便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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 これから起きる物語を眺めるしかなかった男の単なる憂さ晴らしに過ぎない。
 ともすれば、美しく終わった物語を汚す様な行為だろう──それでも、ただ座して物語を見届ける観客で居続けるにはいかなかった。

 何故って?だって、たった一人、笑えていない人がいるじゃないか。

 それが心底、自らの立ち振る舞いを捨て去るほどに男は気に入らなかったのだ。


孤独になるしかなかった王様に笑顔を

 私は常に目の前の現実から一歩退いた立ち位置で物事を見続けてきた。これはゲマトリアとして契約する前からの言ってしまえば私の癖だ。

 誰かと接する欲求よりも集団を観察しそこに所属する者達がどの様な感情を互いに抱き、どの様に動くのか個人個人に興味はないが人という種の群れがどんな結末を迎えるのか一人ズレた場所で眺めるのが好きだった。

 

 だからこそ、ゲマトリアとして活動を始め神秘の一端を理解し既存の科学と織り交ぜる事で生み出したホルスの義眼を用いて、ありとあらゆるキヴォトスをほぼ同時に観察するのも苦ではなかったのだろう。

 詳しく見ようとすれば瞬く間に脳が焼き切れる為に大筋を追いかけるだけの観察だったが、私にとってキヴォトスを生きる者達が辿る道とその果てに待つ結末は大変興味深く面白かった。

 

 そう、面白かったのだ。無数に繰り返される悲劇もその道行を知れば、なるほどと納得し何の感慨もなく次の世界へと視線を向け続けた私は本当に悪人のロクデナシと言われても否定できない。

 そしてある日から私は数え切れないほどの滅びを見届けた結果、バッドエンドの物語に飽きがきた。まるで食事の最中に食当たりを起こした様に私は次の世界へと視線を向けるのが億劫になり──気分転換にこの今いるキヴォトスへと降りた。

 

「私の名は陸八魔アル!金さえ貰えればなんでもするアウトロー、便利屋68の社長よ!」

 

 そして出会ったのが君で本当に良かったよアル。君と君達、便利屋68と一緒に過ごして私は笑顔でいられる事がどんなに素晴らしく輝いているのか再認識する事が出来た。

 相変わらずやり過ぎる時はとことんやり過ぎるし、見栄のために金に糸目をつけずその日暮らしすら厳しい生活を送る時もあるがそんな時でも君達はいつも笑顔で互いを支え合って生きていた。

 

「そりゃあ、仲間(バイステンダー)の話なら信じるわよ?」

 

 きっと君達は知らないのだろうな。この言葉を聞いた時にどれだけ私が君達を眩しく見えたか。

 幾つもの滅びを見届けてなお、揺らぐ事のなかった私の心が君達と共に笑顔で過ごせるだけで堪らなく楽しくて、嬉しくて掛け替えのないものであったからこそ何もかも一人で背負うとするリオ嬢が放っておけなかったのだろう。

 

 何故ならその姿は大切な場所が出来てしまった私と重なる部分があったからだ。

 

 もしも、私がアルと出会う前のロクデナシであればリオ嬢を利用するだけ利用して『先生』が鍵の神官を阻止し、王女を取り戻したという結果だけで満足し共犯者などという立場を捨て去っていた事だろう。

 

 故に改めて此処で宣言させて貰おうか『先生』?

 

「私はな、どれだけふざけた夢物語であろうとも、そんなものはあり得ないとご都合主義に満ち溢れた三流のハッピーエンドである『先生』達とリオ嬢が共に笑い合える……そんな結末を望んでいた。そう、望んでいたんだよ。この私がね」

 

 側で見ていて痛々しいと思えるほどのリオ嬢の正義を私ではない誰かが代わりに背負ってくれると祈り、その果てに彼女が笑える未来が待っていると私は望んでいたんだよ『先生』。

 

「確かにリオ嬢は間違えたかもしれない。方法も過程も何もかもを間違えてしまったから、こんなにも敵を多く作りそして敗れたのかもしれない──だがっ!!彼女の掲げたキヴォトスを救うという正義が!!自己犠牲を厭わない無垢な祈りが、ただ何もせず結果的に上手くいっただけの貴様らに否定させてなるものか!!」

 

“バイステンダー……”

 

 『先生』達の間を通り抜け暗い表情を浮かべているリオ嬢の前に立つ。この身を焦がすほどの強い怒り、初めての経験故に戸惑ったがどうやら私はゲマトリアのバイステンダーとして神秘を解き明かす為に必要な情報としてのハッピーエンドではなく、ただの個人としては心の底からハッピーエンドを望んでいて、その期待を『先生』に込めていたからこそリオ嬢が暗い表情をしている今が受け入れられず怒っていたのだ。

 

「……ごめんなさい。バイステンダー、私は失敗したわ」

 

「私の方こそ力が足りずすまなかったな」

 

「貴方は何も悪くないわ。私が間違えていたから……以前、貴方が言っていた様にもっと上手く周りを動かす事が出来ていれば……」

 

「リオ嬢。これから私は私の怒りが赴くままに暴れようと思っている。良ければ君もどうかね?」

 

「え?」

 

 ポカンとした表情が私を見つめる。恐らくこの会話を聞いている他の者達も同じ様な表情をしている事だろうなと思いながら続ける。

 

「背伸びの時間は終わりだリオ。これだけ時間を費やした計画が潰れたんだ。色々と思う事があるだろう?無論私もそうだ。ただ、大人である私が大手を振るって暴れるというのは少々、恥ずかしいというかなんというか……そこで子供の君が付き合ってくれると嬉しいと思ってな?」

 

 人生、長く生きていれば思い通りにいかない事も多く経験するだろう。大人になればなるほどそういう現実に自分の中で、折り合いをつけて傷付かぬ内に手を引いて賢く生きていく……だからこそ大人の癇癪というのは見ていられないのだ。

 だが子供は違う。闇雲に手を伸ばし成功の数以上の失敗を手にして傷つき、その痛みから癇癪を起こして次の日にはスッキリとした顔でまた手を伸ばす事が許されている。

 

「君の共犯者として今、私が出来る事はその胸に抱えたものを共に叫び世の理不尽を訴え、そして共に頭を下げてやる事だけだ。それに──」

 

 リオの背後の壁が勢いよく壊れそこからアバンギャルド君の腕が伸びてくる。

 自動操縦モードはしっかりと機能している様だな。合図のためにボタンを押さなければならないのが少々面倒ではあったが。

 

「──乗せると約束しただろう?」

 

「……ふっ、ふふっ!バイステンダー、貴方って本当に悪い大人ね?」

 

 暗い表情が驚きに変わり、そして私を見ながら漸くリオは笑顔を見せる。望んだ結末を迎える事は出来なかったが、それでも見たかったものは見る事が出来たな。

 

「ククッ、私の顔をよく見ろ善人の顔はしていないだろう?」

 

「えぇ、そうね。凄く楽しそうで悪い顔をしているわ」

 

「ククッ、ハハハ!!それでは付き合って貰おうか、これから始まる三流以下のハッピーエンドに!」

 

 アバンギャルド君の手のひらに乗り、胸元にあるコックピットまで運んで貰い改造した結果、複座式となった操縦席の正面にリオを座らせ私は後ろに座り、搭乗口が閉まると無数の灯りが我々を歓迎する。

 

「私がメインで良いの?」

 

「サポート向きだからな私は。それに実際に操縦した方がスッキリするだろう?」

 

「なるほどね」

 

 四本あったうちの半分を変形、背面に回す事で浮力を生み出すブースターとして機能させ、代わりに減った手数をキャタピラではなく収納していた二本の脚による物理的な攻撃手段で補う形へと変化した新生アバンギャルド君はリオの見事な操縦で着地する。

 

「少し癖はあるけど……これくらいなら問題ないわ。武装はチェーンソーが変形したエネルギーブレードとシールドのみね。随分とジェネレータへの負担が大きいんじゃないかしら?」

 

「あぁ。その辺りは元々、タンクとして運用が前提だったアバンギャルド君にレールガンを撃たせようと改造したから足りているとも。まぁ、長期戦向きではないのは確かだがどうせ我々は敗者だ。気にする事はないだろう」

 

「今度はそっちも乗ってみたいわね」

 

「ククッ、幾らでも機会はあるとも。何せミレニアムは、君の好きな学園はこういうお祭り騒ぎに事欠かないだろう?」

 

「──ふふっ、えぇそうね」

 

 リオと話していると我々を追いかけて中央タワーを降りてきた『先生』達がやってくる。

 エンジニア部の面々と、『先生』が二足歩行へと変化したアバンギャルド君に目を輝かしている気がするがこれは企業秘密だぞ。何せ、カイテンジャーの技術も流用しているのだからな。

 

「追いかけてきてくれたという事は付き合ってくれると考えて良いのだな?『先生』」

 

“皆んなも疲労困憊だけど遊びたいっていうなら付き合うってさ!それと全部が終わったら私もそれに乗っていい?”

 

「ダメよ『先生』予約は私の方が先だから」

 

“ちぇっ。じゃあリオの後で!”

 

「むっ、ずるいぞ『先生』!我々も乗りたいのに!!」

 

「そうだよっ!抜け駆けはダメなんだよ『先生』!!」

 

「おぉ……格好いいなアレ」

 

「ネル先輩ネル先輩!アリスと一緒に乗りますか?」

 

「ふふっ、あれくらいの代物ならこの天才「あ、ヒマリは絶対に乗せないわ」ちょっと、なんでですかリオ!?」

 

「だって私のこと散々、泥水だの油が浮いた貯水槽だの好き放題言ったから」

 

「事実そうだったでしょ貴女!?というかそんな子供っぽく拗ねないでくださいな!?」

 

 誰も彼もが好き放題に喋り全くと言っていいほど纏まりなんてなくて、アリス嬢を救った時に流れていた感動的な空気など程遠い喧しくて賑やかで、アバンギャルド君の起動音と銃声、それらが奏でる破壊音は物騒でしかないが──

 

『会長楽しそうですね』

 

『そうね。あーあ、私も付いていけば良かったかなぁ』

 

 ──誰一人暗い顔をせず、笑顔で騒いで騒ぎまくるとても楽しい幕引きだった。

 

 その後の事を簡単に纏めよう。

 

「ごめんなさい。私の独善で多くの人を巻き込んでしまったわ」

 

 先ず、リオ嬢は正式に皆の前で頭を下げて謝罪をした。私と共に一通り暴れてスッキリした彼女は自分の行動の結果を素直に受け入れるだけの精神的余裕が出来たらしい。

 

「アリスは色々と怖く辛い思いもしましたが、沢山の思い出が出来ました!それはリオのお陰です!」

 

「アリス……」

 

「まったく、少しくらい相談してくださいよね。バイステンダーさんから融資を貰ったとはいえ、セミナーの資金も動かして……お陰で私がどれだけ大変だったか!」

 

「まぁまぁユウカちゃん。これからは会長もちゃんと相談をして動いてくれるらしいですから、ね」

 

「えぇ。二人にも迷惑をかけたわね」

 

 こうしてリオは問題を起こしたものの、私が融資をしていた事でミレニアム自体へと損害が少なかった事。誠心誠意の謝罪と溜まっていた仕事を片付ける事を条件に引き続きセミナー会長の任に就く様で安心した。

 

「ねー、今度のゲームなに作るー?」

 

「うーん……ロボット物とか良いんじゃないかな?」

 

「変形機構……格好良かった」

 

「根性!熱血!ってやつですね!アリス知ってます」

 

 ゲーム部は次のミレニアムプライスに向けてどんなゲームを作るか毎日、頭を突き合わせているらしく新しく建て直された部室からは賑やかな声が絶えないのだと言う。

 

『そのコマンドはユズしか入力出来ないと思いますよ』

 

 まさか独立した自我を確立するとは思わなかったが、ネットワークを利用して電子の海を泳いでいる鍵の神官改めケイから聞いた話だから間違いはないだろう。ちなみにかなりの頻度で私のスマホに居座っているので、便利屋サポートAIの役職をアル社長から貰っていたりする。

 

 こうして王女と鍵は己だけの時間を歩み出し、孤独な王は玉座から降りて拙いながらに皆と手を取り合い始めた。

 

 そして子供達の裏で必死に動いていた大人達はというと……

 

「……『先生』もう少し、計画的に仕事は進めたまえ」

 

“あはは……ごめん”

 

 大人らしく全ての後始末のために書類の海に沈んでいくのだった。




色々と抱えているリオを笑顔にする方法→全部放り出して暴れようぜ!

なんとも脳筋解決なバイステンダーでしたね。でも、大人と同じ様に背を伸ばしてしまっている子供を子供に戻してあげるには同じ視点で一緒にはしゃいでくれる存在が必要だったんじゃないかなって思います。

このパヴァーヌ編は、原作においてはアリスが与えられた魔王ではなく自らが望む勇者になる物語でしたのでオリキャラである彼もまた同じ様に、自分の本当の望みに気がつくのが裏テーマでした。楽しんで頂けたのなら嬉しい限りです。

次回は何か小話やなにやら書いて、エデン条約へと続けていきたいですね。とはいえ、流石に補修授業部には関われない若しくは関わっても薄味なのでゲマトリア達との絡みとか便利屋での仕事とかそんな感じかな。

個人的にかなりリオが好きなので早く実装されて欲しいと思っています。

では、感想やここすき楽しみに待ってるぜ!
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