便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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名の要らぬ攻防戦

 夜の闇が訪れたトリニティ総合学園は『エデン条約』における重要書類を守るための厳戒態勢が敷かれている事もあって、何処か重苦しい空気が流れており、政治と関わりの薄い生徒達は寮へと戻り穏やかな睡眠を享受していた。

 そんな中、補習授業部の合宿場では来るべきテストに向けて追い込みなのか明かりが煌々と灯っており、夜の闇に紛れてトリニティ自治区の中へと忍び込んできていた者達を心理的に遠ざけていた。

 

「……静かだな」

 

「灯りは灯っているがどうやら人影は確認出来ないらしい」

 

「とはいえここに居るのは少数なんだろう?それなら死角に居ても不思議じゃない」

 

「それはそれで不思議なんだけどな。だって、ホストが連れ込まれたって情報だった筈だ。いくらなんでも守りが薄過ぎる」

 

 白いコートとガスマスクが特徴的な『アリウス』の生徒達が口々に気がついた事を共有していくが、短く入ってきた通信から告げられる音声は突撃の一言であり、例え罠が仕掛けられているとしても末端の彼女達は目的の為に行動を開始するしかないらしい。

 高度な軍事訓練を施されている彼女達は夜の闇に紛れ、一切の音を立てずに目標となる建物へと接近していきゆっくりと扉に手をかけて──カチンッと音が鳴る。

 

「しまっ──!?」

 

 驚きを口にするより早く彼女達の視界は真っ白に染まり、決して小さくない爆音が夜の闇に響き渡ると共に扉に近かった生徒達が派手に空を飛んでいく……明らかに爆弾の量が過剰な気はするが何処ぞの浪漫好きが初撃は派手にと一流のゲリラ屋に頼んだせいである。

 

「くそっ、罠だ!!全員、周囲を警戒しろ!!」

 

「解除に自信のある奴は前に来い!!」

 

 喧々轟々となるアリウス生徒達はそれでも、慣れ親しんだ動きで周囲へと警戒を開始し解体班の者達が仕掛けられた罠の解除に望むその姿は立派な兵士そのものであり、それ故に読みやすい動きでもあった。

 

「っあ」

 

「おい、どうした!?」

 

 夜の闇の中、ツールを持ち出し仕掛けられた罠を解除しようとした生徒の右側頭部に弾丸が当たりふらりと揺れた次の瞬間、その弾に込められた神秘が内側から爆発し近くの生徒を巻き込む。

 彼女らにとって仲間を失う事は別段、不幸でも何もないのだが飛んできた弾丸、その方角が分からなかった事に焦りが募っていく。

 それでも逃げる事が許されない彼女達は周囲に目を配りながら、時折、遠隔で発動した罠や爆発する狙撃に吹き飛ばされながらもどうにか突入の隙間を作っていく。

 

──そこがもぬけの殻である事に気がつくまで残り三十分──

 

 

 

 

 

 

 

「突然、トリニティに来いなんて連絡寄越してその本人が居ないってどういう事よ全く……」

 

 爆発する狙撃の犯人──陸八魔 アルは地面にうつ伏せになる本気の狙撃体勢のまま、慌てふためく者をまた一人撃ち抜き立ち上がると次の狙撃地点へと動いていく。

 

『忙しいところにすまないな。君にはトリニティに行ってある者達を援護して欲しい。と言っても、政治的問題を避ける為に遠方かつ夜に行われる事になるが、まぁアル社長の腕なら何も問題はあるまい?』

 

 相変わらず無遠慮に信頼をぶつけてくるアルバイトとの通信を思い出しながら、添付されていた地点へと素早く到着すると共に再び、伏せるとスコープを覗き建物の中へと入ろうとしている者を優先的に狙い撃つ。

 彼女の現在地点からアリウス生徒達の場所まで距離にして実に900mは離れているが、元々片腕で狙う魅せプレイの様な撃ち方をしても、動き回る相手を撃ち抜ける彼女にとって、確実な狙撃体勢を作ってから撃てるこの環境は最早、楽の一言に尽きた。

 

『私の予想では君がフリーで撃てる回数は、4、5発だろう。その中で最低でもそうだな、三十人は倒して貰いたい。君の神秘を込める事にのみ特化した弾丸をケイに造らせておくから私のラボに立ち寄ってから現地に向かってくれ』

 

「ほんっと、いつの間にこんな弾丸作ってたんだか……いつも以上に爆発するわねぇ。でも、流石に三十人は多くないかしら?」

 

 初回は油断していた為に十人ぐらいを巻き込めたアルの弾丸だったが、三発目から特異性を見抜かれ敵は二人組で背を合わせる事を意識しつつ動いている為に今のところ合計で二十人程度と目算するアル。

 彼の予想では残り一回だけが撃てる猶予……誰を狙うべきかと慎重に吟味していたアルの顔スレスレを敵の弾丸が掠め、コンクリートの床に大きな穴を開ける。

 

「っっ!?」

 

 高鳴る心臓を抑えながら、すぐに着弾地点から逆算して狙撃地点を覗くと驚いた表情を浮かべている水色髪の生徒を見つけ、狙いを定めると同時にほぼ両者同時に弾丸を放つ。

 綺麗に互いの敵へと向かって飛んでいく弾丸は、空中ですれ違うように火花を散らし──敵の弾丸は大きくアルから外れた地点へと着弾し、アル専用に作られた弾丸は込められた神秘によって接触による変化は最低限となり、敵のすぐ近くに着弾すると共に爆ぜた。

 

「っふぅ……なんだか気弱そうに見えたけど中々やるわね彼女」

 

 暗闇の中、初撃を外しはしたけれど二撃目からはきっちりと直撃コースに即座に修正し見事に自分から、本来の目標を攻撃する機会を奪った敵の狙撃手を褒めながらアルは目標より下回ってしまった事実をアルバイトに連絡しながらこの後に起きる混乱に巻き込まれぬようトリニティを去るのだった。

 

 

 

 

 

「ケホッ……爆発する弾丸とかなんの冗談ですか……うぅ、煙いですね……」

 

 もう一度スコープを覗けば既に敵の姿はない事に一先ず安堵するアリウススクワッドの一人、ヒヨリはいつもの様に泣き言を溢しながらも相対した狙撃手の腕前の高さに嫉妬する。

 確かに自分は突然、狙撃に対抗する為に呼び出された為に専用の装備をしてはいないがそれでもたった一発から此方の位置を割り出す自力の高さに加えて、外れると分かっていた自分とほぼ同じタイミングで撃ってきたこと、そして彼女の弾丸は自分に届いている事に同じ狙撃手として負けを認めざるを得ないと。

 

「……顔は覚えましたからね。今度は私が貴女を撃ち抜きます」

 

 作戦が次の段階に進んだ連絡を受けた彼女は次の地点へと移動を開始するのだった──胸にらしくない熱を秘めながら。

 

 当初の建物がもぬけの殻である事に気がついたアリウス生徒達は、次にずっと暗闇に閉ざされていた近くの体育館へと向かい突入をすると、そこにも目標の姿は無かったのだが一台のパソコンが堂々と中央に置かれており、警戒しながら取り囲むように内部へと足を踏み入れる。

 

『──ようこそアリウスの諸君、今宵は良い月の日だ。こんな日は武器でも置いて月見をするべきだとは思わんかね?』

 

「っっ、なんだ!?」

 

「パソコンの電源が付いてる?何者だお前は!?」

 

『やれやれ、血気盛んな事だな。まぁ、その気持ちは分かるとも?なにせせっかく、大軍を揃えてきたというのに目標としている者どころか人っこ一人居らず挙げ句の果てに遠方から兵力を削られるとあれば気が沸るのも仕方あるまいよ』

 

 灯りの灯ったパソコンにはBの文字だけが表示されており、まるでこの場にいるアリウス生徒達を小馬鹿にする様な胡散臭い声が響き渡る。

 苛立ちをぶつけるように銃を構える生徒もいたが、すぐに他の生徒に銃口を下げられる──態と煽るような口振りから発砲と共に罠がある可能性を見たのだろう。

 

『……なるほどなるほど。流石にあれだけ罠に引っ掛かれば君達も警戒を覚えるようだ。流石はマダムに教育されているだけの事はあるようだな?』

 

「……此方の内情は知っているようだな。此処で悠長に話しているつもりはない。ホストは何処にいる?」

 

『それとも君の教育かね?聖園ミカ』

 

 その名前が呼ばれると同時にアリウス生徒達に驚きが走る。

 まさかそこまでバレているとは……と固まるアリウス生徒達の間をお姫様のように優雅な足取りで、余裕たっぷりと笑みを浮かべた件の人物がパソコンの前に立つ。

 

「ふぅん?じゃあ私達はすっかり誘い込まれたって訳なんだ」

 

『策を弄するのが大人の役割なのでな。まぁ、私が尋ねる事はそう多くないから安心して欲しい』

 

「あは☆私が素直に応じる必要ある?」

 

『ホストであるナギサ嬢と君は幼馴染らしいな。そんな彼女を傷つけてまで何をしたいのかね?』

 

「無視は酷いなー」

 

 ケラケラと笑うミカと問うべきことは問うたと言わんばかりに無言になるBなる人物。

 不穏な空気が流れる中、スンッと表情から感情が抜け落ちたミカはあっさりと問いに応える。

 

「だって私、ゲヘナ嫌いなんだもん。ナギちゃんもさー、よくあんな角付きと仲良くしようなんて思ったよねー」

 

 嫌いという実に子供らしい理由を語るミカであったが、何処かその姿は痛々しく見えその気持ちも本心の一つではあるのだろうが、何か本心は隠しているようなそんな雰囲気を発している事を『彼女』は見抜いた。

 

「だからナギちゃんにはちょっと、痛い目にあって貰ってー私がホストになる事で、新たにアリウスの子達をトリニティに編入させてゲヘナと戦争しよう!!って思ったのが理由だよ?」

 

『……なるほどな。もしも私がこの場にいれば何かしらの感想を溢しているところなのだが』

 

「うん?」

 

 今、何かとても不思議な事をこの声の主は言わなかっただろうかと首を傾げるミカはほんの少しだけ考え、そして僅かな違和感に気がつき表情を険しいものにしたその瞬間であった。

 

『残念な事にこの音声は録音なのでね。さて、映画に則るのなら──この音声は自動的に消滅するというべきか』

 

 ミカが武器を取り出し構え、発砲するより早くパソコンから発せられる光が一段と強くなると共にパソコンを中心に、強力な電磁波のようなものが辺り一帯を駆け抜け──ミカ以外の生徒達が意識を失い倒れ、ミカも手に痺れを感じ持っていた銃を落としてしまう。

 

『さぁ、あとは貴方と君の役割だ』

 

 ノイズ混じりに言葉が紡がれると、体育館のすぐ近くで待機していた補修授業部の面々と『先生』そして──

 

「あはは……やっぱり居たじゃんナギちゃん」

 

「ミカさん……」

 

 ──現ティーパーティーホスト、桐藤ナギサが現れる。




『神秘干渉型電磁パソコン』

 バイステンダーが作った発明品の一つ。主にカヨコが起こす『恐怖』の神秘を解析する事で触れた者の神秘を掻き乱す事が出来る一品。一度使うとパソコンそのものも壊れてしまうが、神秘を有する者であれば大なり小なり影響を受ける為、非常に便利だが対象を選べないのが難点。
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