便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア 作:マスターBT
この世界線でのミカとナギサの着地地点とは如何に
「あはは……驚いたなぁ。あんな玩具を用意してるなんて」
「……ミカさん。貴女がエデン条約に乗り気ではない事は分かっていました。ですが、ここまでする必要があったんですか?」
ティーパーティーホスト、百合園セイア殺害に加えアリウスと極秘裏に繋がり白洲アズサを編入させ、桐藤ナギサの殺害を企てた……はっきり言ってやり過ぎとも言えるクーデター計画に異議を唱えるナギサはいつもの様に震えを押し殺しながら問い掛けるが、ミカは彼女の方を見る事はなく手の痺れを確かめつつ冷静に『先生』を見ていた──此処に至ってもなお、彼女達はすれ違う。
「アリウスの子達はみーんな、ゲヘナに強い憎悪を抱いているんだよ。角付きの連中なんて信用しなくて良いって何度も言ったのに、お馬鹿なナギちゃんは無視してさ。だから私は私と同じ思想を抱くこの子達の側に立ったんだよ。元々、アリウスとは仲良くなりたかったしねー」
今にも倒れてしまいそうな程に青白く、そして苦しそうな表情を浮かべるナギサとは対照的に何処までも明るく笑顔を浮かべるミカを『先生』は黙って見つめる。
「それは──ですが、ここまでしなくても良かった筈です!私達はもっと」
「話し合えた?あはは☆会話を放棄して疑心暗鬼の果てに全部ポイっと捨てられる補習授業部を作ったナギちゃんが
「ッッ……」
「『先生』も大変だね。色んな事に巻き込まれてさ。でもほら、もう終わりだから安心して良いよ?」
“ミカ。そうやって悪者のフリをするのはやめた方が良いよ。その手から全部零れ落ちてしまうから”
『先生』が返事をした瞬間、ミカの表情が固まった。
彼が知り得る情報では正解に辿り着く筈がないのに、まるで自分の心の内側を覗いたように語った事が予想外だったのだろう。
「……ちょっと『先生』が何を言っているか分かんないな」
“私はこれでも嘘吐きとの付き合いは深いからね。本心から目を逸らしている人ってよく分かるんだ”
自身の脳裏で胡散臭い笑みが常であるバイステンダーが時折、見せていた迷いの表情を思い浮かべつつ生徒の味方であるが故に狭くなっていた視野を広げて語る。
生徒の味方であり続ける為に盲目的になりやすく、それでいて自分の善悪に従いやすいとリオの件で理解した『先生』は彼の様に完全中立の立場を貫くのは難しくても、囚われないようにすると決めていた。
“きっとゲヘナが嫌いなのは本心なんだろうね。でも、それが全てじゃない筈だ”
「せ、『先生』に私の何が分かるのさ?だって、全然私達仲良くないよ?ほんの少しだけ話をしただけの仲じゃん」
“そうだね。私はまだ全然、ミカの事を知らないよ”
「なら」
“だけど君がナギサと一緒にいるのが好きなのは知っているつもりだ”
「ッッ」
バイステンダーであれば悪意を込めてミカの心を荒らしながら踏み入る場面だが、『先生』である彼は愛を込めてミカの心へと踏み入る一歩を進めミカもまた驚きで目を見開き──今度はナギサを見ていた。
“手荒な話になるけどミカが本当にゲヘナが憎くて、この世界にいる事も許せないほどなら手段を選ぶ必要はなかった筈だ。その過程にナギサが立ち塞がるのならもっと簡単に片付ける事だって出来ただろう”
「……それは……でも……」
ミカの脳裏に浮かぶのは本来のホスト、セイアをアリウスを手引きする事で殺害した日の夜だった。
そこまでするつもりはなかったのに自分に従わず、セイアを殺害したアリウスの生徒達……自分が思っているよりも世界は残酷で簡単に誰かを殺せるものなんだと知ったあの夜の記憶が『先生』の言っている事は間違っていないと告げる。
本当にゲヘナを滅ぼしたくて、ナギサが邪魔なのであれば手っ取り早く殺害すれば良かった。
ミカにはそれだけの力があるし最悪、誤魔化すだけの権力も持ち合わせている……なのに彼女は最も簡単である筈の手段を選ばず、回りくどくそして『先生』という異物を招く事で、こうして追い詰められる可能性を生み出している真相は──
“──本当はナギサを傷つけたくはなかったんだ。そして出来る事なら自分を助けて欲しかった……それがあの日、君が私に言いたかった事じゃないのかい?”
『先生』はプールサイドでミカと話していた時の事を思い出す。
あの時、彼女はエデン条約の危険性を訴えながらも自分に『先生は誰の味方?』と尋ねて『生徒達の味方』だと答え、続く様にミカは『私の味方もしてくれる?』と聞いてきたのだ。
“私は君の味方でもあるつもりだよミカ”
『先生』の答えは今もなお変わらない。
「……ミカさん。私達はきっと何処までも他人で向き合う相手の本心を理解するのは無理だと思います」
一見すればここまでの空気を壊す様な発言をするナギサだが、その目は何処までも優しくミカを見つめていた。
『……ここまでのプロファイリングで一つ気がついた事があるから助言をしておこう。対話で彼女を止めたいのであれば一歩、踏み込む勇気を持つ事だ。聖園ミカという人間はどうにも抱え込みやすい可能性がある』
──傷付く事が怖くて何もかも疑っていた私に踏み込む勇気とは難しい事を言ってくれる人ですね……でも、それが必要なら私も覚悟を決めますよバイステンダーさん──
「ミカさんは私と違って、思い付いたら何も考えずに実行してしまいますしティーパーティーに所属しているというのに政治的な立ち回りは下手の一言で片付けて良いほどに下手です。いつもいつも、余計な一言を言って私やセイアさんを怒らせるのが得意なところはいつになったら治るのかとも思います」
「ナギちゃん喧嘩売ってるなら買うよ?手だって動く様になってきてるし」
突然、馬鹿にされれば誰だって怒る。
それは至極当然な事で、一緒に来ている補修授業部の面々も顔を青くしていたり、慌てていたりする中『先生』は微笑ましいものを見る様に目尻を和らげ静かに待っている。
「それでも私はミカさんの事が好きですから理解したいと思っています。思えばティーパーティー、いえトリニティに入ってからですかね。私達は大人の振りばっかり上手くなって、互いに触れちゃいけない場所へと踏み入るのをやめて派閥や権力やらとつまらないモノばかり気にする様になってしまいました」
もうナギサの手は震えていなかった。
友人と話をするのだから、何も固くなる必要はなかったんだとナギサはリラックスしてそんな様子に驚いたミカの方へと歩み寄り、手を伸ばせば触れられる距離で立ち止まった。
「ミカさん。貴女のしてきた事は愚かな行為だったかもしれませんが、私も同じくらい愚かな事をしてしまいました。私達揃ってダメダメですね全く」
「おなじ……同じじゃないよ……だって……だって、私はセイアちゃんを……」
「これは私もついさっき聞いた話なんですけどね。セイアさんは生きています。ミネ団長が秘密裏に救出し、以降の安全の為に隠されていた様です。そうですよね?浦和ハナコさん」
「はい。伝手を使って確認したので間違いはないですよ」
浦和ハナコの伝手……トリニティで政治に関わっている者なら誰であろうとも予想が出来るソレによる情報という事、そして何よりもナギサが信頼している事から偽りではない事を理解した瞬間、ミカの瞳から一筋の涙が溢れ落ちナギサがハンカチで拭う──二人の距離は縮まった。
「よかったぁ……」
「はい本当によかったです。セイアさんの事もそして、ミカさんが泣ける事を知れて」
慈愛に満ちた表情で自分を見つめるナギサに顔を真っ赤にするミカはどうやら幼馴染の前で泣いてしまったという羞恥心が襲ってきたらしい。
“ミカ。君はまだこうして手を取ってくれる友人が居る。それでもその手を振り払って武器を取るかい?”
「……ずるいなぁ『先生』は」
“ふふっ、大人だからね。色んなズルをするさ”
ナギサと手を繋ぎながらミカは『先生』を見るとそこには優しい顔を変わらず、浮かべている大人の姿があり先程とは違う意味で彼女は赤面すると、ゆっくりと空いている手を上に持ち上げた。
「降参。私の負けだよ『先生』ナギちゃん。でも良いの?私、これからもきっと面倒事を招いちゃうよ。それこそ、アリウスはきっと裏切った私を許さないだろうし、ゲヘナへの鬱憤が爆発しちゃうかもしれないんだよ?」
「次からはちゃんと相談をしてくださいね。それと助けても言うこと。一人で勝手に突っ走らないことそれから」
「わぁ!?分かったから今ここでお説教はやめて欲しいなナギちゃん!」
“私なんかで良ければいつでも相談に乗るし、手を貸してあげるよ。私はミカの味方だからね”
「あっ、言いたい事を先に言われてしまいました……んんっ、当然私もミカさんの味方ですからね」
そう言って微笑む二人にまたもミカは涙を溢してしまうのだった。
なお、アリウスの事は一切、解決していない模様。
そう言えばゲーム本編でも倒したアリスウス生徒の処遇とかどうなってたんでしょうね?結構な数が居たと思うんですけど、自由に出来る訳もないですし捕まえたんでしょうか。
次回はバイステンダーが何をしているのかとかになるのかな(未定)
感想やここ好き待ってるぜ!!