便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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キヴォトスに来て書類仕事も随分と手に馴染んだものだ

「直接足を運ぶのは初めてだが……うむ。噂に違わぬ場所だなゲヘナ学園」

 

 書類を片手にゲヘナ学園へと足を運んでいる訳だが、此処に来る道中は実に波乱の連続であった。なんの変哲もないアスファルトの道路を通過出来るかと思えば何処からともなく、巨大なドリルが備わった重機が姿を現し操縦士と思われる女子生徒の高笑いと共に次々と道路が破壊されていきどうにかその場を潜り抜けたかと思えば、銀髪の女子生徒が率いる者達が美食を謳いながら配給車に襲い掛かっていたりなど……銃声と怒号を聞かない場所はなかったな。

 

「本校舎はどれ程かと恐れていたが予想に反して綺麗だな」

 

 此処で暴れればヒナ風紀委員長がすぐに出動するからなのか、此処ではない場所で存分に暴れているからなのか。いや、便利屋68の面々の事を考えればそもそも出席をしていないのだろうな。

 

「……それで良いのかねゲヘナ学園」

 

「ん?見慣れない奴ってお前はアビドスで便利屋と一緒にいた!」

 

「む?あぁ、これはこれは風紀委員会の……銀鏡イオリ嬢だったかな?」

 

「覚えていたのか!?というか嬢とか付けるのは止めてくれ……その胡散臭い声も合わさってゾワゾワする」

 

 こちらを引いた目で見ている辺り、どうやら本当に私に嬢を付けて呼ばれるのは気色が悪いらしい。さて、私が胡散臭いのは今に始まった事ではないのだがこうも明確に引かれてしまっては円滑なコミュニケーションを行う上で弊害があるな。

 

「ではMs.イオリと呼ぶのはどうか?」

 

「普通に呼べないのか?」

 

「それはこれからの関係次第だとも。そもそも急に馴れ馴れしく呼ぶ異性の大人など君達からすれば、恐怖或いは嫌悪の対象ではないのかね?」

 

 年頃の女性にとって無遠慮に距離を詰めるのは悪手だと思い、このキヴォトスに来てから必ず役職か敬称を付けて呼んでいたが違うのだろうか。まぁ、元より出会ったばかりの相手を呼び捨てにするつもりなど毛頭ないのだが。互いを知ってから適切な呼び方に変えるべきだろう。

 

「……なぁ、もしもだ。もしも私が足を舐めろって言ったらアンタはどうする?」

 

「ふむ?質問の意図が読めないがその様な変態的行為は、Ms.イオリが望んでいたとしても無理だな」

 

 何か大切なものを対価に要求されているのであれば従うのも吝かではないが、出来れば取りたくない最悪の手段の一つだな。

 

「そうだよな!!普通そうだよな!!」

 

「うおっ……きゅ、急にどうしたのかねMs.イオリ」

 

「大人は皆んな足を舐めろって言われたら従うものなんじゃないかって錯覚し始めててさ。これも会う度に私の足を舐めようとしたり、変態的な行為をしてくる大人が悪いんだけど……でもそうじゃない大人もいるんだよなやっぱり!!」

 

 急にグイグイと距離を詰めていたかと思えば凄まじい勢いでおそらく、今まで溜め込んできたのであろう不満を盛大にぶち撒け始めるMs.イオリ。興奮のあまり唾でも飛んでくるんじゃないかと思うほどの距離に詰めてくる彼女を他所に、私の脳裏には私に負けず劣らずの胡散臭い狐目の大人が思い浮かんでいるのだが取り敢えず頭の片隅に放置して置くことにした。

 

「……何やってるのイオリ?」

 

「うわぁぁ!?委員長!?」

 

「あぁ来てくれたかねヒナ風紀委員長。ゲヘナは刺激に事欠かない場所だな」

 

「まぁ、多分貴方みたいなのが好みそうな生徒は多いと思う。『先生』からの書類持って来てくれたんでしょ?付いてきて」

 

 律儀に表向きの理由を提示する彼女の真面目さを感じながら、Ms.イオリを連れ添って風紀委員会が使用している部屋へと辿り着く。道中は割と喧しく此処に来る理由を問い掛けられたが、全てヒナ風紀委員長へと全投してやり過ごした。

 

「……多いな書類が」

 

「普段の業務に加えて例の案件もあるからね。書類、貸して」

 

「あぁ」

 

 一応とはいえ会社を名乗っている便利屋68とは比べ物にならんほどの人員と道具を配備した上で、全ての机の上が書類で埋まるほど仕事が多いのか彼女らは。ゲヘナの生徒達が起こす問題行動、その後始末を請け負っていると考えれば方々へと書類の手配は必須に加えて生徒会が足を引っ張ってくる始末……『先生』も憂いてはいるのだろうが手が足りんなこれは。

 

「はい。これで不備はない?」

 

「ん?あぁ、確認しよう……うむ、問題ないな。これで我々は必要に応じて動ける」

 

 慣れているのであろう事が伺える速度で差し出された書類に不備はない。このまま帰れば私の仕事は終わりなのだが、都合の良い方便としてシャーレの使いを名乗っているのなら提案の一つぐらいはするべきか。

 

「それじゃあそこまで送るから」

 

「ヒナ風紀委員長。余計なお節介であれば拒絶して貰って構わないのだが、積み重なっている書類仕事の手伝いはいるかね?」

 

「……どういう風の吹き回し?」

 

「そう警戒するな。シャーレとしてやるべきかと思っただけさ」

 

「貴方は……いえ、そうね。そういう大人(ヒト)だった。向こうの生徒が担当してる仕事なら風紀委員会じゃない貴方が見ても大丈夫な書類の筈」

 

 何やら呆れられた雰囲気を感じたのだが気のせいだろうか?

 まぁ仕事があるのなら良しだ。許可も得た事だし早速手伝いに行くとしよう。

 

「ヒナ風紀委員長の命により手伝いに来た。何をすれば良いかね?」

 

「ヒャッ!?え、えっと、ではこちらをお願いします」

 

「了解した。見慣れぬ大人ゆえ、緊張するとは思うが肩の力を抜くと良い。気を紛らす程度の雑談であれば喜んで付き合うぞ」

 

 やはりと言うべきか風紀委員会所属であってもゲヘナ生徒らしく、書類仕事に手間取る素振りがあった為に横に座りながら効率の良いやり方を適宜、教えつつ雑談を交えながら並べられた書類の山をこの日は片付けるのであった。次回があればカヨコ課長を呼んでみるのもアリかもしれんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キヴォトス某所の倉庫街。夜の闇に溶け込む様に佇むこの倉庫は使われてはいるものの、もっぱら裏社会の人間達による取引の場になっていたりする為に灯りの類は極端に少なく、様々な陣営が自らの領土の様に倉庫を占領しているという半ば、火薬庫のようになっている場所だ。

 

「ぐっ……」

 

「まさか……我々が負けるとは……」

 

 そんな倉庫街に似つかわしくない色鮮やかな格好の者達──カイテンジャー──がボロボロの状態で地面に倒れ伏している。彼らもこの場所を隠れ家の一つとして利用しており、倉庫には開発品と見られる品々が所狭しと置かれているのだが『ガスマスクの襲撃者達』はそんなものに目もくれず一台のパソコンを調べていた。

 

「リーダー。目当てのものはあった?」

 

「……ないな。何処かへ連絡していた痕跡はあるが」

 

「そう。ならやっぱり直接、便利屋?を襲撃すれば良いんじゃないの?」

 

「駄目だ。あそこは奴の根城。此処の連中とは練度が違う」

 

 彼女らは便利屋の誰かを探しているらしく、辿れるほどの痕跡を残していない事実に苛立ちながらも未だに意識を保っているレッドとブラックへと近づくと、月明かりに照らされてコートの髑髏マークが明らかになる。

 

「あの男との取引はいつだ?教えて貰おうか」

 

「……はっ、はは。その顔、アビドスで見たな。確か……錠前サオリだったか?」

 

「……」

 

「彼の暗殺を目論んでいるのなら……教えられないな。それは我々の正義に反すグアッ!?」

 

「レッド!!」

 

 サオリの鋭い蹴りがレッドの顔面を襲い、彼女は大きく吹き飛ぶがヘイローの光は消えず隠された仮面の奥で不敵に笑う。

 

「……理想を共にせずとも……手を組めると認め合った相手だ……どれだけ嬲られようとも信頼を裏切る事はしないさ」

 

 そんなレッドに触発されてかギリギリで意識を保っていたブラック以外の面々の頭上にもヘイローが浮かび上がり、彼女らはゆっくりと立ち上がる。それをサオリは鬱陶しそうに眺めるとガチャリと武器を構え宣言する。

 

「もう一度痛い目を見て貰おうか」

 

「ハハッ、受けて立つ!」

 

 彼女らの激突により倉庫街は半壊し、様々な組織が揉め事を引き起こすキッカケになるのだがその騒ぎに乗じてカイテンジャーの面々はサオリ達から逃げる事に成功し、残された瓦礫と化した倉庫の上でサオリは忌々しそうに月を見上げる。

 

「……バイステンダー。私はお前の道楽にはならない」

 

 悲劇を知りながら何もしなかったゲマトリアとしての罪が、彼に届くのはそう遠くない未来なのかもしれない。




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