便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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本日、二話目。
今回、ほとんど地の文がありませんのでご注意を。


一先ず今は仲良くお茶会でもしようじゃないか

「ククッ、まさかケイがリオと手を取り合うとはな。やはり子供の成長とは早いものだ」

 

「……年寄り臭いいや、父親顔というべきか。君は見た目よりも歳を取っているらしいな。なら相応の落ち着きを持つべきだと私は思うが」

 

「些か辛辣ではないかね?私からすればセイア嬢はもっと、年相応にはしゃぐべきだと思うぞ。達観などする歳ではあるまい」

 

「そう願ったことはある。だがね、君も分かるだろう?未来が見えてしまうという事は今を生きる事が出来なくなる……特に私の場合は夢と現の境界線すら分からなくなり君のような胡散臭い大人とこうしてお茶会を開いている始末なのだから」

 

「ククッ、意識を失っている間は何もないと思っていたがまさか似たような力を持つ者同士がこの様な混線を起こすとは予想外でもあり、何故か既視感に似たものもある……まぁ、真っ白な空間で君と鉢合わせた時はどうするべきかと悩んだが」

 

「結果、互いに念じてみたらこうして物が出てくるのだから不思議な事だ」

 

「っと、質問の答えを忘れていたな。君の言葉が持つ孤独も絶望も私は理解出来るとも。私の場合は任意ではあったが、つまらぬ結末ばかり見て今を見ていなかった時点で私も今を生きているとは言い辛かったからな」

 

「けど君は変わった。いや、変えられたというべきかな……どんな苦難を前にしても己を貫き通す者の側に立った事で君は今を見る事が出来る様になった。私もミカやナギサという個性の強い二人が近くに居たのに出来なかった事を君は成し遂げた。それは誇るべき事だよ」

 

「何処となく棘が含まれている気はするが、まぁ敢えて触れないでおこうか。確かに私はアルと出会い、今まで持つことのなかった視点を得たよ。だが、それは始まりであって全てではない。私が今の私に辿り着くにはカヨコ課長、ムツキ室長、ハルカさん、『先生』、リオ、ケイ、そして認めたくはないが小鳥遊ホシノとの出会いも必要だった」

 

「……良い出会いに恵まれたのだな」

 

「あぁ。そして大人である私が変われたんだ。君が変われない道理はあるまいセイア嬢」

 

「私が?力に振り回されてばかりで、言葉も足りず或いは多すぎてミカを怒らせ相談という選択肢を持ち合わせなかったが故にナギサを苦しませた私がか?ふふっ……それはちょっと贅沢が過ぎるものだ」

 

「いいや違う。君は確かに力に振り回され、生来の口の悪さと諦観で周囲を傷つけた様だがその様に自覚し、反省しているのなら誰にも変わる権利と赦される権利があるのさ。この世界は子供に優しいからな」

 

「……不可能さ。三つ子の魂百までというように私が生まれ持った悪性を変える事は出来ない。その一歩を踏み出す事が出来ていれば私は今こうしてこの場にいない筈だ。理解されるとも思えず、だからと言って嫌われる勇気も持てず……あの場所を捨てる事も出来なかった。ただ力に振り回され、流されるだけの生き方を選んだのは他ならぬ私なのだから」

 

「ククッ、なんだ私よりも随分と善性ではないか。私が君の様な視点を持ったのはキヴォトスに来てからだ。それまではどんな結末だろうとも、飽きたの一言で片付ける悪だったからな」

 

「……君のソレは同情かい?似た力を持つ小娘に対しての」

 

「いや?単に『先生』の真似事をしてみているだけさ」

 

「では君としてはどうなんだ?私にどんな感情を抱いている?」

 

「面倒臭いなと。私は未来視の力を絶対のものだとは思っていない。そもそも、私の未来視とは確率論と同じだ。最初に見えた光景がもっとも起き得る可能性が高いというだけで、そこに絶対性はない。だからこそ、こうしてキヴォトスに足を運ぶ気になったのだからな」

 

「……まさか面倒臭いの一言で片付けられるとは」

 

「事実そうだろう?確かに我々の様な者は今を生きるのは難しいとも。誰だって失敗すると分かっているものに挑戦する気は起きないものだ。だが、それでもと願うのなら結末を見据えたこの目で異なる未来を見る為の第一歩を踏み出さなければならない」

 

「そうだ。故に私はそこから逃げている。だから変われないと言ったんだ」

 

「ええい、本当に面倒だな。この空間で私が君の過去を見た様に君も私の過去を見ているのなら分かるだろう?踏み出すべき未来は常に今から枝分かれしている事ぐらい。それでも君は無限に後悔を積み重ねていくつもりか?この空間で見た様に君の友人は今までの殻を破り、一歩前に進もうとしているぞ」

 

「……」

 

「彼女達の居る場所が好きなのだろう?失いたくないのだろう?この世界に不変なものはない。であれば、我々の様に動けない者達は置いていかれ一人になるだけだ。私はそれが嫌だと思ったから一歩を踏み出す事を決めた。この命を危険に晒す事を選んだのだ。百合園セイア、君が望む未来はなんだ?」

 

「……君は優しくないな。これでも反省と後悔を積み重ねて夢か現実か分からなくなるぐらいには傷心している少女に向かって傷を抉る様な言葉を並べるとは」

 

「私は悪い大人だからな。生憎、君がどんな風に傷付こうとも知った事ではないのだよ」

 

「……あぁ、本当に悪い大人だ。もっと早く貴方に会えていれば、私もこんな塩っぱい紅茶を飲まなくて良かっただろうになぁ」

 

「ククッ、今は拭ってあげられる様なハンカチは持ち合わせていないぞ」

 

「紳士の嗜みとして次からは用意しておくと良いさ……なぁ、私は変われると思うか?」

 

「変われるとも。子供には無限の可能性があるのだから」

 

「……あぁ、そうかありがとうバイステンダー。陸八魔アルに嫉妬してしまいそうだよ」

 

「ククッ、いつでも便利屋68に依頼を出すと良い。ティーパーティーからの依頼とあれば箔が付くというものだ……さて、君はいつまでそこで我々を見守っているつもりかね?」

 

「……驚きました。まさか、私の存在にも気がついていたとは」

 

「君は……まさか連邦生徒会長か!?」

 

「ほぅ。それは興味惹かれるが君は私と顔を合わせるつもりはないのだろう?」

 

「それもお見通しですか。私が全てを賭ける未来は『先生』のみが善き大人として立つ未来ですから。お邪魔虫な貴方とは顔を合わせるつもりはないのです」

 

「ククッ、なるほど。君も『先生』の毒牙にかかった類か。それは確かに私の様な大人を認める事は出来んだろうな」

 

「毒牙!?えっと、そのべ、別に私と『先生』はそういう関係性じゃ……」

 

「……なんだか一気に紅茶が甘くなった様な気がするよ」

 

「セイアさんお静かに!全くもう……これでもシリアスを気取ったつもりだったんですがね」

 

「君には向いていないな。むしろ、下らない後で思い返せば恥ずかしいとすら思える青春が適任ではないかね?」

 

「……それなら良かったんですけどね。駄目なんですよ、私には最適解が解ってしまうからこの肩書きもあってあの人の邪魔をしてしまいますから」

 

「私達と似た様な力を連邦生徒会長も有していた……なるほど、確かにそれなら噂に聞く超人っぷりも説明出来るというものだ」

 

「先ほどのセイア嬢との会話を聞いた上でソレを語るという事は」

 

「はい。ご推察の通り、私はそうする様に振る舞ってしまうんです。私の意思よりも早く最適解を選ぶしかないんです。厄介ですよねコレ」

 

「……時間制限或いは特定の期間に入ってから君はその様な装置になる為に、事前に手を打ちキヴォトスから失踪したという訳か」

 

「んー、惜しいです。正確にはその期間を終えたので『先生』を私の居ないキヴォトスに招きました。奇跡の代償として私自身の消失を支払って」

 

「ッッ……それはあまりにも重い選択が過ぎないか連邦生徒会長」

 

「ご心配ありがとうございますセイアさん。でも、もうあの時の私は大人として歩み始めていました。子供ではなくなった私にはそうする事でしか責任を取る事が出来なかったんです」

 

「……我々を遥かに凌駕する力に加えて時間遡行まで可能とはな。黒服が知れば大喜びしそうな神秘だ」

 

「彼に契約を持ち込まれるそんな未来もあったと思いますよ。もちろん、最適解ではないので却下しますけど」

 

「だろうな。しかし、最善ではなく最適解か。実に我々と似た能力らしい使い勝手の悪さだ」

 

「……そうなのかい?私の様に夢に苦しむ事もなく、君の様に外れる可能性もないこと、為政者側には都合が良いと思うのだが」

 

「なら良かったんですけどね」

 

「セイア。最善と最適解の違いは分かるかね?」

 

「違い?」

 

「最善とは後から見てあの時選んだ手段は間違っていなかったと思う事で、最適解とはその瞬間に適したものを選ぶ事だ。つまり──」

 

「──後から間違いだった。そうなる可能性が高いんです」

 

「むぅ、言われてしまったな」

 

「ふふっ、したり顔で解説なんてさせませんとも」

 

「……つまりなんだ。連邦生徒会長は自身の行いが全て間違いになると理解して」

 

「はい。キヴォトスという地で誰もが幸せにそして、青春を送るには連邦生徒会長()が最も不必要な存在なのです。ですが、『先生』が居てくれて良かったです。彼が居ればあんな間違いだらけの陰鬱で悲しい物語にはなりませんから」

 

「……ふむ。駄目だな、セイアの様に心が腐っているだけであれば私にも出来る事はあっただろうが、このやり方が最善だと信じて疑わない君に違う手法を取らせると信じさせる事は出来ない」

 

「大丈夫ですよ。私は既に物語を降りた身ですし、私なりに希望は託してありますから」

 

「なんだか流れる様に罵倒された気がするのだが……いや、確かに腐っていたよ、私の心は。認めるとも。だが、こうもうちょっと優しさをだね」

 

「ククッ、そうか。既に希望は託してあるのなら君のヒーローである『先生』に任せるとしようか。これ以上は馬に蹴られてしまうだろうしな」

 

「くっ、ふふっ……他人の恋路を邪魔する奴はナントヤラだな」

 

「二人とも殴りますよ。グーでこうガツンと」

 

「おぉ、怖い怖い。ならば、折角の機会だ。一緒に紅茶でも楽しもうじゃないか連邦生徒会長。無論、私は君に背を向けたままだから安心すると良い」

 

「……別に気を使わなくても良いんですよ。私は私の選択に満足していますから」

 

「だとしても息抜きぐらいは必要だろう。なぁ、セイア」

 

「そうだね。引き篭もって物語だけを眺めているのは身体にも心にも優しくない事はそこの悪い大人が証明している。こんな悪い大人にならない様に紅茶の一つぐらい付き合っても問題はないだろうさ」

 

「ククッ、君も口の悪さは大概だと思うがね?」

 

「自覚しているとも。だから練習に付き合ってくれ二人とも」

 

「かのティーパーティーに頼まれては仕方あるまい。是非とも美味い紅茶とケーキを出してくれ」

 

「……あー、もう。分かりましたよ。その代わり二人とも私の長話に付き合ってくださいよ?ずっと、人と話していなくて色々と溜まっているんですから」

 

「「構わないとも」」

 

 二人の了承を示す様に椅子が一つ新たに現れると連邦生徒会長は、慣れた優雅さで座り彼女の意思に応える形で懐かしい味のするケーキと紅茶が現れ三人はお茶会を開始する。

 

「全くミカには困ったものさ。考えるより早く行動するという落ち着きの無さにはナギサと共に振り回されてばかりでね」

 

 夢と現実が分からなくなって瞳を閉ざし、人との関わりを絶っていたセイアはそれでも捨てられなかった大切な思い出をロールケーキと共に笑顔で話せば。

 

「彼女のプロファイリングをしたが、アレは確かに組織の長には向いていないな」

 

「『先生』の自己犠牲と似た様なところがありますね」

 

 対する二人は微笑みと共に返す。

 

「そういった話なら私の所はリンちゃんって子がいるんですが、彼女はとっても真面目で可愛いんだけど真面目過ぎて人付き合いが苦手なんですよね……私が居なくなった事でストレス抱えてなきゃ良いんですけど」

 

 超人すぎる能力がゆえに、舞台から降りて輝かしい景色を眺める事しか出来なくなった連邦生徒会長がふと、自分の居ない場所で頑張っているであろう大切な友人の事を心配そうに話すと。

 

「とても突然、蒸発した側のセリフとは思えんな」

 

「君は少しは自分の影響力を鑑みるべきだったな」

 

「あれぇ!?此処はさっきみたいに慰めてくれる場面じゃないんですか!?」

 

 そんな彼女を鼻で笑う様に二人が辛辣に返す。

 

「無事に『先生』がやり遂げた後が怖いな私は。彼女達のお説教が待っていそうだ」

 

 紅茶に飽きたのか嗅ぎ慣れた優しい香りのする珈琲を飲みながら、傍観者である事を辞めたバイステンダーが遠い目をしながら話せば。

 

「拷問される事を祈っているよ」

 

「お財布が空になるぐらいは覚悟した方が良いのではないですか?」

 

 微笑ましいものを見る様な目をしながら雑な心配を二人は返す。

 暫くの間、未来を知る力を持つが故に動く事が出来なかった三人はそんな重い未来のことなど微塵も考えずに、楽しい未来や過去に思いを馳せながら延々と話をし続けるのだった。




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