便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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アプリ版のサブタイと同じにしてみた。


火と灰に染まる日

『そろそろ時間だけど……本当に私達この配置で良いの?』

 

「あぁ。我々は多少、風紀委員会に認められたとは言え対外的にはあまり表立って力を貸すのは宜しくない。故に会場となる古聖堂の外周600m地点を起点に警戒が妥当だろう。特にアル社長の得意武器はスナイパーライフルなのだから、古聖堂後方の高台から全体を見下ろす形の方が適しているとも」

 

 それっぽく本心を隠した建前を語るが正直、私という男のやり方に慣れきっている彼女達を騙せる気は全くしていない。

 現にカヨコ課長はスッと目を細めているし、ムツキ室長も図書館の一件のせいかこちらを探る視線を隠そうともしておらずこの中でどうにか騙せそうなのはハルカさんぐらいだろうか……その彼女も自分への自信が持てないからというほぼバレている様なものだが。

 

『……社長の配置理由は分かったよ。でも、私達まで外周を囲う様にそれもバラバラに配置したの?』

 

「我々は少数の為に広域を守るのにはあまり向いていない。しかし、今回の案件に後から文句を言われない様にするには、少なくともこの古聖堂で何かがあった時に誰か一人は迅速に辿り着かなければいけない事はカヨコ課長も分かっているだろう?」

 

『そう。分かった』

 

 思いっきり呆れ顔をされてしまったな。

 元々、作戦立案能力に関しては私以上のカヨコ課長ならこの配置を私がした時点である程度の意図は読めているのだろう。軽い説教で済めば良いのだが。

 

「私は此処で指揮に徹するが、もしも私からの連絡が途絶えたりしても焦る事なく独自の判断で動いて欲しい……まぁ、これは以前から出来ている事だ。改めて伝える事ではないと思うがね」

 

『貴方ねぇ……まぁ良いわ。その場合は好きに動かせて貰うわ』

 

「是非そうしてくれたまえ。さて、他に何か質問は?……ないな。では各自の健闘を祈る」

 

 それぞれの言葉で了承が返ってくると共に開いていた五つのモニターの内、四つが消えて残った一つへと視線を向ける。

 

「やれやれ、私が通信を開くと同時に秘匿回線を繋げるなんてテクニックを使ってまで私との会話とは何かね?アル」

 

 あえて敬称を付けて呼ぶ事はしなかった。

 あの場で言及しなかった時点でアルは便利屋68の社長ではなく、ただの陸八魔アルとして同じくただの私と話をしたいのだろうから。

 

『そうね……私としては無茶をして欲しくはないんだけど、貴方の事だから織り込み済みって事なんでしょ?』

 

 疑問はある。

 

 心配もある。

 

 けれどそれら全てを飲み込んでただ真っ直ぐに信頼の確認をするか……やっぱり君は人誑しだよアル。

 

「アルに隠し事は出来ないなぁ。私の異常にも気がついているんだろ?」

 

『えぇ。初めは仮面のヒビが広がってるような?って程度だったけど、どんな荒事に巻き込まれても落ちる事すらなかった仮面のヒビが広がってる時点で不自然だし、身体を覆ってる文字も薄れてきている。極め付けは時折、聞こえる割れる様な音……貴方、相当危険な状態でしょ』

 

「明確な解答は避けるとしよう」

 

『答え合わせぐらいしてくれても良いんじゃない?』

 

 口を尖らせて拗ねた表情を浮かべるアルに思わず笑いが溢れると、視線がジトーっとしたものに切り替わる。

 揶揄っている訳でも巫山戯ている訳でもないのだ。

 そう、例えるのならこれは──

 

『なにそれ……男の意地ってやつ?バイステンダーにもそういうのあったんだ』

 

『そうではないのだが……いや、そういう事にしておこう。そう、これは私の意地だククッ』

 

 アビドスでカヨコ課長と話したなんて事のないやり取りを思い出しながら口を開く。

 

「──男の意地というやつだ。これくらい格好つけても良いと思わないか?」

 

『そんな事しなくても貴方は十分格好良いわよ。まぁでもそうね、格好付けると言うのなら──ムツキをううん、あの子達を泣かせない様にしなさい』

 

 全ては分からなくてもある程度、私の置かれている状況を理解した上で難しい事を言ってくれる。

 それでもアルが私に無理難題を提案しているつもりは一切ない事ぐらいは、画面の向こうで彼女が浮かべている優しげな笑みと柔らかな声で分かるからこそ私は悪い大人として嘘を吐くことにした。

 

「案ずるな私の読み通りならば危険ではあるが死ぬ事はない。なにせ私の目は未来を見ているのだからね」

 

 ホルスの義眼による未来視、ケイとのシミュレーションを重ねたがそれでも100%の安全を確保する事は出来なかった。

 恐らくきっと、このエデン条約は何処かで私の読みを超える事態が起きる……そうなれば、もはや命の保証は何処にも無いがここで正直にそれを告げたところでアルに不安を与えるだけで良い事は何一つとしてない。

 

『分かったわバイステンダー。貴方を信じているから』

 

 そう告げてアルは通信を切った。

 

「さて……最悪の場合は全て貴方に託すぞ『先生』」

 

 

 

 

 

 

 エデン条約は予定通りに開催されようとしていた。

 現ティーパーティホスト、桐藤ナギサに彼女の護衛と会場の警備を担当する正義実現委員会とシスターフッド、そして秘密裏に処理されたものの自らが犯した罪と向き合う為に今度こそ親友を守る為に大嫌いなゲヘナと顔を合わせる覚悟を決めてやってきた聖園ミカというトリニティ総合学園を担う首脳陣と組織が会場に入り、そのすぐ後に飛行船でやってくるというデモンストレーションを行いながら現れた羽沼マコト率いるゲヘナ学園の生徒会万魔殿の面々がヒナ風紀委員長を置き去りにし会場へとやってくる。

 

『ご覧いただけますでしょうか!この両陣営から発せられる凄まじい威圧感と熱気の渦を!!犬猿の仲であったゲヘナ学園とトリニティ総合学園が手を取り合うのがエデン条約との話でしたが、この光景を見てそれを信じられる人は──え?余計な事を言うな?仕方ないですね……』

 

 相変わらずの過激発言が目立つクロノススクールの健康的な褐色肌が特徴的な川流シノンによる報道が、キヴォトス各地へとモニターを介して広がっていくのをバイステンダーは愛用している車の中から苦笑を溢し眺める。

 

『どうやら直にゲヘナ学園風紀委員長の空崎ヒナさんもご到着されるご様子。聞くところによると古聖堂を指定したのはゲヘナ学園の様で意外ではありますが、蓋を開けてみれば「これほどの条約であればデカいほど良い」というなんともゲヘナらしい理由で一安心ですね。しかし、対外的な活動を行ってこなかったシスターフッドがこのタイミングで動いているのか……やはり前身であるユスティナ聖徒会が関わっている為なのか──はい?難しい話はやめろ?ですが我々には報道の自由が』

 

 現在音声が乱れておりますという警告文と共に質素な映像に切り替わり──チラリと空を見上げれば一筋の白い雲を残し古聖堂へと向かっていくものが見える。

 

「──リオお手製の対空防御を抜けるか。やはり黒服が提供したものをキヴォトスの技術で感知するのは難しい様だな。カヨコ課長、手筈通りに」

 

『了解。頼んだよケイ』

 

 彼が見た未来ではこれから起きる惨劇の合図と言わんばかりに、古聖堂を飲み込み周囲にも甚大な被害を巻き起こすミサイルが爆ぜるその刹那、カヨコによって投げられたバイステンダーのスマホがクルクルと回り停止。

 

『今の私が出来る全力で防ぎます。プロトコルATRAHASIS稼働──コード:アイアスを起動!!』

 

 スマホに蓄えられた電力を元に鍵の神官であるケイが持つ権能が発動し、周囲の地面からアスファルトをそして砂鉄をかき集めて一つの巨大なラウンドシールドが作り出され、直後にミサイルと激突し威力を十分に弱める事に成功するがそれと同時にアリウスが古聖堂に仕掛けた複数の爆弾も起動し──古聖堂は『半壊』した。

 

『……これ以上は持ちません……あと、は……』

 

 充電が切れてただのスマホに戻ったことで地面へと落下し、同時にアイアスはただの土塊へと戻り消え去る。

 辺り一帯に悲鳴が響き渡る中、更に手を打っていたアリウスの伏兵が何処からともなく姿を現すとその手に持つグレネードランチャーを古聖堂に向けて絨毯爆撃の要領で放ち始める。

 

『──レイヴン各員にイーグルより通達。仕事の時間だ、役目を果たせ』

 

「はっ!危うく纏めて吹き飛ばされるところだったぜ!!いくぞ、お前ら!!」

 

 咄嗟の出来事に対応出来ていない両陣営の護衛部隊を嘲笑う様に路地裏からバイステンダーの手配した傭兵達が飛び出し、アリウスの生徒達と交戦を開始する。

 

 悲鳴と銃火が飛び交う戦場は今ここに開戦の火蓋が切って落とされるのだった。

 




「ナギちゃん!!ナギちゃん!!大丈夫!?」

「……ミカさんが庇ってくれましたから」

 そう話すナギサの頭部からは血が流れ出していた。
 ミカが咄嗟に庇ったものの弾け飛んだ瓦礫の一部が、ナギサを襲い肉体的にそこまで強くないナギサは怪我を負ってしまったようだ。

「……ごめんナギちゃん。私がアリウスに手を貸したからだきっと……そのせいで……」

「ミカさんのせいでは……ッッ、ミカさん!!」

 ドンっと後悔の海に沈んでいたミカの体に衝撃が走ったかと思えば、次の瞬間、ミカの視線の先で微笑むナギサが無数の弾幕に撃たれて崩れ落ちる。
 ──下手人を見れば、そこにはまるで亡霊のように何処か半透明に佇む『ユスティナ聖徒会』の礼装に身を包んだ者達が立っていた。

「ぁ……ははっ、私が赦されるわけないんだ……悪い事をしたのにナギちゃんや『先生』に優しくされて調子に乗った報いなんだ……ごめんナギちゃん……」

 残酷な現実は傷付かずに済んだ子の心を違う形で傷つけるのだった。
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