便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア 作:マスターBT
「此処に乗り込まれた時点で私の負けと本来は言うべきなのでしょうけど……まだよ。まだ私の手には武器が握られているわ」
「リオ。戦力差がわからないほど盲目した訳じゃないでしょう?貴女一人で此処から何が出来るのです?」
えぇ、そうね。私の手元には使い慣れていないハンドガンとドローン二機しかないのに対し、向こうの戦力はネルやヒマリそして『先生』もいるのだから誰がどう見ても負けに追い込まれているのは私。
「私が貫くと決めた正義を自ら捨てるわけにはいかないわ」
抵抗の一つすらせずにたかが人数不利というだけで諦めてしまったら、最後までずっと私の正義を信じてくれていたあの人に合わす顔がないもの。
「アリスを犠牲にする方法が正義とは思えない!」
「今は分からなくて良いわ。いずれ、分かる時が来る筈だから」
「ならそんないつかは絶対に来ない!!アリスを連れて帰るから」
モモイ、貴女はずっと揺るがないわね。この中で一番アリスという脅威を身をもって味わっている筈なのに、それでも貴女はアリスを友だと一緒に人生を歩むべき存在だと認めているのね。
「何も知らないから言えることよ」
「アリスちゃんの事はよく知っています!どんなに良い子かは!一緒に過ごしていたんですから!」
「彼も言っていた筈よ。良い子が部室を壊して貴女の姉に怪我を負わせるの?」
「それは……」
ミドリ、起きてしまった事実はアリスを明確な脅威だと示しているの。貴女は姉と違って前を見続けられる訳ではないのに、それでも私に銃口を向けるのね。
「……アリスちゃんは一度間違えました……で、でも次も同じことをするとは限りません!」
「彼女が王女である限り起きるわ。そう設計されているのだから」
「で、でも、それなら私達と仲良く出来た理由が分かりません」
「バグ或いは一時的なものよ。ゲームを作るのなら分かるでしょう?」
ユズ、それは希望的観測というものよ。私だってただ無知でこんな殺人計画を思い至っている訳じゃないの。
“……君が退けない理由の一つは彼?”
「何故、それを聞くの『先生』」
“そうなんだね。きっと彼だけが君に手を伸ばしてくれた、一緒の世界を共有してくれた。けど、彼は傍観者だから君の側に立ってあげる事は出来ても君に他の選択肢を与えてあげる事は出来なかったんだ”
そういえば『先生』は彼との交流があったから、彼の人となりを知っているのね。
彼が私を心配してくれている事も、何かを悔いている様な雰囲気があるのも察していたけれど、私にとってはただ側に居てくれるそれだけで良かったのよバイステンダー。
「そうよ。誰も聞いてくれなかった、理解してくれなかった私の話を、他人からすれば荒唐無稽な話を彼だけが信じてくれた。だからこそ、私は諦めるなんて無責任な事は出来ないわ」
“そうだね。本来なら私はもっと君の話を聞かなければならなかった。『先生』として恥ずかしい限りだし、彼には申し訳が立たない”
「なら」
今からでも遅くはないから私の味方に──そう続けようとして、私を見る『先生』の目がとても優しい事に気がついて口を閉ざした。あの人はもう私の味方にはなってくれない。
自分の願いと立場、そして現実に挟まれている大人の顔をしていてその顔は結論を下した者だけがするものだから。
“リオ、君の正義を私達は阻止する。他者を犠牲にする方法は間違っている”
「……そう、残念ね」
言葉と共に放った弾丸は真っ直ぐと『先生』に向かって飛んでいき、直前で不可解な方向へと捻じ曲がり何もないところへと着弾し、その瞬間控えさせていたドローン達が向こうの攻撃によって沈黙。私に弾が飛んでこないのは一種の情けなのでしょうね。
“君は自らの正義が正しいものだと他人に押し付けてしまった。それが間違いだよ”
「論理的に間違えていないわ。一人を犠牲に多くの命が救えるもの。トロッコ問題と一緒よ」
“レバーを引く。それはきっと辛い役割だろうね。でもだからこそ、もっと周りを見るべきだった。もしかしたら近くに他の作業員がいたかもしれない。トロッコを押し止めるものがすぐ近くにあったかもしれないのだから”
「……それは詭弁よ『先生』」
ヒマリにも『先生』にも私はアリスが脅威だと説明した……それでも結局、私を信じてくれる人は居なかった。
だから私は今、貴方達の敵として銃口を向けているのよって、どうして笑っているの?
“詭弁か……そうだね。悲しい結末から目を逸らした詭弁かもしれない”
「何が言いたいの?」
“でも、そんな詭弁が真実になる世界があっても良いんじゃないかな?”
『先生』が何を言っているのか分らずに少しの間、呆けてしまったけれどやがて言いたい事を噛み砕いた私はまるで子供の様な事を語る『先生』へと怒りが込み上げ、同時にそう思えたらどれだけ良かったかと思ってしまう。
『なるほど。それが貴方の選択ですか。あの男が気にかけている者の選択に興味がありましたが……なんとも陳腐で下らないものでした』
“君は……”
「王女に仕える神官、或いは
今まで眠っていた様に見せかけていた<Key>の起動により、エリドゥはその存在を塗り替えられ始める。どんな抵抗も許さない。
何故なら彼女の行為はハッキングなどという生易しいものではなく、真っ白な紙に絵の具をぶち撒ける様な──正しく塗り潰しなのだから。
「リオの選択は正しい。我々はキヴォトスを滅ぼす者です。そしてあの男の眼は正しく未来を見据えていた……それに比べてなんですか、希望論だけをツラツラと。まぁ、私としては楽ですが」
煽る様な嘲る様な態度とは裏腹に、確実にエリドゥを蝕んでいく<Key>の魔の手は素早く、エリドゥ各地に何処からともなく追従者──Divi:Sion達がその姿を現し『王女』の座すこの中央タワーへと進軍を始める。
「……やはりあの男が乗っているロボットを取り込むのは無理ですか。エリドゥの全リソースを確認、これよりプロトコルATRAHASIS稼働。コード名「アトラ・ハシースの箱舟」起動プロセスを開始します」
中央タワーの全てのモニターが支配されピンクに染まる。
「っっ、させない!」
そんな中、リオは弾かれた様に自らの端末に触れコントロールを取り戻そうとするが、そんな彼女の必死の抵抗を嘲笑う様に瞬く間に支配領域が広がり触れていた端末すら、ピンクに染まってしまう。
「無駄です。私をハッキングしたければあの男を──」
『ククッ、これが再生されているという事はリオ嬢の計画に穴が空いたか、『先生』による妨害の為だろうな』
「──この事態すら読んでいたと?」
<Key>の顔に困惑と歓喜の表情が浮かび上がる。
モニターの一つが正常な青い光を取り戻し、その明かりはなんの偶然か正面に立っていたリオを照らし出す。
『君の監視の中、リオ嬢に送ったアリス嬢に関するファイルに忍ばせておいたものだ。予想される鍵の神官の能力から算出して、ある程度の権限を取り戻せる様にしておいたが、それでも足りないだろう。リオ嬢、君の正義が実現する事を祈っていたが君ならばこの事態、どの様な選択をするべきか分かるはずだ……キヴォトスが滅びない事を祈っている』
その言葉と共に権限を取り戻した領域が表示され、リオは素早くそれらに目を通しそして彼女らしからぬ声でその名を呼ぶ。
「ヒマリ!手を貸して。この状況をなんとかするのなら私達が手を合わせるしかない」
「あら……それを信じる理由は?」
「時間がない。早く!」
「全くもう……初めから頼りなさいな」
リオは権限を取り戻した端末から、ヒマリは自らの端末を空中に投影する事でミレニアムが誇る天才二人による反撃が開始される。
彼女達が力を合わすなど、両者の関係をよく知るものであれば驚きが隠せないものだが二人が浮かべる表情は必死で、その様な事すら思えないだろう──それだけ<Key>による侵食は凄まじかった。
「54……62……75……中々に手応えがありますがこの程度なら」
「抑えきれる、そう言いたいのでしょうけど……ユウカ、ノア、お願い」
『了解です!』
元々、『先生』達を気にしていたユウカ達によってエリドゥはハッキングが行われていたのだが、資金提供により頑強になった事と<Key>によって外部からの干渉を妨げられていたために何も出来なかったのだが、システムの一部を取り戻した事により彼女らの干渉が届く様になり、導線を引いたリオやヒマリの手引きもあってエリドゥ全ての電源がカットされ辺りが暗闇に包まれる。
『間に合った!もー、こんな大きな施設を隠していたなんて聞いてないですよ会長!』
「……」
『ちょっと!?目を逸らさないでくれますか会長!?あっ、会計が合わないのってもしかして!?』
「……」
『会長!?』
『まぁまぁユウカちゃん。今はそんな事より可能な限りこの状況を維持しないと』
『っっ、そうね。あとはお任せします『先生』!』
問い詰めるユウカと必死に目を逸らすリオという微笑ましい空気が一瞬、流れそうになったが既に<Key>はこの状況に対処する動きを見せている様で、このまま緩い空気が続けばどうなるかは明らかであった。
「どうやら変なのが集まってるっぽいな『先生』。連中はアタシらに任せな、代わりにあのチビ必ず助けろよ」
“ありがとうネル”
Divi:Sionの動きを察知したネルがニヒルな笑みと共にC&Cを連れて中央タワーを降り、ヒマリとリオを除けばゲーム部だけがこの場に残った。
「リオ、ダイブ装置はありますね!」
「あるけど……それは危険よ!」
「『先生』、そしてゲーム開発部の方々。アリスの為に命を賭ける覚悟はありまして?」
「「「ある!!」」」
“もちろん”
ヒマリの問い掛けに全員が何一つ迷うことのない即答を見せ、リオは驚きの表情を浮かべる。
「かなり強固だけど、私とリオでアリスの精神を分析します。その隙間から皆さんは乗り込んでください」
「……良いでしょう。直接、お話をしましょうか『先生』」
<Key>は武力ではなく、対話による打破を選ぶ……それは間違い無く、警戒するあの男の影響を受けているのだが当の本人はそれに気がつく事なく、『王女』の目を覚まさせるのなら、目の前で彼らを論破するのが効果的だと考えダイブを受け入れた。
「……誰も君の正義を汲んでくれる者はいないのだなリオ嬢」
沈黙したアバンギャルド君のコックピットでバイステンダーは静かに呟きそして──
「そうか私は──」
自らの怒り、その源泉に思い至った。
ガバってるくせにガバってないのかもしれない
感想やここすき待ってるぜ