便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア 作:マスターBT
「そう。ユスティナ聖徒会の
全く忌々しい……幾重にジャミングを張り巡らせる事であの戦場の付近には居る事が分かっても正確な位置を悟らせず、傭兵と便利屋の者達を指揮しこうも私の予定を乱すとは流石に思わなかったですわよバイステンダー。
本来であれば黒服から提供されたミサイルと仕掛けておいた爆弾で敵の大半は吹き飛ばせる筈でしたのに……恐らくあのミサイルを防いでみせた存在があの男の言っていた協力者で間違いはないでしょうね。
「『先生』の確保は?……なるほど。善人が故に怪我人を捨て置く事は出来ない。こればかりはあの男のお陰で逃げを封じられていると思って良いでしょうね」
キヴォトスでヘイロー持たないのだから、もっと臆病になれば良いのに『先生』という存在はその優しさが枷となり、目の前で怪我をした生徒達を放って置けない。
状況が読めないほどの愚図なら死んでいるでしょうけど、此処まで生き延びているだけあって現状が傾ききっていない事を理解し、自分の責任でその傾きを正常に戻せないか思案しているといったところでしょう。
ミサイルが予定通りの仕事をしていれば彼を必死に逃す生徒もいるでしょうが、良くも悪くもそこまで状況は苦しくない。
「であればまだオマケを狙っても良いでしょう。ユスティナ聖徒会が手に入った時点で戦力は十分ですが、最大の障害になり得る『先生』と裏切り者のバイステンダーの殺害をね」
しかし能力を実質無効化してなお、抗ってくるのだから本当にあの男は面倒ですね。
現状、出した戦力で仕留めるのは難しい……致し方ありませんね、追加の戦力を投入するとしましょう。
「……えぇ、私です。はい、貴方方の手を借りる必要が出てきましたわ」
『そうか。だが、事前の約束通り我々は表立っての介入はしない。何者かによってこの通信が抜かれたとしても其方を助ける事はないぞ』
「えぇ構いませんわ。こちらも同じ条件ですので」
『……ふん。食えぬ女だ。良いだろう、我々もあの大人達には一度煮え湯を飲まされているのでな』
「よろしくお願いしますよ」
通信を終了すると同時に端末を握り潰す。
これで物的証拠は無くなり、ハッキングでもしなければ繋がりを見抜く事は出来ずシラを切る事も出来るでしょう……それにしてもこちらを下に見たいけ好かない声でしたわ。
「まぁ良いでしょう。私の『崇高』に辿り着けば地を這う虫も同然の存在ですから」
バイステンダー……私の次の一手を貴方ならどう退けますか?
「此処までならケイとのシミュレーション通りと言っても良いだろう……やはり醜女はユスティナの力を欲していた訳だ。カイテンジャーが万全であれば、小鳥遊ホシノに調べさせた地下に配置したのだがな」
恐らく計画を一番乱した要因は初手のミサイルをケイで対応出来たところだろう。
もしもアレが直撃していれば、ヒナ風紀委員長レベルの神秘であったとしても怪我を負うだろうしあの会場にいる多くの生徒達は重症あるいは即死していた可能性が高く、そうなればあの会場に居合わせた『先生』も肉体的な死を迎えるか生徒を救えなかったという精神的或いは社会的な死を迎えたであろう事態を避けれたのは大きい。
「そしてレイヴン達も多くは音信不通となったが、レイヴン9を筆頭に戦力として数えられる者達も未だ健在……アル社長が敵の狙撃手との狙撃戦で封じられているが、ムツキ室長は予定通り瓦礫を爆破解体する事で退路を確保しハルカさんとカヨコ課長はアリウス生徒を撃破しながら『先生』の捜索を実行中と。このまま行けば勝ちを拾えるが……」
『みんな聞こえる?ムツキだよ!退路を確保中なんだけど、大隊規模のロボット兵が作戦領域に接近中!!雰囲気的に救援って感じじゃないかも!』
「やはりそう簡単にはいかないか……こちらバイステンダー、増援の装備は分かるかね?」
『えっと……統一はされてないけど、結構最新モデルが多いかな。あと、全員が何かを塗り潰した跡がある!』
となると増援は所属を隠したい組織……そしてブラックマーケットで流通してる様なモデルではなくムツキ室長が分かる最新寄りのモデルで武装された集団……あの女が伝手を作れるとなると我々の関係者……あぁ、いるではないか。
都合よく、私や便利屋そして『先生』に因縁があり優れた兵を大量に有する組織が。
「カイザーコーポレーション……この様なテロにも加担するか」
『カイザー?それって連中にとっても立場を悪くすると思うんだけど』
「だからこその所属塗り潰しだ。恐らく派兵された者全てが切り捨てて良い連中なのだろう」
『ひ、酷いですね……』
「既に会社での立場を失っている者達か、もしくは耳当たりの良い言葉を安易に信用してしまった愚か者か……厄介だな。連中はどうなっても構わないという文字通り死兵の覚悟で突っ込んでくるぞ」
この会話にアルが加わってこないという事はそれほどの相手という訳か。
ゲヘナとトリニティの残存勢力の多くは無限に湧き出てくるユスティナに割かれているとアコ行政官から報告が上がっている現状で、アリウス生徒達に加え死兵覚悟の連中を相手取るのは無謀だな。
「……だが、これであの女の策も出尽くした様だな」
この状況であれば、ホルスの義眼を用いた未来視も可能な筈だ。
一先ず未来視で先読みを──
──腹部から血を流して倒れる『先生』と地に倒れてなお、硝煙をあげる拳銃を握る錠前サオリに目を見開くヒナ風紀委員長──
「ッッ!?なるほど……真の目的は『先生』の排除か!!」
私の未来視を潰すためとは言え、随分と手を広げたものだなベアトリーチェ!!
それだけはさせないとも……『先生』の死はハッピーエンドへ至る可能性の喪失に繋がる……つまり、便利屋68の皆を絶望の底に落とす事になる。
「ハルカさん、カヨコ課長!!そこで可能な限り目立って敵の注目を集めてくれ!!」
『ッッ、それは良いけどバイステンダー何するつもり?』
「無論決まっている。『先生』を救うのさ」
ジャミングによる偽装を解除、SUVのエンジンを点火し未来視で見た『先生』の居場所へとアクセルを全開して向かい始める。
『この中を行くつもり!?』
「だから目立って欲しいのさ。少しでも私の安全を確保する為にな!」
『無茶ですよ!?今もそこら中で爆発と銃声が聞こえるんですよ!?』
「無茶を通さねばならんのさ……案ずるな鉄火場に乗り込むのはこれが初めてではない。そうだろう?」
通信機の奥で皆が息を呑む音が聞こえる。
実際、便利屋の業務の一環で戦場に直接立つ事はあったのだから即座に否定する事は出来ないと言った感じか。
「ぐっ、道が悪いな……」
相次ぐ爆破で道は凸凹だらけで、急いでいるのも相まって車が揺れて仕方がない。
だが、それでも今は『先生』を少しでも早くこの場所から遠ざけねばならない以上、全身に打ち身の痣が出来ても我慢するしかない。
『──バイステンダー。『先生』は古聖堂中央にいるわ。ヒナとトリニティの誰かが青いのと戦ってるからきっとそこにいる筈よ』
「そうかっ!情報感謝するよアル!!」
『アルちゃん!!』
『急ぐ理由があるんでしょ。今、自由にそして素早く『先生』を助けられるのは彼だけ、ムツキ貴女は敵の増援を削ってちょうだい』
『……分かった』
『ありがとうムツキ。じゃあ、頼んだわよバイステンダー、死んだら許さないから』
思わず笑みが溢れてしまう。
通信機から絶えず、彼女の狙撃音が聞こえるという事は敵との決着がついていないにも関わらず私の様な馬鹿なアルバイトの為にわざわざ意識を割いたという事だ。
それが嬉しくそして、そんな彼女と同じ様に私を心配してくれるハルカさん、カヨコ課長、ムツキ室長に申し訳なさが出てくる。
「『先生』!!乗りたまえ!!」
“バイステンダー!?”
「ッッ、良いところに。『先生』ごめんね」
“わわっ、ヒナ!?”
両手にガトリングとは厳ついな……あのユスティナ生徒っと、ヒナ風紀委員長が空気を読んで『先生』を片手で抱き上げて車に飛び乗ってくれたのだから呆気に取られている暇はなかったな。
「しっかり捕まっておけ。安全運転とは程遠い運転だからな」
“待ってみんなが”
「『先生』!!あんなのが出てきた以上、ヘイローのない貴方が此処にいるのは危険よ。それにヤケになって暴れる感じだけど、聖園ミカは強く他の皆んなも戦ってくれているから信じて」
“……分かった。私が居る事が枷になるのなら此処は逃げるよ”
「纏まった様だな。いくぞ」
トリニティはベアトリーチェの権力が伸びている可能性が高いか……ヒナ風紀委員長も乗っている事だしゲヘナを目指して逃げるとしよう。
荒々しい運転でゲヘナを目指して走り出したのだが、私は少しばかり冷静になるべきであった。
最も手っ取り早く『先生』を逃がせる手段を取った訳だが、敵はあのベアトリーチェであり私の能力を理解した上で策を巡らした女だ。
「……目標を確認した。これより追撃を開始する」
──撃たれた場所が古聖堂付近ではない時点で、私か誰かが『先生』を連れる事は確定しておりそれに近しい選択をした以上さほど未来は大きく変わらないという事に。
そう、血の海に沈むのが何も『先生』と決まった訳ではないのだ。