便利屋68に降り立つは、傍観者のゲマトリア   作:マスターBT

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漸く……漸く仕事をしていなかったあのタグが仕事をする時です!


ククッ、なるほど?貴方は私をそう名付けたか

“……何をしている”

 

 気がついた時にはもう自分でも驚くほどに低い声が出ていた。

 それほどまでに私にいや、先生として認められない光景が広がっていたのだから当然だけど一緒に来ていた便利屋のみんなには驚かせてしまって申し訳ないと思っている。

 

 ……私はサオリのことを詳しくは知らない。

 主に関わっていたのは『彼』の方で、私は狙われていなかったから彼女をこうして見るのもあの日以来だ……だけど、今にも泣きそうな程に目に涙を溜めて振るわれる暴力に抵抗すらする事なく耐えている姿を見れば、あの子達の事をどれだけ大切に思っているかなんて理解出来る。

 

「……ん?あぁ、これはこれは『先生』、この様な場所へようこそ。私はベアトリーチェ、ゲマトリアの一人です」

 

“サオリに……生徒達に何をした?”

 

「まぁ怖い。これはただの罰ですわ。大人として言うことの聞かない悪い子供に罰を与えているだけに過ぎません。『先生』だって生徒が悪い事をすれば叱るでしょう?これはそれと同じです」

 

“確かに私は先生として生徒達を叱る事もあるよ。でも……貴女のしている事は違う”

 

「ほぅ?」

 

 生徒が悪い事をすれば大人として叱るのは当然の行為だ。

 けどそれは、生徒が間違った道に歩ませない様に彼女達を正しい道に引き留める為にするものだ。

 

“……貴女のはただの八つ当たりでソレは大人として最も相応しくない行為だ”

 

 自分の思い通りに動かなかったからと生徒をただ悪戯に痛め付け、苦しませるだけの行為を叱るとは言わない。

 それはただの暴力だ。

 

「……私の敵対者よ。此処、キヴォトスでは我々大人は何にも成る事が出来るし、全てを識る事が出来ます。そう、あの男の様に」

 

 バイステンダーの事だろうね。

 確かに彼はいろんな事を知っていたし、常に私を先回りする様に手を打っていた。

 

「神秘の果てにより高位の存在になること──この儀式はその為に用意したものです。『先生』、貴方なら理解は出来ずとも同じ気持ちを抱いた事はありませんか?この世界を救える力が欲しいと」

 

 生徒達が苦しむ事が無くなるのならと、そう思う気持ちがない訳ではない。

 ……けど、私にはどうしても目の前のベアトリーチェが紡ぐ言葉が全て薄く今この場だけに通じればそれで良い、都合の良い嘘としか思えなかったのはきっと──

 

『確かにリオ嬢は間違えたかもしれない。方法も過程も何もかもを間違えてしまったから、こんなにも敵を多く作りそして敗れたのかもしれない──だがっ!!彼女の掲げたキヴォトスを救うという正義が!!自己犠牲を厭わない無垢な祈りが、ただ何もせず結果的に上手くいっただけの貴様らに否定させてなるものか!!』

 

 ──本気で心の底からたった一人の生徒の為に怒りを露わにした彼を。

 

『行きたまえ!!先生!!……彼女達を頼んだぞ』

 

 ──死ぬかもしれない間際に大切な子達を案じた彼を見てきていたからだろう。

 

“黙れ”

 

「ッッ!?」

 

 だからこそ、私は『お前』の言葉なんて聞きたくない。

 

“私は審判者でも救済者でも絶対者でもない”

 

 そんな誰もが望む様な完璧な存在であれば、私は間違える事も悩む事も生徒達を愛する事も友人を作ることだってなかっただろう。

 ……懐かしいな、『彼』とも似た様な話をアビドスでした様な気がするよ。

 

“私は生徒達の平和と笑顔の為に此処に立っている──先生だからね”

 

 いつもの様に目を細めて微笑めば便利屋のみんなにも笑顔が溢れ、対象的にベアトリーチェの表情が憎々しげに歪む。

 

「……貴方も生徒が持つ無限の可能性を信じると?」

 

“信じるよ。生徒を信じない先生が何処にいるのさ?──今だよハルカ”

 

「は、はいっ!」

 

「ッッ!?いつの間に!!」

 

 私とのお喋りに夢中になっている間にハンドサインを出しておいたんだよ。

 あの二人をすぐに助けるのは難しいかもしれないけど、サオリだけを助けるのなら隠密行動に優れたハルカなら難しい事じゃない。

 

“私との会話に集中し過ぎたね。こんな簡単な作戦、彼ならとっくに見抜いているよ?”

 

「ッッ〜〜ァァァ!!」

 

「……すまない『先生』」

 

 ハルカに抱き上げられたサオリが降ろされてすぐに謝罪を口にする。

 容赦なく痛ぶられた彼女の傷は決して浅くはないはずなのに、意識を失う事はなくそれどころか銃を手に取り今にもベアトリーチェに襲いかかりそうな雰囲気だ。

 

“サオリ。謝罪をする相手なら間違っているよ”

 

「ッッあぁ……そうだな」

 

 そう言って便利屋のみんなの方へ身体を向けるサオリを守る様に前に出て『大人のカード』を取り出す。

 今、この瞬間は誰にも邪魔をさせない……生徒が前を向いて歩き出そうとしているこの瞬間だけは。

 

「……陸八魔アルいや、便利屋68の皆さん。私は……貴女達の大切な人を傷付けてしまった。こんな謝罪で足りるとは思えないが、今はこれで許して欲しい。本当にすまなかった」

 

「……立ってちょうだい。その、私は思いっきり貴女の事を攻撃してしまったし本気で殺そうとも思ってしまったわ。それにこうして目の前で見て、貴女も守りたいものがあったんだってよく分かったから。赦すわサオリ。それと私もごめんなさい」

 

「社長がそう言うなら赦すしかないね」

 

「わ、私も赦します。その、烏滸がましいかもしれませんが私が同じ立場なら……きっと同じ事をするでしょうから」

 

「……すぐにってのは難しいけど、うん。私も赦すよ。だって、誰かを恨んだままなんてきっと鷹さんは望んでないからね!」

 

 ……自らの過ちを認めて謝罪する事も、他人の過ちを赦すのも共にとても難しい行為だ。

 それでも笑顔を浮かべる事が出来る彼女達はとても強く成長を感じられて私には眩しい光景だね。

 

「……私のバシリカで互いを赦し合うなど……なりません!!生徒達はお互いを騙し合い傷つけ合う地獄の中で、私達に搾取される存在であるべきなのです!!……マエストロ!!居るのでしょう!!手を貸しなさい!!!!!!!!」

 

「良いだろう。彼が持つ『大人のカード』……その輝きを見る事は私の芸術にも繋がる行為だ」

 

 柱の影から現れたのは……木製の人形?キヴォトスでは一度も見たことのない姿だけど、此処に居るという事は彼もゲマトリアなんだろうね。

 

「この様なみっともない姿で失礼する。私はマエストロ。本来であれば、そなたの敵になるつもりなどなかったのだが少し事情があってな。『彼』が何かを託すのならそれはそなたである筈だ。さぁ、私の芸術を前に魅せてくれたまえ、そなたの輝きを『彼』が託したものを!!」

 

 マエストロが右手を前に差し出し、パチンッと指を鳴らすと共に彼のすぐ目の前に魔法陣の様なものが刻まれそこから宗教観の強い巨大な異形が姿を現すと同時に、ベアトリーチェもその姿を変え巨大な木の天辺に花が咲いている様な異形となる。

 

「古の教義から産まれし人工の天使──名付けるのであれば『ヒエロニムス』……嗚呼、かの福者はついに列聖され、聖人となり、その証として奇跡を起こさんとせん……さぁ、『先生』……喝采の準備を」

 

「ロイヤルブラッドの神秘を搾取した姿……これこそが高位の……偉大なる大人の姿なのです!!」

 

 二体の異形が並ぶ光景を目にして私は──驚くほどに心が落ち着いていた。

 その要因の一つには私の後ろで、微塵も恐る素振りを見せることのない便利屋のみんなとサオリが居るのもあるけどきっとこの瞬間なんだと確信したからだろう。

 

“アロナ”

 

『はいっ!例の物は準備かんりょ──ってわぁぁぁ!?!?』

 

“ん?どうかしたの?”

 

『えっと……その『あぁ、この端末のAIですか。少々、この場をお借りしますよ』あ、はぃ……』

 

“その声は……ケイ?”

 

『そうです『先生』本当なら姿も映すつもりでしたが、やはりこの端末の守りは硬いですね……っと、今はそんな事を呑気に話している場合ではありませんでした。あの人の身体を用意しましたので、任意で転送してください。クラフトチェンバーから物資を取り出す時の感覚で出来ますから』

 

 ……ハハっ、本当にこの瞬間しかないね。

 

“ありがとうケイ。でもなんでクラフトチェンバーで”

 

『ん?データを盗みましたから。あの人と一緒にシャーレに行った時に』

 

“……ケイってば悪い子だね”

 

『ふふっ……あの人に育てられてますから。では、頼みましたよ『先生』』

 

 まさか彼の動きを抑制する為にケイに頼ったのに、完全にケイがあっち側だったとは……彼もそうだけどしれっと平気な顔で嘘つけるんだからまったく。

 

『えぇっと……『先生』!!あとはサインをお願いします!!』

 

「なにをするつもりか知らないが素直にさせはしない!!」

 

 異形となったベアトリーチェの顔から赤い光線が放たれ、私に向かってくるのを見つめながら考えてきた名前を記入する。

 

──傍観者としてしか在る事が出来ないにも関わらず、物語を愛し登場人物を愛し止まっていた時間から漸く、彼だけの未来へと歩き出せた彼を祝福する名前を。

 

“また私に力を貸して欲しい。萬屋セラ”

 

 大人のカードが光り、遮られているはずの天井を砕きながら眩いばかりの光の柱が私の目の前に降り注ぎベアトリーチェの光線を掻き消した。

 あまりの眩しさに目を閉じてしまったけど、どうにか開いた時の感想は『青空』だった。

 

「──ククッ、ハハハハ!!流石は私の希望だ『先生』!!見事に成し遂げてくれたな……あぁ、実に気分が良いぞククッ、ハハハハハ!!」

 

 澄み渡る青空の様な色をした髪を無造作に伸ばし、女性になった事で高くはなったけれどそれでも低いその声は相変わらずの胡散臭さを含んでいて……何よりも僅かに振り返る彼の目元を隠す真紅の鷹を模した仮面は何処からどう見ても彼のもので私はとても安心するのだった。




詳細な容姿とかは次回で。

感想やここすき待ってるぜ!
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