自ら戦うというのも面白いものだな『先生』!』
“私にもロボット用意してくれたら考えてあげるよ!”
「その時はぜひ、我々エンジニア部を!」
「待って!?今、戦闘中だよね!?爆音とかすっごいのになんでこんな空気なの!?!?」
拡散バズーカの着弾により立ち上る黒煙をまともに浴び、少しだけ煤汚れたモモイがツッコミと共に放った弾丸をモノともせず、アバンギャルド君はチェーンソーを振り上げ振り下ろす。
チェーンソーに流れる膨大な電流が視認できるほどの雷撃となり、ゲーム部及びエンジニア部の『先生』陣営を襲う。
“焦らずに避けて!ウタハ、ドローンを追加。ユズ、落ち着いて動きを見るんだ。君なら隙を狙えるはず。ヒビキはドローンに隠れながら砲撃を!”
シッテムの箱による援護で迸る電流を視認している彼女らは、『先生』の指示で的確に避け攻撃に転じるが、アバンギャルド君の持つエネルギーシールドにより真正面から防がれる。
『ではこれはどうかな?』
キャタピラが逆回転を始め、アバンギャルド君が後方へ下がると射線が通った防衛兵器による四方八方の銃撃が今度は襲いかかり、アバンギャルド君は拡散バズーカによる砲撃体勢へと移行する。
「うわわっ!?」
「お姉ちゃん大丈夫!?無理はしないで!」
「ありがとうミドリ!もー、ふざけた外見なのに強いよアイツ!」
「……動きの癖を掴んだと思ったら変わってる。対戦ゲームで戦いたくないタイプ」
「同感だ。リアルタイムで戦闘データを集めているが、結果が変動しすぎて使い物にならない」
「しかも、ずっとチャージされてるアレ、撃たれたら全滅ですよねどう見ても!」
避けきれずダメージを負ったモモイをミドリが回復させている間に、ユズやウタハ、コトリが各々の視点でバイステンダーの乗るアバンギャルド君を解析し、隙を伺うがどうやら結果はあまり良いものとは言えないようだ。
そんな彼女達をアバンギャルド君のコクピットで楽しげに見ながら、バイステンダーは指を走らせ更に周囲の建物に忍ばせていた戦闘用ドローンを呼び出す。
「増えた!」
“……そう来るか。元々、手数に乏しい私達を更に分散させる事で時間を稼ぐ。君は徹底して勝ちに行く気がないんだねバイステンダー”
『無論だとも。私の勝ち負けなどどうでも良い事柄。君達がアリス嬢に到達出来なければ我々の勝ちなのだから』
無数に湧き出てくる戦闘用ドローンは、エリドゥが彼の資金提供によって設備を整えられた為に『先生』達の視界を埋め尽くすほどの数がアバンギャルド君に付き従う軍勢の様になっていく。
一体一体は脆く弱いが、大軍を相手取るには火力も一人一人の戦闘力も足りず、適しているであろうヒビキの迫撃砲も焼け石に水である事を『先生』は理解する。
“逃げ道も封鎖済み。徹底的だね”
『その為に準備していたものだ。そう簡単に破らせはせんよ』
機械の軍勢が迫り、誰もが顔を俯かせて諦める中一人の少女が前に出る。
「まだ……まだ諦める事は出来ない!!アリスをこのまま見捨てるなんて私出来ないもん!」
モモイだ。
暴走したアリスによる被害を最も受けたモモイが機械の軍勢に銃弾を放ちながら、力強く叫ぶ。
『諦めないな君も。その程度の力で何が出来る?アリス嬢を救ったところで、待っているのはいつか来る滅びだと言った筈だ』
「信じない!!だって、私は知ってるもん。私達が作ったゲームを完走して面白かったって笑ってくれたアリスを!一緒にゲームを作ってミレニアムプライズで賞を獲って喜んだアリスを!誰かの楽しいを共有して、誰かと楽しめるアリスが悪い子なんて信じない!!だから私は諦めないの!!」
『……理屈からかけ離れた感情論だな』
心底、呆れ返ったという感じの声を発するバイステンダーにモモイは怒りのまま叫ぶ。
「それの何が悪いのさ!!ゲームは楽しいからやるんだよ!!心が躍ってワクワクするから面白いんだ。私達は感情に突き動かされるから、笑い合って手を取り合える……そうやって理屈ばかり並べていても笑えないよ!!」
何処までも感情論を突き詰めた理論を展開するモモイだが、だからこそ彼女はこの絶望的な状況で尚も立ち上がれた。
理屈では分かっている。
このままでは勝ち目がない事ぐらい──しかし、だからどうしたとモモイは笑う、笑ってみせる。
「友達を助けようって思いに理屈なんてあるかぁぁぁぁぁ!!」
『ッッ……』
モモイの神秘が跳ね上がると共に、放たれた無数の弾丸が彼女の想いに応える様にドローンを破壊していく。
撃破出来た数は総数からすれば取るに足らない数だが、弾丸と共に放たれたモモイの言葉が理屈と諦観に支配されているバイステンダーの心を穿った……理屈ではなく、感情に従い仲間を救おうとする。
それは便利屋68と関わる前の彼には決して届かず響かない言葉であった。
しかし、便利屋68と関わり、彼は知っている。いや、知ってしまった。
理屈ではなく衝動に駆られ、自らの犠牲も厭わずに動いてしまうという感情を──故に固まってしまった彼は致命的な隙を晒してしまった。
「えぇ、そうです。ですから此処は全知の私が力を貸して差し上げましょう」
鈴の音が鳴るような声が聞こえたかと思うと、全てのドローンが動きを停止し活動停止状態へと移行し、エリドゥの迎撃システムもまた沈黙してしまう。
『先生』の背後から電動車椅子の音を響かせて現れる彼女と共に、電子モニターが起動する。
『ヒマリ部長』
「良いタイミングですチーちゃん。『鏡』は有効活用してくれたようですね」
『その渾名で呼ばないで!』
『……ヒマリ嬢。やはり邪魔をするか』
同タイミングでハッキングを仕掛けられたアバンギャルド君であったが、バイステンダーが鍵の神官の為に対ハッキング性能を高めていた為に不発に終わったが、念の為軽く検査をしながらバイステンダーは敵意を滲ませた声をヒマリに投げかける。
「もちろんです。なんと言っても私はリオの様な下水道を流れる水とは違う澄み切った純正のミネラルウォーター……可愛い後輩のピンチを助けるなんて当たり前のことです」
『ただの日和見主義も物は言いようだとは思わんかね?』
「ハッキングの為の時間稼ぎはさせませんよ。『先生』」
“分かった。みんな、踏ん張って!”
肩で息をするモモイを支えるようにミドリとユズが彼女に肩を貸し、戦闘があまり得意ではないエンジニア部もモモイの啖呵に影響されてか、気力を振り絞り武器を構える。
美しき支え合い、青春の一ページを見ながらもバイステンダーは微塵も楽しいと思う事はなく、寧ろ彼自身も何処から来たのか分からない原因不明の怒りを抱えながら、アバンギャルド君を操作し浮かび上がらせると至近距離に着地させる。
『振り出しに戻っただけだ。君達に勝ち目はないと再び教えよう』
その言葉と共に拡散バズーカが放たれ着弾する、しかし。
「「はぁぁぁ!」」
爆炎を飛び出すのはコトリによってシールドを付与されたモモイとミドリで、モモイの弾幕をミドリが駆け抜けつつ正確無比な連撃がアバンギャルド君を揺らした事実に、バイステンダーは驚く──彼女達の神秘が強くなっている事に。
『だが……近寄ってくるのならば!!』
「チェーンソーの振り下ろしだけは変わってない……!」
優れた動体視力を持つユズが、チェーンソーの振るわれる瞬間、腕部と胴体の間に僅かな隙間が生じるのを見抜きそこへグレネードランチャーを放つと爆音と共にアバンギャルド君の攻撃が中断される。
『壊れはしなかったが……僅かな隙を狙われるとは。一先ず態勢を』
「逃さない、よ!」
自己修復機能によるシステムの安定化の為、下がろうとしたとこにヒビキの迫撃砲が降り注ぎ、シールドで受け止めたもののやはり増加した神秘による影響でシールドが過負荷を起こし消える。
『ええい……ならば!』
“みんな下がって!!突進が来る!”
『先生』による指示とほぼ同時に、アバンギャルド君のキャタピラが地面と音を鳴らしながら、彼女に向けて突進していく。
散り散りになって、どうにか避けるが大きく方向転換を行い、今度は疲れの見えるモモイを狙いアバンギャルド君が駆ける。
「お姉ちゃん!!」
姉の元へと行かせはしないとミドリが攻撃するが、アバンギャルド君の勢いは止まらずモモイへと迫り、彼女は激突に向けて目を瞑ろうとして気がついた。
レールガンのチャージが終わっていることに。
「っっ、みんな避けて!?」
『もう遅い!』
グルンと回転し、レールガンをモモイを除く全員に向けるアバンギャルド君。
“ッッ、アロナ!!シッテムの箱による防御を最大に!!皆んなを守って!!”
『ですがそれでは先生が!!』
“私の事は良いから皆んなを!!”
『そんな……っっ!?待ってください、こちらに高速で飛来する反応アリ!これは……トキさんとネルさん!?』
“え!?どういう事!?”
次から次へと起きる怒涛の展開に驚く『先生』を他所に、最大出力となったレールガンは放たれ、そして。
「アビ・エシュフ、殲滅モード!」
二つの蒼い極光が激しくぶつかり合った。
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