便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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サブタイは紅茶を飲んでるあの三人のリアクションです。


一人は眩しいものを見て、一人は呆れ返り、一人は楽しげに笑ったという

 「んー……ラーメン美味しいねぇ〜みんなも食べなよぉ。おじさんの奢りだからねぇ」

 

 今は屋台となったラーメン屋『柴関』にアルを除いた便利屋68のメンバーとホシノの姿はあった。

 暗い顔をしている三人に気がついたのか大将は何も言わず、あの日の様に大盛りのラーメンを作り三人の前に並べるとホシノに普通盛りのラーメンを置いたのだが、すぐに手をつけたのはホシノだけだった。

 

「連れて来てくれた事には感謝するけど……ごめん。今はみんな余裕がないから」

 

「あの馬鹿と私はすっごく仲が悪いんだぁ〜顔を合わせば互いに嫌味ばっかり口にするし、雑な扱いは当たり前。仲良くお手手繋いでって関係じゃない」

 

 大人が嫌いなホシノは『先生』と違って、ずっと胡散臭く悪意を表に出しているバイステンダーの事がどうしても好きになれないし、バイステンダーが自分の事を愚かな選択をした小娘だと嫌っている事もホシノは十分に理解している。

 

「でも嫌い合ってるからこそ、アイツがこんなくだらない場面で死ぬとは微塵も思ってないよ。というか散々、私に上から目線で説教したんだから同じ様なことして死んだら許さないって感じだけど……あっ」

 

「……どんだけ力を込めてるんだい嬢ちゃん」

 

 ポッキリ真っ二つに折れる割り箸がラーメンに入るより早く、大将が掴み取った事でどうにか代わりの割り箸で変わらずにラーメンを食べられるホシノは少しだけ恥ずかしくなりながら、軽い咳払いをすると便利屋68の面々を一人一人見る。

 

「おじさんが信じられるんだからみんなも信じられるでしょ?だから今は、たっぷり食べて力をつけてアイツが戻って来た時にたっぷりと怒ってやれば良いんだよ〜」

 

 ホシノの言葉にジッと目の前に並ぶラーメンを眺める便利屋68面々。

 一番先に割り箸を手に取り、食べ始めたのはやはりカヨコであった。

 

「……そうだね。まぁ、彼が無茶をして説教をするのはいつも私の役割だったし今回もたくさん説教してあげなきゃね」

 

 そう話すカヨコの脳裏には馬鹿をして自分の身を危険に晒しているのに、楽しげに笑いながら正座をして自分の説教を聞いているバイステンダーの姿があり、ラーメンを食べ進める事に大人の癖に何処か子供っぽい彼の姿を思い出し口元が緩んでいく。

 

「わ、私なんかが良いんでしょうか……バイステンダーさんがあんな状態になってしまっているのに……」

 

 そんなカヨコの姿を見て割り箸を手に持ったものの、生来のネガティブ思考が足を引っ張りラーメンまで手を伸ばせないハルカ。

 

「ハルカちゃんも真面目だねぇ〜アウトローを目指すのなら、仲間のピンチこそ笑うべきだとおじさんは思うなぁ。楽しくなって来たぜ!!みたいな〜?」

 

「!」

 

 ハルカは思い出す。

 アルに憧れるだけだった自分を肯定し、ロビンフットの様になれば良いとこんな後ろ向きな思考ばかりでダメダメな自分にもう一つの夢を見せてくれた事を。

 

「……そう、ですよね。真のアウトローならこんな場面も笑って魅せるんです……!」

 

「二人は強いなぁ」

 

 ラーメンを食べ始めた二人を見てムツキは誰にも聞こえない様に小さな声で呟く。

 二人の様に強くあれればと思う反面、彼女だけは知っている。

 

──彼の身体から溢れた血の熱を、自分の過失で命を失うかもしれない恐怖を──

 

 故にムツキは必死に彼の手を取ろうと、どうにか便利屋68から離れない様にとしたかったが他ならぬ彼に振り払われてしまった事実が二人の様に、大切な幼馴染の様に信じようと前を向く心を縛りつける。

 

「……」

 

 ホシノではムツキに届く言葉を紡ぐ事は出来ない。

 彼女もまた大切な人を失っているが、単純に信頼値が足りていない──だから任せる事にした。

 

「──なーに辛気臭い顔をしてんのよムツキ」

 

「……え?アルちゃん?」

 

「まったく、ゲヘナから此処に来るの大変だったのよ?ただでさえ、ヒナとの手合わせで身体痛いのに。まぁ、ゆっくり休んだんだけど」

 

 いつの間にかムツキの横にはアルが腰掛けており、俯いていたムツキの頭を撫でながらラーメンを注文しており、僅かに乱れた髪がどれだけ急いで来たのか語っている。

 

「きっとアイツは戻って来るわ。だって、この私が目をつけた男だもの!私の目が届かないところで勝手に死ぬなんてそんなの許さないわ……自分が信じられないのなら私を信じなさい。そして私が信じるアイツを信じて待つのよムツキ」

 

 わしゃわしゃとムツキを撫で回すアルはニコニコと眩しい笑顔を浮かべており、そんな彼女から発せられる暖かな熱がムツキの心にゆっくりと染み渡り、彼女自身を縛る氷の鎖が溶け落ちる。

 

「……くふふっ、アルちゃんってば社長っぽーい!」

 

「なっ!?私はいつでも社長らしいでしょ!?ねぇ、カヨコ!ハルカ!」

 

「ふふっ、そうだね。社長はらしいと思うよ」

 

「は、はい!アル様はいつも格好いいです!!」

 

「そうよね!そうよね!」

 

「くふふっ!」

 

「……良かった。笑顔が戻ったみたいだねぇ」

 

 誰一人として社長らしいと同意はしていないのだが、そんなものには微塵も気が付かないアルは高らかに笑いそんな彼女に釣られる様に他のみんなも笑う。

 そんな光景を眩しいものを見る様に見ていたホシノは、きっとあの男が居れば自分と同じ様に目を細めているんだろうと思って、一瞬嫌な気持ちになるのだった。

 

 

 

 

 

 そんな便利屋68の面々と同時刻。

 

 

 トリニティ総合学園のティーパーティーの一人にして、強力な神秘をその身に宿す生まれながらの強者である聖園ミカ。

 

 アリウス分校における実働部隊アリウススクワッドを纏め上げるリーダーであり、卓越したゲリラ戦の腕前を持つ錠前サオリ。

 

 キヴォトスに燻っていた傭兵の一人でありながら、両者に並び得る強さと掛けられた首輪を己の誇りとするレイヴン9。

 

 以上、三名は一つの共通目的の為に手を組み、頼れる大人達に相談もなく己の意志の赴くままに駆け出した者達であり当然、一人一人が一騎当千である為に苦戦はしないだろうと思っていたのだが──

 

「おいっ!また増援が来たぞ!!サオリ、アンタのとこの学園は潰れかけじゃなかったのか!?」

 

「私とて全体を把握している訳ではない!!ミカ、だから慎重に行くべきだと言ったんだ!!」

 

「ごめーん☆だって、一々敷居になる壁が鬱陶しかったんだもん!!てか、ナインちゃんだっていいぞやれー!って感じだったじゃんね!」

 

「軽い掛け声で壁ぶっ壊すと想像出来る奴がいるか!!っと、ミカ前方に隕石落としてくれ!」

 

「はーい☆」

 

「「「「「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!」」」」」

 

「……もう見慣れたが隕石を落とすってなんなんだろうな」

 

 ──ワラワラと出てくるアリウス生徒とユスティナの複製と派手に戦闘を繰り広げながら口論をしていた。

 こうなってしまったのには、時間をほんの少し一時間ほど前に遡る。

 アリウス分校への道は、巧妙に隠されており本来であればそう簡単に発見出来るものではないのだが、サオリを味方にしている彼女達はアッサリと入り口を見つけ出しアリウス分校のカタコンベへと通じる地下道まで来ていた。

 

「よし此処から先は侵入者を通さない為に作りが複雑になっている。二人とも私から離れない様にしてくれ」

 

「やっぱ、裏に潜んでるだけあってしっかりしてんだな」

 

「うわぁじめっとした嫌な空気だねぇ。どれくらい潜るの?」

 

「そうだな……途中で妨害に遭う事も加味して二時間くらいと言ったところか」

 

「長くない?」

 

「仕方ないだろう。文句を言っても始まらない、行くぞ」

 

 持参したライトの灯りを頼りに先頭を進むサオリの後ろに続いて、地下特有の換気されておらずじめっとした湿度の高く冷たい空気を感じながら入っていく二人。

 元より仄暗い暮らしをしていたサオリやレイヴン9にとって、このくらいの空気の悪さや入り組んだ迷路のような通路というのは全く気にならないのだが、生粋のお嬢様であるミカにとっては退屈極まりない道行でしかなく三十分ほど経ったぐらいで彼女の我慢の限界が訪れる。

 

「う〜……飽きた!!此処、ジメジメしてて髪も乱れてきたし……」

 

「いやまだ三十分しか経ってないぞお嬢様」

 

「……見張りと運良く遭遇してないんだ。耐えてくれミカ」

 

「やーだー……あっ!ねぇねぇ、私良い事思いついちゃったんだけど!」

 

 まるで悪戯が思いついた子供の様に目をキラキラさせ始めたミカに嫌な予感が、背筋を伝うサオリが考えを改める様に言うより早く退屈という点では心の中で同意していたレイヴン9が続きを促してしまう。

 

「おっ?どんな考えだ?」

 

「壁が邪魔なら壊しちゃえば良いんだよ。ねぇ、サオリ?アリウスの方角はどっち?」

 

「え、あ、こっちだが……ってミカ本気か!?」

 

 憐れサオリ、生真面目が過ぎるが故にほぼ反射的に問い掛けられた事柄に返事してしまった。

 それでも相方がまともであれば、ミカの考えを止めるか今にも殴りそうな彼女を羽交締めするのだが生憎、此処にいるもう一人は傭兵のレイヴン9であり彼女は何事も面白ければ構わないという刹那主義の持ち主でもあった結果。

 

「ヒュー!良いねぇ、ドカンっと一発やってしまえ!」

 

「ナイン!?お前もそっち側か!?」

 

「まぁ落ち着けよサオリ。ミカはトリニティのお嬢様だ。確かに力はあるが、こんな分厚い壁を粉砕できるほど──」

 

「えいっ☆」

 

 それはあまりにも一瞬の出来事であった。

 物に当たれば気分転換にもなるだろうし、手を痛めたミカを笑って弄ろうと思っていたレイヴン9の横から軽い、まるで小さな子供に向けて手加減したボールを投げ渡す様なそんな緩い掛け声が発せられるとその掛け声とは比べものにならないほど、そう例えるのなら戦車の砲撃の様な空間を振動させ遠方にも響き渡る轟音が鳴り響き、自分達の行く先を遮っていたコンクリート製の分厚い壁は大口を開ける怪物の口の如き、大穴を作り出し消滅していた。

 

「──マジか」

 

「あははは!どんどん行くよー!」

 

 レイヴン9の失敗はただ一つ。

 聖園ミカというトリニティの暴力を見誤った事であった。

 

 その後、景気良く二枚三枚と壁を粉砕しながらそれはもう気持ちよく楽しそうに進んでいくミカの後ろを珍獣を見る目で続くレイヴン9と、この後の展開に引き攣った笑みを浮かべるサオリが続いていき、五枚目の壁が粉砕される頃にアリウスの生徒達がゾロゾロと姿を現す。

 

「なんだこの轟音はって、はぁぁ!?!?」

 

「壁に穴が……嘘でしょ!?コンクリート製で厚さがどれだけあると思って!?」

 

 駆け付けたアリウス生徒達が驚きに染まると共に、圧倒的強者の三人によって蹂躙された結果があの惨状であったのだ。

 なお、この三馬鹿による馬鹿騒ぎはアロナによって探知され『先生』がスムーズにやってくれる要因へと繋がるのだから世の中何が良い方向に働くのか分からない。

 

 後に便利屋68を連れてやって来た『先生』は彼女らの破壊痕を見ながらこう語った。

 

“……神秘って怖い”




ベアトリーチェ「シリアスはどこ?」

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