便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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予期せぬ好機と我が身の不自由さ

「──ハルカさん。もっと気を楽に、自分のやりたい事に素直になるんだ」

 

「ッッで、でも」

 

 ふむ、まだ身持ちが固いな。確かに遠慮はあるのだろうがこの場はいわゆる無礼講。立場も何も関係なく好きな様に振る舞って良いのだから、ガチガチに身体を強張らせる必要はないともっと囁きかける必要があるか。

 

「君は何を望む?何がしたい?ずっと胸の内に堪えている欲望を解き放つ時だとは思わんかね?」

 

「うぅ……」

 

 その身に溜め込んでいる熱を私は歓迎しよう、決して恥じるべき代物ではないのだと。

 君が胸の内に抱えている衝動は人間、誰しもが持つ極めて自然なもので寧ろ我慢のし過ぎは毒とも言える。

 

「君はもう限界値だ。しかし、だからこそこれから君が解き放つものは苦しく辛い我慢の先にある最大の興奮と心地よさを齎す筈だ。さぁ、深呼吸をして身体を楽にし覚悟を決めるんだ。もしもやり方が分からないのなら私が手を添えよう……そうだ、良いぞハルカさん」

 

 視線を左右に彷徨わせてはいるが先ほどより、視線が一点に止まる時間が増えて来ている。良い兆候だ、あと少しほんの少しのきっかけさえ与えれば彼女は我慢をやめて自らを解き放つだろう。

 

「バ、バイステンダーさん……」

 

「大丈夫だとも。君がこれからする行為を嫌う者は誰もいない。寧ろ、皆が望んでいる筈だ──アル社長だってな」

 

 だからこそ私はここでトドメを指す。

 ハルカさんの動いていた視点が一点に止まり、こくりと頷くと共に私は手を添えていた彼女のコントローラーを操作し──

 

「そこだ」

 

「アル様ぁぁ!」

 

「あぁァァァ!!あと少しだったのにぃ!!!!」

 

 ──250%まで溜まったハルカさんのキャラが放つ横スマが綺麗に最後まで残っていたアル社長のキャラを画面外へと吹き飛ばす。

 

「ククッ、見事だハルカさん」

 

「……言ってる事は何も間違ってないんだけど」

 

「なんかアダルトだったねぇ……ハルカちゃんの耳元で囁いてる絵面がこういかにも、悪い大人!って感じ?」

 

 何やら散々な言われようをしているがそもそも私がパソコンで計画を纏めている時に、ずっと睨めっこしてるのは身体に悪いから偶には遊ぼー!っと声をかけてきたのはムツキ室長だったと思うのだが。

 

「か、勝ちました……あわわっ!?す、すみません私なんかが出しゃばって!?」

 

 おっと、ハルカさんが正気に戻ってしまったが……そうだな此処はアル社長に任すべき瞬間だろう。

 

「大丈夫よハルカ。ゲームなんだから周りを気にするより楽しまなくっちゃ!私の着地を狩るなんて見事だったわよ?」

 

「アル様……」

 

 慌てふためくハルカさんの頭の上にポンッと手を置いて、撫でながら微笑むという少女漫画の様な見事なコンボを叩き込むあたりさすがと評価せざるを得ないな。

 

「ほら」

 

「む?」

 

「む?じゃないよ。ハルカが楽しめないの悟ってから、態とすぐに負けてたでしょ?次からは本気でやってね」

 

「ククッ、カヨコ課長がそれを望むのならアルバイトの私に拒否権はないなぁ」

 

 差し出されたコントローラーを受け取り、プテラノドンの様な悪役キャラクターを選ぶ。図体が大きい為に乱戦になればなるほどダメージを負いやすいが、上手く立ち回れば認識外からの一撃を叩き込める為、今のところ気に入っている。

 

「よーしじゃあ再開するわよ!」

 

「くふふっ、皆んなが本気になっちゃったからなぁ。ムツキちゃんも本気にならないと」

 

「……社長は強攻撃に執着するから……ムツキとバイステンダーの動きに注意かな」

 

「が、頑張ります!」

 

「さてとご期待に応えるとしようか」

 

『……大人が一番張り切ってどうするんですか全く』

 

 それを望んだのは彼女達だからなケイ。

 こんな感じでちょっとした息抜き程度に付き合うつもりだった便利屋68ゲーム大会はどんどんと加熱していき、きっちり三時間ぶっ続けで対戦をしたのだった。

 勝敗は良い感じにバラけてはいたが、僅差でムツキ室長の勝利だった。的確にされると嫌なタイミングで、攻撃を挟んでくるのが上手かったな。

 

「さすがに疲れたぁ」

 

「休みなしだったからね」

 

「ハルカちゃん大丈夫ー?おーい」

 

「……」

 

「完全に寝てるな。私が休憩室に運んでおこう」

 

 常日頃から我慢ばかりしている為か今日は存分にはしゃぎ疲れてしまった様だなハルカさん。武器を持っていなければ軽い彼女を抱き上げ、事務所にある休憩室へと運び、寝かせてから軽く布団をかけてやる。

 規則正しい寝息を立てている彼女の表情は、笑みを浮かべており今日がどれだけ楽しかったかなどこの表情を見れば一目瞭然だな。

 

──ピンポーン──

 

「む?こんな時間に来客か?」

 

 私が応対しようと緩慢な動きで歩き出そうとしていたアル社長を止めて玄関へと向かう。はてさて、もうすっかりと夜だが誰だろうか?

 

「お待たせした便利屋68へよう……こそ?」

 

 む?誰もいないな。悪戯か?

 

「下よ。視線下げて」

 

「この声は……やはりヒナ風紀委員長か。いよいよ我々を潰しに来たのかね?」

 

 もしもそうならお引き取り願いたいところだが、目の前の彼女からはこれといって敵意を感じる事は出来ず数秒ほど未来視を使ったが、私が害される光景は見えて来ない。であれば、信じられない事に来客として彼女は来たらしい。

 

「違う。風紀委員というよりはただの個人として貴方達に依頼をしに来たの。報酬さえ用意されればなんでもするのが便利屋なんでしょう?」

 

「ククッ、これは予想にもしなかった大口契約が望めそうだな。案内しようヒナ風紀委員長」

 

「えぇ。よろしくお願い」

 

 ゲヘナ風紀委員長が自らやってる案件など先日の会議を思い出せば一つしかあるまい──『エデン条約』。どうにか参画する手段を探していたがまさか向こうから来てくれるとはな。

 

「アル社長。依頼人が来たぞ」

 

「え?こんな時間に?」

 

「あぁ。それも大口だ」

 

「え?誰々!?何処の会社?それとも裏社会の人間から?」

 

 うむ。疲れも吹っ飛ぶ勢いではしゃいでいるところ悪いが、君からは見えない扉の裏でヒナ風紀委員長が思いっきり呆れ顔を浮かべているからもう少し落ち着くと良いアル社長と言いたいところだが、ここで注意するよりヒナ風紀委員長に颯爽と登場して貰った方が面白そうだな。

 

「ククッ」

 

「……いい性格ね」

 

 私の意向を察して小声で話す君も相当だと思うぞ?

 

「久しぶりね便利屋68。個人的に依頼をしに来たわ」

 

「……え?ヒナ?」

 

 口をポカンと開けるアル社長は面白いが一旦放置し、ヒナ風紀委員長を来客用のソファに座らせ台所からお茶とお茶菓子を適当に見繕い持って行くが、未だにアル社長が固まっていた為に軽く額を叩き正気に戻させると共に対面へと座らせる。このままでは話が進まないからな。

 

「はっ!?」

 

「戻ってきたかね?商談の時間だぞ」

 

「……あの風紀委員会が本当に私達に依頼を?」

 

「信じられないのは当然だとは思うけれど、こうして私が制服を脱いで私服で着ているという事実を踏まえて欲しいわ鬼方カヨコ」

 

「……はぁ、バイステンダー任せる」

 

「了解した」

 

 一先ずの納得はしたが自身は有事の際に動ける様に気を張るか。実にカヨコ課長らしい対応の仕方だ。先程から静かなムツキ室長も、アル社長の様子をニコニコと見ているがヒナ風紀委員長が僅かでも動けば意識を向けている……うむ、空気が重いな。敵同士だから仕方ないのだが。

 さて……この様な場面『先生』であればどうするか。

 

「これは私のお気に入りでね。ゲヘナ学園の近くにある商魂逞しいコンビニで売られているチョコレートなのだが、程よい甘さであり疲労している時にはついつい口に運んでしまうそんな代物だ。私のお勧めは少し濃いめの珈琲なんかと合わせると書類仕事ばかりの時には効くぞ」

 

「……へぇ。それは良い事を聞いた。ゲヘナは仕事が多いから」

 

「貴女の活躍は調べなくともよく耳にするよ。ゲヘナの生徒会との折り合いも悪いと聞くが、その状況下できっちりと成果を出しているのは流石の一言に尽きる。まぁ、尤も我々からすれば少しぐらい加減して欲しいものだがね」

 

「便利屋68は他に比べればまだ常識的だからほんの少し、周りへの被害を考えてくれればそれで良い……あ、本当に美味しいこのチョコレート」

 

「荒事に少数精鋭で当たっているんだ。少しばかりはお目溢しをしてくれたまえ。チョコレートが気に入ったのであれば、まだ在庫がある。帰りに包むとしようか」

 

「そうしてくれるとみんな喜ぶ」

 

「……あれ?なんか和やかね。本当に依頼を持ってきただけ?」

 

「最初からそう言ってるでしょ」

 

「ククッ、さてと本題は社長であるアルと話を進めてもらおうか。アル社長、私と位置を変わろう」

 

 両手を広げ和かな笑みという『先生』を意識してみたがどうやら効果はあった様だな。ヒナ風紀委員長からは棘が消え、アル社長からは緊張感が消えた。これならお互い余計な事を考えずに有意義な打ち合わせと行けるだろう。

 

「優秀な人材ね。羨ましいわ」

 

「ふふっ!そうでしょうそうでしょう!便利屋68は皆、優秀な社員ばかりよ」

 

「その優秀さを見込んで私から依頼がある。これからゲヘナ学園とトリニティ総合学園で行われる両陣営の紛争回避を目的とした条約……通称、エデン条約を結ぶのだけどその時に便利屋68には警備に参加して欲しい」

 

 この場にいる全員が息を呑む中、私だけが歓喜していた。便利屋68としてエデン条約に参画出来るのであれば、大手を振るい彼女らの味方を出来る。私に残された時間を余分に擦り減らさずに済むのだから。

 

「……ヒナ。私達は便利屋として報酬さえあるのならなんでも引き受けるわ。でも、これが貴女達風紀委員会の罠じゃないとどうすれば信用させてくれるのかしら?」

 

「もちろん依頼料は払う。それに加えて貴女達のこれからの行動に目を瞑ってあげる。風紀委員会としてではなく、私個人としてだけど」

 

「自分達の立場を理解しているからこそ言うけど、貴女は犯罪者に頭を下げてまで此処に来た。その理由はなに?」

 

 いつにもなく真剣な空気を漂わせるアル社長を思わず私やムツキ室長、カヨコ課長まで見てしまう。その視線が意外だったのかアル社長は向けられている視線に気がつくと、空気を維持したまま話し始める。

 

「私も一つの組織を預かる者として敵対する組織に頭を下げる行為がどれだけ難しいか理解しているつもりよ。だからこそ知りたいのよ。天下無敵のヒナがどんな矜持を持って、今此処に来ているのかをね」

 

 なるほど……俗に言うプライドというものか。確かにヒナ風紀委員長からすれば政治的弱さを露見させる行為でもあり、そこを不仲の生徒会に突かれるかもしれないというのにこの場に来た理由には私も興味があるな。

 

「……私がどうなろうとも確実に成功させたい案件だから。エデン条約が成立すればゲヘナの治安は少しだけでも良くなる筈」

 

「つまり、ゲヘナの安全の為に身を切る覚悟の上ってことね?」

 

「えぇそうね」

 

 嘘は言ってないが本質も答えていないという感じだな。まぁ、だがそれは正解と言えるだろうヒナ風紀委員長。

 

「ふふっ」

 

 なにせ、隣を見る必要もなく喜んでいるのがヒシヒシと伝わってくるからな。こうなればアル社長の返事など決まったものだ。

 

「いいわ。ヒナのその覚悟に免じて信頼してあげる!私達、便利屋68は全面的にヒナに力を貸すわよ!!」

 

「……いいの?」

 

「アルちゃんが決めたら従うだけだからねぇ〜」

 

「そうと決まればやる事が多いね……アコと顔を合わせるのか……」

 

「ククッ、社長の決定は絶対だからな。我々便利屋68は後日、正式な書類を用意してそちらに向かおう。私だけであれば『先生』の使いとして判断されるだろうからな」

 

 ヒナ風紀委員長の意向と我々の安全を確保する為にも正式な書類の一つぐらいは欲しい。それとその書類がしっかりとヒナ風紀委員長が書いたものであると証明する第三者もな。

 

「……えぇ、分かった。来る時は事前に連絡を頂戴、ゲヘナは色々と危ないから」

 

「了解した」

 

 この後、ヒナ風紀委員長にチョコレートを包むと共に連絡先を交換し便利屋68は無事に大口の依頼を確保するのだった。気を張っていたのかゲーム疲れもあった彼女達はぐっすりと眠りにつくのを見守り、私はパソコンを立ち上げる。

 

「……ベアトリーチェの出方をシミュレートしよう。ケイ、付き合ってくれるかね」

 

『構いませんよ。データ入力から考えられる複数のパターンを提示します』

 

「頼んだ」

 

 彼女達を無事に此処に連れ戻すためにも、そしてゲマトリアに対して明確な裏切り行為を出来ない贖罪も兼ねてせめて出来うる限りの事と最悪の想定に備えた準備を始める。

 

 ──もしもの時は『先生』、貴方に私の全てを託そう──




物語の裏では補修授業部を巡る一連が進行中……多分、二回目の模擬テストを受けるちょっと前ぐらい。

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