便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア 作:マスターBT
予期せぬ出会いだったが、どうやら私は幸運な様だ。
アウトローという言葉から察するに、先導してくれている彼女は法の庇護下に居ない所謂、悪人という立場の人間であり、私がゲマトリアとして手段を選ばずに動いても、協力……というのは望み過ぎたが放置を選んでくれるであろう相手と早期に出会えたのは嬉しい限りだ。
……これから挨拶となるが、相手の規模を先に知っておくか、示さねばならない態度の指標にもなる。
「アル社長」
「ん?何かしら」
「君の会社の規模はどれくらいか教えて貰っても良いかね?あまり大勢だと、私も気後れと言うべきか……緊張をしてしまうから事前に聞いて心持ちを決めておこうと思ってね」
うむ、我ながら強気に出ず下手に出た良い安牌だと思う。
自らが所属することになるかもしれない組織に関して、思考を回しているというアピールと社長という立場のアルを侮っていないというアピールも兼ねている。
「あぁ!それなら安心して良いわ!私の会社は、私含めて四人だから。あ、でも皆んな私がスカウトした逸材ばかりなんだからね!」
四人と聞いて一瞬、私の目が死にかけたのを見抜いたのか慌てて逸材という事を伝えてきたな……まぁ、少数精鋭で成り立つ組織も珍しい話ではないが、裏社会に生きるアウトローが四人とは少し心許ないな。
いや、もしかしてその少人数で居られるだけの後ろ盾があるかもしれない。
「なるほど。それなら安心と言える、ちなみに他に連立している組織や企業でもあるのかね?」
「え、ないけど」
「……そうか」
幸運だと思った数分前の私をぶん殴りたい。
思わず眉間を押さえたくなったが、流石に今もなおこっちをチラチラと見ているアルの前で、それをするのは失礼にも程がある。
「あ、着いたわよ!此処が私の会社、便利屋68のオフィスよ!」
「……ふむ。外見は立派な建物だな」
「失礼ね!中も相応のものよ。さっ、付いてきなさい。その呆れ切った目にものを見せてやるわ」
それは是非とも期待しよう、無駄な時間を過ごすほど私も暇ではない。
とはいえ、現状、彼女以外の伝手は無いに等しい……他のゲマトリアを頼る手もあるが気が進まん。
カツンカツンと足音を立てるアルに続きながら、階段を上り彼女の事務室に入ると、区切られた扉の先に人の気配を三人ほど感じる。
「今戻ったわ。皆んな、早速だけどちょっと良いかしら?」
気配を消して、扉の裏に隠れ目を飛ばすとしよう。
本来であれば、他の枝の先すら見ることが出来る目だ、隣の部屋を覗くくらい造作もない。
「おかえりーアルちゃん」
「お、おかえりなさいませ」
「その手を見る限り、アルもこれといって見つけられなかったんだね」
「え、カヨコもなの?」
「くふふっ、皆んなだよアルちゃん」
……ふむ、仲は良好と言ったところか。
特に、アルちゃんと呼ぶ彼女はアルを舐めている訳ではなく、純粋な好意や友愛からそう呼んでいるのが笑顔からして分かるし、カヨコと呼ばれた目付きの悪い彼女も、呆れてはいるが現状を受け入れている……問題は震え声の彼女だな。
憧れや崇拝の類だとは思うが、少々、アルを見ている視線が凄いと言うべきか、これ、私が顔を出した瞬間に発砲とかしないだろうな?
「それで?何かあるんじゃなかったの?」
「あぁ!そうだったわね。んんっ、実は紹介したい人が居るの。私が出ている時に会ったんだけど、どうやら何処にも行く当てが無いみたいでね。業務にも協力してくれるらしいから、此処に置きたいんだけど良いかしら?」
直球だなアル……まぁ、変に言葉を選んで私に面倒が来るよりマシだが。
「わ、私はアル様が良いのなら……」
「私はちゃーんとこの目で見てからかなぁ。アルちゃんのことだから騙されてるかもしれないし」
「ムツキに賛成。せめて、話をしてから決めさせて」
当たり前だな……さてと、僅かな抵抗だが格好を整えてと……よし、ぱっと見スーツに乱れはないな。
「そうね。入って来てくれるー?バイステンダー」
「了解した」
男の声に軽く響めきが起きるが、私に何か出来る訳もないので無視し室内に入ると同時に、目を戻す……ほぅ、カヨコと呼ばれた彼女、私の目に気がついていたのか一瞬だが、視線を向けたな。
「ヘイローが無いところから分かる通り、私は外から来た人間だ。君達の持つ銃弾が一発でも当たれば致命傷になる、無論、アル社長と君達を信じ、防御策などは何も用意していない。っと、自己紹介が遅れたな、私はバイステンダーという、呼び辛ければ好きなように呼んでくれて構わない。所詮、名前とは記号に過ぎないからな」
「へぇ、じゃあ鷹さんとかでも?」
「構わんよ。私もこの仮面は気に入っている」
「へぇ、胡散臭い笑顔だけどそこは本当らしいね。くふふっ、これからどんな表情を見せてくれるか楽しみね」
「あまり過激な事はしないでくれたまえよ?」
楽しげに笑ってはいるものの、瞳の奥には剣呑な色が隠せていないな……まぁ、普通はこう警戒をするものだろう。
初対面でいくら気に入った単語を出されたとは言え、距離をグイグイ詰めてくるアルが無警戒すぎる。
「……ねぇ、さっきまで感じてた視線が消えたんだけど」
おっと、面と向かって聞いてくるか……これは隠すだけ私の不利になるな。
仕方ない、信用を得る為に手札はある程度明かすべきだろう……彼女らは間違いなく、強者でありこの場で敵対されれば私の命が無くなる。
「君達の様に神秘に満ちた力は使えないが、少々、特殊な力が使えてね。見てくれ」
彼女らに見える様に色付きの状態で、瞳を模した球体を生み出す。
「これは?」
「私の視界とリンクするドローンの様なものだと思ってくれ。機械工学と神秘の融合で作り出したのだが、中々に使い勝手が良くてな。先ほど、これを室内に潜り込ませ、君らの観察を行なっていたのだ」
「へぇ……盗撮とは良い趣味してるね」
「私は弾の一発でも死ぬからね。無論、気に障ったのなら謝罪しよう、だからソレを納めてくれるかね?ハルカさん」
アルから見えない様に私の背中にゴリッと当たる感触に冷や汗を溢しながら、呼びかけると銃を通して驚きが振動として伝わってくる……撃たないでくれよ?
「ちょ!?ハルカ!銃を下ろして!!」
「……はい」
「ふぅ……助かったよアル社長。それで君達は私を認めてくれるのかな?」
私の問いかけにアルを除いた者達が視線を合わせ、こくりと頷く、どうやら結論が出たらしい。
「聞いてた様だけど、一応、自己紹介しておこっか。私は室長のムツキだよ。よろしくね、鷹さん」
「課長のカヨコ。仕事で何か分からないことがあったら、教えられるから声かけて」
「ひ、平社員のハルカ、です」
「そして、私が便利屋68の社長アルよ!」
「……いや、知ってるが。何故、改めて名乗ったアル社長……ふむ、私の役職は何になる?」
この人数で役職を割り振る意味は分からないが、郷に入っては郷に従えだ。
「そうね……アルバイト?」
「クッククッ、なるほど……アルバイトと来たか。確かに臨時の雇われとしては正しいな。では、この場にいる者達は全員、私の先輩という訳だな。改めてよろしく頼むよ」
全員から返事を受け取り、最も末席になる場所へと腰を下ろす。
さてと……手っ取り早く成果を挙げて信頼は出来ずとも、仕事が出来る事を認めて貰うとするか。
「アル社長、早速なのだが君の金を少し借りられるか?」
「え?何をするの?」
「どうやらこの組織は金が無いようなのでね。信頼を得る為にも稼ごうかと思ってね、一ヶ月もあれば成果を出そう」
私の力を使えば、どのタイミングでどの株を買い、売れば儲かるかなど容易いのだよ。
感想とか待ってるぜ。