便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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ちょっとした小話回


貴方はいつもの様に笑っていれば良い。私は私で好きに動くからな

「……ふぅ。溜まりに溜まった一ヶ月分の仕事はこれで終わりだな。『先生』、私が言うのはアレとしっかり認識した上であえて言わせて貰うが、ゲーム開発部にどれだけ入り浸っていたんだ?」

 

“最初から最後まで?ほ、ほら、アリスの件もあったからさ”

 

「それを言われると立場が弱いのは私だがそれにしても……いや、止めておこう。三日前のユウカ嬢による説教の焼き直しだ」

 

 私と『先生』による書類仕事はやがて視察も加わったが、どうにか全てを消化しきる事が出来た。無論、時折シャーレに手伝いに来る者達の手もあっての事だが。

 今は互いに向かい合う様に机を挟んで『先生』がソファに私が来客用の椅子に座って互いに死んだ魚の目をして会話をしている状況だ。

 

「今更だがシャーレに私を招いて良かったのかね?」

 

“貴方が悪さをするなら駄目だけど”

 

『不穏な動きをみせれば知らせる様に頼まれましたので』

 

「あぁなるほど……ケイの見張りであれば確かに信用して良いだろうな」

 

 便利屋からの緊急連絡がいつきても良い様に手放さずに持っているものだしな。他にも色々と端末を持っているが、この端末を選ぶ辺りケイはかなり賢くなっている様だ。

 

『迷惑メールなども遮断しているので感謝してくれても良いですよバイステンダー』

 

「ほぅ。道理で最近、変なメールが来ない訳だ」

 

 いやはや時折届くベアトリーチェの奴からの力を貸せという鬱陶しいメールを最近見ていないとは思ったが、ケイが弾いてくれていたのか。褒美として電脳的に再現したケーキでも差し入れるとしようかね。

 そんな事を考えていると珈琲を一口飲んだ『先生』の表情が真剣なものになったのに気がつき、視線だけで先を促すと彼は申し訳なさそうな表情を浮かべて口を開いた。

 

“実は貴方を呼んだのは仕事を手伝って欲しかったのもあるんだけど、一番は謝罪がしたかったんだ”

 

「謝罪?なんの事だが分からないが、それは寧ろ私がするべき行為ではないのか?」

 

 さて何か『先生』に迷惑をかけられる様な事があっただろうか?仕事に関してなら今あえて話す様な事ではないだろうから別の案件だとして……ふむ、なんとなく予想は出来たがそれはもう過ぎた話だと思うが。

 

“……リオの事さ。私は先生として子供達を導くのが役割だと思っている。もしも、その身に合わないものを背負い込んでしまっている子がいれば、代わりに背負ってあげるか共に歩調を合わせ、解決に導くのが私の役割だと”

 

 予想通りか。善性が形を成しているのではないかと錯覚するほどの『先生』であれば今もなお悔いているとは思ったが、私としてはあの時にリオ嬢と共に大人気なく暴れた事でスッキリしているのだがね。

 そんな私を他所に『先生』は言葉を続けていく。

 

“貴方の言う通りだ。私がやらなければならなかったのは、リオの正義を否定するのではなく受け止め、より誰もが幸せになれる方法を共に模索する事だった……バイステンダー、「……『先生』」

 

 謝罪しようとする『先生』の言葉に重ねて無理やり続きを言わせない様にする。

 貴方が何を悔いているのかは理解したとも。だが、それはダメだ。

 

「リオ嬢は償いの為に今、ミレニアムで自らの罪と向き合っている。だからこそ『先生』、貴方は我々の正義を砕いた者として、自らの行いが過ちであったなどと認めてはいけない。それは我々への侮辱だ。例え、間違いであったとしても自らの正義に殉じ、戦った者への誹りだ……少なくとも私はそう捉える」

 

 そして何処か私と似ている彼女も同じ様に捉える筈だ。

 ハッとした様な表情を浮かべる『先生』を見ながら、ほんの少しだけ勝ち誇った気分になりながら珈琲を飲み込み、私は続ける。

 

「もしも悔いがあるのなら、それは謝罪を告げて消すのではなく次に活かしてほしい。我々の正義にも意味があったのだと貴方は証明し続けてくれ。そうすれば私もリオ嬢も、そうだな美味しく珈琲が飲める」

 

 カップを軽く持ち上げ、笑いかければ『先生』は何処か安心した様子で微笑み返し、同じタイミングで珈琲を飲む。これで良いのだよ『先生』。我々は苦い敗北を、そして貴方は苦い勝利を手にした。言ってしまえばただそれだけの話なのだから。

 

「やれやれ、根が良すぎるというのも大変だな」

 

『捻くれてる貴方よりは良いかと』

 

「なるほど確かに」

 

『今誰を見て納得しました?まさか私ではないと思いますが』

 

「さぁ?誰だろうなぁ」

 

“ふっ!ふふっ!本当に仲が良いね二人とも”

 

 我々のやり取りを見て笑顔を浮かべる『先生』に一先ず安心しながら珈琲を飲み干し立ち上がる。

 

“もう帰る?”

 

「あぁ。やはり寝るのなら慣れ親しんだ場所のほうがぐっすりと眠れるのでな」

 

 なんだかんだとシャーレの来客用布団で眠るのもなれたが、やはり便利屋68の事務所で眠るほうが私にとっては気が楽で良い。シャーレで眠ると予期せぬ来客が来る時もあるしな。

 

「ではな『先生』。次からは便利屋68の仕事として引き受けるから無料とはいかんぞ」

 

“ふふっ、それでも手伝ってはくれるんだね?”

 

「いざという時に貴方が倒れているなどつまらん結末は御免なのでな」

 

 見送ろうとする『先生』の提案を断り、ここ数日で慣れたシャーレの廊下を歩きながら外へと出て敷地内に止めておいた車に乗り込み、便利屋68の事務所へ少しばかり遠回りの道を選び、ある程度シャーレから離れたのを確認した後に端末を車にセットする。

 

「……さて、此処までシャーレから離れれば万が一もないな。ケイ」

 

『シャーレ全体をスキャンしたところ、反応がなかったのはシッテムの箱と地下にある設備でしたね。別の窓口から侵入した結果、件の装置がクラフトチェンバーと呼ばれる代物だと判明しましたよ』

 

 『先生』はケイを私の見張りとして信用していた様だが、私が悪い大人ならケイは悪い子供だ。彼女にとっても利がある提案を投げ掛ければ当然、この様に私に協力してくれるのだ。シャーレに侵入する機会がこんなにも早く来るとは思わなかったがね。

 

「ククッ、データの方は?」

 

『もちろん全て……と言いたいところですが、データそのものは入手しましたが文字化けや暗号化が施されており私と貴方が手を合わせても解析にはかなりの時間を要します』

 

「ふむ。連邦生徒会長め、よほど他人には与えたくないオーパーツを隠していたものだな。だが、ケイにもすぐに解析が出来ないとなると予定通り『義体計画』に組み込んでも良いだろう」

 

 ホルスの義眼を使わなければ私を優に超えるハッキング技術を有するケイであっても簡単に解析出来ないとは、噂に違わずと言ったところか連邦生徒会長め。

 

『……時間の猶予は』

 

「なんとかなるとも。私はもう一つの計画を詰めなければならない。クラフトチェンバーの解析は任せたぞケイ」

 

 そう神妙な顔をするなケイ。私に残された時間がどの程度かは不明だが……まぁ、なんとかなるだろう。時には希望的観測に基づき行動するのも悪くないとは思わんかね?

 

『分かりました。まぁ、私としても楽に使える足を失いたくはありませんので頑張るとしましょう』

 

「ククッ、タクシー扱いとはさすがは神官様だな」

 

『……もう一つの計画も理論自体は組み立ててあるんでしたっけ?』

 

「あぁ。ただ『義体計画』が時間の勝負ならこちらは運の勝負だな。ただでさえ、契約に神秘を織り交ぜねばならんのに魂という不確定な概念まで関わってくる……さすがの私も確率を100%にするのは無理だろうな」

 

『面倒ですね』

 

「キヴォトスが面倒なのだケイ」

 

 既存の科学知識が通用する世界でありながら、神秘という超常の力が作用する世界……十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかないとは言うがこの両者が共存している世界などキヴォトスぐらいなものだろう。

 

「ククッ、だからこそ面白いのだがね」




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