便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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評価と感想ありがとうございます!
赤くなってて驚きました!


漂う日常の香りは珈琲

『聞こえるか。聞こえていれば二回マイクを叩いてくれ』

 

 聞こえてるよ。

 マイクに手を伸ばし、叩き合図を返すと同時に端末へマップが送られてくる……この複数の赤点が敵って事か。

 

『目で確認した限りの敵の配置を送信した。今回の依頼だが、依頼主の敵対組織に潜入し極秘ファイルを入手するのが目的だ。従って、敵の殲滅は必要なく、寧ろ、可能な限り穏便にとの言伝を受けている。その為、本依頼は便利屋の中でも隠密に優れたカヨコ課長一人での作戦となり、見つかった時の危険度はかなり高い……私もこちらで全力バックアップするが、万が一の時は現場の判断を優先してほしい』

 

 通信機越しでも分かるくらいに、パソコンを操作している音が響いてる辺り、彼も必死にやってるみたいね。

 

「はぁ……そんなの失敗出来ないじゃん」

 

 この依頼を契約してきたのは他でもない彼だ。

 万が一失敗したとなれば、相応の報いを一番受けるのは彼、私がどうなろうが知った事ではないけど、周りが被害者になるなら話は別。

 

『……カヨコ課長、準備は良いかね?』

 

「出来てるよ」

 

『では、今から監視カメラをハッキングし、映像をダミーに切り替える。制限時間は三分と言ったところか、それまでに頼む』

 

「了解」

 

『作戦、開始』

 

 開始を聞くと同時に走り出し、手早く施錠された扉を開け室内へと侵入する。

 ……端末を見る限り、この近くにいる見張りは三人で、今、私がいる部屋の周囲をグルグルと循環する様な見張りの仕方をしているのは面倒だけど、有った!ダクトの中を進めばバレない。

 椅子の並びが少し変わるけど、元々、この部屋はほとんど使われてないらしいし大丈夫でしょ。

 

『ダクトからの侵入ルートを提示する』

 

 私の行動を見て、ルート構築をしたの、こんなに速く?

 まるで私がダクトから移動するのを分かっていたみたいに……いや、今は深く考える時じゃないね。

 有能なバックアップを喜んでおこう。

 

「ふわぁ……夜の見張りって眠くなるよな」

 

「気を引き締めろ、何かあったら処分されるぞ」

 

「そうは言っても天下のカイザーに侵入する奴なんているのかなぁ」

 

 ……居るよ。

 下にいる兵士たちの装備は、カイザーでよく見る装備ばかり、もし万が一でも見つかれば私の装備じゃ太刀打ち不可能か……っと、此処が入り口か。

 

「確認だけど室内に人は?」

 

『居ないな。それに周囲の見張りも今、一番離れるルートになっている。盗み出すなら今だと思うが』

 

「……歯切れ悪いね。貴方らしくもない」

 

『いや……重要書類だと聞いていたが、部屋の入り口をずっと守る者達すら居ないことが不審だなと思ってね』

 

 それは確かに不思議だ。

 巡回を増やして守っていても、そのタイミング次第じゃ死角が生じる……それを避けるには守るべき場所に兵士を立たせておくのが一番の筈……いや、敢えて守りを薄くした?

 

「バイステンダー、警報の類も無力化しているんだよね?」

 

『ん?あぁ、無論……いや、待ってくれカヨコ課長、そこから合図するまで動かないでくれ』

 

 パソコンの操作音だけが返ってくる。

 どうやら、ウチのアルバイトも私と同じ結論を導いたみたい……巡回兵ばかりで本来、守るべき場所を一見、手薄にしておくこの状況から考えられるのは一つ──

 

 ──『この場所自体が罠』という線。

 目に見えない赤外線センサーや、小型の監視カメラ、置かれているパソコンにハッキングがあれば即座に反応する警報なんかで、人ではない機械の守りを敷く事で、この部屋に侵入した者に安心感を与え、いざ行動した時には此処は袋の鼠になるって感じ。

 

『ふぅ……カヨコ課長の指摘がなければ気づけなかった。巧妙にシステムの裏に隠されていたよ、一時的な無力化はしたが、あまり長くは保ちそうにない。こちらのパソコンが悲鳴をあげている』

 

「了解。手早く済ませるよ」

 

 幸い、データではなく書類らしいしね。

 ダクトから降り、素早く書類を漁り記憶しているものと合致するか調べていき、一分後、目当てのファイルを見つける。

 

「見つけた」

 

『残り時間一分半だ。急いでくれカヨコ課長』

 

「そうだね」

 

 再び、ダクトへと戻り来た道を引き返していく。

 一度、通った道だ何か問題が起きる筈も──ギシッ──!?まさか、行きは大丈夫だったのに錆!?

 

「ん?なんだ?」

 

 しかもよりによって、下にはカイザーの兵士が。

 どうする……ゆっくりとライトは私がいるダクトに向けられつつある……焦って素早く移動すれば、また音を鳴らしてしまうしだからと言って、交戦を選べば私も危ない……猫か何かの真似を……は、恥ずかしいけど……それしか……

 

「に……ニ」

 

「おい、侵入者だ!」

 

「なんだと!?」

 

 ふっとライトが逸れる。

 

「ふぅ……」

 

 思わず安堵の息が漏れるけど、侵入者って一体……いや、今は下も騒がしくなってるし多少、急いでも気にする人はいない筈。

 ダクトを素早く抜け、侵入元となった部屋から出て合流ポイントに向かおうとした時、見慣れた車が大勢とカイザー兵に追われながら、姿を現す……侵入者って……危ない事をするんだから。

 

「待てー!!」

 

「くっ、戦車の手配はまだか!?なに!?セキュリティがイカれているだと!?」

 

「……しかも、無駄に用意周到だし」

 

 こちらに向かって走ってくる車のドアが開き、特徴的な文字がびっしり描かれた腕が伸びる。

 タイミングを合わせて、手を伸ばせばくんっと身体が持ち上げられ、私はバイステンダーが運転する車の助手席へと座らせられた。

 

「目的の物は?」

 

「ちゃんと回収したよ」

 

「これで落としていたなんて、なったら私が危険を冒した意味が無くなるからね」

 

「……ねぇ、なんでこんな無茶をしたの?貴方は直撃すれば命を失うのに」

 

 後で破棄するとは言え、車は銃痕だらけ。

 この無数の穴を空けた一発でも彼の身体に命中していたら、今こうして車を運転している彼は居ない……死ぬリスクを取る理由が聞きたかった。

 

「ククッ、カヨコ課長も不思議な事を聞くものだ。便利屋(仲間)を助ける事に深い理由があるとでも?」

 

 心底、楽しそうな笑顔で言うものだから思わず、ポカンとしてしまった。

 

「ククッ、これはポーカーフェイスのカヨコ課長にしては珍しい表情だ。ククッ、命を賭けた価値があったものだ」

 

「……呆れた。ギャンブルとかにハマらないでよ、ただでさえお金が無いんだからウチ」

 

「ギャンブルに興味はないな。そんなものより、アル社長の起こす珍事を見ている方が楽しい」

 

「ムツキといつも楽しそうだものね」

 

「そういう君もだろ?」

 

「……さぁね」

 

 車から感じる夜風が心地よい。

 隣でククッと笑っているのが少し煩いけど、まぁ、悪くないかな。

 

 

 依頼は無事に終わり、私達が渡した極秘ファイルからカイザーの技術を奪った会社は、束の間の繁栄を手にしていた……元々、黒い噂の絶えない会社だからその末路はとっとと忘れておく。

 

「珈琲は如何かな?」

 

「貰おうかな、ありがとうバイステンダー」

 

「ククッ、お茶汲みも立派なバイトの仕事ですから」

 

 一つ、変わった事と言えばあれから事務所は元通り、私にとって過ごしやすい場所になったって事かな。




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