便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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セイアが実装されて欲しいなと思ってる先生です。


賑やかな食事というのも存外、悪くないものだ

「仕事をしてきたぞアル社長」

 

 そう言って私の前にアタッシュケースを下ろしたのは、今から一ヶ月前に加入したアルバイトのバイステンダーだった。

 えっと、突然の事で良く分からないのだけどこれは説明を求めた方が良いのかしら?

 ……いえ、私は仮にも彼の社長で真のアウトローを目指す者!ここ一ヶ月の彼の言動や行動から推理して、このアタッシュケースの中身がなんなのか当てるくらい造作もない筈よ!

 

 先ずはえーと……そうね、仕事をしてきたって言葉から察するにこれは仕事の結果って事よね……あれ?でも今、依頼とか入ってたかしら?

 銃弾一発でも当たれば死んでしまう彼を連れて行くのが、不可能な依頼は一件引き受けて、達成したけどそれ以外の猫探しとかの依頼は入ってなかったわよね?

 

 んんっ?となると私が知らない仕事をしてきたのかしら?

 でも、監視って訳じゃないけど彼が事務所で、埃を被ってじゃなくて、貸し出したパソコンの前で何かしている時は、カヨコが付き添っていたし何か危ない事をしてれば、報告が入る筈よね。

 

「くふふっ、これまた色んな事考えてる顔ね。どんな着地をするのかなぁ」

 

「私としては成果報告をしたいから、その期待には乗らないぞムツキ室長……アル社長、一ヶ月前に貴女からお金を借りた事を覚えているか?」

 

「お金……あっ、確かなけなしの百クレジットを渡したわね」

 

 偶々、ポケットに入ってた百クレジットを手渡したのを思い出したわ。

 

「えぇ。まさか、口座が凍結されているのは予想外だったが、そこはまぁ私名義で作っておいた……ここまで言えば答えは分かるかね?」

 

 口座……名義で作成……つまり、彼は銀行に用事があったって事よねって、そんなの答えは一つじゃない!

 

「まさかあの百クレジットが!?」

 

 驚きの声を挙げると同時に、バイステンダーがニヤリと笑う。

 あ、ちょっとその顔良いわね、悪役っぽくて。

 

「その通り。株取引の結果、百クレジットを千万クレジットに膨れ上げさせた。これで暫く、ひもじい生活からはおさらば出来るだろう」

 

 言葉と共に開けられたアタッシュケースは、光り輝くクレジットで埋められており、彼の言葉が真実だとこれでもかと伝えてくる。

 す、凄いわね……これだけの資金があれば、欲しかった物が沢山買えそうね、事務所を新しく借りるというのもありかしら!?ふふっ、夢が広がって、笑いが止まらないわね!!

 

「ただいまって、え、なに……なんでそんなに高笑いしてるのアル」

 

「カヨコ!これを見なさい!!今日の夕飯は、焼肉でもなんでも食べ放題よ!」

 

「これは……凄いね。株をやってるのは見てたけど、全部貴方が?」

 

「あぁ。株は流れを見極めてしまえば、ご覧の通り元手を増やす事など容易い。ある程度の会社を調べるのに少々時間を食ったのと、売り上げが順調でも此処はキヴォトス、突如として爆ぜて消える事態もあってロスもあったがどうにか、一ヶ月以内に成果を出せた」

 

「そう簡単な事じゃないと思うけど……何か手を回したりしてないよね?」

 

「便利屋の看板に泥を塗るような真似はしていないとも」

 

「そうよ!!そんな事をわざわざ、バイステンダーがする理由ないじゃない!」

 

 もうカヨコってば心配症なんだから。

 仮に彼がそんな事をする輩なら、こうしてわざわざ成果を報告せずに逃げちゃえば全部、私達に責任が回ってくるんだから、それをしない時点で立派な便利屋の一員よ。

 

「はぁ……アルがそれで良いなら良いけど。まぁ、一応、お疲れは言っとくよ」

 

「お心遣い痛みいるカヨコ課長」

 

「一々、役職名で呼ばなくて良いってば」

 

「私はククッ、バイトですから。敬語は堅苦しいからやめても、礼儀は通させて貰うとも」

 

「律儀だかなんなんだか……」

 

 んー……ちょっとだけ険悪な雰囲気を残してるのよねぇこの二人。

 時間が解決してくれるかなーって思ってたけど、初めの頃よりマシとは言え、このままだと無くせない確執が出来そうね、となると社長の私がやれる事はただ一つね!

 

「ムツキ!ハルカを呼んできて!」

 

「良いけど何か思いついたの?」

 

「ふっふっふ、バイステンダーが加入した時は金欠で出来なかったけど、今ならこの通り、たっぷりとお金があるわ!そこで、今から皆んなで街に繰り出して、歓迎会を開きましょう!美味しい物食べて、飲めば、仲も深まると言うものよ!」

 

 一緒に食事を囲めば自ずと、仲良くなれるというもの……しかも、今日はいつもと違って所謂、無礼講ってやつ!

 これで、バイステンダーも便利屋に馴染めると良いのだけど。

 

「クッククッ、私が稼いだ金で私の歓迎会かククッ、ククッ!」

 

「……偶に貴方の笑いのツボが分からなくなるよ」

 

 カヨコ、それは私も同意するわ。

 でも、なんだかとても楽しそうに見えるしこれはこれで良いんじゃないかしら。

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、来たわよ焼肉!」

 

「行動が早いな本当に」

 

 思い立ったが吉日とは言うが、本当にその日のうちに焼肉に来る事になるとは……鼻腔を擽る焼けた肉の香りが食欲を誘うな。

 入店すると店内は、それなりに混んでおり待合席は既に埋まっており、店員も忙しなく動いていた。

 

「これは当分、待ちか?」

 

「大丈夫。予想してたから……すみません、予約していた便利屋ですけど」

 

 ほぅ、流石はカヨコ課長だ、見たまえ『この中で待つのか……』みたいな感じで表情を暗くしていたアル社長が、パァッと花のような笑顔を咲かしている……本来なら君の役目だぞ。

 店員に案内されるまま、席に着いた我々は金に余裕があるからと、思い思いのドリンクと初めの肉を注文し暫しの雑談に花を咲かす。

 

「焼肉なんて何年振りだろうか」

 

「わ、私はは、初めて食べますね……」

 

「む、そうなのか。こういった機会は過去に……いや、なんでもない。すまない、ハルカさん」

 

「ちょっと!?なんか察したわみたいな感じで、黙るのやめてくれる!?」

 

「あはは、事実だから仕方ないよアルちゃん」

 

「もぅ……店の中だから少しは静かにして」

 

 そんな感じで話していると、ドリンクと肉が運ばれてくる。

 ちなみに、私とカヨコ課長はカルビ、ムツキ室長はタン塩、ハルカさんとアル社長がハラミという選択だった。

 

「それじゃあ、バイステンダーの便利屋加入と、仕事達成を祝って──」

 

「「「「「──乾杯!」」」」」

 

 ガチャン!っとグラスをぶつけ合わせ、ごくりと飲み込むと炭酸特有のシュワシュワが喉を駆け抜け、気分をスカッとさせ、思わず息が漏れる。

 

「良い飲みっぷりねバイステンダー」

 

「お酒じゃないんだけどね」

 

「まぁまぁ、良いの良いの。ほら肉を焼くわよ!」

 

「私が焼こうか。好みの焼き加減があれば、本人に任せるとしよう」

 

 一番下っ端の私が、肉を焼くのが道理だろうと引き受け、全員が注文した肉を一枚ずつ焼いていく。

 これと言って希望はないようで、私の焼き加減に任せるという事なので目を追加し、完璧な火の通りを見定め、それぞれの肉をそれぞれの皿へと運び、皆んなで食べる。

 ……美味いな、一口入れた瞬間に広がるタレの味わいと、それに負けていない肉のしっかりとした味と溶けるような柔らかさが、食欲を唆る。

 

「おいひぃ!」

 

「お、美味しいです、こんな良い物、私なんかが食べて良いんでしょうか……」

 

「焼き加減もいい感じだねぇ」

 

「ん」

 

 どうやら、他のみんなも感想は同じようで、蕩けた表情になっている。

 これは次々と焼かねば、補充が間に合わんな……

 

「次が焼けているぞ、食べたい者は皿を出してくれ」

 

 ずいっと一番勢いよく、アル社長の皿が差し出される。

 

「ククッ、そう焦るなアル社長。まだ肉はある」

 

「わ、分かってるわよ!」

 

 そうやって肉を焼いては配り、無くなれば注文をし、再び焼いていると私はハルカさんが、そこまで食べていない事に気がついた。

 ふむ、ちょうど肉の焼き加減は良い感じだ、これを持って話しかけに行くとしよう。

 

「食べないのかね?」

 

「ひゃあ!えっと、その、私なんかには勿体無いかと」

 

「ふむ……」

 

 どうやらいつもの自己肯定感の低さが起きているようだ。

 

「見たまえ私の歓迎会だというのに、自分が一番はしゃいでいるアル社長を。そして、そんなアル社長を見て満面の笑みを浮かべるムツキ室長に、何処か眉間の皺が薄れているカヨコ課長……皆、楽しそうだ。無論、私も楽しんでいるが便利屋は全員が揃って便利屋なのだろう?なら、君も楽しむ権利がある筈だ」

 

「良いんでしょうか……私なんかが」

 

「なんかではないさ。食事は楽しく食べるのが一番だ……会話の無い食事など無味にも等しいからな」

 

 ……楽しい事ばかりで少々、昔を思い出してしまったな、暗い雰囲気はハルカさんにとって悪影響だというのに。

 

「あの、どうぞ」

 

 控えめに届いたその言葉と共に、私が焼いていたのとは違う肉が置かれる。

 少々、焼きすぎな気はするがコレは……網の端でハルカさんがずっと焼いていた肉の一枚か?

 

「私は良く焼きが好きで……あ、バイステンダーさんの焼きが気に食わないとかそういうのじゃなくてですね!……その、私も楽しい食事は好きですから、とりあえず、好みの共有からと思いまして」

 

 ……気を遣わせてしまったな。

 箸を手に取り、肉をタレにつけて一口で食べる、予想通り、私が食べるには少しばかり火が通り過ぎて固いと思ったが。

 

「コレはコレで美味しいな」

 

「えへへ……あ、ありがとうございます」

 

「アルちゃーん!バイステンダーが、ハルカを誑かしてまーす!」

 

「誑か!?」

 

「なんですって!?駄目よ、ハルカはウチの優秀な社員なんだから」

 

「……二人とも社員だよね?」

 

 全く、静かとは程遠い連中だな……ん?なんだ、胸の辺りが仄かに温かくなった気がするが、まぁ、悪い感覚ではない。

 こうして、便利屋との焼肉は終始、賑やかに進行していくのだった。

 

 なお、私が増やした金はアル社長の無茶な資金運用で、あっという間に消えていき、この会社が金欠の理由を垣間見た。

 




株取引の知識なんて無いから、間違ってたらごめんよ!

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