便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア 作:マスターBT
『……何をしているのかねトキ嬢』
我ながら間抜けな質問を投げかけたなと自嘲する。何をしているのかなど、半ばまで溶けた砲身に加えレールガンとのぶつかり合いで発生したであろう高熱を浴び苦しげに片膝をつく半壊した『アビ・エシュフ』を纏うトキ嬢を見れば、深く考える必要もなく裏切られ私の攻撃を相殺された事など明らかだ。
それでも私は問わねばならない──彼女が導き出したであろう答えを。
「貴方の……リオ様の邪魔をしました」
そう答えるトキ嬢の瞳は空虚なものではなく、何か一つの結論を導き出した者の瞳をしていた。
自らの物語を自らの意志で進めようとせず、ただ指示されるがままだった彼女がこの短時間で何を思ったのかは分からないが、また一つ私にとって見れる物語が紡がれる気配は本来であれば喜ばしい筈なのに、私の胸の中は先ほどと変わらず名状しがたい怒りが渦巻いている。
「裏切る形になったのは申し訳なく思っています。ですが、私は先輩達がボロボロになってもなお信じると決めた彼女を知りたくなったのです。『先生』達には虫の良い話だとは思いますが、それでも……私がそうしたいと思ったのです」
“ありがとうトキ。アリスを信じてくれて”
「いえ……私も彼に人形であった事を指摘されなければ何も考えず敵対していたでしょうから」
“そっか”
なぜ優しい目をしてこちらを見る『先生』……私はただ気に食わないと伝えただけで、貴方の様に大人として導こうとした訳ではない。
だが、そうかトキ嬢、君もリオ嬢の正義を裏切るというのなら容赦はしない。
『予定は狂ったがそれでも結末は変わらん。我々が勝利する』
レールガンは再度エネルギーの充填が必要だが、砲身の冷却時間を考えれば再装填からの射撃は恐らく間に合わず、未だエリドゥのバックアップを受けているアビ・エシュフの砲撃とぶつかり合った事で機体も砲身も予想外のダメージが蓄積している。
自己修復機能である程度は治るという考えは、捨てた方がいいだろうなこれから『先生』達の攻撃はより苛烈になるのだから。
“ネル、トキ、最前線を任せて良い?”
「おうよ」
「はい」
そこに加えて、ミレニアムにおいては最強戦力と呼べる存在まで追加……全くもって私に勝ち目などないな。
「……無論、それが退く理由にはならんがね」
誰に聞こえる訳でもない小さな呟きを零す。
恐らく私の意思を突き動かすモノがリオ嬢を侮辱、或いは裏切った事に対する怒りの類なのだと推察は出来たが、何故そんなモノが湧き出てくるのかその源泉は未だに分からない。
だが、戦う理由があるのならそれで良いと今は割り切り、チェーンソーを回転させながら拡散バズーカを放った。
「おせぇよ」
「迎撃します」
ネル嬢には自慢の速度で爆風範囲外への逃げられ、トキ嬢にはあっさりとガトリングで撃ち落とされ、爆炎が視界一杯に広がるがレーダーを頼りに挟み込もうと展開していた姉妹を振り切る為に、後方へと移動し降り注ぐ迫撃砲をシールドを使わずに運転だけで凌ぐ。
「させない!」
あぁ、君ならチェーンソーの振り下ろしにも同じ様に反応すると思っていたよ。
だからこそ、機体をわざと傾け大凡、キャタピラでやるべきではない片輪走行で攻撃を避けチェーンソーを振り下ろすこの攻撃が刺さる。
「っっ!!」
「危ない!」
『……存外、馬鹿に出来ない強度だな』
振り下ろしたチェーンソーはコトリ嬢の展開したシールドによって防がれ、火花を散らしながら標的とした女子生徒のすぐ横に外れてしまったが叩きつけた際に生じる電撃ダメージだけ与え、数秒間だけなら動きを封じられるためすぐに追撃を行いたいが。
「オラァ!」
『クッ』
「図体ばかりのウスノロが私の動きについて来れるかぁ!」
一人だけを狙おうとすれば当然、他への警戒が疎かになりホルスの義眼を使っているとは言え、戦い慣れた彼女の動きに散漫な状態で着いていける訳もなく攻撃を受ける。
やはりネル嬢は纏う神秘も濃く、このアバンギャルド君の装甲といえどダメージが他とは比べ物にならない程に蓄積していくが彼女ばかりに気を向けてはいられんな!
“トキ、お願い!”
「はいっ。これが私の全力!」
『ぐぅ……シールドを使わずに防ぐのは無理か』
いよいよホルスの義眼によるフィードバックもキツくなってきた以上、トキ嬢の一斉砲火は防ぐしか方法がなく、私が未来視で見た通りにダメージ限界となったシールドが消えると共にヒビキ嬢の迫撃砲が降り注ぎ、機体が大きく揺れ苦し紛れに拡散バズーカを放つが狙いが甘く誰にも当たらず爆煙だけが漂う様は私の限界を告げていた。
『視界が歪む……』
強烈な頭痛と未来視を続けた結果、今見えている景色が今なのか未来なのか不安定になり始め歪み始めたが、今はこれに頼らなければ此処を守り切るなど不可能だ。
『退いて負けるのなら、前進し続けるとしようか!!』
虚勢を張りながら少しでも見える未来を減らすために、己の動きを単調に……即ち、前進しか考えず常にエンジンの回転を最大にし前へ只管進み続ける。
当然、シールドが消えているために無数の弾丸がアバンギャルド君の装甲に当たり、その度に機体が大きく揺れ動くが全てを無視しただ只管に前進を続け、彼女達が避ける隙を見せればそこに必ず拡散バズーカか、チェーンソーを叩き込む。
「くぅぅ!」
「だいぶボロボロにはなってる筈なのに……!」
「手が足りねぇが……遅いぞお前ら」
ガゴンッ!?っという音を認識した時には既に遅く、アバンギャルド君の履帯が遠距離からの狙撃により破壊され動くことすら封じ込められる。
『……揃ってしまったか。C&C』
「──動きは止めたぞ」
「えぇ、お見事です。では、こちらをどうぞ」
優雅なフォームで投げられたアカネ嬢の爆弾が降り注ぎ、アバンギャルド君のダメージが蓄積し隠しておいた兵装すら使えなくなるほどのエネルギーダウンを起こす。
詰んだな……完全に私の勝ち目は消え失せた。この状況でどんなに足掻いたところで、座礁した船が自力で戻れないのと同じで何も出来ずにアバンギャルド君は完全に再起不能となるだろう。
「……それは出来んな。乗せると約束したのだから」
手元の放送機器を弄り、音量を上げる。これ以上追撃を受けぬ様に。
『私の負けだ。通ると良い』
“……行こう。リオを止めないと”
彼らしからぬ行動に疑問はあるけど、今はそんな事を考えるより早くアリスを救い出さないと取り返しのつかない事になる予感がある。
「すみません。私はここまでです」
「おう。休んどけ後輩」
無理をした結果なのだろう、トキは辛そうな顔をしながら動かなくなったアバンギャルド君の近くに座り込んだ。
彼女に礼を告げて私達は中央のタワーに乗り込むその瞬間、ピコンっと私のモモトークが着信を告げ、本来であれば忙しいと見ないタイミングだったけどなんとなく彼な気がして取り出して見れば予想通りの名前が表示されていた。
『私では彼女に他の選択肢を与える事は出来なかった。貴方になら出来たか?』
誰のことを指しているのかはすぐに分かった。
分かったけど、私はすぐに返事を入力する事が出来ず考えているうちに乗り込んだエレベーターは彼女の待つ最上階へと到着し、扉が開くとともに──
「そう。負けてしまったのね私の共犯者は」
“リオ、私達は君を止めに来た。アリスを返して欲しい”
──ドローンを二機側に控えさせ、無数のコードで繋がれたアリスを背に庇いながらあまり手に馴染んでいなそうなハンドガンをこちらに向けるリオが立っていた。