便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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一丘之貉《後編》

 あの日は流れ星が綺麗だったのを覚えている。

 私の自業自得だけど、お金がなくて食べる物に困ってせっかく見栄を張ったのに依頼もなくて夜空を見上げるしかなかったあの日に彼と出会ったのはきっととても幸運な事だったのだろうって思える。

 

 だって、ムツキもカヨコもハルカもそして私も彼と一緒に居れば何処でも笑って過ごせていたのだから。

 

 ムツキは人懐っこい様で結構、他人との線引きがしっかりしているから良くも悪くもこういう行動をすれば相手は喜ぶって分かってるから浮かべている笑顔が本心とは限らない事もあるのに、鷹さんって呼んで彼に絡んでる時は割と素の状態、ちょっとだけ嫉妬しちゃうけど長年一緒に居る私に見せる顔と同じだし。

 カヨコはウチで一番、警戒心が強くて賢いから一定以上の仲になるのが凄く難しいし外面を取り繕って擦り寄ろうものなら手痛い反撃を食らうぐらいには、懐き辛い猫みたいな子なんだけど彼と一緒に珈琲を飲んでる時は凄くリラックスしてて私は綺麗だと思ってるんだけど、周りからは怖いって言われてる顔が優しくなってるのよね。

 ハルカは特に扱いが難しい子で私を凄く尊敬してくれているのは伝わるんだけど、逆に言えば私以外には自分の殻に篭ってまともに会話するのすらままならない筈なのに、いつの間にか彼とはちゃんと話が出来てるし彼も時折、暴走しがちな彼女の手綱を握れるぐらいには互いを理解し合ってる。

 

 こんな感じで便利屋68にとって、バイステンダーという大人はとても大切で失いたくない人になっていてきっと彼も同じだと思っていた。

 

「……」

 

 ──だから手の届かないところで彼が傷付くなんて想像から必死に目を逸らしていた馬鹿な自分を殴りたい衝動に駆られる。

 ずっと私と撃ち合っていた子が隙を晒してまで、違うところを撃つその意味をすぐに考え至るべきだった。

 『先生』は有名人でよく思っていない人も多いことぐらい気がつくべきだった。

 

 バイステンダーがすぐに無茶をする事は知っていたのだから例え本人が望んでいて最適解であったとしても一人にさせるべきじゃなかったんだ。

 

「……何処かで彼は絶対に戻って来るって信じていた。賢いあの人の事だから危険な目に遭っても、どうにか切り抜けるか私達の誰かがたどり着くまで時間稼ぎに徹してくれるだろうって」

 

 後悔が止まる事はないのに身体は動く様でスコープの先で彼を撃ち抜いた彼女の頭が撃ち抜かれ力なく床に転がったのを見届けてから立ち上がり、建物の屋上から屋上へと飛んで移動して行く。

 もちろん、道中で撃ち抜いた彼女を拾い上げる事を忘れずに飛んで行けば彼の持っていた赤い発煙弾の煙が昇っているのが見えて、急いでそちらへと向かいながら片手で彼にトドメを刺そうとしている子の銃を撃ち抜いた……空中でかつ、人ひとりをぶら下げて持つという不安定な姿勢なのに絶対に当たるという妙な感覚が私を支配していたからこそ出来た芸当ね。

 

「ッッ!!ヒヨリ!!」

 

「……そう。この子ヒヨリって言うのね。あげるわ」

 

 自分でも驚くほどに冷たい声が出たわね……捕らえた子を放り投げるなんてアウトローね私ったら。

 そんなつもりはなかったのだけれど人質交換の様になったことで私は敵とすれ違う形でバイステンダーの元へと辿り着けた。

 

「なに一仕事終えたみたいに満足そうな顔をしてるのよ……まだ貴方の仕事は終わってないわよバイステンダー。私が死ぬなって命じたの忘れてないでしょうね」

 

 左肩が千切れかけてるし、服のボロボロさから見て内側も相当ねコレは。

 一番貧弱なのにどうしてここまで自己犠牲をしてしまうのかな貴方は……ムツキが泣いちゃうわよ?カヨコの説教だって聞きたくないでしょうに。

 貴方によく似てなんでも背負っちゃうハルカが苦しんじゃうわよ。

 

「……私よ。みんな、発煙弾の煙は見えるかしら?誰でもいいから応急キットとその辺の車を盗んで来て」

 

『アルちゃん!!鷹さんは……鷹さんは……』

 

「落ち着いてムツキ。まだ生きてはいるわ」

 

『ッッ……やっぱり無茶をしたんだねバイステンダー』

 

『く、車の確保は出来ましたので誰か救急キットをお願いします!』

 

「ありがとうハルカ」

 

 みんなをこんなにも悲しませて……罪な男よ?バイステンダー。

 ……でも安心して?貴方のことは貴方のことが大好きなみんながきっと助けてくれるから。

 

「だから私のするべき事は分かってる。便利屋68の社長として自らの責務を全うするわ」

 

 軽くバイステンダーの頬を撫でてから立ち上がり振り返れば、そこには同じく敵が私を睨み付けながら立っていた。

 その目を見れば分かるわ……貴女も部下を預かる立場の人間でヒヨリって子がとても大切なことぐらい。

 

「私は便利屋68の陸八魔アルって言うの。貴女は?」

 

「お喋りに付き合うつもりなど──」

 

「もう一度だけ聞くわ。貴女は?」

 

「ッッ!?!?アリウススクワッドの……錠前サオリだ」

 

 そう……やっぱりアリウスの生徒なのね。

 ここ最近、彼が調べていたからそうなんじゃないかと思ってはいたけれど予想通りで少し笑ってしまうわ。

 

「なにがおかしい!?」

 

「──ごめんなさいね。普段はこういう予想外しちゃうから当たってたのが面白くて。でもまぁ、私も貴女とそこまでお喋りをするつもりはないわ」

 

 こういう使い方をするものじゃないのだけど、此処で戦うとバイステンダーが死んじゃうかもしれないから場所を変えましょうか。

 私の動きを目で追えていないサオリに近づいて、思いっきり全力のフルスイングで銃床を横腹に叩きつけて吹き飛ばし──

 

「行ってくるわね。バイステンダー」

 

 ──タンっと軽い踏み込みで追いかけた。

 社長として責任を負う為にも、サオリは逃さずに捕らえて彼女の後ろにいるであろう存在を聞き出し彼を傷つけた礼をたっぷりすると心に決めて……それがアビドスで彼に引き金を委ねなかった私の責務だ。

 

 

 

 

 

 

「っは!?」

 

 ほんの一瞬、腹部に痛みが走ったかと思えば先程まで居た場所から百メートルほど離れた場所でサオリは意識を取り戻し急いで立ち上がる。

 なにが起きたのかと彼女が考えを巡らせるより早く、強い神秘から発せられる空間を歪めるほどの圧力と怒気を感じ取り愛銃を構えるがまるで挨拶の様に気楽に放たれた弾丸が、ほぼ同時に二発着弾し爆ぜると共に爆煙が視界を奪い去った。

 

「──そこかっ!」

 

 それが目潰しを兼ねた陽動である事には今もなお、自身を貫くんじゃないかと思えるほどの怒気が向けられている為、即座に理解し気配を感じる方向に銃を突きつけ放つ。

 

「……」

 

「なっ!?」

 

 ガァン!っと金属音が響き渡り蹴り上げられたマンホールの蓋によって攻撃が防がれたと理解したサオリは、地獄の様な訓練で身に付けた回避を咄嗟に行い、マンホールの蓋に風穴を空けながら飛来する弾丸を避ける事に成功するが回避先を読んでいたアルの蹴りが的確に顎を蹴り抜く。

 

「ッッ!?」

 

 揺れる視界が治るまでの時間稼ぎとして手榴弾を転がすが、驚異的な脚力で飛び上がるアルには当たる事はなくむしろ空中からの狙撃によりダメージを負ってしまう。

 陸八魔アルという少女はキヴォトス一のアウトローを目指しているのだが、その性根は悪党には似つかわしくないほどに善性で詰めが甘く碌な金銭管理も出来ず裏社会で名が知られた背景にはバイステンダーの影が必ずあった為、所詮は下駄を履かされている程度だとこの時までサオリは思っていた。

 

「(これがあの陸八魔アルだと!?冗談じゃない!!事前の情報と違いすぎる!!)」

 

 ユラユラと陽炎の様に立ち上る彼女の神秘はただそこに立っているだけで、他者の身を竦ませるほどの絶対的な圧を放っており鋭くそして冷たい目と視線を合わせるだけで、自身が死ぬ姿を幻想させるほどであった。

 

「……」

 

 ──悲しい事に彼女が欲してやまないアウトローとしての才能は信頼していたバイステンダーを失いかける事で華開いたのだ。

 身を包む全能感に反して、何処までも冷たく冷え切っていく頭はどうすれば目の前の敵を効率よく仕留める事が出来るか素早く算出し歩いて迫るアルから本能的に少しでも距離を取ろうとしたサオリへと真正面から突撃する事を選択する。

 

「くっ、この!!」

 

「……」

 

「なっ、効いて──」

 

 サオリは決して弱くない。

 地獄とも呼べるアリウスで施されたベアトリーチェ式の訓練を耐え抜き、隊長に抜擢されるほどの実力を持っているのだからキヴォトスにおいても上から数えた方が早い実力者である事に変わりはない。

 だが、目覚めてしまった天賦の才は残酷なまでにその努力を嘲笑う様に超え、アサルトライフルから掃き出される銃弾の雨をモノともせずに突っ込み初撃と同じ様に銃床を彼女の腹に叩きつける。

 

「ガハッ!?」

 

「……」

 

 カイザーが経営するコンビニへと吹き飛ばされたサオリに向け、容赦なくアルは自身の神秘と相性の良い弾丸にたっぷりと己の神秘を注ぎ込み放つ。

 着弾と同時に巨大な爆発が巻き起こり、爆心地となったコンビニは跡形もなく消し飛びクレーターの底でサオリは天を見上げ倒れ伏していた。

 

「……」

 

 クレーターへと降りたアルはゆっくりと歩きながら、銃をリロードし空の薬莢を掃き出すと慣れた動作で弾を込める。

 身体を動かす事が出来ないサオリは、気合だけで頭を起こし彼女を見るがそれは結果的に死刑を待つ囚人の様などうしようもない恐怖と緊張感を与えるだけで何か変化が起きる事はない。

 

「……何か言い残す事は?」

 

 銃を突きつけるアルが漸く発した言葉は遺言を尋ねる言葉だった。

 捕える為に気絶させる目的ではあるが、同時に彼女はこの一撃でサオリが死んでも構わないとドス黒い感情を宿していた……強すぎる怒りはやがて殺意へと変わり、開いてしまった才能から来る全能感が彼女の理性を焦がし始めていたのだ。

 

 そう、目の前の敵は大切な人(バイステンダー)を傷付けたのだから殺してしまっても良いか、仲間は他にもいるのだからと普段のアルなら決してしない選択を取らせようとしていた。

 

「……私は、間違えたのか?」

 

「……」

 

「そうなんだろうな……伝え聞いた通りの男なら……こんなにも必死になる相手が居る訳がない……ハハっ、滑稽だな私は」

 

「……それだけ?」

 

 後悔なんか聞きたくないと更に銃口を近づけるアルをサオリは力のない瞳で見つめ──抵抗する心が折れた彼女は意識を失った。

 ドサリと力なく倒れたサオリの頭部からはヘイローの輝きが消えている為に、今の彼女は『先生』やバイステンダーと言ったキヴォトスの外から来た者達と何一つ変わらない耐久力しか持っていない。

 

 壊れた水道管から噴き出す水が少しずつ溜まっていく中、アルは倒れたサオリを冷たく見下しながらトドメを刺そうと一歩歩き出し──グンッと後ろに引っ張られる。

 

「……え?」

 

 苛立ちと共に振り返った先には自身の肩に手を置き優しく微笑むバイステンダーの姿があり、一気にアルは今自分が何をしようとしていたのかを自覚し銃を落とす。

 彼女の目から大粒の涙が溢れだし、冷たいアウトローの目からただの子供の目に戻るとまるで役目を終えた様にアルの目の前に現れていたバイステンダーの姿がゆっくりと消え、地面から顔を覗かせる鉄パイプにコートの端が引っ掛かったのだと分かる。

 

「っぁ……ぁああ……あ───」

 

 無論、瀕死であり今頃他の便利屋メンバーによって助け出されているであろう彼がこの場に居る訳がないので都合の良い幻覚でしかないが、この時アルは超えてはならない一線を彼のお陰で踏み止まる事が出来たと声にならない声で泣き叫び、そんな彼女の悲痛な叫びと涙を隠す為か雨が降り出すのだった。




ブチギレアル社長はキヴォトスの最強格に並べるぐらいには強く爆発特化。
本気の神秘を込めて放つ弾丸が爆発すれば、瞬間陽の光が遮られるほどの爆煙が立ち上る爆発を起こす。代わりに防御力はそんなにないので、ホシノの様にビナービームを防いだり便利屋漫画のヒナの様に頭部に攻撃されてから、そこねと索敵する様なことは出来ない。
サオリの弾幕に突撃した時のものは、ある種痩せ我慢の様なもので痛い。
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