便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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本日二話目なので、前話がまだの人はそちらからどうぞ


大切な場所を護りたかっただけ

「先ずは知己を得て光栄だ。栄えあるトリニティ総合学園、その実質的生徒会長を務める『ホスト』の桐藤ナギサ嬢」

 

「えぇ。私の方も感謝しなければなりませんね。まさかあのシャーレに『先生』以外の大人が在籍していたという事実を知れたのですから」

 

「互いに別件を担当しているのでね。挨拶が遅れた事は大変申し訳ないと思っているよ」

 

「いえいえ……お恥ずかしい話ではありますが『先生』には今もお力を貸していただいている状況ですからご多忙なのは存じております」

 

 音を一切立てずに紅茶を飲み交わし、簡単な会話を重ねているナギサとバイステンダーは互いに浮かべている表情こそ親しみを覚える微笑みではあるものの内心は、向かい合わせとなっている相手の本心を暴く為に何処までも冷ややかに疑っているためか距離感を窺う様な話題が続く。

 

「私も彼もこのキヴォトスに来てそれなりに時間は経つが、連邦生徒会長の不在による影響か仕事が多く気が休まらなかったが、今日はここに来て良かったと思えるよ。美しい景色に美味しい紅茶をいただけるのだから」

 

「お褒めいただきありがとうございます。最近の情勢も相俟って入手が困難ではありましたが、そちらの紅茶に使われている茶葉は私が選んだ一品ですので、お口に合ったのなら喜ばしい限りです」

 

「ほぅ、その様な貴重な一品をいただけるとは。本日の話し合いは有意義に進むものと考えても良いのかね?」

 

 紅茶の豊かな香りを楽しむ様にカップを回しながら、飲むバイステンダーの目が僅かに細められると共に一歩、話題が前進し和やかな空気が重くなり始める。

 

「……エデン条約に関して話があるという事でしたが、お間違いはないでしょうか?」

 

 向けられた矛に返す様にナギサもまた一歩、話を前に進めるが紅茶を楽しむ余裕を見せていたバイステンダーとは違い、彼女は両手で包むようにカップを持ちながら真剣な表情を浮かべていた。

 ナギサにとってエデン条約とは結ばねばならない条約であると共に、自らの心を軋ませる難題と紐付けられているものである為、意識的に或いは無意識にその手に力が込められてしまうのも当然であった。

 

「私は『先生』とは違い、ゲヘナへと今は協力関係を結んでいるのだがつい先日、ゲヘナ領にて温泉開発部による爆発が起きた」

 

「……それは痛ましい事件ですね」

 

「いや、ゲヘナでは常の事柄だと言っていたがね。ただ本題はそこではない。念の為に仕掛けてられている防犯カメラをチェックしたところ、『先生』とトリニティ生徒らしき生徒達がゲヘナ領へと足を踏み入れているのを確認したのだ。これまた不思議な事に爆破が起きた付近でね……時期が時期だ。何故、夜も遅くにあの様な場所でトリニティ生徒が目撃されたのか教えて欲しい」

 

 彼にそんな権限はないのだが、『エデン条約』をチラつかせる事で関係悪化による破談を示唆させ情報を引き出そうとする。彼が得た情報の大半はケイによるものだが、現場検証を行ったゲヘナ風紀委員による情報も含まれている為、決して嘘は吐いていない。まぁ、比率にすれば9:1なのだが。

 

「なるほど。確かに今は時期が時期ですので疑いたくなる気持ちは分かります。しかし、それなら『先生』に尋ねれば良かったのではないでしょうか?それとも何か聞けぬ理由でも?」

 

 しかしそんな揺らぎにナギサは動じる事なく、むしろバイステンダーが発した違和感を突く。彼が本当にシャーレの所属であればこうして態々、時間が取れるかも怪しい自分ではなく、同僚である『先生』を頼れば良いのだから。

 

「確かに『先生』から聞く手段もあったとも。だが、既にティーパーティーによる口止めをされている可能性が高い以上、無駄手間になると踏んだのさ」

 

「シャーレの『先生』の自由を奪うなど出来ませんよ」

 

「彼は優しいからな。生徒を人質に取られてしまえばそれだけで自由を失う」

 

 物理的に『先生』を捕らえたとなれば、流石のティーパーティーと言えども他の学園からの追及を逃れる事は出来ず、自らの愚かな行為でエデン条約を白紙にしてしまうが、生徒を何よりも自身の命よりも優先する『先生』の自由を奪うのなら生徒を重しにすれば良い。

 もしも自分が『先生』と敵対するのであればそうするとバイステンダーは読んで口に出したのだが、此処で彼は知り得ぬナギサの疑心から生まれた『補習授業部』を暗に指したのではとナギサは勘違いをしてしまった。

 

「……なるほど」

 

 補習授業部の事を知った上で、わざわざ尋ねてくるという事はゲヘナ領で問題を起こした責任を追求しに来たのか、それとも裏切り者について何か情報がありトリニティが何処まで把握をしているのか探りに来たのかと思考を巡らせるナギサ。

 

「先ずはそちらの自治区内で問題を起こした事を詫びましょう。大変申し訳ありませんでした。私にも考えがあったとはいえ、この大事な時期にやるべき行動ではありませんでしたね」

 

「いや幸い、ゲヘナでは爆発は日常茶飯事だ。誰一人として深く捉えている事はないとも。だが、何故その様な行為を?」

 

「……裏切り者を見つけ出す為です。エデン条約の障害になり得るものを事前に排除したいのです」

 

 一瞬、予想していなかった展開に驚くバイステンダーであったが裏切り者という単語から思考を巡らせ既にトリニティ内部にまでアリウス、引いてはベアトリーチェの手が及んでいる可能性に辿り着き、思わず顔を顰め、それがナギサには裏切り者に向ける敵意に思えた。

 

「思っていたより厄介な状況という訳か……」

 

「はい。こちらでも手は打っていますが、中々思う様にいかず胃を痛める日々です」

 

「心中をお察しするよナギサ嬢。であれば何かの助けになるかもしれないのだが、私の方でエデン条約が執り行われる古聖堂を調べたのだがどうにも人の出入りがある様だ。あそこはかつてのユスティナ聖徒会によって建てられたものだと記憶している。何か知らないかね?」

 

 互いにズレた認識をしつつも腹の底を見せるほど信頼関係がない二人が、その事実に気がつく事はなくバイステンダーは自らが知りたい事を尋ねるがナギサは首を横に振った。

 

「ユスティナ聖徒会に関しては我々ティーパーティーより、シスターフッドの方が詳しいかと思います。ですが、彼女達は秘密主義ですのでそう簡単に話してはくれないでしょうね」

 

「ふむ……エデン条約や『先生』との関係で知己を得る事が出来たナギサ嬢とは違い、まず知り合う事すら難しいという訳か」

 

「……あの、失礼でなければバイステンダーさんは裏切り者に心当たりはありますか?」

 

 その問い掛けはナギサにとって自らの弱みを見せる行為ではあったが『先生』とは違い、完全に中立となっているバイステンダーにはどうしても尋ねておきたかったのだろう。ともすれば、それは大人に向ける不器用な甘えなのかもしれない。

 

「トリニティ総合学園という時点で考えられる可能性は複数あるが、私ならまずアリウスを疑う。言い方はアレだが、彼女達だけがトリニティに弓を引く正当な理由を持ち合わせているからな」

 

 思考の海に沈んでいたバイステンダーがその甘えに気がつく事はなかったが、自身の持ち得る情報の中から最も考えられる可能性が高いものを選び取り告げると、ナギサは少しの間考える様に視線をすっかり冷えてしまった紅茶に落とす。

 

「白洲アズサ……もしかして彼女ですか?」

 

「転入生かね?」

 

「えっ、ああはい。この時期に転入してくるとは怪しいとは思っていたのですが、そこしか疑えず結論を出せないのです」

 

 ボソッと呟いた程度の発言を耳聡く拾われた事に驚くナギサ。

 

「……トリニティの書類手続きはかなり面倒であった筈だ。シャーレで書類仕事をしている時に思わず頭痛を覚えるぐらいには」

 

「それは大変申し訳ありません。トリニティはその性質上、様々な分派によって管理されているのに加えその全てが書類管理ですのでややこしいですよね」

 

 一つの学園とはなっているものの裏では日々、敵対分派を潰そうと政治的闘争が繰り広げられている為か盗み出してしまえば簡単に書き換えの出来てしまうデータではなく、書き手それぞれの癖が出る手書きの書類に限定されるトリニティ総合学園の手続きはそれはもうややこしいもので一人の生徒の情報を引き出すのに色んな部署を回らねばならないなど日常茶飯事だ。

 故にそれに慣れ親しんでいるナギサではなく、バイステンダーであったからこそこの考えに辿り着くことが出来た。

 

「全てを疑うのであれば……ティーパーティーなら白洲アズサの書類を偽る事が可能ではないのかね?」

 

「ッッ、それは!!」

 

「失礼、気を悪くしたのなら詫びよう。だが、裏切り者はティーパーティーにいる可能性もゼロとは言えまい?」

 

「……あり得ません。セイアさんは凶弾に倒れ、私は裏切り者を炙り出そうとしている……なら、ならもう一人を疑うしか……でもそれなら私は何の為に……」

 

 見開かれた瞳は激しく左右に揺れ動いており、今まで以上に動揺を隠せていないナギサを見てバイステンダーは目の前の少女の本質を理解してしまった。腹の底を見せず自分と会話を繰り広げていた彼女の姿は真実ではなく、誰か大切な人を守る為に気丈に振る舞っていただけなのだと。

 

「……君もまた大切な居場所を護りたかったのか」

 

 それと同時に自分ではナギサにこれ以上寄り添う事は無理だと判断した彼は、慣れた手つきで信頼の出来る大人へと連絡を取るのだった。

 

“分かった。任せて”

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